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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 サトサンガのアルテア
55/151

55 - 戦いの後

 僕が見たもの。

 そして僕が聞いた言葉。

 それらを説明した上で、リーヴァさんとヘレンさんは現実味がないようで、まず、首を傾げた。


「……確かに、アルテアには全く違ったもんが明確に見えてたんだろ? そう考えると、何か……、が、あるのか?」

「いえ私に聞かれても……、私だってリーヴァと同じものを見ていたわけだしね」


 困ったように。

 二人はそんな言葉を交わす。


「アルテアだけが『それ』を見ていた。その上でアルテアだけが『それ』を聞いた。そこに意味を感じるならば……。私達は、あるいは滅ぼしてはならないものを滅ぼしてしまったのかもしれない」

「けど、今のところその根拠はないだろ?」

「そうね。でもリーヴァ、私達が討ち滅ぼしたアレ、必ずしも敵だったと言える?」

「敵だろ。攻撃を反射してきたんだぜ」

「あっちから能動的な攻撃はただの一度も無かったわ。アルテアが投げた石を反射し、あなたの斬撃と私の魔法、それにアルテアの斬撃を反射しただけ」

「……まあ」


 状況を整理するように言うヘレンさんは、けれどヘレンさん自身も半信半疑……いや、疑うのほうが大きいような状態で、それを察しているからこそリーヴァさんも曖昧に答えるだけだった。


「……で、光って言うのはどこにあるんだ?」

「えっと……あっちに」


 視界に灯された光は、ホウザの奥の方から感じている。

 ただ……やや、下なのが気になるけれど。

 地下だろうか?


「行ってみるしかねえだろうな。アレには一応連絡を取っておくとして……」

「そうね……、アレにも少しは考えさせましょう」


 いやサムは僕達以上に考えてるような気がするけれど、まあ、いいか……。

 話は軽く纏まったので、とりあえずは僕が光を感じる方に移動しつつも、遠隔音声伝達を用いてサムに事情を報告。


 空にあった空間が圧縮されたような結界は僕が強引に破壊した事。

 その結果現れた者は、僕と他の二人に異なって見えた事。

 リーヴァさんとヘレンさんはそれをぼやけた、光輪を纏った竜として見えた事。

 一方、僕には灰色に塗りつぶされた二つの人型が背中合わせに直立し、輝く紐で縛り上げているように見えた事。

 リーヴァさんとヘレンさんはどちらも『本能的に逆らってはならない』と感じたけれど、僕は何か同族嫌悪に近いものをそれに抱いた事。

 僕が対処にこまねいている間に、リーヴァさんとヘレンさんが動き、あっさりとその光輪を纏った竜は滅ぼすことが出来た事。

 死体は残らなかった事。

 僕にはそれが、輝く紐が濁って、弾けるようにちぎれた用に見えた事。

 全ての紐がちぎれた後、男女の声が重なるような声が聞こえた事。

 ……そして、その言葉と同時に、まるで目印のような『光』が見えるようになったので、そこに今、向っている事。


 大前提として発見した場所はホウザだ。

 ホウザの現状、つまり大火で壊滅状態にあるという点を踏まえると、光輪を纏った竜は『災害そのもの』と称される聖竜である可能性がそこそこ高い。

 けれど一方で、僕にはそれが認識できなかった。

 僕が認識した者は輝く紐で縛られた人型の何かだ。

 人型のものと思われる言葉は安堵に満ちていて、何か重要な役割を終えたような、そんな言葉であり、そして『次の柱』が僕であると、そう断定的に言って、滅んでしまった。


 柱という言葉が何を意味しているのかは分からない。

 僕はまず世界の何かを支えている、文字通りの柱だったのではないかと考えたけれど、もしくは概念的な人柱……誰かを犠牲に捧げることで何らかの災害を抑えるだとか、そういうものだったのかも知れない。

 前者はもはや世界の構造としての何かだ、一方で後者だとするとそれは『月の魔法』か、それの亜種のようなものかもしれない。


『即答しかねるな』


 僕からの伝達を受けて、サムはまず、そうとだけ答えを寄越してきた。


『……その光、貴様にとっては害になり得ないか? 後回しにするという選択は?』

「サムらしくもない。事態の先送りで好転する類いの者だとは思えない――光が示す場所には、どのみち行かなきゃ始まらない」

『…………。そうだ――何事だ! 扉を勝手に開けるなど、近侍として――』


 ん……?

 殆どリアルタイムにやりとりをしていたからこそだけれど……。

 サムが怒鳴るなんて、珍しい。

 というかサムの奴、自室に居たのかな?

 結界も敷かずに伝達をしてきたとは考えにくいけど、だとするとその近侍さんは結界を無効化した……?

 あるいは特例か。


『な――』


 そして遠隔音声伝達の魔法を切り忘れている。

 いや、サムのことだ。意図的かも知れない。

 実際……なにやら、聞こえてきたのは絶句するような、そんなサムの反応である。


「アレと連絡しているようだが、どうした?」

「連絡の最中に近侍さんとやらが勝手に扉を開けて入ってきたみたいです」

「ふうん……? アレらしくもない」

「ですよね……」


 尚、リーヴァさんやヘレンさんもサムに直通で遠隔音声伝達を行えるんだけど、僕とは違って返事に大分時間が掛かるらしい。

 恐らく優先度でもつけているのだろう。僕は結構高いところにいるらしい。

 それは僕が評価されているから……だと思いたいけど、僕を警戒しているって所もあるんだろうなあ……。


『解った、詳細は……、一時間後までに纏めておけ。こちらも要件を済ませたらすぐに向う。父上は役に立たんが、王座には父上が必要だ。連れてこい。王座に居るなら寝ていても構わん、死体は困るがな。騎士は軍団長以上で即応できる者を参列させろ。ただし対応中の者に関しては招集を除外する。冒険者ギルド本部とも連絡を取れよ。解ったか? よろしい、解散』


 妙な指示が出てるな。

 そう考えが進んだところで、『聞き苦しいところをすまないな』とサムが詫びてきた。


「僕は構わないけれど。何かあったの?」

『ノウ・ラースで「ドラゴニュート」種の魔物が複数確認された。それに伴いいくつかの町が被害を受けている。この後すぐに対策を立てねばならん』


 ドラゴニュート。

 竜と呼ばれるタイプの魔物のなかでも、かなり厄介な部類……だったかな。

 軍単位で対応しなければ対処が難しい例も多いと、どこかで聞いた事がある。


『……アカシャとして、動かざるを得ないな。本来ならば貴様を多少なりとも補助するのが役割だったのだが』

「お気持ちだけで十分だよ。むしろそっちの戦力は足りるの?」

『現状ではなんともいえん。連中を使うつもりだが、数次第だな……』

「こっちの二人、そっちに向わせようか?」

『…………』


 サムは即答しなかった。

 つまり欲しいのだ、信頼出来る戦力が。

 ただ、今、僕からそれを取り上げて良いのかと考えている。


『……今のところは大丈夫だ。だが、将来的には送って貰う可能性もある』

「解った。こっちの要件を急ぐよ。何か解ったら教える。逆にそっちも何か解ったら教えてね」

『ああ』


 と言ったところで遠隔音声伝達が切られたので、僕の方からも切っておく。

 さて。


「ヘレンさん、リーヴァさん。アカシャにドラゴニュート種の魔物が複数確認されたそうです。サムは戦力を欲していますが、すぐに二人を呼ぶようなことはしないとも言いました。つまり将来的には呼ばれます」

「つまり……なのか、それは?」

「サムが言葉を濁しましたからね……本当ならばすぐにでも寄越せって言いたいんでしょうけど、今は僕の方が優先度は高いと判断したようです」

「つまりあなたが見ている光のもとに急いで、こっちの解決を図れと言う事ね」


 頷くと、ヘレンさんとリーヴァさんも各々頷いた。


「まずは光の方へと向いましょう。リーヴァ、あなたもそれでいいわね」

「ああ。しかし光か。…………。湖底のあの城に灯ってた光と似てるのか?」

「…………」


 ……あれ。


 それはリーヴァさんにとって何気ない連想だったのかも知れない。

 けれど確かに、言われて見ればそんな感じだな……、あの城の光と同じような光を感じていると言うことは、僕が向う先もあの城と同じような何かか?


「……似てますね。言われて見れば」

「ということは、寄り道も出来ないな」

「まずは直線……ね」


 頷いて、僕は光の方へと歩みを進める。

 黒い炭で埋め尽くされた大地に目印のようなものは無く、ただ平坦な道を歩き続ける。


「あれ……?」


 黒い大地。

 黒い……床?


「…………」

「どうした?」

「……いえ。何か妙な連想をしただけです」

「焦げたパンか?」

「僕はこの匂いの中で食欲を思い出せるほど強くありません……」

「ははは。俺もだ」

「え、そうなの? 私結構、さっきからお腹空いてるんだけど……」


 ヘレンさんは強いなあ。

 けれどまあ、暫く歩いていたし、実際にそれなりの時間ではある。


「光までの距離にもよるが、一度どこかで休憩が要るな」

「ならば今のうちに休憩しちゃいましょうか。距離がどうも掴みにくいんですが……、そこそこ近いならば、目的地に着く前に腹ごしらえはしておくべきですし、遠いなら尚更ですからね」

「そうしてくれると私は助かるわね」


 ということで、休憩を挟むことに。

 焼け焦げた大地にそのまま座るのは流石にどうかと思うので、鞄から耐熱シートを取り出してレジャーシート代わりに敷いて、次に折りたたみ式のちゃぶ台を展開。

 この焦げ臭さでは匂いなどを楽しめるわけもないので、飲み物はいっそ純粋なお水にするとして、食べ物もパンにビーフジャーキーといった組み合わせで。


「あなたと旅をしていると、この快適な食事が当然になっちゃうのが問題ね……」

「俺も同感。普通は地べたに座るか、立ったままだもんな……」

「休憩中くらいは楽をするべきですよ」


 じゃなきゃ休憩にならないし。


 それぞれ思い思いに食事を始め、少ししてから。

 そういえば、と思い出したので、僕は改めて、問う。


「お二人は今回、サムからどんな報酬を提示されたんですか?」

「俺は剣。あのブロードソード、実際の所補助系の効果だからな。もっと攻撃に特化したようなものができれば欲しいって頼んだ。一連の行動が終わったらすぐに手元に着くだろうってアレはいってたぜ」

「……なるほど」


 もう一本作れと言うことか、サム。

 もうちょっと早めに連絡しておいてほしかったぞ。

 マテリアルはあるから、まあ、良いけど……。


「ヘレンさんは?」

「私は情報を対価として最初求めたのよ。そもそも私が冒険者になった理由は……知ってるっけ?」

「……その、奴隷商に売られたご友人を探しているとか」

「そうよ。アレが話したのね。……実を言えば生きてるかどうかも怪しいんだけれど、でも、諦めきれないの」


 なるほど。

 アカシャの情報網ならば、あるいはサトサンガの奴隷商ネットワーク……いや無理じゃない?


「最初求めた、って、今は違うのか?」

「アレ曰く、『調査はさせるが、成果には期待するなよ』――その上で、『あるいはと思い当たる節がある、「セタリア」から何かしらの道具を貰ってやる』って言ってたのよね。セタリアって誰なのかが解らないけど、道具って事はアルケミックでしょうし、メーダーの駒かしら? ただ、私も一連の行動が終わったらすぐに道具は届く、みたいに言われてるの。もう輸送中なのかもしれないわね」


 ん……セタリア?


「その報酬の話をしたの、いつごろの話ですか?」

「この面子と軍の駒で作戦を共同し始めた頃よ。だから結構最近」


 ふうん……?

 セタリアという名前は僕がアカシャでフロス・コットンと名乗る前、仮に呼ばれていた名前だけれど……、その名前は他人に付けられたものだ、そしてその名前は元々別の誰かの名前だったらしい、というところまでは知っている。


 となるとその『原典』側の人間だろうか……でもな、なんかその原典としてのセタリアさんはもう亡くなってるみたいな話も聞いてるしな。

 同名の別人……、いくらなんでも希望的な観測にすぎるか……。


 単にアルテアの名前を出すと僕が特定される。

 かといってフロスは処刑され死んだ事になっている。

 渡来佳苗の名前は、サムも他人には教えたくないらしい。

 セタリアという名前で、僕を指名していると、そう見るべきだ。


 だから予め詳しい事情を聞かされたんだろうな。

 なかなかサムも無茶を言う……、そりゃ、そういうお役立ち系の道具も作れるとそれとなく示唆はしたけども……。

 流石に特定個人を探し当てる道具となると、その対象を絞り込めないときついぞ。


「僕が聞いて良い事かどうかも解りませんが。そのご友人……、に纏わる何かを持ってるとか、そういうのはないんですか?」

「纏わる何か? ……えっと、お守りにって貰った髪の毛が一房とか?」


 ああ、あるのか……。

 ならば作れるな。


「……まさかとは思うが、アルテア、お前が作るって話なのか?」


 そして思いがけずリーヴァさんが悟っていた。

 ヘレンさんのほうが先に気づくかなとも思ったけど……。


「僕はサムから特に聞いてませんね」


 だから一応、真実で答えておく。

 嘘ではないという意味での真実だ、それに実際、サムが僕以外の調達手段を見つけているのかも知れない。


「そういうアルテアは、どんな報酬で今回動いているの?」

「それは俺もちょっと気になってたんだよな。何のために動いてるんだ?」

「友達が困っていたら手伝う。当然のことでしょう」

「友達って……」


 まあ。


「結局、僕は好奇心を満たせたらそれで良いし、サムは結果を出せたらそれで良かったんですよ。だからお互いにあえて利益を提示するまでもないというか」

「なるほど。好奇心を満たすことが報酬か」


 頷く。

 とはいえ、好奇心猫をなんとやら。


 今回はどうしても、その言葉を思い出すけどね……。

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