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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
第四章 クラのリリ
103/151

103 - 地道な間者は非常識

 5月上弦13日。

 キヌサを発ってから4日目というか3日目というか。

 ミズイの強気、その裏を探るために、僕が訪れたのはバンタという勢力の中心地、バンタ・ヴィレッジである。


 バンタ・ヴィレッジはキヌサ・ヴィレッジと同じくらいに栄えている……はずだけど、キヌサ・ヴィレッジと比べて少し人の往来は少なめだろうか?

 こう考えると微妙に誤解を生みそうだけど、キヌサ・ヴィレッジは普通の街の延長線にキヌサという勢力の中枢があるのに対して、バンタ・ヴィレッジはバンタという勢力の中枢に最低限の街としての施設が設置されている程度という大きな差違がある。

 人の往来は『かなり』少なくてもおかしくないんだけど、これが『少し』少ない程度なのだから、やはりバンタはキヌサ以上に栄えていると言って良いだろう。


 というわけで、折角なので位置関係を確認しておこう。

 中心点をキヌサとしてまずは考える。

 キヌサに接する勢力は、北東のジワー、東のワア、南のサト、西のチュビ、北西のゼビで、合計五つ。

 このうち、ジワーは更に北東方向にミズイがあり、このミズイが最近のクラでは特に目覚ましい発展を遂げている。


 一方、今回僕が訪れているバンタはどこかというと、北西のゼビからやや北よりに存在する大勢力だ。

 で、ミズイがいろいろな勢力を臣従させたり併合した結果、バンタとミズイは国境……、勢境? 国境のほうが語呂が良いな、ということで国境を接するようになってる。


 で、バンタは結構な昔から大勢力で、その方針はとにかく『堅実』の一言に尽きる。

 堅実にその勢力を強め、真っ当な統治と真っ当な経済によって真っ当な結果を常に求めて居るとでも言うべきか。

 だから無理に他領を攻めることはない。攻めるときは『確実に勝つ』のは大前提として、その上で『勝ち取った領土の統治計画が完成している』時に限られる。


 もちろんこんな条件では滅多に戦争を起こすこともないんだけど、この統治と経済が上手く行っているのを目の当たりにすることになる隣接勢力は、それにあやかりたいと自ら臣従や併合を申し出る事も多く、『戦わずして勝つ』という理想をやってのけているのだから恐ろしい。

 まあ、その統治や経済も少々、からくりがあるんだけど。


 それはそれ。

 キヌサでハイゼさんやガーランドさんと話し合った時、僕達は敢えて口には出していなかったけれど、恐らくハイゼさんとガーランドさんはミズイの強気はこのバンタにある可能性が高いとみていたはずだ。


 つまり、バンタ・ミズイの大勢力同士による同盟という可能性である。


 というのも、そもそもミズイが持つ兵力六万という数字に匹敵しうる勢力となるとかなり数が限られるし、地理的にもミズイに援助を行える程度には近くなければならず、しかも古く尊き血(クリファ・レッド)をミズイに譲っても『痛くない』と考えられる勢力となると、もはやこのバンタ、推定兵力八万しか残っていないからだ。


 そもそもバンタは古く尊き血(クリファ・レッド)を迎え入れる条件を随分前に満たしている。

 にもかかわらず、全く手を伸ばさなかったのは、古く尊き血(クリファ・レッド)で得られるメリットよりもデメリットの方が大きいと考えているからだろう。

 ただ、今古く尊き血(クリファ・レッド)を抱えているゴチエからの干渉はあるし、それを鬱陶しく考えている所は多いにある。


 だからこそミズイと手を組んで、ミズイに古く尊き血(クリファ・レッド)を遷すというのは選択肢になり得ると言える。

 何せミズイはバンタと比べれば歴史が浅く勢力的な規模も小さい。バンタとの同盟が無ければ古く尊き血(クリファ・レッド)をゴチエから守り切れないのだから、かなりバンタに気を遣う事になることは明白。

 バンタは古く尊き血(クリファ・レッド)を擁する勢力からの干渉をかなり軽減できるというわけだ。


 ただし、そのまま放っておけば、結局はミズイの勢力が拡大し、バンタに並ぶこともあるだろう。あるいは追い抜く可能性だって否定は出来ない。

 それはリスクとして当然認識されているはずで、だからこそバンタ・ミズイ同盟において、その当たりの取り決めがあるのでは無いか――というのが、僕の読みになる。


 長くなったけれど、『ミズイを探れ』という命令に対して僕がミズイでは無くバンタに来たのはそれが理由である。

 まあ、ミズイとバンタは前述したとおり隣接する勢力だから、すぐにミズイも探れるしね。


「さてと」


 というわけで答え合わせをするために、模範解答としての資料を手に入れるとしよう。


 バンタ・ヴィレッジの政治的中枢は屋形ではなく城にあり、城には政治と軍事の両方の中枢が置かれているようだったので、空間整理、結界、光学迷彩などをフル活用して門を素通り、正面玄関から正々堂々と城に侵入。

 軍人は西側、それ以外は東側に集中しているのが明白な感じの人の行き来があったので、まずは東側へ移動、資料庫を探すこと五分ほど、三階で無事発見。

 中身は全部錬金術で二重化し、二重化によって増えたものは手元に発生させ光輪術で全てスキャン、これを繰り返して三分ほどで全ての資料を取り込み完了。中身の解析は後で良い。


 で、この資料庫はどちらかというと普通の資料があつめられているようだったので、もうちょっと核心的なものを探してはみたものの、特に見当たらず。

 軍事側か、あるいは地下か……。


 とりあえずは西側へと渡り廊下で移動、こちらでも資料庫を探し二階で発見、見張りにはちょっと『ぼんやり』する毒薬を投与しておき、手早く二分ほどでスキャン。

 スキャンが終われば毒薬を解毒しながら去り、さらに進むと作戦会議室らしきものを発見。こちらには見張りがいなかったけれど扉には鍵が掛かっていた。

 解錠して素早く侵入、中にあったあらゆるオブジェクトの内、僕の光輪術でスキャンできる大きさの物は片っ端から二重化・スキャン。

 非効率的だなあと思いつつも完了、外の気配を探りつつタイミングを合わせて脱出と。


 地上階でめぼしい物はもう見つかりそうにないので、地下を目指す。

 地下には西側、つまり軍事的な方からしか向う事が出来ないようだ。

 で、地下へと繋がる階段には厳重な見張りが敷かれている。

 ので、横を素通りして階段を降りて……、結界がいくつか重なってるな。


 結界といっても侵入を阻んだりするタイプでは無さそうだ。

 素通りできる代わりに、『感知』へと特化させたタイプと言うべきか。

 まあ、バレる前提で突入。いざとなったら派手に逃げよう。


 案の定結界を潜った直後、上の階が騒がしくなりはじめていた。

 ので、僕自身で結界の内側に結界を張り時間稼ぎをしておき、それで稼げるはずの数分間で急いでめぼしい物を光輪術でスキャン。


 思った以上に結界を削られる速度は遅かったので、余裕を持って完了したら、階段を降りた真横に隠れて待機。

 結界が破られ兵士達が突入してきた所で、その流れに逆らい一気に階段を駆け上り、そのままの勢いで城から離脱、大きく大地を踏みきって、空へと逃げつつ一気に距離を取って一段落と。


 無事に怪我もせずにすんだので、特に予定は立てていなかったけど、そのままミズイ領との国境付近へと移動。

 バンタとミズイの境に位置する森の地下に錬金術で居住空間をでっちあげ、地味にサトサンガのハイン北でやった以来だな……と妙な感傷に浸りつつも、今回の居住空間は主に資料解析を行うため、ちょっと広めに展開してちょっと休憩。


「問題は……」


 今スキャンしてきた物に本命(かいとう)があるかどうかだ。

 片っ端から錬金術で出力し、内容を確認。


 政治エリアで獲得した資料には、バンタの創立に関わる出来事から現代に至までの大雑把な事件の記録や、天災などへの対応なども含め、いろいろな情報が含まれている。

 これによると、バンタは当初古く尊き血(クリファ・レッド)を迎え入れることを目的に動いていたようだ。やはりそれが王道らしい。ただ、それを諦めざるを得なくなる事件……旧体制(アンシャン・レジーム)に対する大暴動が別勢力で起き、それを受け古く尊き血(クリファ・レッド)もロクなものではないと認識を変え、それ以外による確実な繁栄の方法を求めるようになったとか。


 政治エリアで特に気になるのはこの記述くらいで、あとは外交文書の一覧だろうか?

 結構密約の類いもあるけれど、勢力としては既に滅んでいるものも結構混ざっているし、有名無実化されているものもあるようだ。このあたりは僕だけじゃ判断できないな……、ハイゼさんに丸投げするか。


 次に軍事エリアで獲得した史料、こちらは兵站や練兵、傷兵対応などの基本的なマニュアルから、過去に実際におきた戦闘の詳報とそれを受けての今後の対応策などが一通り書かれている。今のキヌサに一番必要なものなんじゃ……? ガーランドさんに投げつける必要があるな。

 また、軍事的な観点から見たバンタとその周囲の地図、それを利用した戦術シミュレーションのようなこともしていたらしい。ありがたいことだ、キヌサは一気にレベルアップできるだろう。


 他にも色々と、たとえば装備の調達ルートや、新兵器や魔法の研究などについても一定の情報は発見できた。十分とも思えるけれど、まだ大正解というか、核心の部分には至れていない。


 というわけで地下で獲得した資料を確認していくと、早速一つの核心をゲット。

 バンタ・ミズイ同盟の締結とその条文で、ノ・バンタ、ノ・ミズイ両名のサイン付き。

 条文にはバンタはミズイを、ミズイはバンタを軍事的に脅かすこと無く、また軍事的な脅威がどちらかに発生したとき、それを解消する義務を負うという軍事同盟の部分が一点目。

 次に古く尊き血(クリファ・レッド)の扱いについて、バンタはミズイによる古く尊き血(クリファ・レッド)の迎え入れを公認し工作を手伝うことを確約、その代償としてミズイはバンタの軍事行動を援護することが明記されている。

 更に古く尊き血(クリファ・レッド)を迎え入れた後、ミズイはバンタに対して古く尊き血(クリファ・レッド)を利用した働きかけを行わない事もしっかりと条文に含まれている反面、バンタは古く尊き血(クリファ・レッド)ではなくミズイに対して多大な支援を行う事を約束している。

 この同盟は密約として当面扱うとしている以上、いつかは表に出すって決めてるんだろうな。それがいつかまでは書いていなかった。


 で、バンタが思った以上に古く尊き血(クリファ・レッド)を嫌ってるって印象だな。

 あるいは旧体制(アンシャン・レジーム)を、か……アーレン、セイレンという生き残りの家系がいるとか、そんな話はアカシャとかでちらほら聞こえてたけれど、その実、クラでは全く話を聞かないのは奇妙なんだよな。

 情報統制がされている様子も無いし。

 御屋形様なら知ってるだろうか……、うーん。何か地雷を踏みそうだな……。


 ともあれ一つの解答は獲得できたので、他の資料も確認。

 目に付いたのは実際には行われなかった、しかも表向きはその検討さえも秘匿されるような作戦行動に関する情報……例えば今のノ・ゴチエが何らかの理由で後継者を指名しないままに亡くなったとき、古く尊き血(クリファ・レッド)の動向やノ・ゴチエ領に対する嫌がらせの手段の検討などがこれにあたる。

 表沙汰になるとゴチエが怒るからな、そりゃ秘匿するだろう。


 同じようなものとして、キヌサに関する作戦行動も発見。

 とはいえかなり昔のものかな……? 年号がないからなんとも判断はしかねるけれど、

検討の中で、チワカの動向が危惧されている。当時はまだチワカがあったんだろう。

 と考えると、ここに書いてあるノ・キヌサは今の御屋形様じゃないのかもしれない。


 あとは、ミズイからの侵攻に関する防衛行動計画。

 これは結構詳細まで記されている他、ミズイの兵力が三万を越えると推定されているあたり、最近までまともに検討されていたタイプだろう。

 で、ミズイと手を組むと決まった以上、表だってこれを残しておくわけにはいかなくなった、とはいえ破棄するわけにもいかないからしまっておいたみたいな所か。


 ……僕が探った範囲は、どうやら『最悪知られても構わない所』までしか置いてなかった感じだろうな、本当に隠したいものは別の所に置かれている……。

 ま、それでもバンタとミズイとの同盟は確定した。まずはこれで十分だと考えよう。


 無論、現段階ではバンタ側からの一方的な取り決めと言う可能性がまだ残っているので、この後はミズイ側で検算をするわけだけれど……ま、基本的には同じ内容の資料が見つかるとは思う。

 見つからないならばそれは隙だ。

 立ち回りを決めるのは僕ではなくハイゼさんたちだろうけど、きっとあの人達も見逃すことはしないだろう。


「よし」


 結局スキャンした資料を一通り確認するのには半日ほどを費やし、分類まで済ませたところで一旦全てを消して、広々とした空間としての簡易拠点に豪華なベッドを作り、飛び込む。


 バンタは今回の『侵入者』をどう発表してくるかな?

 城内に侵入者があった事を、そもそも発表できるか。

 発表するならばどこまで詳細を表に出せるか――逃がしてしまった事までしっかりと言えるのか。

 それとも、侵入者自体を秘匿するのか……。


 きっと僕がキヌサに帰るころにはその答えも自ずと出るし、今はゆっくり寝ておこう。

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