あいつは天才
初投稿です。習作と思って読んでやってください。昨日の夜見た夢を元に書きました。
「やっぱり君って天才だよ!」
それがあいつの口癖だ。
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俺はアダム・アンダーセン、人類連邦軍の技術開発部門で働く上席研究員だ。といっても特別に頭がいいわけじゃなく、肩書は便宜上みたいなもんだけどな。
「アンダーセン、よろしく頼むぞ」
ホロ画像の上司が気遣わしげな顔でこっちを見ている。心配になるのはわかる、今言われた話は人類連邦の命運を左右すると言ってもいい。責任の重大さに顔も歪むのが普通ってものだ。
なのにあいつは俺の後ろでチョロチョロしてやがる。上司の目線がそれを追っているのがわかる。あ、顔をしかめた。
「1ヶ月だ。1ヶ月で結果を出してくれ」
「全力を尽くします」
俺は慌てて話を切り上げ、ホロ通信を終わらせた。そうするしかないだろう? あのままだと上司が胃のあたりを押さえて倒れかねない。
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人類連邦はここ何年にもわたって戦争状態にある。敵は…なんと言ったらいいのかな、説明が難しいが宇宙人? と理解してくれるのが早いかもな。
人類連邦は現在敵に対して劣勢にあり、このままでは逆転するのは容易ではないと考えられている。それを逆転するべく現在開発されているのが新型宇宙戦艦だ。期待の切り札というわけだ。だが、現在の設計では十分ではないと判定が出た。せっかくの新型も、戦況を逆転できるか怪しいというのが最新の見立てなわけだ。
そこを1ヶ月でなんとかしろという。
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「で、どうしたらいいと思う?」
俺はコーヒーを二人分淹れながらあいつに聞いてみる。あいつは俺に背を向けて、なんだかよくわからないことをぶつぶつ呟いている。
あいつとは長い付き合いだ、仕事でコンビを組んでからと考えても何年にもなる。こういう時は好きに喋らせた方がいい。
「エンジンだ。宇宙艦の性能は突き詰めるとエンジンの性能に帰結すると言える。今度の艦に設置を予定しているエンジンは単に出力が大きなだけの、ただのエンジンだ。画期的なエンジンを開発する必要があるね」
「だけど俺たちに与えられた時間は1ヶ月しかないぜ、1ヶ月でどうやって新技術を開発するんだよ。1年ぐらいあればな。1年あれば、お前ならどんなエンジンでも開発できるだろうに」
「時間? 1年??」
あいつはこっちを振り向いて叫んだ。
「それだ、それだよ! 時間だよ!」
「はあ?」
「すごい! やっぱり君って天才だよ!」
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俺たちはいま辺境の恒星系にいる。過去の戦争で破壊された宇宙艦の残骸がよどみ、敵味方双方の死体も山ほどふわふわしてて、とても快適とは言い難い景色だ。
あいつは嬉々としてガラクタを漁っている。あいつにはここがお宝の詰まった玉手箱に見えるらしい。
「これはすごいよ、重力波発生機関だ。これなら解析して再構成できる」
「どれくらいかかりそうだ?」
「1年かなあ?」
想定通りってことか。
「いいんじゃないか? よし、始めるぞ」
俺たちは仕事にとりかかることにした。といっても俺の仕事は雑用係だけどな。
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あいつはよく俺のことを天才というが、本当に天才なのはあいつの方だ。若くて理論物理学を修め、これまで誰も証明できなかった理論を証明した。理論だけでなく手先も器用ときていて、立てた仮説を実際に試作して確かめてしまう。とんでもないやつだ。
俺はあいつの幼馴染だ。あいつの隣でずっと学んできてなんとか横に立っちゃいるが、とてもとても、敵うもんじゃない。あいつが突然何かを思いついて叫び始めた時、何を言いたいのかどうやら理解できるってぐらいだ。だけど他の連中にはそれも難しい。小さい頃からあいつのわけのわからない話を聞いてきた俺にしか無理らしい。
そんなわけで、俺はあいつ専属の雑用係としてずっとやってきた。幼稚園の頃から大学に入っても、卒業後人類連邦に引っ張られて就職した軍の技術開発部門でもだ。あいつのとりとめのない話を整理して要点をまとめ、他人が理解できる文書にするってのが第一、あいつが機械をいじりだしたら材料をあつめてきて製作の手伝いをするってのが第二、放っておいたら食事も風呂も忘れて作業に没頭するあいつの身の回りの世話が第三の仕事ってところか。いや最後のやつが第一か?
加えてもうひとつ仕事がある。
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「外周警戒域に未確認の移動物体、こちらに接近中、数4か…おい、ちょっと出てくるぞ」
「ここが難しいな…ああ、行ってらっしゃい!」
俺は手早く宇宙服の機密を確認すると、格納庫ブロックに出て愛機に乗り込んだ。人類連邦軍の主力恒星系内宇宙格闘機、ISB-22だ。とにかく火力、防御力、機動力のバランスがいいことが長所で、扱いやすい機体だ。もっとも、あいつの研究をフィードバックして勝手に改造している部分はいくつもある。
母艦を発進してから30分ほどでモニターに移動物体、いや「敵」が映った。恒星系内に張り巡らせた無人センサー衛星からの情報はもちろんリアルタイムで受信していて、すでに中間警戒域に入り込まれていることがわかっている。今になって、ISB-22が単体で持つセンサーで敵を捕捉できたということだ。
このあたりは巨大ガス惑星の軌道上に近く、いわゆるラグランジュ点に小惑星帯がある。一般的な恒星系ならよくあることだ。そのうちL4が「敵」と母艦を結ぶ直線上から少し離れたところにあることに気づき、俺はL4小惑星帯に身を潜めて「敵」が接近するのを待った。
移動物体を「敵」と認識したことには理由がある。この恒星系だけでなく近傍のいくつかの恒星系にも友軍どころか人類連邦勢力もいないことは、ここに移動してきてすぐ確認できている。残念な、いや俺にはわりとショックな事実だった。あいつはたいして気にもとめていないようだが。
俺は「敵」が主砲の射程内に接近するのを待って、先頭を航行する光点に狙いをつけて射撃した。「敵」の装甲に歯が立たないのではないかという懸念もあったが、あっさり光点は爆散する。改造は役に立ったってわけだ。残りの光点3つは混乱したように動きを乱した。俺は小惑星帯を抜けて残りの「敵」を撃破に向かった。
そう、俺の最後の仕事はこれ、あいつ専属の護衛だ。あいつが仕事を終えるまで、俺はたまに近寄ってくる「敵」を追い払っている。護衛といっても、ここに移動してくるまではやることといえば普通の身辺警備程度だった。いや開発した装備が実戦で役に立つか確認したいと言い出したあいつに付き合って戦場に出て、戦闘に巻き込まれたことも何度かあったが、そんな時は俺以外にも護衛部隊を派遣してもらっていた。俺一人だけってのは街でチンピラどもに絡まれた時以来だ。しびれる状況だぜ。
「ただいま」
「ああ、おかえり!おつかれさま!見てくれ、ここがようやくわかったよ!」
帰投するなりあいつに捕まって話を聞く羽目になった。機体の整備もしなきゃならんし、何より風呂に入りたいが、まあいいか。解析と再構成もだいぶ進んできたようだ。予定通りに帰れるだろう。
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俺たちは期限内に課題を解決し、上司に報告することができた。
「い、いったいどういうことだ・・・」
「ですから、重力波エンジンを完成させました。すでに小型機と大型艦での試験稼働は終えており、直ちに量産に移れます。これを新型戦艦と格闘機に装備すれば、太陽系程度なら端から端まで1時間程度で移動できる高速艦隊を編成できることになり、圧倒的に人類連邦軍は有利に立てるものと考えます。設計書とマニュアルを転送します。」
「馬鹿な」
「あと、これはおまけですが、別途高出力砲と新素材を使用した装甲も開発できました。これも新型戦艦に装備予定の主砲、装甲に替えて搭載できます。主砲についてもすでに試射を終えており・・・」
ホロ画像の上司の顔は赤くなったり青くなったり、今にも倒れそうだ。気持ちはわかる、人類の命運を左右する課題がとんでもないレベルで解決できたらしいというのだから。
「いったいどんな魔法を使えば・・・いや、君らならそれも可能なのか。なるほど、既にこれを見越して準備しておったのか。全く油断も隙も無い二人だ」
上司は独り言を言ううちに落ち着いたらしい。
「素晴らしい成果だ。ご苦労だったアンダーセン、よくやってくれた! 急ぎ人を集めてこちらで内容を確認する。今日はゆっくり休んでくれて構わん、二人とも、明日からこちらに来て本格的に建造計画変更案策定に加わってもらうぞ」
「ありがとうございます、了解しました。それと、お褒めの言葉なら私ではなくあいつに」
「おおそうだったな、キャンベル、君もご苦労だった…アンダーセン、キャンベルには聞こえていないようだぞ」
「申し訳ありません…」
あいつは後ろのソファにだらしなく横になって寝息を立てていた。
「いや構わない、この1ヶ月働きづめだったんだろう、寝かせておいてやれ。君も疲れているようだな、ん? アンダーセン、君は1ヶ月でずいぶん面変わりしたか?」
「そうですか? まあ私もあいつの手伝いであまり寝てませんからそのせいですかね。では失礼します」
俺は慌てて話を切り上げ、ホロ通信を終わらせた。そうするしかないだろう? ひと月前に上司と話してから、俺とあいつの主観時間で1年経っているなんてバレたらえらいことになる。
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客観時間で1か月前、主観時間で1年前にあいつと交わした会話を思い出す。
「1年あれば新型エンジンを作れるよ!」
「だが俺たちには1ヶ月しか与えられてないんだぞ? どうやって1年の時間を作り出すんだ? そんで、1年で新型エンジンを開発できるって保証があるのか?」
「タイムマシンで未来に行くんだ! ざっと1000年ぐらいかな、そこで技術を収集して解析するんだ! そして出発した時点に戻ってくるんだよ」
これが他の人間なら、頭がいかれていると思うところだが。
「僕は戦争が始まってから、宇宙人からの技術流入も考慮した人類の技術革新スピードを予測したんだ。僕の計算によると、500年で大幅なブレークスルーが発生し、その後500年で誰にでも扱えるレベルまでコモディティ化したものが広く使用されているはずだ」
「話はわかった。ところで人類はまだタイムマシンを発明していないんだが…これから作るって言うんだろうな、お前は」
「そうだよ、作るんだよ、今から1か月で!」
あいつは嬉しくてたまらないという笑顔で叫んだものだ。
「ね、やっぱり君って天才だよ!」
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まあな、あいつは天才理論物理学者様で多次元宇宙理論が専門で、もともとタイムマシンには興味があってちょいちょい暇な時間に考えてたらしい。だからといって1ヶ月、正確には25日で実機を作って、次の1日で動物実験で往復までやってしまったのはやはり人間離れしているとしか言えない。
俺たちは母艦にタイムマシンを設置し、準備を整え、お題をもらってから28日目の正午に1000年後の太陽系に転移した。すぐにわかったのは、1000年後の太陽系は既に人類連邦の勢力圏から外れているってことだった。太陽系は過去の宇宙人との激戦の中で荒廃し放棄され、人類連邦の重心は銀河系の別の部分に移動していた。
俺たちは地球軌道に母艦を泊め、まず太陽系内にセンサー網を構築した。タイムマシン理論を応用したリアルタイム双方向通信機器を無人衛星に取り付け、地球軌道からオールトの雲にまで展開した衛星が捉えた異変を主観/客観時間でタイムラグなく把握できるようにしてから、タイムマシンのエンジンで空間に干渉して数ヶ月、数年過去の現座標に転送し、そこから太陽系外縁にまで航行していくようにバラまいていくのは骨が折れる作業だったが、ともかく客観時間で俺たちが太陽系に移動した時点で、全ての衛星はあるべき位置にいたことになる。
それから残骸をかき集め、1000年の間に進歩した技術の収集と解析に入った。なにしろ破棄された宇宙艦やら宇宙ステーションやらの残骸は山ほどあって研究素材には困らなかった。目当ての技術はすぐに見つかった。重力波エンジンだ。半年かかって解析し、次の半年で理論的に再構築して一から新たに製造することができた。なんせこの時点では既に発明されて数百年経っている枯れた技術だ、さすがのあいつも初めはしばらく手こずっていたが、マニュアルに使用されていた言語が俺たちの元の時代と大して変わらない人類連邦標準化英語だったことも幸いした。俺もマニュアルをうんうん唸りながら読んだもんだが、どうやら主に使われているのはCC/AA型というタイプの重力波エンジンらしい。予想外だったのは、発明されたのがあいつの計算よりずっと前だったことぐらいだ。
残骸から外した重力波エンジンのうち無傷なものをISB-22と母艦に取り付けて、俺たちは時には放棄された地上の、時には小惑星帯のプラントに移動して、重力波エンジンの稼働試験を兼ねつつさまざまな技術を漁って歩いて補給を行った。新型の砲や装甲もこうして解析して、ISB-22に取り付けていった。俺たちの母艦は研究所代わりに軍から貸与されている戦艦クラスの大きさがある工作艦だ。人間の乗員は俺たち二人だけ、艦内はさまざまな自動工作施設だらけで、大抵のものは作ってしまえる。まるで大昔のお伽噺に出てくる、隣の銀河系まで大航海して地球を救った戦艦のようだとあいつと笑ったことがあるが、それでも他に大規模な生産設備が使えるのは助かった。
時々、宇宙海賊なのかこのあたりを担当する法執行機関なのかわからん連中が接近してきたが、全て殲滅した。1000年後からやってきた人類ですなんて正直に話してもキチガイ扱いされるのがオチだし、ひょっとしたら宇宙人かもしれないからな。向こうからしたら太陽系に宇宙海賊がいるらしいって話になってるかもな。
そんなこんなで主観時間で1年後、全ての解析と再構築を終えた俺たちは元の時間、俺たちが1000年後に転移した28日目正午の正確に1秒後に帰還し、上司である人類連邦軍技術開発本部長に報告を済ませたってわけだ。
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俺はキャンベルを風呂に入れてやっていた。最後に無人衛星を全て回収するのが大変な作業だった。俺もキャンベルもかかりっきりで、数日風呂にも入ってなかった。久しぶりに一緒に風呂もいいだろう。
「なあ、ずっと気になってることがあるんだが」
「なんだい?」
「タイムマシンもののSFで、禁則事項ってのがあるだろ」
よくあるだろ、タイムマシンは未来には行けるけど過去には行けない。なぜなら過去を変えてはならないから。変えてしまったらタイムパラドックスってやつが起こる。
「僕たちは未来に行って帰ってきた。過去を変えたことにはならないさ」
頭をわしゃわしゃと泡立てて洗ってやる。
「いやその理屈はおかしい。思い出してみろよ、最初に俺たちがやったことは何だ? 無人衛星を1000年後から少し過去に転移させたろ。もともとあるはずのなかった衛星が突然過去に出現してるんだ、これだけでも過去を変えている」
「言われてみたらそうかもねー」
眠そうな声でとぼけてるが、こいつめ。泡立てていたシャンプーをシャワーで洗い流してやる。
「俺たちは1000年後から戻ってきた。1000年後の視点からしたら、本来は過去に存在しなかった重力波エンジンやら何やらを1000年前に持ち込んだことになる。過去を変えたんだよ、俺たちは。お前本当は全部わかってるんだろ、重力波エンジンのマニュアルにあったCC/AA型ってのは」
間違えっこない、何より明瞭な証拠だ。
「タイムマシンは封印だ、リアルタイム通信もな。これまで人類連邦の歴史上でタイムマシンが観測されていないのは、発明者であるお前が今回一度きりしか使わなかったこと、ほかに知るものは俺しかいないことを示している」
キャンベルはくすっと笑うと、振り返って俺に抱きつき、上目遣いで見つめてきた。
「やっぱり君って天才だよ、アダム・アンダーセン。僕の旦那さま」
何を言ってやがるんだか。よし、綺麗になったな。
「天才はお前だよ、クララ・キャンベル。ほらお湯に浸かろう」
「もうあったまったから上がろうよ。お布団に連れてってよ。1年も我慢してたんだから、ね?」
「途中で寝落ちしても勘弁してくれよ」
お読みいただきありがとうございました。突っ込まれる前に書いときますが、雰囲気はハルヒとキョン、あとフィニアスとファーブです。自分で書いてて気付きました。




