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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
終章 クタスタのユーヤ
147/151

147 - サイオウ師団

 改めて。


 クタスタの政治形態は王政で、強い力を持つ貴族のような存在を官吏と呼ぶ。

 本来は国王に権力が集中しているんだけれど、現実的には国王が持つ権力の殆どは官吏達に奪われているというのが実情で、王権として今も残っているものに実効性は薄い。


 なぜこうなったのかというと、四代前のクタスタ国王が元はと言えば原因だ。

 当時の国王は暗愚を絵に描いたような人で、それはもう好き放題をしていた。

 当然民はこれに怒って、それに呼応する形でその国王の実子が官吏や軍首脳と力を組み、クーデターを実行に移す。


 で、三代前の国王は即位した後、クーデターに参加した見返りとして官吏や軍に一部の権限を与えた。これは一世代に限った限定的なもので、官吏や軍についてもそれで納得していた。

 が、この三代前の国王に思わぬアクシデントが起きる。28歳という若さで亡くなったのだ。

 幸い世継ぎになり得る者はいたけれど、その者は6歳と幼く、国王として権力を振るうにはあまりにも問題がある。


 二代前の国王として即位したその6歳の男の子は、結果的に父親が頼っていた官吏や軍関係者を頼るほかなく――結果、本来は一代限りであったはずの一部の権限が仕方なく継続。さらに国王が幼いことを良い事にその継続を永続に変更し、またさらなる権力を求め、幼い国王はそれを認めてしまった。


 そんな二代前の国王は結局52歳で亡くなり、一代前の国王が24歳で即位。

 この国王は権限が官吏に持って行かれている事を理解し、それを取り戻そうと動いたものの上手くは行かず、またクタスタという国は国王が居なくとも確かに一定の平穏を持っている、という現実に負け、26歳になる頃にはもはや傀儡であることを良しとし、43歳で亡くなった。


 そこで即位したのが現国王で、当時18歳。

 この国王はそれでも王権を取り戻そうと隙を見ては権限を回収しようとしているんだけど、今のところ決め手が無いどころか、事実クタスタという国を統治してみせているのが官吏でありあるいは軍であり、それに対して現国王に実績は無い。

 だから、無理矢理取り上げるわけにも行かない――そんな事をしたら民が国王の方を見捨てかねない、そんな危惧もあって、まともに動けていない。


 ……といった情報が洋輔から送られてきて、ああ、典型的なタイプだな、と思う。

 国王と官吏という状況においては、まあ、だから納得といえば納得なのだ。


 では先の襲撃者、サイオウ師団の正体はどうだろうか?

 結論から言うとシャルロットさんの読みが真相をかすっていた。


 元々はヨシノ・サイオウが子飼いの150人ほどと軍からの離反を試みたのが最初。

 これは今の国王や官吏に不満があったから――とか、そういう話では無く、単に軍規というものに嫌気が差し、好きなことを好きにやりたいという欲望が抑えきれなくなったからに他ならない。


 丁度良い具合にペトラドラゴニュートという全滅しても誰も責めないような魔物も出たところだったし、子飼い達と共謀してヨシノ・サイオウは子飼いを除いた全部隊をペトラドラゴニュートと遭遇させ、壊滅させることに成功。

 これによってヨシノ・サイオウも含めて全滅した、という事実をまず作り上げ、その後に盗賊団として『師団』を結成した。このときはまだサイオウ師団とは名乗っていないし呼ばれても居ない。


 彼らはまず根拠地を手に入れ、次に組織として師団を組み替えた。

 軍隊から盗賊団へと。

 実力面では盗賊として過剰なほどに持っていた彼らに不足していたのは、盗賊としての経験――後ろ盾の無い状態での行動方法だ。

 そんな彼らが目を付けたのが、官吏の紋章、入れ墨である。


 官吏の紋章を勝手に使うことを禁止する法は存在しない。

 ただし、紋章を勝手に使ったことで官吏に不利益を生じた場合、それを理由に官吏は紋章を許可無く使った者を処罰できるという法ならば存在する。

 だから盗賊団の一同は、官吏の中でも比較的『金銭的に裕福では無かった』メタカ家の紋章、パンジーの紋章を利用して大人数での行動を容易に行った。


 そして移動した先で暫く潜伏してメタカ家の記憶が薄れた頃に盗賊として大きく動き、金や物を奪うと、物は闇市で処理して金に変換。

 これで得た金を使って好き放題――概ねはこんな感じだけれど、ここで獲得した金の一部はヨシノ・サイオウが残すように指示。


 こうやって少しずつプールされた現金は、あるいはヨシノ・サイオウの想定通りに、何度目かの盗賊行為の後、どうも近頃使った覚えの無い場所で紋章が使われている、と疑問を持ち訪れたメタカ家の捜査員と接触。

 盗賊行為で獲得した金銭や貴重な道具の一部を引き換えに黙認を要求し、メタカ家はこれを認めた。


 とはいえ、パンジーばかりを使っていては、メタカと盗賊団が結びつけられるのも時間の問題だ――と、そう危惧したのはヨシノ・サイオウではなく、メタカ家の方が先だった。

 そこで、メタカ家は独自に他の家と交渉を行い、ヨシノ・サイオウに対して『他の、協力を得られた家の紋章も使うように』と命じ、同時にマージンとして納める額面も厳密にここで指定した。

 具体的な取り分は盗賊団が6に対して官吏が4。

 官吏側は各官吏の代表で分配を決定する、そんな形だ。


 これにはやや盗賊団側としても不服だったようだけれど……、マージンが多すぎるという意味で不満の声も上がったようだけれど、使って良い紋章として提示された物のなかにユリなど、有力者の中でもトップにあるようなものがあり、これによって得られるメリットの方が大きいと最終的には『軍人的に』判断したらしい。


 で、それ以降は盗賊団としてだけではなく、各官吏から依頼があれば非合法な事でもする何でも屋のような存在になりはじめた。それだって盗賊団にしてみれば、数多くのターゲットの中に、官吏に対して反抗的な態度を取った村が増えるだけだ、それほどの手間では無かった。


 こうしていつしかサイオウ師団と盗賊団は呼ばれはじめた。

 官吏達はそう呼ぶことで盗賊団が『離反集団である』と定義することで逆説的に官吏との関係が途切れているとし、一方で盗賊団の側は、ヨシノ・サイオウこそ顔が割れているとは言え、他の面々は概ね無名である事からサイオウ師団という名前で呼ばれることそれ自体に不都合は無かったらしい。むしろ自分達を認知させる名前ができたと喜んだ者もいたようだ。


 そして今。

 そのサイオウ師団の実態はというと、私掠軍団というより、官吏達に言わせれば『いつでも切り捨てられるとかげのしっぽ』で、盗賊団側に言わせれば『虎の威を借りて好きにやってるだけ』という形に一応なるし、それも嘘では無い。


「…………」


 洋輔から届いた『再現』結果が記されたノートを読み終えて、さて、と今後を少し考える。

 状況は概ね想定通りかな……、いや、想定通りというか、想像通りに『人間らしい』かな。この私利私欲に走る感じも、割とその場の感情で動いていることも。


 だからこそやりにくい。

 僕は洋輔の再現を全面的に信じるけれど、これ、確固たる証拠をこの世界の中で見つける事はできるか……?

 出来たとしても『とかげのしっぽ』を切って、サイオウ師団やそれと接触していた官吏側の連絡人を処分しておしまいにするだろう。僕ならそうする。


 そうなった時、官吏は損をしているようでしていない。

 最終的には裏切って口を割りかねないサイオウ師団を真っ向から潰す名目にできる、と前向きに捕えるだろう。

 官吏はサイオウ師団を信用も信頼もしていない。利用しているだけなのだから。


 とはいえ……上手いことこのあたりの証拠をしっかりと集めることができれば、官吏たちの影響力を一気に落とす事は出来るかも知れない。そうなればラ・クタスタ、国王に改めて権力を集約することもできるだろう。

 今の国王はそれを望んでいるし、稀代の天才ではないけれど無能でも無く有能だ。官吏の失点を利用することくらいはできるはず……、ただ、やっぱり利用できるレベルの失点となると、それこそ官吏の当主格が直接的に指示をしたとか、そういう物的証拠が必要になる……。


 サムの意見を聞くか?

 ……いや、サムは解答を控えるだろうな。サムとしてもラ・クタスタが力を取り戻すことは好ましいだろうけど、ラ・クタスタの復権にサムが絡んでいるということがあからさまになれば、官吏の権力を失墜させて己の影響下にラ・クタスタを擁立した、なんて形にも見えてしまう。

 それでは官吏が異国の王になっただけで、結局クタスタの主権のありかがラ・クタスタから離れてしまう……。


 少なくともサムから直接意見を聞くことは避けるべきだろう、連合(ユニオン)として干渉するのだってできる限りは避けた方が良いのかも知れないほどだし……でもなあ。

 サイオウ師団を放っておくわけにも行かない。


 それに、サイオウ師団を潰すなら、そのまま官吏も一緒に正常化したい。

 クタスタが抱える不安の原因そのものだ――とまでは断言しないけれど、政治的な腐敗は不安を少なからず生んでいるはず。


 ……でもなあ、サイオウ師団の名前を知っていても、ヤスケさんみたいにその裏に官吏が居る事までは知らない人が多そうだ。だとすると、サイオウ師団を潰して一緒に官吏を潰すというのは悪手だろうか?

 潰してから『実はこの二つの勢力は共謀していたのだ!』と宣言する事になるだろうけれど、だからといってそれですぐに自然が静まるわけがない。

 その後何かが起きれば『結局だれが統治しようと変わらない』という至極当然な結論に至られる可能性が高いし、そうなったとき民の心に残るのは絶望だったり諦めだったり、そういった物になるだろう。

 そうなると今度こそクタスタは立ち直れない……。


 そう考えるとこの件、裏が取れたところで潰せないのか……、むしろ僕達はサイオウ師団を潰さない程度に追い詰めてやるべきなのか。もちろん、あちらからして見れば『このままだと潰される』と全力で危機を悟るように。

 とても難しいけれど、実現できればあるいは、官吏にサイオウ師団が直接的な援助を要求するかも知れない。それを理由に……、厳しいなあ……。


 どうもなあ。

 サイオウ師団を率いるヨシノ・サイオウという人物、傑物っぽい。


 時代が時代で場所が場所なら、英雄やその更に先にさえ到達していただろう器だ。

 こっちが良い具合にプレッシャーを掛けたところで、ヨシノ・サイオウは動じない……し、今の側近級となればそんなヨシノ・サイオウに対して信仰にさえ近いような信頼を置いている可能性が高い、官吏に泣きつくとは到底思えない……。

 下っ端がそういう動きを見せたらその時点で損切りしかねないし。


 ……僕だけでは結局結論が出せないなあ。

 やっぱり誰かには相談しないと……、ただ、証拠らしい証拠が無い状態でどうやってそれを説得するか……。


 例えばだけれど、ヤスケさんやシャルロットさんを説得するのは難しいだろう。いや僕が言えばそれだけである程度の信頼はしてくれると思う、そしてその上で調査を進めて真実だと解ったとき、『じゃあどこで僕がそれを知ったんだ』と発想を進めるだろう。

 それに僕は解答を提示出来ない。

 ……シャルロットさんはそれでも僕を信じてくれると思うけど、ヤスケさんは微妙だよね。


 他の面子だって半々くらいだ。

 …………。


 ハルクさんには、相談するべきだよね……。あと、ヘレンさんもこの手の事では頼れるだろう。

 プラマナの三人はどうかなあ……ディル翁に知られたくない、何てことは無いんだけど、プラマナがクタスタの政権事情に突っ込んでくると面倒にならないか?

 それでも相談するならタックかな……、あるいは一番ディル翁に近いという意味で。

 クタスタ組は見送ろう。


 となると、相談相手はハルクさん、ヘレンさん、タックの三人か。

 大概の事はなんとか出来そうな面子だというのに、今回はこれで万事解決、という感じがしないのだから恐ろしい。


 と。

 丁度そんな形で思考が纏まり掛けたとき、扉が開いた。


「いまさっき最後の一人を解放したよ。本当にあれで良かったんだね?」

「はい。現状ではまだマシな選択肢だと思います。すいません、途中から任せてしまって」

「いやいや。あの程度ならば私の領分だよ」


 ヤスケさんは笑いながら言う。

 情報ギルドに関連していただけあって、尋問技術は確かなものだ。


「だが残念ながら、新しいといえる情報はないね。彼らは『上の命令で入れ墨を入れた』の一点張りだし、それに嘘はなかったな。それが真実の全てとも言わぬがね」

「そうですね……。厄介なことになったものです。が、まあ、この程度ならばなんとかしないと、笑いものですからね」

「この程度ねえ……」


 連合(ユニオン)として、強敵に対応するのは前提条件。

 この手の絡め手も攻略し尽くせて当然――なのだから。


「厄介な枠組みだな、連合(ユニオン)は」

「ええ。チームアップばかりが使われるようになるのも仕方ありません」

「まったくだ。それでこの後はどうするね?」

「まずは三人で休憩しましょう。ヤスケさんもお疲れ様です。それに、シャルロットさんもずっと気を張ってますからね……」


 ま。

 お茶でも飲んで気分を変えよう。

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