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三月賛歌夢現  作者: 朝霞ちさめ
序章 三度目は独りで
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01 - いつものと言うほど慣れてはいない

「…………」

 ふと気がつけば。

 僕は水たまりのすぐ側に、立っていた。

「…………」

 細かい時間は解らない。

 けれど空には日が高々と登っていて、お昼頃なのだろうとは思う。

「…………」

 水たまりに反射して見える僕の姿は、地球でつい先ほどまで、幼馴染の鶴来洋輔と悪巧みをしていた僕の姿と同一だ。

 ただし眼鏡を初めとして、特殊な効果を付与したはずの道具から、そういった効果は失われているようだった。

「…………」

 僕が着ている服はただの服だし、僕がかけている眼鏡もただの眼鏡。度数は元々入っていないから、ただの飾りになっている。

 持ち歩いていたコイン状の特異物質――鼎立凝固体と僕が名付けたそれら――も、ただ三色の透明な石がはめ込まれたコインでしかない。

「…………」

 一方で、僕自身が習得していた様々な技術は有効らしい。

 体内には確かに、布のような形で魔力が認識できている。

「…………」

 ピュアキネシス。魔力を物質のように扱うそれで、僕は椅子を作り出す。

 そしてそれを材料(マテリアル)として、認識する事が出来る事を理解する。

「…………」

 つまり錬金術も扱える。

 更に言うならば、己の中にある領域の形ははっきりと自覚できている。

「…………」

 つまり神智術に由来する技術も扱える。

 呪いや呪文(スペル)は……もとより苦手だからいいや。

「……うーん」

 僕は僕の、つまり渡来(わたらい)佳苗(かなえ)という存在の意識をしっかり持っている。

 記憶もしっかりしているし、才能的にも変わらない上、肉体的にも同一だ。

「……けれど」

 持っていた道具の全てが効果を失っているのは、『世界を跨いだ』結果なのだろう。

 まあ、この辺は『前回』と同じだ。それほど困惑するものでもない。

「……やっぱり、静かすぎる」

 周囲が。

 そして、意識の内側が。


    ◇


 僕、こと、渡来佳苗は、地球に生まれたただの子供だ。

 いや、子供だった、と過去形で表現した方がきっと正しい。

 中学生に進級した直後、僕と幼馴染の洋輔は『世界』の都合で異世界へと転生させられた。

 その転生先の異世界で、僕は主に錬金術を、洋輔は主に魔法をその魂に習得し、その世界を『変えた』見返りに、地球へと帰還することが出来た。

 幸いというのかなんというのか、地球上での時間と、僕達が経験したはずの時間には、流れる速度に差があったようで、僕達の実質的に十一年ほどの異世界での経験は、地球上では二週間程度の経過で済んでいた――だから、僕達はただ、失踪していたと言う事になっている。

 ただ、地球に帰ってからも、僕たちは異世界で習得した技術を活用できていた。それはもうがっつりと。

 紆余曲折を経て、僕達はとある問題に直面し、それを解決するべく一つの選択を実行に移した。


 使い魔の契約。


 極めて高度な魔法を操れる魔法使い、もしくは魔法という技術に極めて高い適性を持つ魔導師と呼ばれる存在達が行うそれは、本来は魔物や動物に対して行使されるものだ。

 その名の通り、それを交わせば自身を主人、相手を使い魔とし、主人と使い魔の間には部分的であるとはいえど、精神の共有が行える領域が発生する。

 これを利用して視覚や聴覚などの感覚や感情に思考を簡単に伝え合うことができる……のだけれど、これは人間と人間の間では行えない。


 だから僕は人間を辞めたのだ。


 錬金術という技術は、その影響を道具や動物に与えてゆく。そしてその影響が閾値を超

えると、元の状態には戻らなくなる。

 動物が錬金術の影響を受けきると、魔物とよばれる存在になる。

 空間が錬金術の影響を受けきると、迷宮とよばれるものを生み出す。

 そして人間が錬金術の影響を受けきると、それは魔王と呼ばれる存在になる。

 ……真相はともあれ、当時の僕達はそう認識していた。だから僕は錬金術の影響を、あるいは負担を僕自身の身体に思いっきり掛けることで、人間から魔王へとその在り方を変えた。

 果たして、魔王という在り方になった僕は、人間の魔導師である所の幼馴染、洋輔と契約することが出来たのである。


 変化はいくつもあった。


 僕はそれまで、魔法を使うための魔力を紙のような形状で認識していた。それが魔王になったことで布のような形状へと変化した。微妙な変化と言われればそれまでだけれど、確かにそういった違いはあった。

 そして魔法の行使効率が明確に上がった――洋輔のような魔導師という素質には叶わない程度だったけれど、それまでの僕は魔法使いとしては精々平均的で、ただ他人よりも一部の応用が得意というだけだった。それが魔導師の一歩手前まで跳ね上がったのだ。

 更に、魔導師にさえ存在しない才能を開花させることも出来た。それは魔力を渦として視認するもので、魔法的現象の発動はもちろん、その準備はバッチリ見えたし、大規模なものならば痕跡からたどることも出来るようになっていた。

 ……まあ、地球上で魔法を使えるのは僕と洋輔だけだったし、そこに冬華という例外が増えたとしても三人で、しかも全員が仲良しだったので、有効活用できたわけじゃ無いけれど。


 それから程なくして、僕と洋輔は再び異世界へと飛ばされる。


 僕を『つくりかみ』、洋輔を『うせのかみ』として召喚したその世界において、僕達は二人で一つの魔神という在り方をし、滅び掛けていた魔族という勢力の立て直しに躍起になった。

 その途中で、超等品という概念を知り、得意理論と呼ばれる魔法技術の存在を悟り、僕達は原始的な統治のまねごとをするに至った――そして魔族の『敵』として、神族という存在と対峙した。

 神族と魔族の勢力差はもはや覆しがたく、僕と洋輔の二人だけでは時間稼ぎが限度だろうと判断し、僕は神族側の統治者を可能ならば暗殺してでも少しでも多くの時間を稼ごうとし、神族の王、神王の居城へと向かい。


 そこで、『地球の少女』と出会った。


 ソフィア・ツクフォーゲルと名乗った彼女は、地球という現実世界の事をお互いに情報共有し、微妙にニュアンスの違いをお互いに察しつつも同郷どころか同胞、同じような立場にあることを知り、地球への帰還に向けてするべきことを整理していた。

 そして彼女は光輪術や神智術という魔法形態を、別の異世界で習得していた。そういう意味でも同胞だと言えよう。

 このとき、僕達がもう少し慎重だったならば。

 そう思わなかったかといえば嘘になるけれど、それでも僕達は当時のベストを尽くしたし、その結果として反応を起こそうとした丁度その頃、とある異変が見つかった。

 宇宙の遠くから、魔族と神族が戦争を起こしているその世界のその惑星に宇宙船らしき銀色の柱が飛来していたのだ。

 さらに銀の柱と呼ばれる伝承が、魔族と神族の両方に伝わっていた。そしてその伝承はあまり良いイメージをもたらす物ではなく、僕達は三人で協力し、事態の収拾に躍起になった。


 が、その銀の柱から出てきたのは、あろう事か『未来の僕』を名乗る、僕とまったく同一の身体を持った少年だった。


 その『僕』は未来において、帰還することが出来なくなってしまったのだという。そしてそうなるまえに警告を、そして対策法を教えに来てくれたのだ。

 これによって、僕達は呪文(スペル)という技術を、表理極点や理極点という概念と共に獲得した。……同時に、魔王の真相も。

 呪文はこれまで僕達が扱ってきた技術と比べても、特に効果が強いものだ。なにせ世界を書き換えることで発動するのだから。

 それらの技術を、けれど僕達は使えるものは全部使って、帰還するための条件を整えた。本来世界が望んだ形ではない、裏技じみた方法で。


 そして改めて地球に帰還すると、僕達はそう時間を掛けずにソフィアの不在を知る。


 二度目の帰還を経て、ソフィアを探す中で、僕と洋輔、そして情報を共有していた冬華は仮説をソフィアが見つからない理由にいくつかの仮説を立てた。

 結論から言えば、僕達がたてた仮説は、ソフィア自身の手によって証明された――僕の意識をごく短時間、強制的に『ソフィアがいる世界』に呼び出すことで、その違いをはっきりさせたのだ。

 そこで僕達は、僕達が住んでいる現実に、地球が二つある、もしくは二つあるように振る舞っているという事を理解した。

 丁度その前後、僕達は呪文という技術に必要な理極点などの獲得を難航していて、それに少しでも回答のヒントを得るべく、また一つの決断をした。


 液体完全エッセンシアの服用。


 僕は液体完全エッセンシア、別名人魚の涙という道具を飲んだのだ。

 効果はほぼ不老不死のようなものであり、その時、僕の身体は老化しなくなった。

 それまでにも魔王になって魔法的な変化を経ていたけれど、僕はついに身体的な変化もそこで迎えたのである。

 結論から言えば、そんな僕の決断はある意味無駄になったとも言える。


 友達の弟が事故に遭った。


 その事故で友達の弟は大怪我をした。ただそれだけのことだ。

 怪我の度合いはそれほど大きくなかったし、医療技術で十分に、後遺症も無く治るものだろう。時間は掛かるけれど、それだけでもある。

 ――でも、僕達にならば。

 瞬時にそれは治せるものだ。それを見過ごすことは、心が痛んだ。


 だから更に、僕達は決断を重ねる。


 条件を付けた上で秘密を開示し、ごく一部の大人を味方に付けた。

 そしてソフィアが無理をして寄越した道具を強引に獲得し、中途半端だった神智術に対する知識が補強され、僕たちは呪文(スペル)の発動――つまりは現実改変という禁忌に踏み込んだ。

 これで様々な『無理』を押し通し、友達の弟の事故、その直前から状況を書き換えてしまうことで、あくまでも日常を取り戻そうとしたのである。

 その瞬間だ。

 まるで殴りつけられるかのように、頭の中に沢山の単語が流れ込んできたのは。

 それは世界を書き換える呪文という技術を使わせる、その替わりに『一仕事』をしてこいという、世界から提示された条件であり、僕と世界はお互いに条件を突きつけ合い。


 今に、至る。


    ◇


 世界が出した条件。

 今回の転移は僕だけであり、洋輔は転移させないこと。

 帰還の条件は『何かを為す』のみではなく、僕が世界の定め秘匿する一つの真実を自覚することも新たに付け加えること。


 僕が出した条件。

 ソフィアに対して、僕が三度目の異世界を迎えていることを伝えること。

 僕が異世界に転移している間、これ以上洋輔には条件を突きつけないこと。

 無事に帰還に至れた場合、呪文の行使に対する措置を緩和すること。


 だからこれは、孤独な戦いだ。

「……それでも」

 それほどの不安もなかった。

 寂しいけど。

 だからこそ、早く帰るために全力を出せるだろう。

 ……洋輔のツッコミが無いと調子が狂うけど。

 まあ、これ以上引っ張るまい。

「とりあえずは、人里を目指すかな……」

 こうして三度目の異世界を、僕は歩み始める。

 何かを為すために。

 そして世界が秘匿する、一つの真実を自覚するために。

 ……今更だけど、隠しておいてそれを自覚しろという条件はどうなんだろう。


 不意にもう一度空に視線を向けると、まだ明るい時間だというのに、空には月が昇っていた。

 半月よりも少し欠けている、そんな月の存在感を、嫌に大きく感じるのは……まあ、今のところは気のせいだ。

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