竜の存在証明
『竜って、存在すると思うかい?』
彼女は、唐突にそう質問をした。
少し考えて、答えを返す。
「いるとも言えるし、いないとも言えると思う。答えになっていないかもしれないけれど」
一呼吸あけて続ける。
「僕にはそれくらいしか言えないかな」
『少なくとも、君の頭の中には存在しているのかもしれない』
僕の頭の中に竜か。きっと、ミニマムサイズの可愛いやつだ。でなければ頭の中には入らないだろうから。
『そうじゃない』
「もちろん、冗談さ。それで、僕の頭の中には存在するって言うのは?」
『竜、と言われて、君はどんな姿形を想像した?』
質問に質問で返す。彼女の悪い癖だ。
「全身が鱗で覆われていて、翼を持った大きなトカゲ。そんな生物を想像したかな」
そしてその生物は、少し理屈っぽい。
『君は竜の姿を想像したね?その時点で君の頭の中に竜という生物が存在していることにはならないかな』
「確かに、そう言った意味では存在するのかもしれない」
竜と聞いて想像できるということは、竜の存在証明足り得るのかもしれない。
「けれど、僕は実際に竜を見たことはないんだ」
『見ていないものは存在しないと言いたいのかい?』
そういうことだ。
『それなら、例えば空気はどうなる?君の目には、空気なんてものは見えない。けれど、君が呼吸をすることができるのは、間違いなく空気がそこに存在しているからだ』
確かに一理ある。
「けれど、空気の場合は理論的に存在の裏付けがされている」
『理論に基づいたものは全て正しいと?』
「必ずしもそうではない。そうではないけれど、空想上の生き物が存在すると認めるよりも、理論による裏付けがされているものが存在すると認める方がずっと簡単だ」
だから、空気の存在証明と竜の存在証明はイコールにはならない。
『それなら質問を変えよう。君はさっき、竜という存在がいるとも言えるし、いないとも言えると言っていたね。君は今、竜がいないという反証を挙げてくれたけれども、逆に竜がいるとも思った理由は何なのだろう?』
「さっきも言った通り、想像の中では確かに竜という存在があるからっていうのも理由の一つさ。ただ、一番の理由は……」
きっと僕が竜という存在を求めているから。
『つまり、君は竜という生き物が存在して欲しいと思うから、竜はいると信じていると』
「そういうこと」
簡単な話だ。僕は竜の存在を信じたいだけ。
子供がサンタクロースはいると言っているのと同じことだ。
「君はどうなんだろう。竜という存在がいると思うかな」
『私は、いないと思う。いてはいけないと思う』
いてはいけない。
「それが、僕の本当の気持ちなのかな……」
僕がポツリと呟くと、彼女は悲しそうにコクリと頷いた。
『少年は、いつまでもサンタクロースを信じているわけにはいかない。どれだけ拒んでも、いつかは大人になる時が来るのだから』
「今がその時だと?」
僕のその問いに彼女が答えることはなかった。
代わりに、立派な両翼をはためかせ、彼女の大きな身体は空へと飛翔していく。
僕は、彼方へと飛んでいく彼女の姿を、見えなくなるまで見送った。
「さようなら」
最後にそれだけを伝えて、僕は目を開いた。




