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プロローグ


異世界転生・異世界転移


マンガ、アニメ、ゲームが好きな人なら1度は願ったことがあるんじゃないだろうか?


もちろん私もその1人だったさ。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生して、断罪回避に全力を注いで最終的にハピエンを迎えたかった。

異世界に転生・転移してチート能力で色んな人を助けてウハウハしたかった。


でも私が転移させられたのは、そんな甘ったれた異世界じゃない。

マゾゲー、死にゲー、鬼畜ゲー、数々の呼び名で呼ばれる難易度の高いアクションRPGのような異世界だ。

何故「のような」なのかと言うと、私は元来ビビリなのでコマンド式じゃないRPGはやったことがない。

アクションRPGは兄がやっているのをちらっと見た事がある程度で、それですならおっかなびっくりしていた。


なのでここがゲームの世界なのかどうか私には判別がつかないが、もう別に気にしてはいない。

と言うのも、私が転移してからそんな事どうでも良くなるくらい途方もない時間が流れたのだから。


では何故わざわざ自分語りしているのかって?

それはもう少ししたら説明するから、とりあえず過去のことを語らせて欲しい。


最初にここに転移させられた時、おかしな悪夢を見てるんだと思った。

仕方がないさ、自室のベッドで寝ていたのに、気付いたらボロボロの道の上で寝ていたんだ。

誰でも夢だと思うだろう。


見渡してみるとどうやら街の中のようだった。

テーマパークのような外国風の建物なのに、そのほとんどがボロボロに崩れていて酷く汚れていた。

街全体に陰鬱な雰囲気が漂っていて、異臭がした。

何かが焦げたような匂いと鉄の匂い、そして卵の腐ったような匂い。


うわぁ夢なのに匂いまでするなんてリアルだな〜ってその時はそう思ってた。

ここは夢だと完全に信じてたんだ。

それでも探索しようなんて気は起きなかったよ。

なんでって?さっきも言ったろ、ビビリなんだ。

例え夢でも、この暗い雰囲気の中を進んでいける勇気は私にはなかった。


だからずっと道の隅で固まって、夢が覚めるのを待ってたんだ。


どのくらい待ったんだろう。

あの時はまだ体内時計が仕事をしていたと思うから…1時間くらいかな。


夢は全く覚める気配が無くて、自分の中で不安や疑念が大きくなっていくのがよく分かった。


「これは本当に夢なのか?」

そんな考えが頭を離れなくなって、とりあえず人を探そうって思ったんだ。

もし夢じゃないなら家に帰る方法を見つけなきゃって。


ボロボロの建物に人が住んでいるのかはわからなかったけど、とりあえずノックしてみるだけしてみた。

どこも応答がなくて、でも夢か現実かわからない状況で、押し入るなんて事は出来なかった。


片っ端からノックしていると、前方に人影が見えたんだ。1人じゃなくて数人。


良かった、一瞬だけそう思った。

でも直ぐに私は硬直したよ。

何故ならそいつらは斧だったり剣だったり、武器を持っていたからだ。

しかも狂ったように笑い声や奇声を上げていた。


本能が逃げろと警鐘を鳴らしていた。


逃げなきゃ、頭の中はそれだけだった。


心臓がバクバクと早鐘を打って、嫌な汗が流れ落ちた。

怖くて怖くて、逃げないとと思う気持ちと反対に足が思うように動かなくなった。

そのまま、後ろに尻もちをついた。腰が抜けると言うやつだろう。

どうにか這いずってでも逃げようとすると、そいつらは目敏く私を見つけて駆け寄ってきた。


斧で、剣で、槍で、鎌で。


そいつらは意味のわからない奇声を上げながら、私を襲った。


身体中が痛くて、痛くて。


こんな痛みを味わうのは初めてで。

こんな狂気を味わうのは初めてで。


怖い、痛い、怖い、痛い。

背中が、脹ら脛が、二の腕が、目が、肩が。

切られる、裂かれる、突き刺さる。


薄れゆく意識の中で、ただひたすら夢が覚めるのを願った。


目を覚ますと、初めの場所にいた。

襲われた時の怪我は綺麗さっぱり無くなってたよ。所謂リスポーンってやつ。


なんで夢、覚めないんだって驚愕した。

混乱してうろうろしてたらまた見つかって、惨殺された。


再び最初の場所で目覚めて、今度は夢とか異世界とか考えることをやめた。


襲われるのが嫌で1つの場所にバレないように息を潜めてたんだけど、生理現象が起こり始めた。


最初はトイレ。

これだけ汚れてるんだから、と腹を括ってそこら辺で処理した。

次に食欲。

身の回りに食べられそうな物なんて何一つなくて、この位耐えようと我慢し一切口にしなかった。だんだんと動けなくなってきた時、最初の場所に戻された。

餓死したんだと思う。

最後は睡眠欲。

これは時間が経つ事に酷くなっていって、隠れるように眠った。

鋭い痛みで起きたら胸に斧が刺さってた。

もちろん、囲まれてる状況。

それでまたリスポーン。


こんな感じでもう10回くらい死んだ後に、発狂した。

元々限界だった精神が、爆発した。

近くにあった斧を掴んで、あの狂人達に振りかぶったんだ。

それが初めての抵抗。

結局、初めて斧に触ったような奴が振り回しているだけの攻撃なんて、ほとんど無意味だから、躱されて、殺された。

それでも抗うことを知ったのは大きかったと思ってる。


何度も何度も何度も武器を手に取った。


何回目だろう?


30回くらい死んだ後かな。

初めて狂人を殺した。


その時には殺されまくってたから、殺したことによる恐怖とかそういうのはなかったんだけど、結局1人殺したのに他の奴に殺されたのが残念だったよ。


それで初めて狂人を殺して殺された後、自分のLvが上がったことに気づいた。

Lvって何と思うかもしれないが、私にもよく分からないけど、急に目の前にステータスらしき数字が表示されてそれが全体的に少しずつ上がっていた。


50回くらい死んだ後、私は空腹と睡眠の問題を片付けた。

空腹は殺した狂人の肉を火で焼いて食べることで満たした。

不味いけど食べるしかない。

その内味覚はおかしくなったのか不味いとも感じなくなった。

けれどたまに、狂人や化け物ではなく、イカれた獣の肉を食べられるとラッキーと感じていたので、完全に味覚が狂った訳では無いと思いたい。

睡眠は最初と同じ、隠れて寝るだけ。

ただ違うのは、その辺一帯の狂人や狂獣を全て殺してからだということ。


理性のある人間には、割と会う機会があったけど、全員総じて何語か分からない言葉で話すので、意思疎通は取れなかった。


それからはずっと殺して殺されての繰り返し。

100回死んだ辺りからはもう数えるのを辞めたけど、100回死んだ辺りなんてほとんど最初の頃の記憶。

本当に果てしなく長い時間が過ぎた。

体内時計はもう狂ってて、ここはずっと暗いから、何が何だかわからない。


街を出て進む事に、リスポーン位置も変わった。

ボスのような巨大な化け物も現れた。

でもやることは変わらない。

殺して殺して殺すだけ。

理由はあった。

痛い思いをしたくない。

私を殺したアイツらに一矢報いたい。

最初は発狂してもいたけど、そうも思って武器を手に取っていた。


今は、どうだろうか。

痛みすらよく分からなくなった今。

アイツらを一矢所か肉塊に出来る今。

…理由など簡単だ。

私に襲いかかるから、殺すだけ。

たとえ逃げられてるとしても、たとえ戦わなくて済むとしても、うろちょろ目障りだから殺しておく。



いつからかはわからないけど、水に反射する自分を狂人と見間違えるようになった。

いや、見間違えるというより、狂人と自分の区別がつかなくなった。

それは自分に限った話じゃなくて、たまに会う理性のある普通の人間と狂人の区別がつかなくなった。

化け物と狂人と狂獣。所謂敵。

これもまた曖昧になってきて、四足歩行、でかい、小さい。

私の中ではただそれだけの違いになった。

判別がつかないとはいえ、判別しないで普通の人を襲いたいわけじゃない。

近くにいて襲ってくる奴が敵。

襲ってこないやつは普通の人。

そういう見分け方をした。

問題はあると思うが、「私は敵じゃないわ!」なんて言われても言語がわからないんだからしょうがない。


本当に本当に長い時間が流れた。


今は区別がつかないので自分の見た目は分からないのだが、まだ自分を判別できていた頃、かなり長い間死なずに済んだことがあった。

けれど、私の見た目は一切変わらなかった。


最後に死んだのはいつだったろうか…。


わからない。


今日もまた、殺すだけのいつも通りの日になるはずだった。


だが今日は、どうにも私にとっての転機の一日になりそうだ。

何故なら私は日本語を話す人間達と食事を共にしている真っ最中なのだから。


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