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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 アカシャのフロス
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02 - 都合が良いから

 人里は思いのほか、あっさりと見つける事が出来た。

 といっても半日ほどの移動は伴っていて、既に陽は沈みつつある夕焼け空の下だし、結構あるいたのだけれども。


 町の規模は……他の町を知らないのでなんとも言えないけれど、建物の数は七十に満たない程度。この様子ならば人口も四百を超える事は無いだろう。

 時間が時間だったからか、外を歩いている人はとても少ない。少ないなりに皆無ではなく、おかげで『人里』であることは確認出来た。


 外見的には僕の黒い髪や目が浮くようなこともなさそうな、なんとも普通な人々だ。

 ただ、身につけている服などは大分浮きそうだったので、錬金術で『見かけた子供が着ていた服』のような服に変換しておく。

 眼鏡は掛けている人が少ないなりに居る事は居たので、かけたままで大丈夫だろう。

 ただし干されている洗濯物に下着らしきものが見えないため、下着は無し。


 これで、外見上は明らかな異物にはならないはず。ちょっとスースーするけど。

 それは我慢した上で、僕はひっそりとその町へと入り込んだ――


『そこのお前』


 ――直後、そう声を掛けられた。

 声のした方に顔を向けると、黒い髪の青年が槍を構えて僕に向けている。


『俺はこの町で生まれ育ったが、お前は初めて見る顔だ。余所者だな』


 僕は頷くことで答えにする。ジェスチャー、あってるかな?

 ……受動翻訳の魔法。

 話しかけられた言葉を、書かれている文字を読み取るというその魔法のおかげで、この青年が言っていることを僕は理解出来る。


 ただ、この魔法ができるのはそこまでだ。あくまで意味を理解するというだけで、その言葉を話せるようになるわけでは無いし、書けるようになるわけでもない。


 だからといってボディランゲージも、文化が違えば意味が真逆になることは地球という狭い範囲でもよくあるのだ。異世界ともなると当然のように差違があってもおかしくない……けれど、幸い、今のところは誤解されていないようだ。


『お前一人か? 子供が一人でこんな時間に、どこから来た? 今日は外から馬車は来ていないはずだ』


 で、とても怪しまれている。

 この世界……いや、その単位になると解らないけど、少なくともこの町において、余所者の子供が一人で来ることはまず滅多に無いらしい。


 けれど僕は一人なのだ。


 どうやって伝えたものかな……と考えていると、ひゅん、と風を斬る音がして、僕の頭のすぐ横を、青年の槍が貫いていた。


 決断と行動早っ。


 というか、今のはこの人が当てにきてたら防御してなかった以上死んでもおかしくないぞ。

 眼鏡の機能の中でも時間認知間隔変更や色別による害意の認識といった便利なものの復旧は急がねばなるまい。


『次は当てる。十数えてやる、その間に答えろ』


 いや、答えたいのはやまやまなんだけど。どうしよう。

 カウントダウンが始まるなかで、さらに考え込む。


 と。


 しかし、そのカウントダウンは四で止まった。

 あれ、と思ったら、


『まあ待て、フェルナー』


 と、また背後から声がした。


『働き者のお前には当然感謝をしているが、しかしその子供はどうも様子がおかしいぞ』

『だ、団長……!』


 団長?

 視線を向けると、そこには白髪交じりの金髪のダンディズム溢れる男性が立っていた。

 武器らしき者は携帯していないけど……、この人、素手でも戦えるタイプじゃない?


 鍛え上げられた身体は、それを見るだけで、ああ、この人には逆らわないほうが良いなと思わせるだけのものがある。


『少年。君は何をしにこの町に来たのかね』

「…………、」


 何を、と聞かれるとそれはそれでこまるけど、何かを言わないと……、でも言葉がわかんないし……、うーん……。


『なるほど、こちらが言っている事は理解している。ただ、喋る事が出来ない。私も随分振りに見るが、失語症というものかもしれないな』

『失語症……ですか?』


 団長と呼ばれた男性の納得に青年が小首を傾げて聞き返すと、男性はうむ、と大きく頷いた。


『原因は様々だが、大きなショックを受けたりして発症することが多いとも聞く。言葉を喋る事が出来なくなると言う、治療法の確立されていない病さ。心の傷のようなものだな』


 ……どうしよう。

 えっと、別に失語症とは違うんだけど、めちゃくちゃどや顔しているし、この男性には地位がありそうだ。そんな人を怒らせるのはちょっとマズイよな。


 それにこの勘違い、僕にとっても有益だ。

 この世界の言葉を僕が覚えるまでは失語症という事で押し通せる、かもしれないのだから。


 騙すのはちょっと心苦しいけれど……それに解決法が無いわけじゃ無いんだけど、自然に会得できるならばそれが一番だし。


『それで少年。君は……ええと、一人なのかい』


 はい、と頷く。


『……聞いても良いかな。君のご両親は、今、どうしているか。わかるかい?』


 …………。

 いいえ、と首を横に振る。


『そうか……。すまない、辛い事を聞いてしまったな……』


 …………。

 いやまあ、それを狙ったんだけど……、本当にそう反応されると、さすがの僕でもだいぶ罪悪感というものが湧き出てくると言うか……。


 実際、両親が今どうしているのかは解らないけどさ。

 異世界からでは地球の事情をうかがえないし。


『……だが、参ったな。となると孤児という扱いになるが。フェルナー?』

『この町には孤児院がありません。騎士の駐屯地も無いので……保護先は、となると領地法に基づくことになります』


 …………?

 領地法……ってのは、この辺の法律って事だよね。

 それは良い。孤児として扱われることも結構だ。


 けれど、何故それに自警団の団長が黙りこむのだろう。

 男性と青年を交互にみやること一分ほど。


『少年。君には今のところ三つの選択肢がある』


 と、結局は男性が、僕の目を見据えて言った。


『法律に基づくならば、この街で孤児を保護するのは冒険者ギルドになる。……君も知ってるとは思うが、冒険者には粗暴な者も多い。幸いこの街のギルドを仕切るギルドハウスキーパーは優しい方だが、冒険者達に暴力を振るわれないとも限らん』


 話を聞いて、僕は一瞬青年に視線を向ける。


『…………』


 微妙な間を経て、僕の視線の意味、つまり『突然槍で攻撃してくるような人ならここにいるんだよね』という批難を理解したらしい青年はあからさまに目をそらした。


『二つ目の選択肢は、大きな街に移動し、そこの孤児院に直接身を寄せるという方法だ。……だが、これは余りおすすめしないな。まずここから一番近い孤児院のある街となると、大人でも八日は歩く。よしんば辿り着けても、孤児院には良くない噂も多い。アカシャというこの国の体質が……そうさせているのかもしれないが』


 …………?

 孤児院に良くない噂が多い?


 そしてこの町がある国の名前がどさくさに紛れて判明、アカシャ……というらしい。


『そして最後、三つ目の選択肢。騎士の駐屯地を尋ね、そこに身を投じるという方法だ。騎士団はアカシャという国に仕える軍隊の一形態だからな、統率が取れている。冒険者ギルドと比べれば、暴力面での危険度はかなり下がる。ただし、そもそも騎士団が君を受け容れるかどうかは別、しかも失語症となると可能性は……』


 低いだろうな、と言外に男性は言う。


 ふむ。

 流れとしては『自警団で少しだけ預かろう』って提案があるかなとかご都合主義な展開を期待してたんだけど、流石にそこまでお人好し――というか、危機感が無かったら自警団なんてやってるわけもないか。


『多少でも我々が干渉できる範囲となると、冒険者ギルドになるが……。危険性はさっきも言ったとおりだ。どうする?』


 どうもこうも、選択肢が他にはないわけで。

 僕はただ、頷くことでお願いします、と頼み込む。


『わかった。ついてきてくれ。フェルナー、お前は巡回の続きを』

『はい!』


 かくして、僕は男性に手を引かれて、夕焼け空の町を歩く。

 そもそもがそれほど大きくない規模ということもあってか、二分もあるけば喧騒が聞こえてくる――そして、看板も目に入る。


 冒険者ギルドハウス『ウォーカー』。

 ギルドハウスってそもそも何だろう。ギルドの拠点かとも思ってたんだけど、なんかお店っぽいんだよな。お酒とか料理の匂いもするし。


 しかし、その店の入り口を男性はさも当然のように通り過ぎ、路地へと入り込んでいった。


 あれ? もしかして騙されてるのは僕の方?

 いやでも真偽判定的には嘘はつかれてないはずだけど……。


『ああ、すまない。怖がらせてしまったかな。ここがその冒険者ギルドだが、表の入り口から入れば目立つだろう?』


 ……とても納得。

 同時に、僕があまりにもこの男性を信じていないことを露呈したような気がした。


 出会ってすぐの人だ、色別も出来ないままに信じられるわけも無いけど。

 そんな自己嫌悪と分析をしている間に、男性は路地裏側に設けられた、従業員用の出入り口を当然のように開く。


『おや、アルスの親父さんですか。同じ町だというのにお久しい』

『はは、済まないな。このところは酒を控えるように妻に強く言われていて、逆らえんのだよ』

『町自慢の自警団長も、奥さんには勝てませんか』

『そりゃあそうさ』


 気さくにそんな会話が進む。

 ただ――男性と話しているその青年は、ちらちらとこちらを見てもいるけれど。


『それでアルスの親父さん。その見慣れない子供は隠し子で?』

『違う。他所の町から迷い込んできた孤児だよ。失語症の恐れがあってな。……騎士は頼りにならないし、孤児院も噂が酷すぎる。消去法でここに連れてくるしか無かった』

『それは酷い言われよう。法令上は一番正しいのがここですよ。危惧はご尤もですがね』

 そこで話を一度区切り、青年は僕に視線を合わせるように中腰になる。不思議と僕の目をのぞき込まれているような感覚がするけれど、さすがに気にしすぎ、かな……?

『初めまして、少年。私がこのギルドハウスをとりまとめるハウスキーパー、カウランです。君が相応の働きをする限り、この店で養って上げますとも』


 …………。

 さっきのは気にしすぎじゃ無かったらしい。


 つまり値踏みされていた……いや、今もされているわけだ。

 そもそも働かざる者食うべからずと言われればぐうの音も出ない。


『カウラン。この子の「能力開示(ステイタス・ビュー)」は可能か?』

『さて? それを決めるのは私じゃありませんからね』


 能力開示(ステイタス・ビュー)……?


『少年。君は制限術式、「能力開示(ステイタス・ビュー)」を知ってるかな?』


 なにそれ?

 僕が疑問符を浮かべているのを目敏くその青年は察知すると、苦笑を浮かべて言った。


『簡単に言えば、君が持つ素質や、将来的に持ちうる素質を見るための魔法(ロジック)です。アルスの親父さん、ちょっと解説に使っても?』

『ああ。承認する』

『では遠慮無く』


 青年は男性に向けるように手を挙げると、その腕にまとわりつくように青と緑の渦が産まれた。


 ……魔力の渦。魔法か。渦が鮮明に色付くのは珍しいんだけど。

 ひょっとしたら僕以外にも見えるのかな?

 いや、視線的にそんな様子はないか……。


『こんな、感じで』


 青年が指を差すと、その方向に光で何か、図のようなものが投影された。

 ……図だけじゃないな、文字もちらほらと入っている。


 そしてこの図、レーダーチャートか……?

 項目数が多くて円みたいになっちゃってるな。


『相手の許可が必要――ないとそもそも発動ができない――ですが、その相手の素質をグラフで表示できる、という免許制の魔法なんだ。免許制の魔法を総合して、制限術式と呼ぶよ。ちなみに今表示しているこれは、アルスの親父さんのグラフだね。つまり、アルスの親父さんはここに表示されている項目は成長できるということ。逆に、ここに表示されていない事象については、成長は見込めないということだ』


 へえ……、便利そうだけれど、それ以上に怖い魔法だな……。

 他人が持つ未来の可能性、成長できる方向性を表示する。

 そして現在、その人物が何を出来るのかさえも表示する。


 ……そりゃ免許制にもなるよ。

 相手の許可がないと発動できないのは救いだな。


 なんか抜け道ありそうだけど。


『その表情を見る限り、君はこの魔法の重要性に気付けたようだね。その通り、この魔法は途方も無い情報を引き出してしまうんだ。だから、無理にとは言わないよ。……というか、アルスの親父さんは他人に当たり前のようにこれを見せているけれど、普通は隠すものだからね』


 若干、抗議のような声色で青年は男性に告げた。

 その一方で男性は、その程度減るものじゃああるまいし、といった表情だ。


 たしかに減りはしないかな?

 リスクが増えるだけで。

 いや安全度が減ってるか……。


『大体、アルスの親父さんは素質に恵まれすぎている。こんなにも項目に恵まれて、しかも綺麗に並んでいるグラフ、そうそう見れないよ。だからこそ、隠さないのだろうけれど』

『否定はせんとも。ただ、そのグラフを見せつけることで未然に防げる事件も多い』


 ああいや、なるほど。

 この男性は、自身の安全度を下げることで町の安全度を底上げしているのか。


 自警団……というには献身にすぎるようなきがするけれど、個人の主義主張だもんな。


『さて、その上でもう一度聞いておこう。君の能力を――素質を、私たちに見せてくれるかい?』


 僕の答えは、決まっていた。

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