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フランメ王位奪還①

「当初の予定通り、明日の夜グラキエース王国はフランメ王国に突入致します。」


「…えぇ、分かっているわ。」


フランシーヌは神妙な面持ちでこくりと頷く。

蝋燭の明かりにゆらゆらと照らされている彼女のその相貌は、絶世の美女、であった。


姉弟の会話を他所に、パウラは1人部屋の隅で魔物に包まれうとうとと夢見心地だ。


「ご覚悟をお決めになっておいて下さい。」


「覚悟なんて、10年前父と母を殺されたあの日にとっくに決めているわ。」


そう言って目をぎらりと輝かせるフランシーヌにパトリックは浮かない顔をする。


「……。何故私にも教えて下さらなかったのですか…?」


「それは、いつも監視がいたから伝えるタイミングがなかっただけーーー」


「本気で伝えようと思えば伝えられないことも無かったと思います。…やはり私は信用ならなかったでしょうか?」


泣きそう、とまでは行かないが、苦痛に耐えるようにパトリックは顔を歪めた。

その顔を見たフランシーヌは、少しの間の後、パトリックの瞳をまっすぐに見つめる。


「…………そうね。私が人質に取られていたとはいえ、貴方はあまりにも叔父の言いなりだったから…、信用は、していなかったわ。貴方とパウラさんがここに来た時も、話をする気は無かったのよ。」


姉と弟ではなく、王女フランシーヌとして彼女は冷たくもそう言い放つ。

しかし、それが当然の対応であることをパトリックは頭ではしっかり理解していた。


「叔父の言いなりの貴方と、よく分からない少女が魔物に乗って突如現れたって、驚愕はあっても信用は出来ないでしょ?」


ちらり、と微睡んでいるパウラにフランシーヌは視線を向ける。


「でもね、貴方の後ろにお父様とお母様が見えたのよ。」


「父上と母上が…?」


「えぇ、妖精のイタズラかしらね。故人のフリをして人を騙すイタズラな妖精もいるみたいだし。…だけれど、私にはお父様とお母様が信じろって言っているように見えたの。…だから、貴方を信じてみようと思ったのよ。」


「これからは私を、信じて貰えるのでしょうか?」


その声ははっきりと質問した声であるのに、怯えたような声にも聞こえる。


「それはこれからの貴方の行動次第よ。」


フランシーヌは優しくしかし、真剣な瞳でパトリックにそう言った。

パトリックも真剣な瞳で頷く。


「承知しました。」


「…それにしてもこんなに可愛い女の子が、フランメのあの数の兵を殺しただなんて、信じられないわね。」


微睡みも終わり、すやすやと寝息を立てているパウラを見て、フランシーヌはくすりと笑う。


「今は、そう見えると思いますが、直後の彼女は悪魔のようでしたよ。」


パトリックも肩を落として、ふっと苦笑した。

パウラを見ながら笑う姉弟の姿は、まるで1番末の妹を慈しんでいるかのような微笑ましい光景だ。


「…そろそろ、見回りが私の部屋に来るわ。貴方達はお帰りなさい。」


「えぇ、分かりました。」


パトリックは素早い動きでパウラを抱き上げ、魔物の背に乗せる。

そして自分もその背に乗ると、フランシーヌを振り返った。


「それでは、姉上。ご武運を。」


眼鏡の奥の瞳は心配そうにフランシーヌを見つめる。

そして彼女は1度頷いた後、パトリックの姉、フランシーヌとしてすっと目を細めて微笑んだ。


「…この件が片付いたら、また昔みたいに2人でチェスでもやりましょうね。」


「また私が負かされるのが目に見えますよ。…約束ですからね。」


パトリックが言い終わると同時に魔物はベランダから城外へと駆け出して行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「家族ってのは、素敵だねぇ。」


魔物の背から降りると、パウラはそう呟いた。

パトリックは毎度の事ながら魔物のスピードにやられ、頭を押さえて苦しそうな顔をしていた。


「…起きてらっしゃったんですか?」


苦しそうな表情ながらも僅かに驚きに目を見張る。


「うん、途中から。」


「そうですか…。……失礼になってしまうかもしれないのですが、パウラ様には御両親や御兄弟は…?」


「兄弟はいないけど、両親は勿論いるよ。」


「…魔王とか、でしょうか?」


神妙な顔付きで真面目にそう尋ねたパトリックにパウラは吹き出して笑う。


「いやいやいや、魔王じゃないって!私の両親は至って普通の人達だよ。」


「普通の人…。と言われましてもパウラ様の普通だと普通ではないような気が…?」


「それこそ失礼だなぁ。でも本当に普通だよ。あんまり覚えてないけど、お母さんはお喋り好きな陽気な人で、お父さんは逆にあんまり喋らない人だった気がする。…元気にしてるといいなぁ。」


昔を懐かしむように目を細め、最後にそう呟いたパウラの顔に悲しみや嘆きの色はない。


「御両親はどちらにお住まいなんですか?」


「遠い、遠い場所だよ。」


そっとバルコニーの手すりに寄りかかり、満天の星空を仰ぐ。


「死んじゃったのか生きてるのかもわからないけど、もう多分会うことは出来ないってことだけ分かってるんだ。」


異世界転生・転移において、転生であれば事故であれ何であれそちらでの生を終えてからこちらの人生が始まる。

それならば、本人も、そして家族や友人達も死んでしまったものは仕方ないとまだ踏ん切りもつくものだ。

しかし、転移は別。

唐突に、飛ばされる。

まだ地球での人生を続けている途中で、唐突に家族や友人、恋人から引き離され、違う世界で暮らしていかなければならないのだ。

そして、残った家族や友人達は驚愕するだろう。

その人物の唐突な消息不明に。

いつか帰ってくるかもしれない。

いつか戻れるかもしれない。

そして両者の願いは、叶うことがない。


「って、そんな泣き顔みたいな顔しないでよ、別に今更悲しいとか会いたいとか思ってないから。」


パトリックの顔は泣き顔ではなく、気まずいという顔なのだが、まだそこまで細かい判別はパウラには出来ない。


「会いたいと、思わないんですか…?」


「会えなくなった始めの頃は、何度も会いたいって思ったし、悲しかったし、泣いたけど…。やっぱり時間が解決してくれるみたいなんだよね。」


「私は両親を亡くしてもう10年経ちますが、まだ、会いたいと思います。」


「10年なんか目じゃないようなとてつもなく長い時間を生きると、あまりそうは思わなくなるよ。勿論どうでもいいわけじゃないけど、会えるなら会いたいけど、ま、無理だよねぇっていう諦め。」


「…先程から随分と昔のように語られますが、どのくらい前なのでしょうか…?」


「うーん、わからないんだよ。ここに来てやっと体内時計復活してきたけど、それまで完全に狂ってたから。それに、ずっと夜だったし。一日っていう単位がわかんなかったんだよね〜。」


パウラの話にパトリックは怪訝な顔をする。

それもそのはずだ。

この世界に夜しかない場所などない。


「まぁ、私のこの姿になるまでの人生を10回繰り返しても足りないくらいは昔かな。」


外見年齢が1度目の異世界に来た時に止まっているパウラは自分の手を眺めた。

そこにあるのは変わらない19歳の頃の手だ。


(もしかしたら、ここでは普通に歳とるのかな…?)


取っても取らなくても構わない、そんな思いで彼女はもう一度星空を見た。


パトリックとしては意味が分からず尋ねたいことが多いにあったが、穏やかな表情で星空を見る彼女を見て、明日のフランメの件が終わったら尋ねよう、と質問を心にしまったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そして、フランメ突入の時間がやってくる。


既にグラキエース王国の騎士及び兵、また、フランシーヌに着いている貴族の騎士と兵が王都を取り囲む様待機していた。


そして城内にも、貴族の兵が見つからない場所で待機をしている。


パトリックはグラキエース国王と共に、フランメの王都を取り囲む騎士達と待機していた。

同じ場所にいたパウラがよっと立ち上がる。


「それじゃあ、行ってきます。」


ちょっと庭に行ってくるような声で、パウラは鳥類系の魔物に乗る。


「よろしくねぇ、鳥ちゃん。」


パウラがそう言うと、魔物は雄叫びにも似た鳴き声を上げて空へと飛び立つ。


国王達からはあっという間にパウラの姿は見えなくなった。


そしていつもの定位置。

フランシーヌの部屋のバルコニーにたどり着く。


「こんばんは、フランシーヌ様。」


この件が終わり、パトリックがパウラの執事でなくなったら、姉にしているように「様」付けをしなくてはなぁ、とパウラは挨拶をしながら考えていた。


「パウラさん…!準備は、出来ています。」


堅い決意が見える表情をしていながらも、その手は震えていた。


「…首を取るという言い方をしましたが、別に本当に首をもぎ取るのではなくて、殺す、もしくは生かしておいてもーーー」


「殺します。必ず。」


生かしておくという言葉を即座にフランシーヌは否定した。


「御両親を殺されていたのでしたね。やっと訪れた復讐の機会って訳ですか。」


「…勿論、復讐の気持ちがないわけではありません。ですが、それよりも、叔父が生きていることにより国が2分する可能性を潰したいのです。」


「まあ、私は何でも構いませんよ。それで、フランシーヌ様がやりますか?私がやりますか?」


やるというのは「殺る」という事だ。

勿論、パウラがフランメ現国王を弱らせるのは確定しているのだが、トドメはどちらが刺すか、それをパウラは聞いている。


「わ、私が、叔父を、殺します。」


その光景を想像してしまったのか、フランシーヌは先程よりもガタガタと震え出した。

顔も真っ青だ。


「私は…、頼り、ないですね。覚悟は、したつもりなのに、叔父を殺すことが、怖くて怖くて仕方ない…!」


「……それで良いと思います。人であれ獣であれ何であれ、殺すことに慣れている者は、総じて頭が狂ってますから。」


パウラが自分の事を言っているのは明白だった。

自嘲気味にそう言ったパウラの頬に震えた冷たい手が添えられる。

白髪に紫の瞳の彼女は、パウラの瞳を見つめ首を振った。


「貴方は、狂ってなんていませんよ。」


優しく微笑む彼女の顔に、パウラは最早顔も覚えていない両親が脳裏を過ぎった。


フランシーヌは手をそっと離すと、大事そうに置いてあった剣を手に取った。

装飾からもかなり高価であろうことが伺える。

パウラの斧とは大違いだ。

斧を安物と言っている訳では無いが、パウラの斧は実用性に溢れているというかなんというか。


「これは、代々フランメ国王に継がれる剣なんです。叔父はここ最近は剣など興味がなく捨て置かれていたので勝手に持ってきましたが。…皮肉なことにこの剣で父と母も叔父に殺されたんですよ。」


そしてフランシーヌは自分を鼓舞するように1度固く目を瞑り、口を開いた。


「それでは、参りましょう。」



最後までお読み頂きありがとうございます。


パウラちゃんがどのくらい死にゲーの世界にいたか補足しますと、ざっと200年くらいになります。

居すぎだろ!って思うかもしれませんが、完全に狂ったパウラちゃんから、癒してくれる人もいないような孤独な世界であのパウラちゃん(悟りモードw)になるまでの時間を考えたら必要かなぁと思いました。

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