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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 クラのリリ
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93 - 掃除のコツ

 掃除のコツはテンポと順番だ。


 例えばテンポが悪ければ、掃除はどんどん面倒に感じてしまうものだけれど、一つ一つがリズム感を持ってやれるのならば、意外と重たいものを持ち上げるなどの行為も苦にならない。


 例えば順番が悪く、低所から高所にとやってしまうと、折角低所でまとめたゴミが高所から振り落とされて、もう一度やり直し……なんてこともある。ある意味、これもテンポ調整の一環と言えるのかも知れない。


 けれどそう言ったコツとは別の、もっと重要な事が一つある。

 それは掃除をする範囲の決定だ。


 どこからどこまでを、どのくらい綺麗にする。

 そんな範囲を決めておかないと、あれもやろうこれもやろうとどんどん作業が増えてしまう――たとえば机の上を掃除するならば、机の上だけを見てやるべきだ。棚のことは後で考えれば良い。僕は少なくともそう思う。


「……リリ。何してるの?」

「掃除の計画書を作ってるんだよね」

「はあ……」


 1月下弦30日。

 朝ご飯を食べた跡、御屋形様から貰った拠点の共用スペースで地図に星形の判子でマークを付けていると、そんな僕を見てリーシャが困惑しながら問いかけてきた。

 掃除の範囲を決めておく。

 掃除の種類が違っても、だいたいの場合で有効な手順だと思う――たぶん。


「うわあ。マークだらけでなんかえげつない事になってるわこれ。……って、基は地図か。しかもこの街?」

「そうだよ」

「ふうん……。掃除。掃除ね……」

「間違っては無いでしょ?」

「確かにね」


 で、今回の掃除の種類、つまりキヌサ・ヴィレッジ全域から間者を一掃する作戦については、既に皆には伝えておいた。

 その上でライアンは、


『危ない橋を渡ろうとする子供にならば注意の一言も必要だろうが、リリにとっては散歩道程度だろうからな……。まあ、怪我をするなよとだけは言っておく』


 と、消極的ながら一応は応援してくれており、このスタンスはフランカ、リーシャも同じだった。

 尚、そのフランカはライアンと一緒にロニ用の生活用品を買い出しに行っている。

 船上では全く使ってなかったんだけど、このクラにおいては実用化されている紙オムツがとても気に入ったらしい。


「けれど、このマークが掃除をする対象だとすると、ちょっと数が多いわね」

「ね。全く防諜をしてなかった、なんてこともないんだろうけど……思った以上に食い込まれてる感じだ」

「それをあっさり野良猫探しついでに終わらせたのよねあなた……」


 その通り。

 単に表向きの行動としても丁度良かったし、何よりそろそろ猫成分が補給したい僕は、ついにこの一連の行動で周辺の野良猫全部に名前を付けてきた次第である。

 ただし三匹ほどいた飼い猫は飼い主が付けた名前で呼ぶことにしている。


「答えられたらで良いんだけど……、どうやって見抜いたの?」

「勘。」

「…………」

「……ま、ミスティックとテクニック……に、近いのかな。元々持ってる感覚に色々と上乗せして、視界をある程度『色分け』ができるようになっててさ。もともとは結構ピーキーで、具体的にどう色分けをするのかの指定とかが難しかったんだけど、最近はその辺の応用が出来るようになったんだよね」

「つまり?」

「『私は間者である』『私はキヌサに臣従していない』に該当するときに限って、その部分の視界を赤く塗りつぶすって感じだね」


 具体的にはこれ、『便利な眼鏡』の新・機能拡張なのだ。

 その名はちょっとややこしく、『条件色別・該当』。


 ざっくりと言えば、条件を予め指定し、その指定された条件を色別に絡める感じだ。

 今回のその条件がさきほども述べた『私は間者である』『私はキヌサに臣従していない』という自覚を持っているかどうかで、もしその自覚があるならば問答無用で赤く、その場所だけを塗りつぶす。

 また、『私は間者である』だけだと青、『私はキヌサに臣従していない』だけだと緑って感じで今回は同時に使えるようにしておいた。


 眼鏡の新機能の完成にはこの世界のミスティックによる思考読み取りに近い魔法が大きく貢献した……と言いたいところだし、実際それがなければこの機能は実現しなかったんだけど、それ以上に貢献したのが神智術や光輪術だったりする。

 細かい調整は神智術による計算があったから出来たことだ。


 そして何より、まだ奥の手の段階ではあるけれど、複雑極まるような魔法を光輪術で読み込んでおくことで、光輪術からその魔法を強制的に再現させる……なんてことも出来たりする。

 どんなに複雑な手順も、全く同じ魔法で構わないならば――つまり微調整を必要としないならば――光輪を一瞬産み出すだけで発動まで全部オートで、しかも極めて素早く済ませてくれるのだ。


 尚、珍しくこれは悪用では無い。

 光輪術の正統的な使い方んだのだ――そもそも光輪術って、パソコンで言うマクロ機能に近いというか、そのままなんだよね。動作や処理を予め保存しておいて、自由に呼び出して高速に行わせるとか、もろに。

 その性質は錬金術のマテリアルとしても優秀で、不安定な魔法を均一にしてくれるほか、何度でも使い回せるなど利点が多い。


 欠点は調整が利かないことだけど……実は光輪術のさらなる応用で、『マクロにパラメータを与えて実行する』に近しい動作を実現するものがあるので、これも将来的には解決できるかも知れない。


 ともあれそんなわけで完成したこの機能、色別をベースに作ったんだけど、条件付けによる色分けなので、何を何色にするかの指定が出来るのが特徴。

 また、色別では全てを赤青緑に色分けしちゃってたけど、こっちだと指定されていない者は彩色されないし、視界が全部緑で何も解らんという現象が防げる。

 地味に無視できない改善点なのだ。


「その視覚操作、便利そうだけれど……。あなたにしか使えないのよね?」

「うん。魔法云々というより、僕個人に特化させちゃってるから。その辺を緩和してやることができればあるいは……、だけど、ロニはともかくリーシャは無理かな」

「なんでよ……。ああいや、そうか。一応は魔法ってことなのね」

「そういう事」


 魔法を全て無効化するという効果を適応しているかぎり、リーシャには扱えない。

 いずれ道具に完全に落とし込むことが出来れば、リーシャにもつかえるけれど、今のところそこまで改善するかは微妙だからな……。


「間者としてはやってられないわね。どんなに注意して間者としてバレないように徹していても、それが却って特定の材料になってるんだから」

「まあね。ただ――」


 最後のマークを地図に判子で押して。

 僕は、少し考える。


「――さっき言った条件だと、討ち漏らしが起こりうるんだよ」

「そう? ……間者の自覚とキヌサへの臣従。その両方を問う以上、大丈夫じゃない?」

「自覚の無いタイプの間者に全く対応出来てないんだよ」

「自覚の無い間者……」

「情報源としての一般人物ってことだね」


 事実本人は間者ではない。

 ただ、間者と定期的に顔を合わせている。いや、顔を合わせているかさえも怪しい。

 例えば特定の酒場に定期的に通っていて、その酒場で世間話をしているのを盗み聞きされているだとか、それだけって可能性もある。


「……それは流石に、間者じゃないし、掃除対象じゃないんじゃないの?」

「もちろん。なにもその手の人を排除しようとも思ってないよ。人数的には少ないけど、その辺を気にし始めたらそれこそ人の出入りを完全に遮断するくらいの事をするようなものだ」


 現実的に可能か不可能かで言えば可能だけど、利点がほとんど無い。

 ただ、間者とどこで接点を持っているかが重要だ。


「接点……」

「たとえば一般人物が定期的に他の街まで出かけて、そこの酒場で世間話をするならば、それは良いんだ。この街で何かをしているわけじゃない。ただ定期的に街の外からきている人がいて、この街の酒場の中で盗み聞きされているパターンとかだと、一応この街での間者働きになる……でしょ?」

「それはまあ。けどそれなら、定期的にこの街に出入りしている人をピックアップして片っ端から調べれば良いんじゃ無い?」

「時間が掛かる。その間他の間者を遊ばせるのはちょっとね……かといって先に掃除をしたら、たぶんやってるであろう定期連絡が途切れた事を理由にこの街に近寄らないかもしれない。結果的に『逃がしてしまう』でしょ?」

「完璧主義者でもあるまいし、そのあたりは裏目で済ませられる範囲だと思うけれどね、私なんかは。それに必ずしも裏目をひくとも限らないわ。定期連絡が途切れた事を理由に、逆に送り込んでくるかも」

「それもあるか……」


 そっちのパターンだと面倒だなあ。

 牢獄の広さには限度がある……改造しちゃおうかな?


 ……というのも、今回御屋形様は僕に屋形のすぐ横にある牢獄をくれたのだけれど、これ、最初は貸してくれるという認識だったんだけど、ハイゼさんに鍵を貰い、説明をして貰って、その上で譲渡書を渡されたところでようやく、『くれる』というのが文字通りに所有権だと理解したというか。

 いやまさか、牢獄なんていう施設をたった一言『くれてやる』で渡されるとは思うまいよ。


 尚、


『それはもはやリリ・クルコウスのものだ。牢獄をどのように使おうと自由だが、そこで何が起きようとリリ・クルコウスの責任となる事を忘れるな』


 とのこと。

 ただし、


『無論、監視などで人員が欲しければハイゼに言うと良い。必要な分だけ用意しよう』


 とも言われている。

 当面は魔法で済ませちゃうつもりだけど、捕まえた後は監視を派遣して貰う形になるだろうな。

 その前に改造をするなら済ませてしまいたいけど……、うーん。


「まあ、いいや。とりあえず今、キヌサ・ヴィレッジに居る間者を全部捕獲してくるか」

「捕獲って……。まあ、地図に大体の位置は記述しているみたいだけれど、それ、あなたが見た時にそこにいたってだけよね?」

「『インディケート・サムワン』の発展系、『インディケート・スペシフィク』。特定の人物の生命反応を常に拾い続けるミスティックで、現在進行形の監視中。問題ないよ」

「どれほど領域があれば……、いやたしか……」

「うん。僕の領域は球体で、かつ単純に大きい部類だ。この魔法なら万は余裕で並列できる」


 そして実際、この街に潜んでいる間者の数は56人。

 多いとは思うけど、全てを監視対象としても尚、僕としては全く負担にならない程度に過ぎない。


「気をつけなさい。窮鼠猫を噛む、追い詰めてしまえば何が起きるか解らないわ」

「それを防ぐ措置も一応は考えてある。むしろ危険なのは檻に入れた後、複数の勢力が手を組んで脱獄を図ることかな」

「それへの対策は?」

「檻をより頑丈にするのは前提として、魔法も一切使えないように無効化するところも前提かな」

「…………」

「魔法の無効化はリーシャ達に渡してある指輪と似たような仕組みだよ。そんなに難しい事じゃ無い」


 檻の頑丈化も……、ある程度耐性を錬金術で付与すれば十分だろうとは思う。

 これでも脱獄されるとしたら、それは監視の部分に問題があったときだろう。


「人道的にはよろしくないけど、とりあえずは全員捕まえて、檻の中でがっつり拘束だね。目隠しもいるか……」

「拘束……ねえ。なんだかリリって、時々奇妙に過激じゃない?」

「そうかもね」


 最近は否定できなくなってきたところがあるし。

 結局は何事も、より効果的に、と考えると発想が過激になるのだろう。


「とはいえ御屋形様からの要求は『できる限り逃がすな』、『捕らえる殺すは好きにしろ』だから。死なないだけマシだと思って貰うほか無いよ」

「それは……そうね。死んだ方がマシという可能性もあるけれど、命あっての物種だもの」


 そういう事。

 さてと、やや脱線したところはあるけれど、これで掃除する範囲は決めた。

 あとはリズムと順番で、用意という意味では順番を決めておく方が先だな。


 街の中心から外に向うか、街の外側から中心へと締め上げるか、あるいは区画毎に潰していくか。

 区画毎は論外、逃げる準備をさせてしまう。

 同じ理由で中心から外へと向けていくのもできれば遠慮したい。


 つまりは街の外側から中心に締め上げていくのが理想系。

 ただし一番面倒ではある。

 単に外周を一気に締め上げなければならない点とかの単純な手間はもちろん、それ以上に中心に締め上げる――つまり間者が逃げるとしたらそれは中央方向、屋形方面であるという意味なのだから、そこの警備も強化して貰わなければならないのに、その警備を指揮できる将が今、この街には居ない。

 まだ三将は帰ってきてないのだ。


 結局、先ほどあげた三つの選択肢はどれも難があるならば、難があるという理由でさきほどは考慮から外した第ゼロ案が結論になるな。

 さすがにこの規模でマジックを組むのは初めて、だけど……まあ。

 なんとかなるだろう。


「そうだ。リーシャ、今日は何か用事ある?」

「え? ……いえ、特に。強いて言うならフランカ達が帰ってきたら、少し休憩するから、その間ロニの面倒を見て欲しいって言われているくらいね」

「じゃあその後、ちょっと時間貰えるかな。一時間くらい」

「…………。リリの頼みならば断らないけど。何をするつもり?」

「人運び」

「そうよねえ……」

「気が乗らないなら別に良いけど、ストレス発散に多少殴ったりしても良い相手だよ?」

「そう言われると微妙にやりたくなる私の性根自身を私は殴りつけたいわ」


 同じ穴のムジナってやつだったらしい。

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