ヒロイン転生者は見た~乙女ゲームの強制力(ピタゴラスの法則)~
転生ヒロインは見たくもない現実を知ってしまう。その上、乙女ゲームの強制力が働いて・・・
学園物の乙女ゲームのヒロインに転生した私は今、戦慄している。
攻略対象=乙女ゲームの攻略される側に選ばれているハイスペックイケメンが移動教室で誰もいない教室で私の素敵な落書きの付いた日本史の教科書を破っていた。
こいつ、危ない奴だ!!
私は忘れ物を諦めて、急いで移動教室に戻った。
また別のある日、焼却炉にゴミを捨てに行った帰り、校舎の脇を歩いていたら上から水(雑巾数枚含む)が降って来て、全身びしょ濡れになった。
何が起きたのかようやく理解できて、犯人を探そうと校舎の窓を見たら、別の攻略対象がいた。
なんで、攻略対象がここにいるの?!
こういう嫌がらせは悪役令嬢がするもんでしょ! それかその取り巻き令嬢か!
攻略対象の不注意に内心、怒っていたら、そいつの視線が気になった。たどってみたら、私の胸にいきあたった。
こいつ、不注意じゃなくて計画的ラッキースケベ野郎だった!!
睨んだのに、笑顔が返されて私は保健室に逃げ込んだ。
こいつも危ない奴だった!!
とりあえず、自分の教室内なら大丈夫だろうと思っていた時期もありました。
乙女ゲームですから、ここにも安らぎなんてものがないと気付いたのは、悪意のないワンコ攻略対象が原因。同級生にこいつがいるおかげで、他の子とほとんど話せない。
基本、ボッチかワンコとツーショット。
他の子が近付くのをワンコがしっかりガードしている。
私はあんたの縄張りか!!
web小説だったら、強制力が働いた場合、ホラーにしか見えなかったけどさ、強制力が働かなかった場合もホラーだよね。特に自作自演じゃない場合。
と、しみじみと保健室のベッドに寝っ転がって思う。
ホント、良かった。
階段から突き落とされても、救急車に乗るほどじゃなくて。
保健室の先生はゲームの時から女の先生だから攻略対象じゃないし。保健室の先生が攻略対象だったら、突き落とした犯人だと思う、絶対。
救急車に乗るほどじゃないけど、全身あちこち痛いから、授業の終わった担任のオオタ先生の付き添いで病院に行くので、今はお休み中。
このゲームは生徒だけが攻略対象だから、担任の先生も攻略対象じゃない。
保健室のドアが開いた音がした。現れたのは、最後の攻略対象。
キングオブハイスペック。その名をメインヒーローと呼ぶ攻略対象の中でも一番の権力者兼お金持ち。どこぞの財閥の御曹司らしいが、素性を隠して庶民の通う学校に通っているという隠しキャラ的行動をとっている。
「?」
「先生、マイちゃんが怪我したって、本当ですか?」
授業中なのに、なんでここに来てんの?! 学年も違うし、なんで私の怪我のことも知ってんの?! これが財閥の息子クオリティ?!
「あら、早耳ね。イツキくん」
「まだ病院に運んでいないなら、うちの運転手に連絡して運んでもらおうか?」
?! 突き落とした犯人はこいつだったか?!
「それは無理ね。オオタ先生が今の授業が終わったら連れて行ってくれるって言ってるし、病院へは先生の付き添いで行くもんよ?」
ガンバレ、カナちゃん先生!! これからホラーになるかどうかはカナちゃん先生にかかっている!! もう、ホラーな気がするけど。
「シノハラ先生は俺のことが信用できないんですか?」
「信用できるできないんじゃなくて、学校の問題だから」
「校長と教頭の許可はもらっています」
なんで学生に許可与えてんのよーーー!!!って、この学校、私立だからか。
「校長先生と教頭先生が・・・」
いくら寄付金積んだんだろう・・・と遠い目をしながら、カナちゃん先生の顔を見たら、唖然とした表情をしていた。
ダメだ。建て前も何もかもなくなって、カナちゃん先生でも私を守れなくなった。
逃げ切れない。
病院から無事に家に帰ることはできるんだろうか?
乙女ゲームに転生してしまったら、絶対に自分から攻略対象(ゲームの舞台)に近付いてはいけないと、ドナドナされながら思った・・・。
どこも悪いところはないと思ったのに、入院することになった。経過観察が必要だとかで病室は個室で、24時間体制で容態をチェックされるらしい。
出汁のよくきいた夕食を食べていたら、仕事の終わったお父さんとお母さんが駆け付けてくれた。
ただの経過観察だから、明日の朝には家に帰れるのに。でも、駆け付けてくれたのが嬉しい。
お母さんたちは私が夕食を食べ終わるのを見守ってくれた。そのあとみんなで喫茶室に行って、お父さんはカツ丼、お母さんはスパゲティ、私はチョコレートパフェを頼んで、今日あったことを話し合った。
「大きな怪我じゃなくてよかったわね」
お母さんがしみじみと言う。
「うん。打ち身ぐらいだから、早く家に帰りたいよ」
一晩の入院だって、大袈裟だと思う。
「明日はお父さんが迎えに来ようか?」
「お父さん、会社は?」
経過観察だから、翌朝には退院する。お父さんが迎えに来てくれると言っても、それは午前中になるから仕事じゃ・・・。
「今は繁忙期じゃないし、午前休とれるから心配しなくていい」
「本当?!」
病院なんかで一人で過ごすのが寂しいから、お父さんが迎えに来てくれると聞いて嬉しかった。
「もう。自分だけいいカッコして! お母さんだって、明日重要な会議がなかったら、迎えに行けたのに」
拗ねるお母さん。
「お母さん、家でおとなしく待っているから早く帰って来てよ」
「ミスがあっても、他の奴に任せて帰るから!」
「それで帰っちゃダメでしょ!」
「おいおい・・・」
楽しくおしゃべりして、面会時間のギリギリまで病室にいてくれて、次に目を覚ました時には家に帰れるんだ――
「おはよう、マイちゃん」
「な、なんで、イツキさんが?」
声をかけられて、目の前にイツキがいて驚いた。てっきり、看護師さんに起こされたと思ったから。
「夜中に容体が急変してマイちゃんは死んだんだよ」
病室だと思っていたけど、今いる場所は眠った病室とは違う部屋だった。それでも、やっぱりホテルかモデルルームのような統一感のある部屋。
「え?」
「マイちゃんは死んじゃって、明日はお通夜。週末にはお葬式をするんだよ」
「でも、私、生きてるし・・・」
生きてないなら、今の私は幽霊?
でも、幽霊になった私とイツキがどうして話していられるの?
「そうだね。マイちゃんは生きてるけど、もう死んだことになったんだよ。マイちゃんのご両親は生きているマイちゃんの退院の手続きをするはずだったのに、死んだマイちゃんを連れ帰る為に退院の手続きをすることになるなんて、かわいそうだったな」
他人事のように言うイツキ。実際、他人事だけど。
「でも、これはマイちゃんが選んだことだから。マイちゃんが俺を避けたのがいけないんだよ」
「避けてなんか・・・」
イベントだって普通にこなしていたし、イツキはまだ変な行動をしていなかったから避けてない。
「避けたよ。だから、もうマイちゃんはこの家から出さない。出ても、マイちゃんはにはもうどこにも行く場所はない。だって、マイちゃんはもう死んだことになっているからね」
こいつ、ヤンデレだ!!
「行く場所ないって・・・、お父さんやお母さんのところに帰る!!」
ヤンデレ、怖い!!
私を死んだことにして監禁って、それ犯罪。
「そのお父さんやお母さんが死んでもいいの?」
「?!!!」
帰る場所がなくなるようにお父さんとお母さんを殺すってこと?!!!
お父さん・・・お母さん・・・
「時間はいくらでもあるから、いつでも好きになってくれたらいいよ」
「・・・」
それはない、絶対!!
お父さん、お母さん。私は今、ヤンデレ野郎に監禁されています。でも、隙をついて、いつか必ず帰るから!!
避けられた攻略対象たちが避けられていないイツキに嫌がらせをして、イツキはマイに嫌われていると思い込んでヤンデレになってしまいました。
マイの教科書を破っていた攻略対象はマイの落書きが欲しくてやっていました。小学生だったら、マイのリコーダーを・・・のタイプだと思います。想い溢れた変態です。
イツキが誤解に気付いたら、マイは養子として両親とまた暮らせます。
ですが、続きを書く気はありません。
これはいくら避けようとしても攻略対象の一人とエンディングを迎えてしまう乙女ゲームの強制力の話。中途半端に好感度が上がった攻略対象たちが引き起こした結果は強制力なのです。