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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 プラマナのグロリア
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71 - 回り道のはずだったのに

 カイリエのギルドキーパー、ベリルさんが拠点を訪れ、その後帰っていった後。

 拠点の中は当然といえば当然、大困惑の中にあった。


「金貨一万二千枚……、大きい依頼の四つ分か……」

「それぞれの武器も踏まえて、『黙っておけ』という口止めだとは思うんですよね」


 ベリルさんが僕達にと渡してきた三つの武器と七つの魔法譲渡書(スクロール)の価値も考えると、金貨一万二千枚はかすみかねない。


 例えば長剣は品質値が25160、文句なしの特級品。特にテクニックなどが刻まれていないにもかかわらず、だ。

 今までコウサさんが使っていた物だってなかなかの良品ではあったけど、良品止まり。特級品には遠く及ばない。


 タックに渡された大身槍も品質値は28603。こちらもやはりテクニックが刻まれていないらしい。

 そもそも大身槍という武器自体、使いにくさからメジャーとはほど遠いんだけど、そんな中でも奇跡的な特級品を持ってきたと。


 その点、ニーサにと渡された弓はちょっと独特で、品質値はこれだけ40619と頭が抜けている。これはテクニックが既に刻まれているからだろう。

 具体的には『インクリース・オブ』というもので、他のテクニックと組み合わせなければ効果は顕われず、組み合わされたテクニックの効果を増加するという『拡張術式』というカテゴリの一つなんだけど、シンプルイズベストというかなんというか、その単純な効果故に最も使い勝手の良いテクニック――とされているそうだ。

 まあその分、買おうとするとものすごく高い。


 が、この武器達、これだけでは実は必ずしも嬉しい物ではない。

 というのも、テクニックという魔法形態が原因だ。


 テクニックは道具によって制御された魔法である。

 道具と魔法譲渡書(スクロール)から特定のテクニックを習得するわけだけど、実は同じようなテクニックでも、制御用の道具の大きさによって価格が変わるのだ。

 一概には言えないけど、道具が大きければその分だけ安くなるし、小さくなればその分だけ大抵は高い。


 また、大きさとは関係の無いところでも、その道具の形状が一般的な物になればなるほど高くなり、特徴的だったり専門的な物になれば安くなる。

 例えば指輪ならば『小さくて/一般的』なものだからとても高い。

 一方で長剣の刀身ならば『大きくて/専門的』なものだから大分安い。


 例を挙げるてみよう。

 アカシャのハルクさんは指輪などの小さな装飾品、例えば指輪などに大量のテクニックを保存し、必要に応じて使いこなすという、テクニック遣いの理想的な到達点だ。

 彼女が冒険者として成功したのはその理想的なスタイルに到達できたからであって、同時に彼女がその理想的なスタイルに到達できたのは冒険者として成功したからに違いない。

 もちろん、卵が先か鶏が先かという話では無く、テクニックの理想的な到達点に至れるだけの鍛錬を重ねていたという事と、鍛錬の先にテクニックを習得する機会やそのための金銭を準備できたという話である。


 一方でプラマナのコウサさんはというと、長剣の刀身という大きな武器それ自体にテクニックを刻み込んでいる。

 安価であること以外にも、武具そのものにテクニックを刻み込むことにはメリットが相応にある。

 例えばその武具専用にテクニックの効果を細かく調整できるというのが一点目。発動する度に調整をする必要が無く、最初から調整済みの状態で自由に扱えるというのは発動速度の面でとてもお手軽だ。

 条件分岐による連携発動(コンボ)などが仕込まれていることもあるし、リソース面でも優れる。まあもっとも、テクニックという技術自体、ほとんどリソースを使わないんだけど……。


 ともあれ、コウサさんのテクニックは、そのいくつかは長剣に直接刻まれたものだ。交換するとそれが使えなくなる。

 これはニーサも似たり寄ったりで、コウサさんと比べれば影響は限定的のようだけど、そう簡単に弓を代えるわけにはいかない。


 唯一テクニックという制約が無いタックは大身槍をそのまま新調しても問題は無いだろう。ただ、これまで使っていた大身槍とはバランスが違うようで、扱い慣れるまでは少し時間が掛かるだろう。


「どうしたものかな。折角良い武器を貰ったのに、乗り換えにはリスクが大きすぎる……」

「私はまだしもコウサは辛いね。特に『インターセプト・モア』」

「うん。タック、そっちの大身槍はどうだい」

「良い槍、だと思う。おれの技術が足りない部分も本体の良さで無理矢理いけるかも」

「武器に甘えるなよ。俺が言うまでも無いだろうけれど」

「うん。……それで、グロリア。その魔法譲渡書(スクロール)、全部読めた? どんな魔法だったのかな」

「…………」


 まあ、話題がこっちに振られるのは当然だよな……と思う。

 ここも含めて、『あちら側』の目論見通りか。

 流石に躍らされてる感があるなあ……。


「マジックが三つ、ロジックが二つ。テクニックとミスティックが一つずつ。マジックは『結界』、『魔力収束』、『魔法譲渡』。ロジックが『反射(リフレクト)』、『連動発動(ステップ)』。テクニックは『ライト・バイ・ライト』……ミスティックは、『トランスファー・サムワン』」

「マジックとロジックは解りやすいけど、テクニックとミスティックは名前だけじゃわからないな……」

「そうだね。テクニックの『ライト・バイ・ライト』は光を使って任意の図を描くって魔法。僕がマジックの連鎖発動(チェイン)、その初動で『魔力の光』を使ってるのを知って、それをテクニックでより簡単に行えるようにってことかな……」


 テクニックとの相性、良いのかな?

 正直、連鎖発動用としては微妙なんだけれど。

 いや、本来ならばきっと便利なんだろう、図形動作による連鎖発動の図形部分は通常固定されているからな。

 ただ僕の場合、毎回その場に応じて図形や動作を変えて調整を入れているから、それが出来ない分『ライト・バイ・ライト』をその用途で使う意味が無い。


 ただ、光を投影できるという事に変わりは無いし、マジックと比べて色を分けるのも簡単だから、霧の魔法と組み合わせてちょっとした幻影を作るとか、そういう応用にはいけるかな……?

 試行錯誤次第だ。


 ただまあ、問題は最後の一つ。


「なら、『トランスファー・サムワン』っていうのはどういうものなんだい」

「……この魔法自体は、ある魔法を別に遷すという、他人の魔法に干渉する術と読めないことも無いんですが……」

「…………? 違うって事?」

「『魔力収束』『魔法譲渡』『連動発動(ステップ)』と組み合わせて、『テクニックの移植』をする魔法じゃないかなって……」

「…………」


 テクニックの移植。

 テクニックの発動に必要な道具による制御、その道具の変更……道具側に仕込まれる部分としてのテクニックを別の道具に移し替える魔法って感じだ。


 移し替える魔法、つまり本来は引っ越し(カット&ペースト)する魔法なんだろうけど、これ、使い方次第では増やせる(コピー&ペースト)んじゃないか……?


「このミスティック以外は問題なく習得できますね。ミスティックも魔法譲渡書(スクロール)を読める以上、習得までは出来る……、行使手順も叩き込むのが魔法譲渡書だから、たぶん行使もできるとは思うんですけど……」

「ミスティックは今のところ使えない、か」

「正確には、『今は使い方が解らない』ですね。魔法譲渡書を読んだとしても、『使って良いのかが解らない』です」

「けれど、覚えておくだけならば損は無いんじゃない?」

「……そうだよねえ」


 まあいいや。

 覚えておこう。


 魔法譲渡書を連続して七つそのまま読み上げて、それぞれ試しに使ってみる。


 まず『結界』は魔力を膨大に消費し、消費量は恐らく範囲となる体積に応じる。維持コストのようなものは存在せず、発動さえできてしまえば後はどうとでもなるタイプ。

 僕の場合、自分の魔力の限界が何処にあるのか不明だから、具体的に数値としてどのくらいまでの結界が展開できるか……は断定しかねる。


「断定しかねるってことは、多少の目星は付くのかな?」

「カイリエ全体を覆うくらいなら出来そうです」

「……いや、『くらい』でそれはどうなんだ?」

「いやあ。ただの結界ですからね。偽装結界とか、そういう応用にしたら一気に狭くなると思いますよ」


 次、『魔力収束』。魔力を束ねて質を変えたり、質を強くしたりすることが出来る。

 で?

 って感じの、これ単体ではあまり意味が無いタイプに見える。

 けどな、これ、なんか魔力は魔力でもオドだけじゃなく、マナの方に干渉できそうなんだよな……。

 マナに干渉する魔法ってレアもレアなはずなんだけれど。

 でもまあ、そうじゃないとロジックはまだしも、テクニックが成立しないか……。


「え……? どうして?」

「テクニックの制御を行う『道具』も、何らかの形で魔力を使ってることまでは解ってたからね……」

「…………?」


 次、『魔法譲渡』。

 魔法譲渡書(スクロール)……に限らないな、魔法を他人に譲渡する、イコール、発動方法を叩き込むタイプの魔法、その基本だ。

 マジックでも出来たんだな、これ。

 本来はミスティックで作るはずなんだけど……その理由はマジックで要求されるリソースが魔力だからという点だろう。

 これ、かなりコストが重い。


「ただ、コストが重いだけで使えるな……。タック、それとコウサさん。水を作るマジック、覚えておきます? 今は魔力が付いてこなくても、追々使えるようになるかも……」

「おれはどうだろう。生まれつき魔力少ないんだ。……でも覚えておきたいなあ」

「俺もお願いできるならば」

「了解。ニーサはどうする?」

「私にもお願い」

「うん。今やるね――」


 青い渦を三つ。

 それぞれ水の生成を行うマジックを載せて、魔法譲渡をそれぞれに実行。

 ごっそりと僕が持つ魔力が削れる感覚……、うん、複数人に一気にやるには向かないなコレ。

 なるほど、だから魔法譲渡は魔法譲渡書(スクロール)として用意するのか。暇な間に作っておいて、魔力をゆっくり貯めると……。


「どうかな。使える?」

「うわあ。マジックってこんな感覚なのか……」

「あれ? おれにも結構、使えそう……かも」

「私がこれまでに使ってたものより消耗少ないわね……」

「とりあえずは問題無さそうだね」


 次はロジック、『反射(リフレクト)』。

 魔法の反射が主な効果で、このロジックの質次第で反射できる許容量は変わる。

 許容量を超えていても許容内の分は通常反射でき、超えた分だけが貫通してくる。

 ただし許容量を遙かに超えている場合、完全に貫通し、魔法の反射効果は無効になる。

 段階分けの反射系、解りやすいと言えば解りやすい。

 で、この魔法、便利に見えるけど、現実的には使い物にならない。


「え? 魔法をばしばし反射できるって強くない?」

「強いんだけど、コストがちょっと……。ものすごくピンポイントに展開するとしても、カイリエ全体を包む結界並に魔力が持って行かれるなあ……」

「それはまた……。ちょっと役に立たないか……」


 次、『連動発動(ステップ)』。

 ロジック拡張の一つで、複数のロジックを連動して発動するのがメイン。

 ただし、マジックやテクニック、ミスティックに対しても一定の適応は可能で、条件さえ整えることが出来れば体術との連動発動も不可能では無さそうだ。

 体術といえば仰々しいけど、特定の動きに反応してロジックを発動させる……とか。

 要するに任意の魔法を『己が指定した動作』によって発動する、なんてことも出来る。

 かなり便利に使えると思うので、悪用法は考えておこう。


「悪用法って言っちゃったよ……」

「正攻法で使う分には考える必要が無いから。どうしてもね」


 次がテクニック、『ライト・バイ・ライト』。

 テクニックである以上発動のリソースが道具と領域の二つになりはするけれど、基本的に出来ることはマジックの『魔力の光』と同じ感じだ。

 それでもあえてマジックの『魔力の光』と比べるならば、ややこちらのほうが制約が多い。マジックは強引にカスタム出来るところがあるからな……、その分図形が複雑化するけど。

 咄嗟に使っても図形に不備を起こさないようにするだとか、そういうときにはこっちの方が良いかもしれない。


「不評だね」

「悪用しにくいんですよ、コレ。その上咄嗟のカスタマイズ性はマジックに劣りますし。使い道がかなり限定されちゃってるというのがどうしようも無くマイナスですね」

「散々だな……」

「いやあ、でも使えないとも思ってないよ。いくつかのマジックはこっちで連鎖発動(チェイン)するように切り替えるかも知れない」


 で、最後にミスティック、『トランスファー・サムワン』。

 他の魔法に干渉し、それを遷すという魔法……対象を移し替えるとか、そういう表現がやっぱり近いな。

 発想としては例えば、魔法毒を取り除くとか、継続して効果を発揮している魔法の場所を変更するとか、そういうのが目的だったと見える。


 応用を大量に挟むことで、結果的にテクニックの道具を移し替えることができるようになっちゃっただけで。

 恐らくテクニックの移し替えに特化したミスティックは別にあるな。

 ただ、現状でも手札を複数枚使えば既に実現できるというだけで。


 出来るとわかれば試してみたい、けれど試すにはリスクが大きい……。

 ミスティックの言う領域を、僕は未だに認識できていないからだ。


「……ミスティックスキルもミスティックに違いは無いよね。タック、そのミスティックスキルを覚えたとき、どんなことをやったの?」

「うーん。おれ、いまいち実感がないんだよ、その辺。おれにミスティックを教えてくれた師匠……みたいな人は居るけど、師匠ってワケでもないし。いつの間にかおれが覚えちゃっただけだ」

「そういえばタックがいってる人、俺も知らないんだよね」

「私も。結局誰なの?」

「イノンド・ザ・レイズって人。当時は、だけど」


 イノンド……、当然だけど聞き覚えが無いな。

 でも、ザ・レイズ?

 称号だよな。冒険者か?

 当時ってことは今、その称号は無いのか……。


「今はイノンド=ディルって名乗ってるけど」


 ちょっとまて。

 ディル……、ミスティックに関連している、『ディル』?


 偶然か……? いや、そんな偶然、この名前(グロリア)であってたまるか。


「その人って、ディル翁って呼ばれていなかった?」

「呼ばれてた。おれはイノンドのじっちゃんって呼んでいたけどね」

「そう……」


 うん。

 この『因縁』。

 使わせて貰おう。

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