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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 メーダーのアバイド
132/151

132 - トラブルなんて吹き飛ばせ!

 6月上弦2日。


 誰も想定していなかった事態が起きたのは、その日の昼食を撮っている最中だった。


「――――」

「……どうしたの、アバイド。急にスプーンを落としたりして」


 からん、と床に落ちたスプーンにまず、そう反応したのはクートだった。

 クートは気付いていない……。


「アバイドは急に奇行に走ることがあるからな。それじゃねえの」


 一方、この数日で特に僕を見極めつつあるヨウコウはといえばそう反応する。

 こちらも気付いていない……。


 視線を周囲に向けてみる。

 輸送船団の旗艦、食堂を兼ねた大船室。

 通常の船員達も順番に食事を取っている、そんな光景は普段と大体同じだけれど、僅かながら僕と同じものに気付いた船員もいる……っぽいな。

 その上で反応に困っている。


 そりゃ困るだろう。

 僕が困るくらいなのだから。


「まさかこんなところで……か」

「え?」

「は?」


 食事を中断して、スプーンはしっかり拾ってテーブルに戻し、僕は席を立って言った。


「ヨウコウ、船長に僕からとして伝言を。『航行停止に同意する。予定より延長される分は上乗せするから安全を優先するように』」

「はあ……?」

「クート。この後僕の私室船室に行って、そこに置いてある黒い布で覆ってある剣を持ってきて。たぶん僕は甲板前方部に居るから」

「うん……? 剣?」


 一方的に頼みつつ、僕はそのまま船室を出て急いで甲板へ。

 やはり一定数は気付いている、少し慌ただしい様子も見えてきた。


 甲板前方に到着して――その方角を、しっかりと視認。

 眼鏡の機能、『遠見』を使って倍率を上げ、見やる先はちょうど水平線のあたり……大体、五キロから六キロ先といったところか?


 遠いようでかなり近い。

 そんな微妙な距離である。


 そこには、淡い水色の光に包まれた、『まあるい何か』が生成されつつある。

 この気配……、マナの揺らぎも含めて……、いやあ。

 現物は初めて見るな――あれが『不死鳥の卵』か。


 淡い水色ということは、属性は水か、空か……。

 場所を考えれば素直に水で良さそうかな?


 最初に卵があるんじゃなくて、最初は魔力だけ、なのか。

 魔力が淀むように一カ所にある程度集まったと思ったら、周囲の魔力を吸い込みながらその球体……卵になると。

 卵とは言っても所謂鳥の卵型ではなく球体だし、あの中から不死鳥が出てくるのか、それとも不死鳥のコアみたいなものになるのか、あるいはどちらでも無くあの球体が変形して不死鳥になるのか。

 割と興味がある。


「アバイド、これでいいの?」


 と、色々と観察を続けているとクートがおずおずと僕に剣を差し出しながら言った。

 注文通りだ。布までもってこなくてもよかったんだけど……考えてみればこれ、鞘を作ってないから、そうなると抜き身で持ってくる事になるのか。今度作っておこう。


「うん。ありがとう、クート」

「どういたしまして……だけど、鞘はどうしたの?」

「どっかに忘れてきたみたい」


 作るって概念をだけれど。

 ともあれ、黒い布はその場に落として、いよいよ見えるその刀身は僕の身長よりも尚長い――典型的な、グレートソード。本来は両手で持つことが推奨されるものである。


 品質値は524406――当然ながら特級品ですらなく特等品。

 制作時に使った宝石はオニキス、黒い宝石。狙った性質は影とか闇とかその辺だったんだけど、この剣はそういった性質制御から漏れる、『一割の例外』であり――影や闇と言った、黒という色に本来は関連付かない性質を剣気として宿している。


 そんな剣を片手に構えて、鋒を不死鳥の卵として成長しつつあるそれに向けて――と。


 うん。

 地上じゃ邪魔が多すぎるけど、幸いここは海上で、また船団の他の船も邪魔な位置には居ない。

 既に『射程圏内』だ。


 とはいえ……。


「アバイド、船長から逆に質問されたぞ。『アレに対処する術はあるか』だと」

「ある。ただ、輸送船団の他の船に対して衝撃と突風に備えること、この旗艦の側から突風が行くからそのつもりで船を整えろって指示を出して貰って」

「一応そのまま伝えるが、アバイド一人でどうにかするのか」

「現状なら余裕。ただ、そんなに猶予があるわけじゃないよ」

「解った。その通りに伝える」


 どうやらヨウコウは僕やこの船が突然騒がしく動き始めた理由を船長から聞いたようだ。

 だからこそ、状況をまだ飲み込めていないクートはまだ、『何かがあった』ということしか解らずに混乱しかけている。


「……ねえ、何があったの?」

「遠く、とは言えない距離に不死鳥が丁度生まれそうなんだよ。無視は出来ない。放っておいてメーダーに飛んでいってくれるならそれはまだいいけど、船を後追いされたら大変だ。海上で襲われた日には……ね」

「不死鳥……」


 ぎゅ、とクートは拳を握っている。

 事態が意外に深刻だということを理解したようだ。


「あんまり心配は要らないよ。今の段階なら僕だけでも狩れるし、万が一完全な状態に降誕してしまっても、対処それ自体はどうとでもなる。不死鳥は確かに厄介な存在だけど、対処法を――狩り方を知ってるならば、余裕を持って対応出来る相手だからね」

「……でも、アバイド一人でやるのは――いくらなんでも」

「いやあ。不死鳥程度ならばそれほど……」


 脅威でも無い……というか。


「むしろ狩る事よりも、狩りをする環境を整える方が今回は厄介だね」

「環境? そういえばさっき、風がどうっていってたけど……それと関係するの?」

「滅茶苦茶するね。僕がこの剣を使って不死鳥を狩ることになるわけだけれど……丁度水平線のあたりに見えるということは、五キロ前後離れてる。この距離で有効打を与えるだけの威力を持たせた攻撃を放つ必要があるから……。『事前に分かっていれば対応のしようはいくらでもある』けれど、『突然それが起きたら船が沈没する可能性がある』程度の風はどうしても出来ちゃうんだよ」


 この剣に付与された性質は――まさしく、『風』だ。

 剣気として風を、黒い宝石、オニキスから付与されたこの剣をしっかり振り抜けば、不死鳥程度はどうとでもなる。

 ……いわゆる、一線級の冒険者でも。


 ハルクさんのような超一級が使えば、不死鳥を楽に狩れるだろう。

 もっとも、僕が理想でこの剣を振ると、基本的には『やり過ぎ』になるんだけど……今回は距離的に、それで丁度いい。と、思う。多分。

 実際にやったことはないので解らない……まあ、感覚的には大丈夫なはず……うん。


 とまあ、そんな準備をしながら剣を握りしめ、軽く数回ふる。

 特に力を入れても居ない、そんな素振りでも、剣を振り抜いた先に結構な突風が発生しているあたり、なかなか使い勝手の悪い武器だ。

 気合いを入れて素振りをしたらそれだけで修練場がズタボロになりそうだし。


 暫く待っていると、ヨウコウが近寄ってくる。


「クート、オレらは避難しておけって、船長から指示だ」

「でも……それじゃあ、アバイドは?」

「アバイドだから平気だろ」


 …………。

 なんだ、その暴論。

 絶句していると、同じく絶句していたクートは、けれど反論をする事無くヨウコウと一緒に船内へと避難。

 船員さんたちも概ね避難が終わったところで、船員の一人が緊張した面持ちで近付いてきた。


「緊急で伝令役をやります。船長、ならびに船団長より、準備にはあと三十分ほどはかかる、と」

「じゃ、攻撃は二時間後に始めます。基本的には一撃で全部終わらせますが、相応に『こちら』に掛かる負荷も大きくなるので覚悟するようにと伝えて下さい」

「……はい」


 本気で言ってるのか、といった疑問の目を一瞬向けつつも、とりあえずは頷いて伝令に走る船員さん。

 まあ……信じがたいというのも普通か……。


 最もそれは船員単位での話。

 船長格には冒険者ギルドから結構な強い形で警告があったのだろう、着々と準備は進んでいき、定期的に伝令が何か問題は起きていないか、と聞いてくる。

 ちょっと過剰気味だけど……船という空間ではこのくらいの頻度が必要といわれれば、確かにそうかも、とも思うし。


 そして予告から二時間が経過して。

 船団に参加する船全てが目印として『旗』を上げたのを確認――甲板に出ている馬鹿もいない。オッケーだ。


 僕はしっかりと剣を構えて、遙か遠く、水平線のあたりにあるその『球体』――不死鳥の卵をしっかりと見据える。


 推定が水属性、もしくは空属性の不死鳥だ。

 水属性ならば雷か土で攻撃を、空属性ならば土、と考えれば土属性の攻撃を絡めて本来ならばやるべきなんだろうけれど――距離もあるし、まだあちらも不完全。

 それに近付くのもリスクが大きい。


 だからここから、その不死鳥という脅威を風で排除する。


「さあて――」


 構えた剣を、緩慢に。

 ゆるやかに、けれど音速に匹敵するほど素早く、一度だけ振り抜く――鋒が丁度、不死鳥の卵を指したところでピタリと止める。


 ダ ァ ン 、


 そんな音がしたのは、その直後で――同時に、僕が振り抜いたその剣から、ただ膨大でただ強大で、指向性をもちつつもそこから溢れた風が周囲に竜巻が発生させているような突風をまき散らしながら、その一撃は放たれた。


 その一撃は風そのものだ、本来ならば『見えない』動きであるはずだけど、海上という環境がその軌跡をたしかに可視化していた――海面から水を押しのける力は強く、海面をメートル単位でへこませて、直後水を吸い込むように空へと水が殺到し、エネルギーのみのならず水もきっちり動かす波を起こしているのが見えた。


 それは徐々に加速しながら一直線に進んでゆき、6秒後――『不死鳥の卵』へと到達。

 到達したその風の一撃は、僕の想定通り『不死鳥の卵』をモロに捕らえると、そのまま『不死鳥の卵』ごとさらに直線上へと一気に突き進んでゆく。

 それはもはや音速を優に超え、秒速12キロ近い速度の『空気の壁』がまともにぶつかったのだ、『不死鳥の卵』は半壊しているけれど、案の定。


 全壊には至らない。


 単に頑丈だってのもあるだろうし、反属性ではないからな、効果が軽減されているというのもあるだろう。

 けどまあ。


 既に目的は達した。


「撃破完了――っと」


 『不死鳥の卵』にぶつかった時点でその速度は秒速12キロ。

 尚も加速して――その空気の塊としての攻撃は飛んでいる。

 だから、おしまいだ。


 秒速12キロ――この世界においても、ほぼ、第二宇宙速度。


 如何に圧倒的な再生力を誇る不死鳥であろうとも、『宇宙に追放』しちゃえば、無害化完了である。

 ……まあだからといって、剣を一振りするだけで第二宇宙速度に達するってどういうことだよって僕でさえも思うんだけど。

 この場面を見てたら洋輔に限らず、冬華やソフィアも思いっきり『ハァッ!?』と声を荒げそうだ。……少なくとも他人がやっているのを見たら僕もそう反応する。


 実際にこの剣を振ったのは初めてだけど、けれどまあ、思った通りの効果ではあった。

 それは『加速する突風』を起こすという超等品としての効果で、たぶん宇宙速度にも届くだろうとは思ってたけど、まさかここまで悠々と行ってくれるとはなあ……。


 それに最初からその速度で発生するのでは無く、徐々に風が強く早くなっていくというのは使い勝手をよくしている。実際船団はあまり風の影響を受けていない――強烈な突風に煽られた、ことは事実だけれどその程度の揺れで、むしろその後、現在進行形で押し寄せている大波に対処している。

 あとは放っておいても大丈夫だろう。


 ……と同時に、この剣どうしようかなあ……。

 便利とは決して言えないって言うか……、使い道が限られるって言うか……。


 超等品の効果は使い手の力量で増減するわけで、理想を上手いことセットすれば適切な規模でも使えるだろうけど、咄嗟に使えるかと考えると結構微妙なところだ。ならばもうちょっと使いやすい剣気の剣にしたほうがよくない?

 効果がでかすぎて使いにくいというのはこの剣限らず、『一割の例外』を引いちゃった超等品全般に言えることでもあるけれど。


 あとで造り替えようっと。


 そんな決意をしながら布で包み、一応『遠見』で経過観察。

 既に宇宙へと追放された『不死鳥の卵』は、そのままの勢いで遠ざかっている。


 ただし、加速する突風は大気圏を突き抜けると流石に効果が失われる……というか、その突風それ自体は大気圏を一瞬突破してもすぐに惑星に帰ってくるため、宇宙に出てからは慣性であの不死鳥は移動するはずだ。

 宇宙空間でも無事に力を蓄えて不死鳥の形になれるのかな? 継続して監視することで宇宙空間にもマナがあるかどうかの検証にもなるかもしれないけど、それは流石に目視でやる気も無いので、一定距離はなれたところであとは放っておく。

 この惑星の属する恒星圏からは出て行きそうな勢いだし。


 将来的にあの不死鳥がどこかの星に墜落して、その惑星で神様みたいな存在になったりして。水属性だったならばその星に水をもたらしたり……流石に無いか……。


 そんな事を思いつつ、作戦終了を告げに船長室へと向うのだった。


    ◇


 そしてその『問題』は、発生した。

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