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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女の影

作者: 白鷺 里樹

 目の焦点が合っていないそれは、まるで死んでいるようで。


 死んでいる?…そうか、人の形をしたそれはもう生きていない…目の前の状況に理解が追いついた私は、息が続く限りひたすら叫んだ。

 「わあああぁぁぁああぁぁあああぁあああああ!!!!」

 まだ生暖かくてぬるっとした感触が腕から離れることはなかった。

 その後、どうやって帰ったのか覚えていない。気が付けば布団を被って寝ていて、暗がりのせいでよく見えないが、人の形をした何かが私にまたがって首を絞めていた。いわゆる金縛り状態である。

「あな、た…あなた、が…いたか、らっ…私、は…」

 途切れ途切れに聞こえる声からして、少女のようだ。流れ星のように、言葉と共に一瞬きらりと光って落ちていくものが見えた気がした。その後、続きを言うことなく少女の姿は消えてしまった。

 目を覚ますと、そこはいつもと何一つ変わらない自分の部屋だった。まるで昨日のことが全て嘘だったかのようだ。

 あぁ、そうか。私はあの少女をきっと知っている。昨日の出来事と少女の様子を掛け合わせてみれば簡単だった。ずっと助けを求めていた少女。最後まで信じてくれていたのに、私はあと一歩、辿り着くのが遅かった。届くことのなかった真っ赤な手が、脳裏に鮮明に映し出される。

『助けて』

 そっと頬を伝う1粒の雫と共に零れた言葉。話によると、蔦のような細長く大きな痣が、日に日に体に絡みつくように濃くなっているらしい。それだけなら不思議な話で済んだものの、なんと生活にも支障をきたしているのだ。痣の部分がぎゅっと倒れ込む程強く締め付けられたり、蔦でぐるぐる巻きにされて地面に打ち付けられる夢で毎晩うなされたり、食事の後に胃がぐさぐさと刺されるような痛みを感じて毎回戻したり、幻覚を見たりと、会う度に衰弱していっているのが一目でよく分かる程だった。私も病院に付き添ったり、改善策を一緒に考えたりしたが、悔しいことに現状はあまり変わらなかった。

 それがある日突然、元気になったと言い出した。手は尽くした、どうしようもないからもう諦める、と。もちろん最初は信じる気なんて全く起こらなかったが、元気そうな様子を何度も見かけるうちに大丈夫だと思っていた。いや、思い込んでいたのだ。どこか声が上擦っていたり、目の離した隙によく消えたり、常に1人でいようとしていたりと普段とは違う違和感に、考え過ぎと思った自分を3回張り倒しても気が済まない。せめて、時々垣間見えた光がない真っ暗な瞳には、疑念を懐くべきだったのだ。

 それよりも腹立たしいのが、あの日掛かってきた電話の対応である。

『どうしよう、笑いながら蔦を振り回している男が、追い掛けてきてるの。交番に行きたいけど、気付いた時にはもう、通り過ぎていて…。警察にも電話したけど、全然伝わらなかった。それで、蔦の男に聞かれていたらと思うと怖くて怖くて、切ってしまった所なの…』

 かろうじて聞き取れた言葉は恐らくそう言っていた。私はそんな必死な電話に、前と同じ幻覚だから大丈夫だと言って落ち着かせようとしていた。もし本当に蔦を振り回していたら、不審者がいると誰かが通報しているだろうと思っていた。それでも訴え続けたので安心させるために向かったら、お腹を抑えてうつ伏せに倒れている姿があった。気が動転しているのを悟られないように、救急車を呼んで応急処置をしていると、申し訳ないような、微笑んでいるような、どっちとも取れない表情を一瞬見せた後……動かなく、なってしまった。私にしがみついていた真っ赤な右手が、ゆっくりと地面に吸い込まれてく。

 ーー『あなたがいたから私は』手を伸ばせた。

 彼女は感謝を伝えに来たのだろうか、肝心な時に何もしなかった私に。

 答えを知らないまま今日も眠りにつく…。

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