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セシルと会食


(面倒臭い、帰りたい、寝たい。)


ネガティブな言葉しか浮かんでこない頭をパウラは軽く振る。


今パウラは馬車に乗り、魔法学園へと向かっている。

絶賛平日の今、パーティでもない限り、魔法学園に通うローベルト、セシルは学園の外に簡単に出ることが出来ないのだ。

ちなみにヨハンも魔法学園に通う一生徒だが、彼は次期騎士団長として学ぶため土日は騎士団に行く必要があるので、学園を出る許可が下りている、


そして何故今回夕食を共にすることになったか、理由は簡単。

当事者であるセシルが話したいと言ったからだ。

セシルは平民であっても、ローベルトのお気に入りだ。それに、あの夜の話も込みなのだろう。


パウラはあの舞踏会の夜、アデルベルトと王妃に連れられ3人でパトリック及びフランメについての話し合いをしていた。

アデルベルトは既にパトリックの正体については見破っており、王妃もまた話を既に知っていた為、フランメの王位奪還についての提案や議論を重ねた。そしてその時に、パトリックがセシルを殺害するかもしれないことを伝え、万が一にでも向かわないよう舞踏会の終わり頃、セシルの飲み物に眠り薬を入れたのだ。

後は城の女騎士にセシルを魔法学園の寮に連れて行ってもらい、また、パトリックが仲間になるまでは監視をしてもらって、今に至る。


眠り薬を使うにあたってアデルベルトには万が一という言葉を使ったが、パウラとしては多分あの様子じゃ聞き入れないという確信からだった。


その事についてセシルがパウラに以前のように喚き散らすかと思うとパウラは目が遠くなる。


(あぁ、面倒臭い。)


そして今回、この会食をセッティングしたローベルトとパウラとセシルというメンバーだ。


パウラはエドガールから貰ったネックレスをチャリといじる。

エドガールの髪にも似たプラチナブロンドのチェーン、そして紫色の宝石を縁取る落ち着いた雰囲気でシックに縁取るのもプラチナブロンドの金属だ。


(パトリック、フランシーヌ様、エドガールさん、そして、近くにいるだろうヨハン!私に力を!!)


馬車が減速をして行き、やがて止まる。


従者に促されるまま魔法学園の王族用の食堂に向かう。

流石、王族用。城と大差ない作りになっている。

そして真っ白なテーブルクロスが掛けられた丸い形のテーブルに既に3人が腰掛けていた。


「よく来た。」


ローベルトは優雅な笑みを浮かべ、パウラを迎えた。

ヴィルベルトと同じ髪と瞳の色を持つローベルトを見て、パウラは頬がひきつる。

何故ならここまで色が酷似していると、パウラはまだ見分けがつかないからだ。

パトリックの顔を覚え始めたように、どうにか顔の造形を覚えようとパウラは念入りに見つめた。


パウラは椅子に腰掛け挨拶をする。

礼儀としては王族の前で座って挨拶するなど、ありえないとは思うが、何せパウラだ。

それに、礼儀を教えていないアデルベルトにも非はあるだろうし、何よりこの会食にローベルトは礼儀を求めていないので問題は無い。


「初めまして、ローベルト殿下。パウラ・ローズです。」


アデルベルトに付けられた名とエドガールに付けられた姓を名乗る。

2国が関わる名前など、全くもって贅沢だ。


「知っているとは思うが、第2王子ローベルト・グラキエースだ。…父からパウラという名をつけたと話は聞いていたが、姓も授けていたのか。」


ローベルトは驚きに目を見張る。


「いえ、姓は知り合いが付けてくださいました。」


「そうか。セシルはパウラには既に以前挨拶を?」


話を振られた当人は、少しだけ目を逸らした。


「いえ、まだ、挨拶はしていません。セシル・スミットです。」


優しげな笑みを浮かべるセシルに、パウラも微笑み返す。


「…それで、お話とはなんでしょうか?」


「命の危険にさらされた私を助けて下さって、本当にありがとうございました…!もし、パウラ様が助けて下さらなかったら…私は、今頃……。」


「セシル……。」


伏し目がちにそう呟いた後、肩を震わせる。

その震える肩にローベルトは心配そうにそっと手を置く。


予想と違うまともな反応にパウラは僅かに目を見開いた。

(あれ?もしかしてこの子ちゃんと話通じるのかもしれない!よっしゃ!!)


「それで、あの方は一体どうなったのでしょうか…?」


「……あの方……パトリックの事でしょうか?」


パウラがパトリックの名を口にしただけで、セシルはビクリと肩を震わせた。


「ひっ!」


「パウラ、セシルは酷く彼に怯えている。すまないが名前は出さないでもらえないか?」


「あ、はい。えっと、どうなったかでしたね。フランメにて落ち着くまで国王の補佐をするらしいです。」


「国王の補佐?一体どういうことだ?父は内通者を処罰しなかったのか?」


パウラの説明に眉をひそめたのはセシルではなくローベルトだった。


「バタバタしていて連絡が届いていなかったのですね。内通者はお互い様という事で、両国とも処罰なくお互いの内通者を自国へ戻すことになりました。」


「…そうか。」


「えぇ。パト…例の彼はフランメ国王フランシーヌ様の実弟ですので、そのまま国王の補佐をしているという訳です。そのうち陛下からも連絡があるかと。」


「フランメの王族だと!?」


驚愕の事実にローベルトは目を見開く。

しかしセシルは先程の怯える様子もなくただ考え込んでいた。


「という事なので、今彼はグラキエースにはおりませんので、セシル様ご安心を。」


(2ヶ月以内に帰ってくるとか言ってるけど。)


パウラは内心で思ったことは胸に閉まう。

名前を口にされたセシルは弾かれたように返事をした。


「あ、は、はい。ありがとうございます。」


そして唐突にその桃色の瞳を見開いた。


「あの、パウラ様。その、ネックレスは…?」


セシルの視線はパウラがエドガールから貰ったネックレスに釘付けになっている。


「あぁ、今日知り合いに貰いまして。折角なので着けて参りました。」


「セシルは、ああいう色が好みなのか?」


首を傾げて尋ねるローベルトにセシルは緩く首を振る。


「いえ、そういう訳では、ただ、それは…。」


「?」


パウラも何かあるのかと首を傾げる。


「……なんでもありません。失礼致しました。」


セシルはやんわりと微笑んで、その話を終わらせた。

そして特に何も起こらないまま他愛のない話が続く。


以前会った時とはかなり違うセシルの印象にパウラは疑問が尽きない。


(演じてるとしても、この性格のままなら嬉しいなぁ。)


食事が終わりそろそろお開きにしようと、食堂から出ると、廊下でばったりとヨハンに出くわした。


「パウラ!?」


人懐っこい笑顔を浮かべ、パウラに駆け寄る。


「なんでここにいるんだ?もしかして、パウラも魔法学園に入るのか??」


「入らないです入らないです入らないです。」


迫ってくる圧に、パウラは3度同じことを繰り返し述べた。

肩を掴まれ、ブンブンと振られている。

ローベルトが素早くヨハンの手をパウラから外す。


「ヨハン、少し落ち着け。」


「あ、ローベルト。お前もいたのか…ってセシルもか。どういうことだ?」


「3人で夕食を取ったんだよ。」


「俺も誘えよなぁ。………それより、大丈夫だったか?」


最後の一言だけはローベルトにだけこっそりと耳打ちする。


「なんの事だ?」


「いや、うん。何も無いならいいんだよ。」


何事もないのが1番、そう言いたげにヨハンはうんうんと頷いた。


「あ、パウラ、フランメの兵を薙ぎ払ったと思ったら、今度はフランメの王を引きずり下ろしたんだって?凄すぎて、口が開いたまま閉まらなくなるかと思ったよ。」


「フランメの国王の件は伺いましたが、兵?とは?」


ヨハンの言葉にセシルは首を傾げた。


「えっと、良いのか、ローベルト?」


何故かそこでローベルトに許可を求めるヨハンに、セシルは益々不思議そうな顔をした。


「まあ、こうして関わればいつかは耳に入るだろうし、仕方ない。」


「血なまぐさい話なんだけど、こいつがこないだのフランメの数千の兵を倒したその人なんだよ。」


「……!」


セシルは目を見開きつつパウラに視線を移す。


「そうだったのですね…。存じ上げませんでした。パウラ様はお強いのですね。素敵です。」


セシルはにこりとパウラに微笑んだ。

すると、パウラの頭にヨハンの大きな手が乗せられた。

その手はパウラの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「よく頑張ったなぁ。偉い偉い。よしよし。」


「……仕返しですか。」


パウラはジト目でヨハンを見た。


「どうだろうなぁ?」


片眉を上げて、楽しそうに撫で続ける。

その様子に事情の分からないローベルトは首を傾げ、セシルは、まるで親の仇を見るような目で見ていた。


「なぁ、時間があるんだったら少し話していかないか?」


「結構です。また戦術の話でしょう。結構です。」


話の始まりも終わりも却下の言葉を述べたパウラにヨハンは苦笑した。


「ま、そう言わずに!」


よっとヨハンはパウラを抱き上げる。

所謂お姫様抱っこだ。


「何してんですか…?」


パウラは不快そうに眉をひそめる。


「パウラが暴れると、俺なんか簡単に吹っ飛ばされて命に関わるからな。下手に暴れられないんだろ?」


(知っててやるとは、タチが悪いな。)


「ヨハン、流石に無理矢理連れていくのは彼女に悪い。」


ローベルトは制止するが、ヨハンはまあまあと聞き入れない。

すると、ずっと黙っていたセシルが口を開いた。


「折角ですものね。4人でお話しましょう。」


目の笑っていないセシルはそう言ってパウラににこりと微笑んだのだった。



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