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破壊と創造の先にあるもの  作者: Kuko
第一章
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第五話

 ルディリア大陸で二大大国に数えられるローゼルディア王国。

 その王都ヴィレンツィアの中心に位置する小高い丘に建てられたウィスデニア宮殿では、貴族や官僚、紺色の軍服を着た武官が険しい表情を浮かべ慌ただしく行き交う。

 事の発端はヴィレンツィアに近い港湾都市フェルジナからもたらされた急報。

 フェルジナ沖合に見たことのない所属不明の軍艦と思われる帆船が三隻来航し、入港の許可を求めているというものだった。


「派遣した近衛騎兵連隊からの報告はまだでしょうか?」


 騒然とする玉座の間に鈴の音のような声が響き、その場にいた全員が一段高い壇上に据えられた玉座に座る人物に注目する。

 声の主――ローゼルディア王国を統べる第二三代女王、オーフェリア・ファン・クラウヴェルは左側に控える近衛であることを示す青と白を基調とした軍服を着た妙齢の女性将官に視線を向けた。


「まだです。もうそろそろだとは思うのですが……」


 オーフェリアから尋ねられた女性――王国軍近衛軍団長、アレクシア・ディラ・グランヴィルはそう言って扉を見遣る。

 急報を受けた直後、オーフェリアは王都に駐屯する近衛軍団の中から即応部隊としての側面を有する近衛騎兵連隊五〇〇名を情報収集と警戒という名目でフェルジナへの派遣を命じていた。


「失礼いたしますっ!」


 扉が開かれると、アレクシアと同じ軍服を着た近衛兵が駆け込んできた。

 近衛兵は玉座の前まで近づくと、軍鳩によって運ばれてきたフェルジナからの報告書を読み上げ始めた。


「報告いたします。フェルジナに来航した軍艦は、イーダフェルトなる国家の軍艦であるとのこと」

「イーダフェルト? 聞いたことのない国名ですが、誰か知っている者はいますか?」


 オーフェリアが尋ねると、居並ぶ貴族や官僚は揃って首を傾げる。

 聞いたことのない国の軍艦ということがわかり場が一層混乱する中、報告書を持つ近衛兵は淡々と報告を続けた。


「来航した軍艦には同国の特使を名乗る者が乗艦しており、謁見を求めているとのことです」

「特使……?」


 予想していなかった報告に、オーフェリアは困惑した声を漏らす。


「陛下、聞いたことのない国の求めに応じる必要はありませんぞ」

「左様。何かしらの罠の可能性もございます。ここは一度追い返した方がよいかと存じます」

「待て。返答を間違えば、フェルジナが攻撃されてしまう恐れもある。ここは相手を見定めるためにも、求めに応じるべきではないか?」

「私も賛成だ。相手が何者なのか知るためにも、求めに応じるべきだ」


 議論は紛糾し、賛成派も反対派も互いの主張を譲らないまま時間だけが過ぎていく。

 その様子を静かに見守っていたオーフェリアが立ち上がると、騒然としていた玉座の間は波が引いていくかのように静かになった。


「諸卿らの意見はよくわかりました。彼らの意図がどうであれ、私は相手を見定めるためにも求めに応じたいと――」

「陛下、それは早計ではないですかな?」


 オーフェリアの言葉を遮ったのは、ローゼルディア王国宰相を務めるロディアス・ドゥ・レスヴァント。

 これまで三代の国王に仕え、陰では「闇の国王」や「影の語り手」と呼ばれオーフェリアよりも強大な権力を持つとされている男だった。


「……宰相は求めに応じることに反対なのですか?」


 ロディアスの返答次第では自分の意見が退けられる可能性もあるため、オーフェリアは緊張した声音で尋ねる。


「いいえ。求めに応じること自体は賛成でございます。ですが、備えなくしてこの王都に招き入れるのは危険でございます。万全を期した状態で迎え入れるのがよろしいかと」

「確かに、宰相の言にも一理あります。特使殿には今しばらくフェルジナで待っていただき、その間に王都の警備強化することとしましょう。アレクシア、お願いしますね」

「かしこまりました」


 特使に対する方針が決まり、フェルジナに展開する部隊への命令文を携えた伝令兵が鳩小屋へ向かう。

 王都でも即応待機中だった近衛軍団の各師団に命令が下り、城下町や宮殿周辺の警備が平時に比べて格段に強化されるのだった。



      *      *      *



 ――フェルジナに来航して一週間。

 王国側が用意した馬車に揺られヴィレンツィアに入ったイーダフェルト国務省ルディリア局ローゼルディア部部長、ジェイル・クレイヴは車窓から見えたウィスデニア宮殿の姿に安堵の息を吐いた。


「特使殿、どこかお加減でも?」


 そんなクレイヴの様子を気遣い、護衛として随伴する総帥軍の森宮少佐が対面の席から声をかける。


「いえ、ここまで無事にこれたことに安心しただけです。――それにしても、物々しいお出迎えのようですね」


 クレイヴの視線の先には、小銃を手に険しい表情を浮かべる兵士たちの姿があった。


「なに、あれくらい当然の反応でしょう。彼らからすれば、我々は未知の国から来た人間ですから。逆に警戒しない方が怪しく感じてしまいます」

「なるほど。そう言われてみればそうですね」

「――到着のようです。特使殿、ご準備をお願いします」


 馬車が宮殿の車寄せに停車し、クレイヴは簡単に身なりを整え扉が開くのを待つ。

 御者によって扉が開かれクレイヴが馬車から降りると、数名の兵士を背後に従えた将校と思しき女性と正対した。


「イーダフェルトの特使殿とお見受けいたします」

「いかにも」

「ようこそいらっしゃいました。私は案内役を務めるエクセル・カルヴェン近衛少佐と申します」

「ご丁寧な対応、痛み入ります。イーダフェルト国務省のジェイル・クレイヴと申します。隣は私の護衛を務める森宮少佐です」


 簡単な自己紹介を終えると、カルヴェンは促すように歩き始める。

 クレイヴと森宮は兵士たちに囲まれながらカルヴェンの後をついて黙々と歩き、宮殿の三階にある巨大な扉の前で足を止めた。


「これより先が玉座の間となります。陛下はすでに中でお待ちですので、扉が開きましたら壇の下までお進みください」

「わかりました」

「――イーダフェルトの特使殿である。開門を」


 カルヴェンが左右に控える兵士に告げると、重々しい音を立てながら扉が開かれる。

 玉座の間に足を踏み入れたクレイヴは、赤い絨毯を挟んで列をなす貴族や高級文官、武官の視線に臆することなく玉座に続く壇の下まで進み恭しく片膝をついた。


「イーダフェルトより派遣されましたジェイル・クレイヴと申します。ローゼルディア王国女王オーフェリア・ファン・クラウヴェル陛下、この度は我が国の求めに応じていただいたこと我が総帥、篠宮蔵人に成り代わりお礼申し上げます」


 クレイヴの礼を尽くした口上に、参列者たちから嘆声が漏れる。

 所詮は礼儀も知らない田舎者の国の特使だと見下していた貴族たちにとって、クレイヴの立ち振る舞いはその認識を多少改めさせるには十分なものだった。


「ようこそお越しくださいました。ローゼルディア王国は、貴殿らの来訪を歓迎いたします」


 形式的な挨拶を終えると、玉座からクレイヴを睥睨するオーフェリアはフェルジナに来航したときから気になっていたことを尋ねてみる。


「失礼ですが、イーダフェルトという国について我々は存じ上げません。よろしければ、貴国のことについて教えていただきたいのですが」

「わかりました。我が国は、総帥閣下――貴国でいう国王によって建国されました」


 オーフェリアからの質問は事前に予想されていたものだったので、クレイヴは用意していた応答要領に従い事実と嘘を織り交ぜたイーダフェルトの歴史を説明する。


「――以上が我が国の歴史となります」

「説明していただきありがとうございました。では、貴殿が我が国を来訪された目的を聞かせていただけるでしょうか」

「もちろんでございます。端的に申し上げますと、我が国は貴国との国交開設を望んでおります」

「国交の開設ですか?」

「はい。先程も申し上げたとおり、我が国は建国されたばかりなので周辺国と国交を結び友好的な関係を築いていきたいと考えております」


 そう言ってクレイヴは持っていたアルミ製のアタッシュケースから一通の洋封筒を取り出すと、傍らに控えるカルヴェンに手渡した。


「我が国の総帥、篠宮蔵人からの親書でございます」


 受け取ったカルヴェンは封筒に異常がないことを確認すると、壇を上り恭しくオーフェリアに差し出す。

 内容に目を通したオーフェリアは、信書から顔を上げてクレイヴを睥睨する。


「信書の内容についてはわかりました。国交開設に向けた交渉について、特に異論はありません」

「ありがとうございます」

「今夜、来訪を記念した夜会を開きます。特使殿たちは、宮殿内の天青宮にお泊りください」

「陛下のご厚意に感謝いたします。では、フェルジナで待つ私以外の外交担当者もこちらに呼んでよろしいでしょうか」


 クレイヴの言葉に、オーフェリアは自分の右側に控えるロディアスと二、三言短い会話を交わす。


「わかりました。ですが、護衛の数はこちらで決めさせてもらいます」

「構いません」


 その後の謁見も粛々と進み、国交開設に向けた交渉は明日以降に開くことが決められて終了となった。



      *      *      *



「――そうか。ローゼルディア王国は国交の樹立に前向きか」


 総帥執務室でシルヴィアから報告を聞いた蔵人は、満足気に頷きながらリクライニングチェアの背もたれに身体を預けた。


「はい。国務省からの報告では、国交樹立の調印式に向けた交渉にも入っているようです」

「それはいい報せだ。ダールヴェニア帝国は交渉どころか上陸もできなかったからな」


 蔵人の呟きに、シルヴィアも表情を曇らせる。

 イーダフェルト国務省はローゼルディア王国とダールヴェニア帝国に特使を派遣し友好的な関係の構築を考えていたが、大陸西部に位置するダールヴェニア帝国は親書の受け取りどころか上陸も許可せず特使を追い返すという対応を取っていた。


「あそこまで過剰な反応を示されるとは予想外でした」

「まあ、帝国側からすれば得体の知れない国の軍艦がやってきたんだから当然といえば当然の反応かもしれないな」

「国務省からはダールヴェニア帝国への接触は、今後国交を樹立した第三国を介して行っていく方針に切り替えると報告がありました」

「わかった。外交交渉については、また動きがあれば報告するよう伝えてくれ」

「かしこまりました」


 報告を聞き終えた蔵人は、なにかを思い立ち机の上に置かれた電話に手を伸ばし内線で小夜を呼び出す。

 十五分程すると、執務机の端に置かれた卓上インターフォンの呼び出し音が鳴った。


『閣下、面会予定の方がお見えです』

「通せ」


 短いやり取りを終えると、秘書官室に続く扉が開かれた。


「国家安全保障担当補佐官兼総帥軍長官、雅楽代小夜閣下お見えになりました」


 女性秘書官に促され総帥執務室に入室した雅楽代は、執務机の前まで進むシルヴィアの隣に立つ。


「急に呼び出してすまなかったな」

「お気になさらず。それで、お呼びになった理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ローゼルディア王国との交渉が順調に進んでいることは知っているな」

「はい。報告は受けております」

「ローゼルディア王国との調印式は俺も出席しようと考えている。小夜、君にはそのときの警護計画の立案を進めてもらいたい」


 蔵人の話を聞いた小夜とシルヴィアは、複雑な表情を浮かべた。


「その様子だと二人は反対か?」

「調印式ですから主様が出席されることは自然なことですが、今の状況では少々危険ではないかと……」


 難色を示すシルヴィアがそう言うと、蔵人やシルヴィアの護衛を担う総帥軍の長である小夜が引き継ぐ形で話を進める。


「私もシルヴィア様に同意します。現地の情報が少なすぎるため、脅威判定できず警護計画の立案に支障が出ます。出席は延期できないでしょうか?」

「二人の言うことは百も承知だ。だが、王国との友好関係を築くには俺が出席するのが一番だろう。やってくれないだろうか?」

「……わかりました。現地にいる部隊と連絡を取り、警護計画の立案を始めます」


 そう言って静かに頭を下げ総帥執務室を後にした小夜は、その足で総帥官邸に隣接する総帥府ビルに戻り総帥軍の参謀や警護を担当する特別護衛旅団の幹部たちと警護計画の立案に取りかかるのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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