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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 プラマナのグロリア
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65 - のんびり屋な冒険者達

 豚肉と野菜をメインに、チーズは惜しまず使い作ったサクサク生地のピザ。

 野菜そのものを楽しむシーザーサラダ。

 牛ブロック肉にじっくり火を通したローストビーフ。

 アクセントにチーズを閉じ込めたポテトフライ。

 鶏肉に片栗粉の衣をつけて湯通ししたものと根菜の炒め物。

 カボチャのポタージュにクルトンを添えて。

 林檎と紅茶のジュレを甘い炭酸水で絡めたデザート。

 たっぷり生クリームを使ったシフォンケーキ……。


「滅茶苦茶美味かった……なんだ今の……」

「これまでの人生で一番の贅沢を味わった気分……」

「おれも同感……」


 やっぱりちょっと多かったかなと作っていたときは思っていたんだけど、実際に完成したものを三人はばくばくと猛烈に食べてくれたこともあり、ちょうど完食される感じに。

 尚、野良猫ちゃんにはささみを差し上げた。


 皆それぞれに満足そうで、特に人間三人はやや放心気味だ。

 ……歓迎会という意味ではなんか間違った気がするけど、皆満足してるし、あえてそこをつく意味もあるまい。


「僕の料理で良いならば、今度の依頼を達成したらまた、ご馳走を作りますよ」

「おれ次の依頼は全力出す」

「私もよ」

「お前達。今まで手を抜いてたのかい」

「そういう意味じゃ無いよ」

「解ってるけどね」


 ま、その辺の軽口も叩きながら、皆でごちそうさま、と。

 お口に召したらしい。


「さて、ごちそうを食べたところで少し依頼の情報を共有しよう」

「ああ」

「うん」

「はい」

「今回受けた依頼は討伐依頼。討伐対象は魔物の『フェザーリザード』、依頼上では四体が確認されている。それ以上を撃破するとボーナス報酬がつくのは言うまでも無いね。で、問題はこの『フェザーリザード』がどんな魔物かということだが……」


 食後のリラックスした状態を維持したまま、コウサさんが改めて説明を始めた。


 フェザーリザード。

 外見は『鳥のような羽が生えたトカゲ』で、個体差はあれど体長は三メートル弱と大きい。

 風に纏わるミスティックを本能的に行使することが多い。

 低い位置から羽を飛ばしてきたり、風のミスティックで切りつけてきたり、単純に噛みついてきたり尻尾で叩いてくるなどの行動がよく見られるらしい。

 生息域は主に草原、今回確認された個体はカイリエから西に五キロほど離れた森の奥。


 この森には霧が溜まる現象がよく見られている他、その霧には微弱な毒性が見られる。

 微弱とは言え毒性がある事に違いは無く、健康に支障が無い範囲で行動できると考えられるのは一時間。

 よって、この霧への対策として魔法で風を起こし、通り道の安全を確保する――つまりは霧を払うという方策を採る。


 フェザーリザード以外にも魔物が生息している可能性があり、発見次第対応を行う。

 森の中での作戦は半日を目安とし、もしもこれを越えるならば日を改める。

 作戦は雨天延期。フェザーリザードは夜型の生態であることから、作戦は昼間とする。


「ここまでが基礎情報。ここから先が少々特殊な状況……」


 今回の依頼は当初、『育みの庭』以外にも打診されていた。

 最終的にギルドは『育みの庭』に対して依頼を発行したから、他のパーティがもし、フェザーリザードを撃破していたとしても、報酬を得る権利は『育みの庭』にある。

 ただし、パーティ間トラブルが発生する可能性はある。このとき、正当性はこちら側にある上ギルド側の不手際という事から、自動的にギルドの仲裁は受けられるけれど、万が一そのような状況になったら気をつけること。


 フェザーリザードの討伐に成功したとき、死体は自由にして構わないため、今回は原則換金を行う。

 特にフェザーリザードは綺麗な状態の尻尾と羽に高値が付くほか、体内には魔石と呼ばれる、魔物が体内に発生させる宝石が生まれている可能性があるから、可能ならば尻尾には傷をつけず、きっちりと討伐を行う。


「と言ったところか」


 僕達三人が頷くと、満足そうにコウサさんは笑った。


「五キロということは、現地までは歩きだね。馬車を使うほどの距離じゃないし」

「保存食はそれぞれ四日分もあればよさそうだ」

「水は……、グロリア、作れるんだよね?」

「はい。飲み水ならばいくらでも」

「頼もしいよ。明日は俺とニーサで情報ギルドに寄って、フェザーリザードに関する情報を追加で買ってくる。出発は明後日の朝だ」


 ん……明後日?


「明日じゃなく?」

「明日は雨が降りそうだからね」


 ああ、雨天延期……か。


「じゃあ、おれとグロリアは道具系の整理しとくよ。保存食とか。留守番の調達はどうする?」

「タックに任せてもいいかな?」

「了解」


 尚、留守番というのはその名の通り、パーティの短期拠点の留守を護ってくれる人のことで、短期拠点を利用している者がギルドハウスに依頼することが出来る。

 安価とはいえお金を払う必要があるものの、依頼する事が出来ると言うことは逆に受諾することもできるわけで、小休止中のちょっとした小遣い稼ぎになるんだとか。


「依頼についてはこれでいいね。次、それぞれの連携についてちょっと確認をしよう」

「陣形とかも考えないとね」


 とはいえ陣形に選択肢は殆ど無い。

 コウサさんを前衛にして、その斜め後ろにタック。

 背後にニーサを置いているため、魔法使いは通常、ニーサの横か後ろになる。


 僕の場合はある程度前衛適正があるとはいえ、今回は魔法使いとしての腕を要求されていることから最後尾を担うことに。

 基本的には魔法でサポート、いざという時の警戒は僕、そんな感じだな。


 また、連携面ではニーサがテクニックアーツ、『マジックアロー』を初めとしたいくつかの連携系統を確認。

 マジックアローはその名の通りマジックを封じ込める矢で、マジック使いと予め連携して矢を作っておくと、その効果の矢をニーサが使えるようになるというものだ。

 火、氷、雷の三種は『トライアロー』で既に持っているわけなので、光、闇、岩などの属性で何本か作っておく。


 一方、コウサさんとタックは連携上でマジックを要求することは無いらしいので、この二人にあてないように魔法をコントロールする、程度だろうか。

 それも当然のことなので、連携とまではいわないけれど。


「よし、こんなものか。タックとグロリアは明日時間が余ったら、ちょっと訓練場で動きを確かめてみると良い」

「うん、そうする」

「はい」


 ぱん、と。

 手を叩いたのはニーサだった。


「今日はこんなものでいいでしょう。十九時になるわ」

「そうだね。じゃ、今日は解散。湯浴みは順番だな。お湯は……」

「今準備します」


 僕は調理の後ついでに作っておいたカードを二枚取り出し、重ね合わせて指を鳴らす。

 青い渦がちらりと発生。

 以上、終了。


「できました」

「うん?」

「……できました?」

「ってどういう意味?」

「場所が解りきってるので。ここからでもお湯を足すくらいはそこまで難しくありません」


 なるほど、と頷いたのはニーサとタック。

 やや解せぬ、そんな表情なのがコウサさん。解りやすい別れ方だった。


「まあ、良いか……。食器の洗い物は俺がやるから、気にしないでくれ」

「それは助かりますね。お願いします」


 でもまた食器洗い機作ろうっと。

 そんな決意はまた別にして、だ。


「ちなみにこれまでは湯浴みの順番って、どうしてたんですか?」

「これまではニーサがお湯を足してたからな。二階、一階ってお湯を足した後、そのままニーサは一階で最初に湯浴み。その後にコウサだ。二階の湯浴み場は基本はおれが使うくらいで、夜中とかにニーサが時々つかうかな?」


 へえ?

 ニーサが頑張ってるって意味だと、ニーサが二階の湯浴み場を使った方が自然な気はするんだけど……。

 男女で別れるし。

 まあ、そういう意味か。


「一階はこれまで通りで。二階は先にタックが入ってくれるかな」

「おれはいいけど、グロリアが先に入ってもいいよ?」

「ぼくはほら、お湯をいくらでも足せるし。それにあの猫とかをお風呂に入れるからね」

「……にゃん?」

「なにかしらね。あの野良猫、『え、マジで? 聞いてないよ?』って感じに目を丸くしてるように見えるのは私だけ?」

「不思議なことに俺にも見える」


 実際似たような事を訴えかけてきている。

 そりゃまあ、ブラッシングするわけで。

 ならばお風呂もついでに入って貰った方が良い。


「だから、その後の掃除もあるし。僕は後のほうが、むしろ都合が良いかな」

「そっか。ならいっそ一緒に入っちゃおうよ。おれ、猫が風呂入ってるって謎の光景をちょっと見てみたいし。湯船はでかいから、おれとグロリアなら余裕だろ」

「それもそうだね。ただ、猫は結構暴れるかも。覚悟はいい?」

「もちろん」


 そういう事ならむしろ手伝って貰おう。実際浴槽は大きいのだ、足を伸ばして身体を寝かせるように二人で入っても尚、広いだろう。


 一方、野良猫は不穏な空気を悟りつつも逃げようとはしない。

 その後のブラッシングを楽しみにしているようだ。長毛猫だからな……。


「それじゃ、各自あとは自由に休憩で」

「はい」

「うん」

「お疲れ様」


 それを合図にニーサはそのまま一階の水場へ、コウサさんは自室へ。

 僕はタックと野良猫を伴って二階へ。

 そしてそのままタックは水場……って、おい。


「タック、タオルとか着替えは?」

「え? ……別に部屋まで距離も無いし、いらないだろ?」

「…………」

「むしろ使うのか……?」


 プラマナの……考え方なのかな?

 いやどうだろう。

 まあ、郷に入らば郷に従えとも言うし、一度タックにあわせてみよう。


 水場の奥、湯浴み場手前の脱衣所でタックがシャツとズボンを脱いで裸になり、着ていた服は籠へと投入。

 眼鏡は棚に置いておき、代わりに眼鏡と同等の効果を持つ指輪を指に嵌めておく。

 一部の効果は使えないけど……ま、十分だろう。


「その籠に入ってるやつは洗濯するんだ。洗濯はおれかコウサがやってる。グロリアもそれでいいか?」

「僕は楽が出来て嬉しいけど、いいの?」

「もちろん。俺たち水を足せないからさ、そのくらいはやらせてよ」


 心遣いは有り難いけど、水の補充が不自由な状態で洗濯をするというのはどうなんだろうな……。

 まあいいや。

 僕も服を脱いだら野良猫を連れていざ湯浴み場へ。


 湯船には丁度良いような温度のお湯が既に溜まっていて、ほかほかと湯気が漂っている。

 また、上がり湯用のお湯タンクもお水タンクも十分だし、桶の数にも問題なし。


「早速だけど、猫の湯船を作るね」

「ん?」

「この桶だよ」

「なんだ。浴槽にいれないのか?」

「即溺れると思う。あと抜け毛も凄いよ」


 いや猫って、実は結構泳げる子は泳げるんだけど。

 たぶんこの野良猫は泳げない子だ。

 桶にぬるま湯を高さ十センチ程度いれ、そこに野良猫を抱きかかえてゆっくり投入。


 尻尾をぱたぱたと不機嫌そのものだけれど、そこは我慢して貰い、そのままぬるま湯をちょっと追加。

 猫用シャンプーなどという便利な物はこの世界には存在しないのでぬるま湯で洗うだけになってしまうとはいえ、こうもパンキッシュな毛を解いて行くには十分だ。


 あとはマッサージをしながら手櫛をかけて……っと。


「すごいな……、最初はおれが見ても不機嫌そうだったのに、なんかごろごろと心地よさそう……」

「マッサージが効いてるんだと思うよ。そして抜け毛がすごいな……」

「それはおれも思った。猫ってそんなに毛が抜けるんだな」

「この子の場合は特に長毛だからかな……」


 それに野良だし。

 まともな手入れ……もとい手当はされていなかったのだろう。


 全身の汚れを落としつつ、絡まった毛はその全てをきちんとほどいてやったら、桶から出してマジック発動。

 ドライヤー的な温風を発生させるというもので、野良猫の身体を乾かしてやる。

 ちょっとでも濡れたままだと風邪を引かせてしまうかもしれないし、体温を奪いすぎないように気をつけなければ。


 さらに乾かせつつ持ち込んだブラシで毛並を整えていって……と。

 七分と少しで、はい、完了。


「……なんかさっきまでと違う猫じゃないかこれ」

「毛がものすごい絡まってたからね。すっきりしたかい」

「にゃあん」


 よろしい。

 そして案の定、かなりの美猫だった。

 特に尻尾がもっふもふだ。


「さて、この後は僕達がお風呂に入るわけだけれど、猫ちゃん。ここにいると濡れるから、外で待っててね」

「にゃ」


 もふもふとした尻尾を愉快に揺らしながら、野良猫は脱衣所へと戻り、ちょこんと座るとうとうとし始めた。

 あの様子なら暫く放っておいて大丈夫だな。


「ごめんね、タック。大分待たせてしまった。大丈夫?」

「おれは平気。…………。なあグロリア」

「うん?」

「もしよかったらおれの髪の毛もあらってくれない? なんかマッサージされてる猫がずいぶんと気持ちよさそうで……」

「えっと……。髪の毛を洗うのは構わないけど。マッサージもしたほうがいい?」

「え、してくれるの?」

「疲れるものでもないしね」


 儲けた、そんな表情を浮かべるタックに苦笑しつつ、猫に使っていたものとは別の桶にお湯を入れる。

 タックはそんな行動を見て、僕の前にぺたりと座った。


 ……こうやって見ると、やっぱり風間先輩くらいなんだよな、筋肉量。

 まあ、ムキムキじゃないと前衛ができないわけでもないけれど。

 どちらかというと瞬発力の方が大事だし。


 実際、目立った傷跡も無いし、これまでは上手くできたんだろうし。


「さてと。それじゃあ、お湯を掛けるよ」

「ん」


 何時までも観察してないで、髪を洗うとしよう。

 とはいえ他人の髪を洗うのはずいぶんぶりだな……いや前回っていつだ……?

 ……あれ?

 全く心当たりが無い……?


「……痛かったら言ってね?」

「ん? ああ、うん。わかった」


 ……まあ理想はセットしたし、大丈夫だろう。たぶん。

 最悪折れたら折れたでエリクシル使おうっと。

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