143 - 第一次ドラクマ連合
ドラクマに用意された拠点は人数にしては巨大な施設で、井戸や居住区画、戦闘訓練所、巨大な会議所、多目的に使えるホールなどが総合して一つの施設になった場所である。
元々冒険者向けの施設というわけではなく、たぶん軍の駐屯地として建造されたんだろうな、という痕跡がちらほらというかあちらこちらに残っているけれど、今回集まったメンバーはむしろ丁度いい、とそれぞれ思い思いに改造している。
で。
改めて、この連合について、メンバーを確認しよう。
アカシャから参加しているのは、次の三人。
ハルク・ザ・ジェネラル、アルス・ザ・ブレイバー、シャルロット・フィッシャーマン。
ハルクさんには今回、連合のリーダーという形で一同を率いる立場について貰った。
また、アルスさんは数少ないザ・ブレイバーの一人として参加し、シャルロットさんはそのアルスさんの付き添い……というのが今回の表向きの理由。
実際には『古の黎明』の主要メンバーの内、サム自身を除いた全員を理由を付けて寄越したというのが真相だ。
シャルロットさんの姓は地味に初めて聞いたんだけど……と思って本人に確認したら、
「ああ。それも偽名なんですよ」
と笑顔で答えられた。
底知れないなあ……。
次にサトサンガから参加したのが次の四人。
ヘレン・アムシス、リーヴァ・ザ・ソードマスター、バリス・ザ・キャプテン、ウグイ・ポーシス。
ヘレンさんは称号こそ返上したとは言え、ザ・ラウンズとして未だに通用するほどで、リーヴァさんは剣の称号のみならず、それを扱う者としてのソードマスターの称号に格上げされている。
バリスさんはサトサンガ冒険者ギルドの承認印を持つことから僕の補助的として押し込まれたようだ、その際、バリスさんと腐れ縁と化していたウグイさんも巻き込まれたと。
ちなみにヘレンさんの姓であるアムシスはヘレンさんが探していた『友人』の姓で、無事に再会し、その後家族として行動を共にするという意味も含めて、その友人の姓を受け取ったそうだ。
で、その友人であるマルト・アムシスさんも今回の連合が長期化しそうだし、と言う理由もあり、ドラクマに来るらしい。到着は来月になりそうだけど楽しみだし、ヘレンさんも『やっと紹介できるわ』と安堵していた。
また、ウグイさんのポーシスという姓もちょっと訳あり。僕と一緒に行動していた時点では無かったよね、と聞いたところつい一昨年結婚していたらしい。
で、姓がないと不便だからと付けたんだとか。結構そのあたりはサトサンガ……というか、アカシャなんだけど、ノウ・ラース地方のちょっと緩い空気が許していることなのだろう。
さて、ここまでの七人は一応、冒険者ギルドに由来する人間だ。
プラマナから参加したのは三人も元を正せば冒険者ギルドに由来してるけど、一応今はプラマナ魔導府からの出港と言うことになっている三人。
コウサ・モア、ニーサ・モア、タック・ヴィジル。
この名乗りを聞けばなんとなく察しはするけれど、コウサさんとニーサは入籍している。モアの姓はそれに伴ってディル翁から貰ったらしい。
一方、タックのヴィジルもディル翁から貰った姓で、プラマナの王族が継ぐ姓の一つなんだとか。それをタックが継いだのは、タックが習得したミスティックに由来するそうだ。
尚、連合に関しては逐一報告する事……となっているわけだけれど、そもそもディル翁は僕とクラに逃げたアルガルヴェシア組四人の生存を知っていた。
その上で、アルガルヴェシア組については今更どうする事も無いと、フレームを介した命の支配は放棄しているようだ。本当ならばこの放棄、本人達が理解出来るはずだったんだけど、魔法を遮断していたせいで伝わらなかったらしい。
一応このあたりは細かく本人……ディル翁とちょっと話したんだけれど、ただ逃げるだけだったら追いかけなきゃいけなかったし、命の支配も続けていただろうけれど、僕がそれぞれの死体をでっち上げて逃げたことで、アルガルヴェシアとしては十分以上に『釣り合った』そうだ。
このあたりは真偽判定も含めて完全に白だと判別できているし、本人名義の確約書も書いて貰ったので、遅くとも来月中にはクラにあの確約書は届くし、サム→御屋形様を介してクラの三人には伝えて貰っているので、今頃『あれ、もしかして魔法の封印は無駄だったってことか……?』とか言いつつ久々に、気軽に魔法を使っているだろう。
で、アルガルヴェシア組はそれでいいんだけど、タック達は僕に対してちょっと不満があったらしい。まあ何も言わずにいきなり去ったのだ、しかも偽装とはいえ死体を置いていって。
もうちょっとやり方があったんじゃ無いのか、心配したぞ、とコウサさん。ニーサとタックも同感だったようで、これに関しては素直にごめんなさいと謝ったのだった。
ここまでは僕と元々面識があった人々である。
で、今回連合を発足するにあたって、クタスタからとして参加したのが三人。
ヤスケ・ナナオ、ミナイ・コノハ、フミ・ザ・ブレイバーだ。
ヤスケはクタスタ国王に仕える側近、の息子さんで、実質的な政府とのパイプ役。
ミナイはクタスタ情報ギルドに属する商人会の重鎮、コノハ商会の跡取り息子と目される人物で、情報補助役としてやってきた。
で、フミ・ザ・ブレイバーという人物は世界的にも珍しいその称号が示すとおりクタスタにおける英雄的存在で、その力量は『僕を一目見て絶対に敵に回してはならないと確信する』という形で示していた。
その感覚を訴え出た先がハルクさんなのだから間違い無いし、なんかそれで判別されるのは個人的に奇妙な気持ちになるんだけど、まあいいや。
連合に直接的な参加こそしないものの協力を水面下で約束したのがメーダー冒険者ギルドで、セイジ・ザ・セカンドさんがその窓口になる。
メーダー冒険者ギルドは『やむを得ず』連合に協力するという立場を取るらしいけど、今はクラのことで精一杯のようだから、当面はノータッチになりそうだとも言っている。それでいい。
既に顔合わせは終えており、その上でハルクさんが連合のリーダーとして当面の活動方針を『待機行動』とした。
これは、そもそも今回の連合が目指すクタスタの異変に原因らしい原因が無い事ということが連合内で当然視されていること、そして原因が無い以上、動く相手も居ないわけで。
もちろんずっと待機というわけには行かないけれど、大きな行動を行うための準備……という方便を使い、活動方針が決まったようなものである。
◇
というわけで――6月上弦4日。
「ユーヤ。少し良いかい」
「どうしましたか、フミさん」
「ちょっと見てほしいものがあってね」
連合の拠点の多目的ホールは連合仕様に改装済み。
たとえば情報面では、どんな情報でもまずはこの場に集め、それを纏め直し、見る側は簡単に欲した情報を連鎖的に手に取れるようになっている。
この仕組みは情報ギルドが使っているものを疑似的に再現したものでミナイさんが一通り概念を説明し、後方支援担当となる僕、シャルロットさん、バリスさん、ヤスケさん、ミナイさんで運用することに。
原理的にはマインドマップを利用した感じかな、ワード単位で『そういえばアレは……』と関連付けられたものを簡単に開ける仕組みという意味で。
で、この仕組み、かなり高評価を受けている。
冒険者ギルドでは使われていないのが不思議なくらいだ、とはハルクさんで、それに冷静な突っ込みを入れたのはヘレンさん。
『便利だけど手間が掛かりすぎるのよ、コレ。冒険者ギルドの施設で運用するとなると、運営側の人数を五倍にしなきゃいけないでしょう。無理ね』
ごもっとも。
なお、まともにやるのだとしたら、僕もこの作業は正直苦手だ。
ただ僕には眼鏡と神智術がある。
情報を片っ端から眼鏡に保存し、その眼鏡に保存された情報を神智術上に転写して神智術でソートを掛けて、その結果を『理想』で表現してやれば良い具合に出力できるので、今のところ困っていない。
というか連合でも一番早くできると思う。
閑話休題。
フミさんが提示したのはそんな整理済みの情報のひとつで、冒険者ギルドが取り扱った冒険の中でも特に討伐系に限った報酬の総計を年単位で纏めたものである。
特にフミさんはここ25年ほどの部分を取り出していた。
「報酬総計ですか」
「うん。7年前と19年前は例外で見るべきだけれど」
7年前はペトラドラゴニュートの一件で巨額報酬が支払われた都合上、報酬総計の桁が変わっている。
こちらは噂話とはいえアカシャの酒場でちらほら話を聞いていたし、詳細もしっかりと記録が残っているので例外とすることに異存はない。
一方、19年前はスターフィッシュという魔物なんだけど……。
スターフィッシュはデフォルメされた魚のようなシルエットの透き通った塊として形容される魔物で、死体は透明度がとても高く、また簡単に熱で溶かすことができ、冷やすと固まるという性質を持つ。
ようするにとっても加工しやすいガラスもどきとして扱えるのだ。
しかも毒性も無いし耐久性もそこそこ高いし、スターフィッシュ一匹のサイズはせいぜい人間の腕程度と小さく、それが少なくとも数百、多い群れだと数千から万単位で群生する。
で、放っておくとそれはそれで邪魔というか、自然を破壊する事も多いし、何より通行の邪魔になったりするので、当時のクタスタ冒険者ギルドはこれに討伐依頼を発動。
9600匹を越える討伐数に上った。
なのに1匹あたりの単価は普通の魔物と大差が無かったため、それはもうとんでもない総額になったという……。
まあ、確かに例外とするに値するな。
では残りの23年分を見るとどうだろうか?
なるほど、そうやって見ると少し気になるかもしれない。
具体的には25年前の数字と去年の数字を比べると、去年の数字の方が小さいのだ。
「物価の情報もあるかな? ちょっとそのあたりの連動がきになってね」
「あったはずです。ちょっと待って下さいね――」
たしか3番の棚に……、あった、このファイルで会っている。
冊子を開いて目的の物が書かれた部分をフミさんに見せつつ僕も覗き込む。
「物価、といっても商人会が主導したもので、クタスタが纏めたものではありませんが。主要品目の物価変動記録です。25年間で見てみると、微かとはいえ上昇傾向かな……」
「そうだよね……、物価は上がってる。なのに討伐報酬は減っている。当然領土の広さは変わっていない。これが意味するのは、ずばり?」
「可能性はいくつかありますが」
一つ目、クタスタに現れる魔物が減っている。
確かにクタスタ冒険者ギルドの管轄で処理している討伐依頼はその数自体が微減傾向にあるんだけど、注意としてはこの頃、クタスタでは軍がそこそこ動いている。
その結果、冒険者に依頼されず、軍によって討伐される魔物の数が増えていて、結果的に冒険者ギルドの管轄が減っているだけ、という可能性が否定できない。
二つ目、そもそも魔物討伐の成功率が落ちている。
依頼達成率は確かに近年に近付けば近付くほど僅かに落ち込んでいて、25年前では122%を記録した達成率は、去年の数字だと116%と6ポイントも落ちている。
ちなみに100%を越えているのは、依頼状で5匹と指定されても6匹以上討伐していたりするケースが多いからで、120%から130%の間に収まるくらいが丁度いいとされている。
そう考えると去年の116%はそこからちょっと下にずれてるな……。
「個体数を考えない依頼達成の可否だけで見た時の数字はあるかい?」
「ダイレクトな数字は発表されてませんが……、他の情報と会わせれば出せるな。一分待って下さい、今計算します」
「うん。……いや、一分でたりる?」
「余裕を見てるので」
「あ、うん……」
というわけで依頼の達成可否と提出・取り下げなどの情報から逆算。
もちろん暗算なんてしていたら大変なので神智術にぶん投げて処理をして貰って、
「……去年の段階で、91%……、を、割ってますね、90.52%です。25年前の98.6%がピークで――」
「右肩下がりか」
「はい」
10件に1件近く、達成できていない。
この数字はちょっと所では無く厳しいと言えよう。
フミさんも憮然とした表情で腕を組み、やれやれ、と息を吐いた。
ダイレクトな数字がなかったという時点で都合の悪い数字が出るんだろうなあ……というのは解ってたけれど、ここまであからさまな数字が出るとは思わないもんな。
「こういう、依頼の達成率の低下とかも積み重なってるんだろうね――クタスタを取り巻く不安感は。けれどこれは、一朝一夕でどうにかできる数字でも無い。どうしたものかな?」
「短期的には連合でローラー作戦という劇薬がありますけれど……低下率を見ると、ここ7年が特に顕著なんですよ。ペトラドラゴニュートの一件にホーラ川の大水害、そのあたりで、実力のある冒険者の実働数が減っているようです。根本的な解決をするとなるとそこですが……」
「そうだね、連合やぼくが頑張ってどうにか出来る問題では無いようだ。うーん。軍にちょっと働きかけてみるかな……うん、ありがとう、ユーヤ。助かったよ」
「はい。細かい数字はグラフと一緒にリスト化しておきます。夕方でよければ、部屋まで持っていきますよ」
「ごめんね、色々と任せっきりで。鍵は開けておくから、机の上にでも置いといてくれ」
「わかりました」
じゃあね、と去って行くフミさんを見送りつつ。
けれど、この問題は思っている以上に根深いんじゃ無いか――と、少し不安になる僕だった。




