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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 メーダーのアバイド
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125 - 矢継ぎ早な対応

 目を醒まし――まだ微妙に視界がふらつき、意識も圧迫されているような感覚を抱きながら、ああ、やっぱりソフィアは規格外だったんだなあとつくづく思う。

 今回使った光輪術、僕が行使したものとしては最大だったけど、ソフィアはポンポン使ってた程度の大きさだからなあ……。


 で、この感覚。

 なんかメーダーに入ってからの不調というか失調というか、そのあたりに似ているような……気のせいかな?


「だるい……」


 けれどまあ。

 とりあえず日常生活は出来そうだ。


 身体を起こすとほぼ同時に扉が開かれ、ヨウコウが入ってきた。

 その手には水の入ったグラスが握られていて、僕を見るなり「なんだ」、と言った。


「起きたのか」

「うん。迷惑かけてごめんね」

「気にするな。ほら、水」

「ありがとう」


 結局どのくらい寝てたんだろう。

 日付は変わっているようだけど……。


「今は4月下弦24日の14時29分。ほぼ一日経ってるが、腹は減ってないか?」

「空腹感はあるけど、今は食べられないよ。具合が悪すぎる」

「だろうな。顔色も悪い」


 そう見えるのか……、うーん。

 必要経費だった、と思うことにしよう。


 水をごくりと飲んで、人心地。

 ……それでも不調は不調だな。


「今日は大人しくしてるか……」

「それが良い」

「明日には出発する予定だけど、それは大丈夫?」

「ああ」


 …………?

 あれ。

 真偽判定にちょっと引っかかってる?


「アバイド。少し妙な事を聞くが」

「うん」

「お前は聖竜か?」

「うん?」


 藪から棒に凄いことを聞いてくるヨウコウだった。

 聖竜。

 ……ふうん。


「メーダーにも聖竜の言い伝えはある……か。なら、光輪から結びつけるのは当然だよね」

「そうだな」

「けれど僕は聖竜じゃあない……と、思う。思ってる。少なくとも自覚はしてない――いや、自覚をしていないというのも語弊があるか……」


 それでも自覚はしていない。

 ただ、それに関連するであろうものが複数――思い当たるけれど。

 サトサンガのアレとか。


「それに関連するであろうものと僕は一度邂逅していてね。それとの絡みもあって、全く縁が無いわけでもない……とは思ってるけれど、僕自身は聖竜だという自覚を持てていない。これが答えになるといいんだけど」

「そうか」


 それにしても急に踏み込んできたな。

 何かヨウコウにとって特別な事件でも起きたのだろうか。


「聖竜に関して、他国では災害の元凶として扱われているが。メーダーではやや性質が異なっていてな。大災害の救済として現れるものだと考えられている」

「…………?」

「あくまでもオレの直感でしかない。ただ、オレはアバイドの光輪を見て、アバイドを聖竜だと一瞬認識したし――気を失っている間のアバイドは、どうも『アバイドとは別物』に見えた。オレに見せているアバイド・ヴァーチュという姿は借り物ないし仮物で、本質は別にあるのでは無いか……なんてな」


 それは……薄厚鎧(アクトリップ)の機能が止まってたから、かな?


「アバイドが聖竜ならば、どこかで大災害が起きるんじゃないか。起きるのだとしたら、アバイドがその時居る場所か――そうじゃないなら、アバイドが『最初に居た場所』、もしくは『聖竜になった場所』だとは思うんだが、それも確信があって言ってるわけじゃ無い。聖竜云々という話自体、そもそも飛躍している感があるから、正直この話をするかどうか、悩んだんだが」

「僕の機嫌でも気にした?」

「……まあ」

「あはは。僕は別に気にしないよ、そんなこと。僕が聖竜だろうがそうでなかろうが――それ以前に僕は僕だから」


 それに。

 僕にとっても、この世界での僕の立ち位置がどこにあるのかをハッキリさせるのは大事だから――ね。


「僕がこの世界で何者であることを求められているのか、僕自身もよくわかっていないんだ。だからあるいは、僕は聖竜なのかも――ただ、本当に自覚は無いよ。光輪は使えるけれど、これを習得したのは結構前だ。旅を始める前にはとうに覚えていた。光輪の習得を聖竜になるとするならば、『聖竜になった場所』というのは思いつかないな」

「…………。良いのか、オレに教えても」

「別に。こうやって一対一の場所でならば、変に漏れることも無いから。それになにより、ヨウコウには知る権利がある――僕の『光輪術』を実際に見たわけだからね」


 そしてヨウコウは他人にそれを話せない。

 感情を操作して、その行動をできないものだと思い込ませるだけで、特にリスクらしいリスクは産まれない。


 ――あまり好みの技術では無いけれど。

 これも僕が習得した技術に違いは無い。


「一方で、『最初に居た場所』というのはニュアンスが不思議だね」

「……ああ。オレもたぶん、間違い思うけど。でも、第一感がそれだった」

「へえ」


 ものごとを観測する力に長けている……もしくは直感力かな?

 それ自体はそこまで珍しくも無いけれど、この強度で持っているという事は珍しい――――サムと同じくらいにはあるかもしれない。


「アカシャ中部、ってのが答えになるかな――ヨウコウの読み通りならばそこで大災害が起きて、僕がそれを救済すると。……うーん」


 いまいちぱっとしない。

 そりゃあ、その場に僕がいたならば、なんだかんだ文句を言いつつ復旧を一気に手伝うだろうとは思う。面倒になったら面倒になったで、ワールドコールやらエリクシルをフルに活用するだろう。


 そう、僕は『錬金術』で解決を図るはずだ。

 『光輪術』ではない――聖竜の代名詞とも言えるような、その技術は多分、使わない。

 ここに居るのがソフィアならばまだしも、実際には僕だ。

 僕にとっては非効率的でしかない。

 敢えて光輪術を使うケースって……あるか?


 巨大な怪獣が突然現れたとか、そういうケースで二次被害を抑えるために無理をするくらいはやるかもしれないけど……、それだって錬金術の方がはやいもんな。

 モアマリスコールで殺して、死体は『ふぁん』で消せば良いし。


「考えても考えても、特にそういうヴィジョンが見えないんだよね――それで、ヨウコウはどうするべきだと思ったの?」

「もしもアバイドが本当に聖竜ならば、その場所に行くべきだと思っていた。大災害の救済者として――ただ、それは押しつけだが」

「そうだね。僕は僕の好きに動きたいし……それに、アカシャで起きる分にはそれほど心配はしてないんだ」

「…………?」

「あそこには心強いお友達がいるから」


 間違い無く。

 将来的には英雄と喚ばれるであろう、黎明がいるから――心配は無用だ。

 とはいえ、気になるのもまた事実。


「アカシャのお友達に、この辺も連絡はしておくか。あとは僕なりに聖竜も改めて調べないと――」

「……アバイドはこの後、どうするんだ?」

「そうだね。まずはセイバに戻ってクートの判断を聞いて、その後闇市と交渉して人を買って、キヌサに移動させる。その後どうせキヌサ内で全員の戸籍を登録し直す必要があるから、その時間を使ってこのアニスシティをベースにした街をでっちあげて、ライフライン各種を整備したら、ヨウコウ達に引き渡す――ここまでを変えるつもりは無い。予定は予定だし、なりふりを構わないなら、キヌサからでもアカシャのその場所まで、二時間もあれば余裕で移動できるからさ」


 魔法と錬金術による人間弾道ミサイルを僕一人でやるとなると着地面がちょっと不安だけど……まあ、僕自身には問題ないしな。周囲に建物があると巻き込む可能性があるだけで怪我はしないだろう。

 で、頑張ればその程度で移動できてしまう距離でしか無いのだから、予定を大きく崩すことはちょっと決心が出来ない。


 キヌサの者として、今は動いているのだから。


「キヌサを一段落させたら、ヨウコウの言うとおり改めてアカシャに行ってみるよ。それでいいかな」

「ああ。……じゃあ、そういう事で」


 これでよし。

 一段落かな――ふむ。

 プロシアの近くで何かが起きるかも知れない、そんな懸念を伝えてやれば、サムが何かしらのリアクションを寄越すだろう。たぶん。


「じゃ、話を変えるぞ。飯はそろそろ食えそうか?」

「正直まだ厳しいかなあ……とはいえ、なにも――」


 ――うん?


「なにも、って。なんだよ」

「――いや。僕が不調だとまでは悟られてないか……、どうかな……」

「…………?」


 いつからだろ?

 また監視されてるな……、しかもかなり遠くから、直接的に。


 以前の監視とはやり口が違う。

 少なくとも実行している連中は別物だけど……根っこはどうかな、同一かも。


 とはいえ一度諦めているはずだし、なにより僕を追うことは出来ないように痕跡は片っ端からあれこれの誘導で消してるんだけれど――どっかでミスしたかな。

 いや、そのミスだとしたらやり口は多少似通うはず。全く似ていない、完全な別枠と考えると、別の理由で監視をつけられたか?


 昨日、意識を失う前の段階では監視はなかった……はずだから、僕が寝ている間に何かがあったか?

 ……その前の何かをトリガーにして探されていて、ついに今、見つかったって可能性もそこそこ高い――というか、こっちのほうが正解か?


 だとするとそのトリガーは何だろう。

 アニスシティのスキャン時に作った光輪か? あり得る話だ。

 そうじゃないとしたら、あの空間接続が施されていた場所を探ったことが察知されたとか……、結構派手に探索はしたからな、『内部』から気づかれたにしてはあまりにも行動が遅いけど、『外部』の監視がようやく気づいたという線は残っている。


 監視対象はそもそも、僕で固定できているのかな?

 それとも同時にアニスシティに到着したヨウコウの仕業だと誤認されているか、まだ断定が出来ていないからとりあえず監視しているだけか……。


 ……この監視は、剥がしにくいな。

 ちょっと前の『下っ端』じゃあない。最低でもギルドハウスのエース級、下手をすれば国号"メーダー"の称号を持ってるようなギルドエース格……、古の黎明と対抗するような一団って可能性も否定は仕切れないか?

 古の黎明ならもっとスマートにやるだろうけど、それは二人ほど例外的な――


「…………」

「大丈夫か? なんだか顔色がますます悪いが……」

「まあ……」


 ――例外的な魔法が使える奴が、メーダーに居ないと断定するわけにはいかない。

 このあからさまな観測は単に『私はアナタを監視しています』という宣言であって、別の方法で監視が入ってる可能性も否定してはいけないな……。


 とはいえ魔法を使っているならば渦で解るはずだし、そもそも僕に敵意を持っているような連中ならば色別が刺さる。

 だからこそ、『僕ではなくヨウコウに』敵意を持っている可能性が残っているのがまた厄介だな……。


「腹が減っては戦はできぬ……か。ヨウコウ、ご飯食べに行こう」

「大丈夫なのか?」

「食べ過ぎない程度で、消化の良いものなら大丈夫だよ」

「ん……わかった」


 ベッドから降りて、軽く身体を動かす――たった一日とはいえ寝込んでいると、ずいぶんと身体の動きはぎこちない。

 まあ、今すぐに手を出してくるようなことは無いと思うけど……念のため、ね。


    ◆


「どうかな。気づかれたと思うか?」

「微妙な所だなあ……けれど、明らかに途中で会話を打ち切ったし。気づかれたと考えておくほうが、いいんじゃないかな」

「もうちょっとで『会話内容の傍受』までいけそうだっただけに、絶妙だったしね――とはいえ」


「とはいえ?」

「いや。あんな子供達が本当に空間途絶地帯を探ったのかな? って疑問でさ」

「確かに。少女の方は『良い眼』をもってるようだが、少年のほうは解らんな。けど……」


「ああ。砂漠で巨大な光輪が観測された――その後、その砂漠からあの二人が帰ってきた。少女が少年をかついでだ。全くの無関係とは思えない」

「なんなら直接関係しているほうがしっくりくる」

「同感。現状では証拠も根拠も無いけど。背後関係は?」


「問い合わせ中。今後の行動からも読み取れるところは有ると思う。馬車はどうだ?」

「あの二人は港から移動してるみたいなのよね。船便も絡めてる以上、辿りきるのは大変。無理とは言わないけど、蛇の道は蛇でしょ」

「情報ギルド任せだな。一日で答えは寄越すと言ってたし、今のところはそれで十分」


「……それにしても。ギルマスの命令とは言え、まさか俺たちがチームアップする日がくるとは」

「あはは……確かにね。現役の序列一位から三位までのチームアップなんて豪勢にすぎるって思ったよ」

「同感。――けれどまあ、空間途絶地帯に絡むならば納得もするかな」


「あそこはなあ……」

「あそこはねえ……」

「ね。……っと。ギルマスから着信。『別命出すまで監視継続、絶対に見失うな』だって」


「絶対に……か」

「三人揃って見失うなんて……ねえ?」

「それほどまでに危険視してるって事だろうけど――」


「あるいは」

「そうね」

「――期待しているのかも」

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