62 - 使い手様々
9月上弦10日。
サムからの連絡は未だに来ぬまま、集合場所の冒険者ギルドハウス、その訓練場の入り口へ。
まだあの三人は来ていないようだったので、従業員さんを捕まえて、と。
「すいません。隣の訓練場って、自由に使える物なんですか?」
「うん? ええ、訓練用の武器も含めて、自由に使って大丈夫よ。ただし、派手に壊したりすると弁償になるから気をつけてね」
「はい。他になにか、制度みたいなものは?」
「ギルドハウス側の理由で貸し切りや、使用を禁止する日があるけれど、それくらいかしら。何人からでも自由に使って構わないし、なんなら訓練以外の集いで使っても大丈夫ね。ただ、訓練をしたい人がいるならば、その人が優先されるから気をつけて」
「なるほど。有難うございます」
集いって……、パーティのことだよな。冒険者的なものではなくお祭り的な方の。
それをこんな場所でしてどうするのだろう、と内心で疑問を抱きながらも、とりあえずは使用制限が無いことは確認出来たので、一足先に訓練場へと入る。
訓練用の武器としておかれているのは概ね全種類の武器で、木製と金属製の二種類。
金属製のほうは刃が潰されている他、型稽古用と書かれているので、かかし相手用なのだろう。
一方、木製の方はと言うと同じ形状でも重さが何段階かあり、形だけその武器をもした
軽いものから、通常の武器とほぼ同等の重さに調整されたもの、敢えて通常より重く作られたさえもある。
また、形状という意味ならば、たとえばブロードソードと一言に言っても長さや刀身の幅が違ったりするし、槍に至っては柄の長さから太さまで様々にカバーされている。
なんでこんなにも充実しているのだろうかと考えていたら、そんな武具置場の横に『訓練用武具、ギルドハウス内で承ります』とあった。条件は原本となる武器を持ってくることで、武器種に問わずプラマナ金貨一枚が手数料。
普通に作っていたら金貨一枚ではものすごい赤字だろうし、そもそも破損することもよくあるだろうものなのだと考えると手作りとも考えにくい。
魔法で形状複製品として作ってるんだろう、そう考えると品質値がやたらと似通っているのも説明が付く。
魔力の岩みたいな感じで形状自由、重さもある程度操作できるようにした『魔力の木材』とか『魔力の金属』的な魔法を使ったのか、あるいはむしろ僕の錬金術に近いような、僕の知らない何かを使ったのか……。
ちょっと好奇心が出てきたな。
あとで何か頼んでみよう。その場で作って貰えるパターンならばラッキーだし。
「おまたせ、グロリア」
「おはよう」
「おはよう!」
「おはようございます、コウサさん。それにおはよう、タック、ニーサ」
と、言ったところで三人が到着。
三人がまともに武装しているところは当然だけれど初めて見るな。
コウサさんは身長と同じくらいの長剣を背負い、鎧は所謂プレートアーマー。あの剣は単純に大きいし破壊力は十分だろうな、その分隙も多く成る筈だけれど、鎧に傷が少ないということは、それを補うテクニックアーツを持っているのかも知れない。
タックが携えた槍は思いもよらず大身槍……刀身と柄の長さが半々ほどのもので、鎧はポイントアーマー。喉や心臓、鳩尾、臍から下腹部にかけての特に急所と呼ばれる場所を頑丈に、それ以外の部分は革製で、動きやすさを優先したタイプだ。
ニーサはと言うと大きな弓を背負っていて、矢筒には矢が三本だけ。鎧は俗に言うレザーアーマーで、防御力はそれほど期待出来ないだろう。むしろ胸当てとしての役割が強いのかな。矢の数が少ないのが気になるけれど……さて?
「武器、見てたのか?」
「うん。僕が使うようなのと似たのがあると良いな、って思ったんだけど……。思ってた以上に充実してるなあって感想」
「あはは。わかる。おれもびっくりしたよ、最初に来た時は。でもニーサのほうが驚いたかもな」
「そうね。弓にも凄い種類があるのは当然として、弦の調整もバリエーションが多いのよ。それに矢の長さもね」
「へえ……」
言われて遠隔武器コーナーに視線を向けると、もはや数を数えるのも馬鹿らしくなるような種類の弓が陳列されていた。
概ね大きさ順に左右、重さ順に前後で整列している感じのようだ。
けれど弓か。
弓なあ。
「その表情だと、グロリアは弓矢、それほど得意じゃないみたいだね」
「やって出来ない事もないとは思うんですが……正直、矢を投げた方が早いので……」
「いや、それはどうだろう……」
けれど本当にそうなのだ、僕の場合は。
「まあ、そんな余談は後にしましょう。僕はどんな魔法を見せれば良いんでしょうか?」
「そうだね。まずは本題を済ませてしまおう。ニーサ」
「はーい」
と、ニーサが弓を構える。
矢筒から矢を取り出し、矢を番えると、途端、鏃に赤と緑の渦が一瞬起きて、それは赤く輝いた。
魔法か。恐らくは弓のテクニックアーツ……。
ニーサが矢から手を離せば、綺麗な弦音を響かせながら、訓練場に建てられたかかしに矢はあっさりと命中。
そこまで距離があったわけでもないとはいえ、見事にかかしの『頸』を射貫いているあたり腕は確かなのだろう。
「今のような矢の一射を、『風』などの目に見えにくい魔法で『逸らす』。それが今回、君に求めたい魔法だ」
「矢の軌道を曲げる風ですか……」
それは……、なんというか。
想像を遙かに超える難易度の要求をされているような気がする。
「どのくらい逸らす必要があって、猶予はどの程度あるんでしょうか」
「猶予という意味では、今、ニーサが弓を構えている位置からダミーターゲットまでの距離がほとんど同じだ。逸らす必要があるのは、ダミーターゲット一つ分は余裕を持って逸らしてほしい」
つまり当たる場所をずらすどころか、そもそも当てるなってことだよな。
そりゃあ飛び道具だ、風の影響があって然るべきではある。
けれど矢。
矢かあ。
ニーサからダミーターゲット、つまりかかしまでの距離は精々二十メートル。
冒険者的には近距離だろう、この短い距離で矢を風邪によって完全に逸らしきるとなると、射った瞬間を狙うか、あるいはよほどの突風を起こすか……。
「魔法は目立っても大丈夫ですか? それとも、バレない方がいい?」
「今回は目立っても大丈夫。ただ、気づかれにくい方法があるならばそれに越したことはないね」
「じゃあ、今回はちょっと手抜きをします」
「手抜き……?」
必要な『図形』と『動作』は解っている。
『魔力の風』の発展系、『魔力の突風』で恐らくは大丈夫だ。
より確実にやるならば『魔力の竜巻』とかだけれど、バレないようにと言う事ならば不適格だろうし、そういう意味だと他の魔法もいまいちだもんな。
「好きなタイミングで矢を射ってください。それに僕が対応する形の方が良いでしょう」
「それはそうだけど、難しいよ。いいんだね?」
「はい」
「わかった。ニーサ」
「うん」
ニーサは矢筒から矢を取り出すと、すっと矢を番える。
僕は左手の親指と中指をこすりつけ――ニーサが矢を射た瞬間、僕は右足に力を入れた。
瞬間、『魔力の光』が地面に投影展開。
さらにその展開された光で図形を作り、それを図形動作の『図形』と見做し、その光の強さを変動させることで『動作』と見做すことで、『魔力の突風』に連鎖発動。
光の展開から突風の発生までに要した時間は0.1秒未満、問題は発動するタイミングだけれど、これは『時間認知間隔変更』の力でどうとでもなる。
結果、ニーサの手から離れ、しなりながら飛び出した矢に真横から突風が襲いかかり、その重心がぐらつくと、矢は目標から大きく逸れて、そのまま地面へと突き刺さる。
「……何だ、今の。光で曲げた……のか?」
「いや……、なるほど、『目立つ』『手抜き』はそこか。グロリアは今回、『矢を逸らす』ために使う魔法を『図形動作』で発動することにした。けれど図形をいちいち書くのは大変だから、『手抜き』、『魔力の光』で図形を作った……」
「矢を射った瞬間、かなりの風を感じたのは私だけかな? ってことは、あの風を魔法で作った?」
タック、コウサさん、そしてニーサがそれぞれに呟く。
僕は頷きつつ、改めて『魔力の光』で図形を展開。
「魔力の光で図形を作るのはよくやるんですよ。咄嗟に必要な図形を作れるので――で、その光の強さを調整することで、動作にすることで、その後の動作を補ってしまうというのが僕の連鎖魔法です」
「えっと、その魔力の光の図形はどうしたんだ?」
タックの疑問は当然の部分だろう。
そしてこれは隠す事でも無い。
図形動作型のマジック使いは大抵同じ事をやっているし。
「色々なところに仕込んでる。この眼鏡の縁とか、指輪の裏とか、靴の裏の滑り止め、あとは着ている服の裏地とかも」
「なるほど……あれ、でも、図形動作をメインにするマジック使いは滅多に居ないんだよな、コウサ。こんな便利なのに?」
「そうだね」
タックのさらなる疑問に答えたのは、その疑問を問いかけられたコウサさん。
「詠唱と違って、図形さえ用意できているならば、動作だけで発動できるというのが強みだけれど……必要な魔法を発動できる図形を瞬時に組み立てるのが難しいんだ。それをグロリアは魔力の光で補っているけれど……。あれ?」
「あれ? って。コウサ、何よ、そのリアクション」
「いや。『魔力の光』の特性を思い出してね」
ああ……さすがに騙しきれないか、そこは。
「『魔力の光』という魔法は特別でね。誰が使っても同じ効果を出せる魔法なんだ。そう考えると、それで図形を描くというのは変だね。なにかそこも応用系かな?」
「はい。あくまでもベースは『魔力の光』ですし、それ自体に特別な効果は無いんですけど……。魔力の設計図みたいなものですか」
「なるほどね……。発想的には……、どうなのかな、連鎖魔法の使い手ならばまずは考えることかな? けれどそれを現実に使っているのを俺が見るのは、グロリアが始めてだね」
「つまりどういうことだよ、コウサ」
「俺たちが思っていた以上に、グロリアは『魔法使い』として才能があるって事」
ということは、とりあえず合格ラインは満たせたかな?
僕がそんな疑問を抱きつつ首を傾げると、コウサさんは笑みを浮かべて僕に言った。
「グロリア。俺たちは結構、君に無茶を求めたつもりだけれど、君はあっさりとそれを実現して見せた。君の力は解った、是非とも俺たちのパーティ――『育みの庭』に参加して欲しい」
「けどそれは私達の都合よね。グロリアには私達の力を知る権利があるわ」
「そうだな」
コウサさんの提案に、タックとニーサが釘を刺せば、コウサさんもうん、と頷いた。
「ここで少し動きは見せられるはずだ。訓練場だからね、実戦とはどうしても違う部分が出てくるけれど……」
「そうね。私からやる。言い出したのは私だし――」
と、ニーサは矢筒から矢を取り出す。
三本目の矢を番えれば、やはり鏃が輝く。今度は青色に。
「私が主に戦闘で使う之は、テクニックアーツ、『トライアロー』。私は矢を魔法で精製しているわ。一度で精製できる矢の本数は三本で、それぞれ火、氷、雷の三種類の属性を帯びることが特徴よ」
「最初の矢が火で、さっきのが雷だった……ということは、これは氷?」
「その通り。もっとも、ここは訓練場だし、付加効果が載らないように調整しているんだけれど――」
ね、と。
綺麗な弦音と共に射ちだされた矢はかかしの心臓のあたりを貫いた。
なかなかの命中精度だな……。
「あくまでも魔法で作った矢だから、解除すれば見ての通り矢は消せるし――」
すっと。
かかしに突き刺さった二本の矢、そして地面に突き刺さった一本の矢はその姿を掻き消す。
「一応、複数セットを矢筒に精製することも出来るの。矢筒にテクニックが刻んであるから、これを無くすと大変ね。普通の矢も持ち歩いてはいるけど、そっちは使い回しが聞かないことが多いから」
「なるほど……」
「次、おれな。おれが使うこの槍は、おれの背よりも高いけど、そこそこ扱いは得意な部類のつもり」
次いでタックがかかしを相手に、突きや薙ぎ払いといった一連の動作を繰り出す。
自負しているだけあって、その動きによどみはない。なかなか慣れているようだ。
……けど、妙だな。
あの大身槍を振り回すとなると、相当の筋力が必要になるはずだけれど。
「おれは魔力に恵まれなかったから、マジックとかテクニックはどうも使えないけど――ちょっとだけ、ミスティックが使えてさ。ミスティックスキル、『ウィズランス・ウィズダム』。槍を使う時、おれは槍の重さを無視できるんだ。おれが無視しているだけで、槍の重さが無くなるわけじゃ無いから、破壊力はむしろ増すけどね」
なるほど、重量無視……、また随分とピンポイントなミスティックを持ってるな。
いや、だからこそ槍を使っているんだろうけれど。
「ちなみに間合いの問題で、おれとコウサが戦うとおれが模擬戦では勝てるよ。実戦だとコウサの方が、やっぱり強いけどな」
「あはは……それも時間の問題かも知れないけれどね。最後になったけれど、俺は前にもちらりと触れたように、この長剣を使う前衛なんだ。切り札のテクニックアーツは三種類。奥の手だから余り見せびらかすものでもないけれど、一つだけは見せておこう。ニーサ」
「わかったわ」
コウサさんは背負った長剣に手をかける。
と、ニーサがテクニックで精製した矢をコウサさんの方へと投げつける――瞬間、がちんと一度だけ音がした。
ただそれだけ。
なのに、矢が粉々になっている。
「テクニックアーツ、『インターセプト・モア』。俺の大剣が届く範囲の対象を瞬間的にたたき切るっていうテクニックだね」
「……もう一度見てもいいですか?」
「ああ」
改めて背負った長剣に手をかけたコウサさんに、ニーサが矢を投げる。
時間認知間隔変更を極端な倍率でかけつつ見てみると、ニーサが投げた矢がギリギリ『射程』に入ったところでコウサさんの手元に緑と赤の渦が発生、直後、矢はコウサさんに近いところから何重にも分割されてゆくけれど、剣の姿は見えない。
風斬り音がしなかった時点で妙だなとは思ったけれど、これ、コウサさんの長剣そのものは動いてないのか。あくまでも射程範囲内の物に斬撃を飛ばすだけ……その斬撃も実際の斬撃ではなく、魔法で生み出された斬撃だったからか。
「使い手に似ず、とても性格の悪いテクニックアーツですね」
「……驚いた。たった二度見ただけでその評価ということは、気づいたんだね。……それで、どうかな、俺たちは。パーティに参加、してくれるかい?」
「もちろん、喜んで。けれどその前に、一つだけ断りを入れておきますね」
「ああ。何かな?」
「僕はレベルゼロという素質を持ちます。僕の力量はレベルからでは計れません」
「あー。おれと同じかあ」
ん……あれ?
思いもよらぬタックの答えに、僕は思わず首を傾げるのだった。




