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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 サトサンガのアルテア
42/151

42 - 追加装備はショートソード

 少し落ち着いて考える時間と、それを出来る場所が必要だ。

 ハインの街で宿を取るのが自然だけれど、相応にリスクがある。

 かといって船の上では安心も出来ない……。


 仕方が無いので、アルベイルさんの家を出たらそのまま外縁区からさらに外方向へ、つまりハインを出ると、少し街道を歩いて森へ到着。

 道を逸れて森の中を暫く歩いたら、足下の地面をマテリアルとして認識――地下に空間を錬金術で作成、周囲に誰も居ないことを再度確認してから『地面』を破って地下空間へと入り、即座に錬金術で地面を修復。

 真っ暗な空間を魔法の灯で照らしてやれば、誰にも秘密の空間が無事に完成、と。


 土が剥き出しなのは嫌なので、ふぁんと錬金術できちんと壁・床・天井も作っておく。

 ついでなので天井はいつぞやにも使ったマジックミラーみたいな構造を採用、とりあえず直上方向は観察できる状態になった。


「さて」


 更にピュアキネシスを適当に用意しつつマテリアルにして、机、椅子、ちゃぶ台、ベッドなどを片っ端から作成。

 何も考えずに作ったせいか、地球上の僕の部屋みたいなレイアウトになってしまったけど、まあ、やむなし。


 あとは水場か……。

 お風呂場については何も考えずに作れるけど、トイレはどうしよう。

 いやまあ、どんな汚水だろうが強制的に綺麗な水にする道具だとかを作るのは間違い無いとして……、まあ、お風呂場の横に作っておく程度で良いだろう。


 長居するつもりも予定もありはしないし、本格的な部屋作りをする意味も無い。

 といいつつお風呂場にはゆったりサイズの浴槽を設置。

 あとでゆっくり温まろう。


 仕上げに各部屋に酸素濃度調整を行う道具を主体に消臭剤などの効果を与えた道具を設置して、最後に鶯色のエッセンシア、コーティングハルを使って全室完全な振動耐性……つまり、完全な防音措置を実現しておく。

 大声で叫ぼうが歌おうが、外には何も届かないという便利具合、やっぱり錬金術は楽で良い……とかいうと冬華に殴られるんだよな……。

 それでもロジックとか、この世界の魔法でやるよりかはかなり楽だとは思う。


「落ち着ける環境は、整えた……」


 考えよう。

 ゆっくりと。


 小国あらため陰陽の国ドアに血を分けたという国と、豊穣の国リコルド。

 滅んですぐならばともかく、滅んでからかなりの時間が経過している。

 リコルドのほうはまだしも、ドアに血を分けたという国については存在そのものがドアと一緒に抹消された可能性もある。

 このあたりを詳しく知るためにも、やっぱり当時の地図が欲しいな……。


 錬金術で作る?

 いや、渡鶴のサポートがない以上、過去の地図を作る事は容易じゃない。

 その当時まさに作られた、なんていう都合の良い道具があればそこから無理矢理代入は出来るかも知れないけど、そんな道具よりかは地図が見つかるほうが早いと思う……。

 選択肢として切り捨てはしないけど。


 ……結局、過去の地図、そして過去の勢力に関する情報をきちんと集めるべきだな。

 現代の地図ですらも軍事情報扱いされているこの世界において、それはものすごく難しいことだけど。

 それに、サムやアルベイルさんでさえもそれを持っていなかったと考えると、国家単位でもそもそも所有していない可能性がある……けど、それはアカシャとサトサンガがそうだったというだけで、他国もそうであると断定できるものではない。


 ただ、それ以外の場所からでも探さなければなるまい。

 たとえば遺跡とか。


 都合良く遺跡などというものが見つかるわけがない、と普段ならば優先度を下げる選択肢ではあるんだけど、今回は少なくとも一つ、その都合の良い遺跡に心当たりがある。

 ハイン海の湖底神殿だ。


 凄まじい強度で結界が施されていて、いつ頃からあったのかは不明。

 過去に行われた探索では結界を破ることが出来ず、探索隊が一人また一人と消える怪異現象が発生した……。


 つまり湖底神殿が実在する場合、少なくとも公式には未踏の地というわけだ。

 いつ頃作られたのかは解らないけれど、それが作られた時代の情報が獲得できる可能性は十分にある。


 注意も必要だけど……。

 正直、この程度で苦戦するようだと、恐らくこの一件は僕の手でどうこう出来る問題ではない。


 そういう意味でも――分水嶺だな。


「過剰なくらいに準備はするとして……」


 この世界の魔法に拘った結果大失敗をしても仕方が無い。

 これまで習得してきた様々な魔法や技術をフルに活用する。

 道具も一通りを越えて、多すぎるくらいに準備はしよう。


 さて、その上で湖底神殿を攻略するにあたって、何が必要だろうか?

 前情報として僕が獲得できているのは、それが湖底……ハイン海の底に存在すること、そして強力な結界に護られていると思われる事。

 たったのこれだけだ。


 それだけでも、一つの目安にはなるし、重要なヒントがある。


 湖底神殿は湖の底にある。

 湖には当然、水が満ちている。

 つまり水の中にある。


 何を当然と思うかも知れない。

 でも僕にとっては重要だ。


 泳げないし……。


 なので、泳がずに済むような道具が一通りは必要だ。


 水中で呼吸が出来るようになる道具。

 水中でもクリアな視界を確保する道具。

 動きにくい水中の動きを補助してくれる道具。

 そして水中に持ち込んでも中身が濡れない鞄のような道具。


 幸い前の三つは何度か作ったことがあるので、全て錬金術と神智術を利用して作成。

 実験的に光輪術との連携を試してみるとする――これは付け焼き刃だから、機能したらラッキー程度で。

 形は……、身につける意味から、指輪でいいかな?


 というわけで指輪型にそれぞれを『二重』にして作成、それぞれ一つは指輪の形で残しておき、もう一つは眼鏡に機能を遷移。

 錬金術で作る特別な道具はこうやって、道具の形を変えたり、道具から別の道具に効果を移したりすることが簡単なのだ、僕にとっては。

 錬金術師仲間の冬華に言うと刺される案件だけど。


 まあともかく、基本は指輪側の機能を使って、いざとなったら眼鏡の機能で誤魔化すいつものセットというわけだ。

 ついでなので他にも付与できる効果は片っ端からしてしまおうかな……、でもあんまり眼鏡に機能をつけると、咄嗟に使う時にめんどくさいんだよね。

 めんどくさいだけで安全が買えると思えば悪い話じゃないけども。


「この辺はこれでいいとして」


 水中に持ち込んでも中身が濡れない鞄はどう作ろうか。

 そもそも今持ち歩いている鞄も一通りの耐性をつけているし、開けなければ中に水が入らないようにある程度の密閉性は確保しているけれど……。水の中で開け閉めしても水が入り込まないような仕掛け……。


 気圧操作でいいかな?

 効果範囲の気圧を一定に保つという道具がある。それで一定の気圧を鞄の内側に保たせる。自然と水を排除できるわけだ。

 ……いや微妙だな。


 というか。

 そもそも水の底に目的地の神殿はあるわけだ。

 神殿の中はとっくに水で埋まっているだろうし、そうならば神殿内部にある道具は最初から水に浸かっているのだから、『濡れないようにする』意味は無いのかな?

 魔法とかで神殿内部に空気が満ちているならば、それはそれで濡れないし。


 帰り道の水の中で濡れないようにするのは現状の鞄でも可能だ。念のためピュアキネシスで覆えばそれで万全、というかそれ以上のことをするのは却って良くない。うん。言い訳じゃなくて。いや言い訳だけど。


 そう考えると道具面ではクリアだな。


 他にも念のため系の道具も一通り揃えて……、と、色々とふぁんふぁんと作っていく途中、すこし考える。

 モアマリスコール……要るかな?


 黒いエッセンシア、モアマリスコール。

 二重に摂取することで生きているならば死ぬ。ただそれだけの道具だ。


 どんな魔物や猛獣だろうと、生きているなら実質的に即死させることが出来る……という意味で、とても便利な道具とも言えるけれど、自分がこれを二度摂取しても死ぬので、リターンにリスクが見合うかどうかは微妙なところなのだ。

 …………。

 必要になったら変換術で作る、これで良いとしよう。


「うん」


 一通りは準備がこれで出来た。

 けれど行動は早くても明後日からだ、今日の段階で動くのは得策ではない。

 アルベイルさんの監視役は僕を最初から認識出来ていないとは思うけど、僕がハインに訪れたのが今日だということを監視役……軍は把握しているはずだ。

 そんな中で何も考えずに動いたら、警戒を買うだろう。

 僕も、そしてアルベイルさんも。


 だから今日は動けない。

 明日は……ちょっと『試してみたいこと』がいくつか出来たので、今居る地下空間の下にも空間を開いて、実験場としてそこでやってみるつもりだ。

 完全エッセンシアによる完全耐性をつければ外部には何も漏らさないしね。


 というわけで方針決定。


「サム。僕は今日明日で準備をして、明後日からハイン海の湖底神殿を調べてみる。必ずしもそこで情報が得られるとは限らないけれど、随分前からあるみたいだし、何かが獲得できる可能性はある。方法は僕に任せて貰うよ」


 遠隔音声伝達で送りつけたそんな言葉に、サムは迅速に返事を返してきた。


『解った。その件は貴様に任せるとしよう、詮索もするまいよ。だが協力もできん、気をつけろ。こちらでも可能な限りドアと血を分けたという国についての記録は漁っているが、率直に言う。あまり期待するな』


 やっぱりアカシャの記録にはほとんど残っていない……か。


『ただ、先に貴様が言った通り、恣意的な……情報に濃淡がつけられているような、そんな感覚は確かにある。ドアに関しての情報にせよ、リコルドにせよだ。あるいはどこかのタイミングで、世界的に編纂でも行ったか……ま、こっちはこっちでもう少し調べてはみるが、あまり期待するなよ。で、他に調べるものはあるか? ついでだ、やっておくぞ』


 世界的な編纂……?

 そんな事を複数の国で協力して行うとなるとなにかよっぽどの脅威があったってことになるような。ドアを滅ぼした程度ではない、何かが……。

 ま、その当たりはサムに任せた方が早いな。


 で、折角ついでで頼めるならば。


「ハインの湖底神殿のような場所……遺跡とか、ある事は解ってるけれどまだ入れていない場所とか、そういうのがあればいくつかピックアップして欲しい。そうそう見つからないとは思うけど……距離とか場所の問題は気にしないで、どうせ無理をすることに違いは無いから。湖底神殿の中は見取り図も作るつもりだけど、サム、要る?」


 と、ちょっと無茶振りも投げておこう。

 はたして、サムの回答はと言うと、


『見取り図は寄越せ。方法は追々知らせる。……似たような場所か。そうそうは見つかるまいな、だがあるいは冒険者ギルド側に情報が集まってるかもしれん。少し突いてみる』


 というものだった。

 まあ、概ねお互いに想定通りといった感じのやり取りだろう。


「――さて」


 ベッドの上に横たわって、魔法の灯の明るさを調整。

 室内温度もジャストにしておき、僕はそのまま目を閉じる。


 船の上でもそこそこ良く眠れたつもりだけど、地面の上と比べればやや眠りは浅かった。

 それもここでは気にならない。

 まずはゆっくりと眠って、リフレッシュするのが一番最初だ。

 ……精神的な方面で、ね。


    ◇


 休憩や再確認、準備を終えて改めて外へと出たのは、サムに予告したとおり、地下に拠点をでっち上げた翌々日の事だった。

 地下の仮拠点は当然、ふぁん、と削除。

 錬金術による完全な証拠の隠滅、楽々でいいよね。探偵とかは怒りそうだけど。


 で、この期間で道具や魔法の再確認と威力や効果の確認のみならず、一部追加で作った道具が一つと……装備が一つある。


 装備とは、剣だ。

 ショートソードと呼ばれるような、子供でも扱える一般的なもの――まあ、僕が持っていてもさほど怪しまれない武器を考えたら、これになった。

 剣としての品質値は異常の域。

 つまり、超等品である。


 使わずに済むならば使わずに済ませたいけれど、まあ、念のための懐刀ということで。

 ちなみに効果は剣気、付与された属性は『影』。

 いつぞやの属性『流星』とかと比べればそこまで被害は出ないはずだけど……。


 そんな剣を追加で装備して、僕は改めてハインの街へと戻る。

 港まで一気に抜き出たら、船舶案内所に直行。


 サッティラとは比べものにならないほどに広いその施設は、けれど大人数でごった返している。さすがは首都。

 大人しく順番を待ち、呼ばれたカウンターへと向うと、受付さんは『珍しい』という視線を向けてきた……珍しいなりに子供の依頼もあるのか。


「ようこそ、ハイン船舶案内所へ。ご用件は?」

「交易船、登録番号は9961。サトサンガ冒険者ギルド管轄の"バリス"に連絡を取りたいのですけれど」

「…………? 登録番号を確認。確かに確認は出来ましたが……お客様のお名前は?」

「アルテア・ロゼアです。サッティラからハインに来る時、その船を使っているので面識があるんですよ」

「なるほど。……では、今回の用件はハインからサッティラへの移動でしょうか?」

「いいえ。詳しい事は内密にしたいので……。"バリス"が停泊している場所を教えて下さい。仲介は今回、不要です」

「案内所を介さない契約は……危険ですよ?」


 百も承知です、僕がそう答えると、受付のお姉さんはため息を隠して言った。


「西ハイン港区4の12番に停泊中です」


 と。

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