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モニシア達の転職

「ライラさん! 今ステータスを計れますか!」

 鳰勝はギルドにモニシアを引っ張ってきた。モニシアはここに来るのを随分嫌がって暴れていたが、モニシアは全く力がない。暴れていようが片手で掴んで引きずってこれた。

 体力が低の中である鳰勝相手に、本気でバタバタ暴れても振りほどくことができないこのモニシアのステータスがいくつなのか? 本当は知りたくはない。

 だが知らなければならない。こいつにモンスターを狩って冒険をさせなければならないのだ。

「人を数字で測るなんてやっていい事じゃないだろう! 私はそんな物に付き合いはせんぞ!」

「数字にしたら、自分のゴミがバレるからか?」

 私がゴミだと! などと叫び出しそうなものだが、今のモニシアは黙っていた。大体理由はあっているのだと鳰勝は確信する。

「こいつのステータスを測ってください」

 モニシアの頭を机に押し付けながら言う。そうしないと逃げ出しそうだからだ。

「失礼します」

 この状況にはライラもドン引きしているようだ。おずおずとしながらモニシアの頭に例の緑色の金属を当てた。

「無反応なんて初めてみました……」

 ライラはさらにドン引きした様子で言う。それからステータスを読み上げていく。

「俊敏と魅力がやたら高く、知力はそこそこですが……」

 少し、言葉に詰まった後でライラは言う。

「他の能力が最低レベルです」

「やっぱりか」

 そして、モニシアは職には就いていないのだという。

「パラディン以外に私に合う職種などありえないだろう」

 パラディン以外の職種に就く気はない。だから低級職にもついていない

 ライラにパラディンの事を聞くと上級職であるという。ソードマンやクレリックなどの数種の職種を経験し、それらすべてを十分な習熟をして初めてパラディンになる試験を受けられる。

 試験を受けても合格するのは十人に一人だという。

「却下だ! こいつにできる前衛職は何がある?」

「前衛職をするには体力が足りなすぎます。これではトイソルジャーにもなれません」

 そのトイソルジャーも六歳くらいの子供がなる職種であるという。

「こいつの体力は六歳児以下なのか!」

 細かく言えば年齢によって必要な体力が変わるというが、モニシアの体力の足りなさはそんな問題ではないという。

「日常生活を送っていれば十分それくらいの体力は付くはずなのですが」

「とことんクズだな!」

 疲れる事や面倒な事は使用人にすべてやらせていたとか、そんなところだろう。箸より重い物はもったことがないとかいうのをリアルでやっているのだ。

「一週間くらい筋トレをしてからまた来ればいいと思います」

「それで解決するレベルなのかよ!」

 鳰勝はそれでも考える。

 このクズに一週間の筋トレをするだけの根性があるだろうか? あるわけがない。

「どうやら出直すしかないようだな。ロクに計画も立てずに行動するから無駄足を踏むことになる」

「やかましいわ!」

 モニシアはもっともらしい事を言いつつ、この場から逃げようとする。もちろん鳰勝はそれを一言で切り伏せる。

 今更出直せるわけがない。戻ってもモニシアが筋トレなんて絶対やらないし、下手すりゃ目を離した隙に夜逃げをするかもしれない。

「今のステータスでこいつにできる職種はある?」

「ふん。あるわけがないだろう。私にふさわしいのはパラディンだけだ」

「パラディンは一番お前にふさわしくないわ!」

 もう、黙っててほしい。心底からそう思う鳰勝。ライラは慌てて探すと一つの職種を見つけた。

「ダンサーですね」

「滅茶苦茶似合いそうだよこんちくしょう!」

 鳰勝はこいつがダンサーになっても使えないだろうとは思いつつ、元よりほかに選択肢はないのだと思い直す。

「こいつをダンサーにしてください」

 モニシアが前衛職になれないのは完全にしょうがない。

「なんだと! 私にそんな低俗な事をやれと言うのか!」

「やらなきゃ低俗どころか俗世からか転落した奴隷だぞ!」

 何を言っても無視して、無理やりモニシアをダンサーに転職させた。


「時空のゴミ女神はどこだぁ!」

 鳰勝はモニシアの屋敷に戻って言う。

 今の状況ではどう考えても前衛職が必要である。モニシアにできないならモニシアの仲間にやらせればいい。

 幸い、モニシアは人望はあるから、こいつのために身を盾にしていいという人間の一人や二人はいるだろう。

 最初に当たるのはこいつの取り巻きと化している時空の女神のノルンだ。

「なんですかあなた。躾ができてない犬ですか?」

「人間じゃない奴に礼儀なんて必要あるか!」

 モニシアにいつもベッタリのメイドが鳰勝に文句を言ってきた。

「丁度いい。お前も来い」

 モニシアの事を守るためならこのメイドも動くだろうと考える鳰勝。あと、ノルンも見つけないといけない。前金のある依頼を片っ端から取ったのはノルンだ。あいつにも責任を取らせないといけない。

 屋内に入ると、片っ端から部屋のドアを開けていった。誰かの寝室と見られる場所で、布団にくるまっている人影を発見した。

「お前がノルンか」

 布団にくるまっているだけだから見ればわかる。もしかして、これで隠れているつもりだろうか?

 返事がなくカタカタ震えていた。

「分かるに決まってるだろう! そんなんで隠れられるわけねぇだろ!」

 布団を引っぺがしたら中の人間が現れる。

「お前がノルンだな! 一緒に来てもらうぞ!」

「私はノルンなんてケチな野郎ではありませぬ! 野々山って言います!」

 この世界にそんな名前があるか。

 そう思ったが、それを口にするのもバカらしい。そのまま髪を掴んで屋敷の外まで引きずっていった。


「私はノルンなんかじゃない!」

 屋敷の外に引きずり出しても、ノルンは見え見えの嘘を言っていた。

 髪の色から違う。この世界には多くの髪の色があるが、ここまで綺麗な銀色は見たことがなかった。

「お前はノルンだ! 私が証言する!」

 屋敷の前で待っていたモニシアが言う。

 これは仲間を売ったというやつだ。どこまでも、モニシアは醜い。

「お前がノルンであるのが証明されたところで、一緒にギルドに行ってもらおうか」

「私は何も関係ない! 私は何も知らない!」

 こういう事をいうやつは、関係なかったためしがないし、大抵何かを知っている。

 もうモニシアの周囲の連中には何を言っても無駄だと分かっている鳰勝は、有無を言わさずにギルドに連れて行った。


 ギルドに到着すると、ノルンの頭を机に叩きつけて押さえつける。

 モニシアと同じようにして無理矢理ステータスを測る事にした。

「こっちのアホメイドも頼む」

「躾されてませんね」

 とりあえず、メイドの方は大人しく従ってきた。隙あらば逃げようとしているノルンの事は押さえつけておき、メイドのステータスを測るのを先にする。

「全体的に平均値よりやや下くらいです……が」

「が……ってなんだが……って!」

 鳰勝の見幕にライラもビビっていた。

「知力が絶望的に足りなすぎます。ソードマンをするにも、最低でも文字くらいは読める必要があります」

「ホントにアホだったのかこいつ!」

 ライラが言うにはどの職をするにも最低限の教養が必要であるという。この世界には公立学校。つまりは小学校や中学校がないので、文字の読めない人間は珍しくないのだというフォローを淹れていたが、鳰勝にとってはそんな事はどうでもいい。

 とにかくこのメイドはトイソルジャーにもなれないのだ。

「次だ!」

 今度はさっきから押さえつけているノルンだ。

 女神というのが本当なら、知力が足りないという事態は回避できそうである。

「知力は高いですね。他の能力は軒並み平均値以下です。そして……」

「そして……ってなんだよ!」

 ライラの嫌な予感しかしない結びの言葉にそういう鳰勝。

「精神力が全くと言っていいほどありません」

「魔法職は無理という事か? それなら問題ない」

 とにかく前衛がほしいのだ。ノルンが後衛に向かないなんて事は知ったことではない。そう鳰勝は思うが鳰勝の期待は脆くも裏切られた。

「精神力というのはつまり根性と集中力です。根性がなければ前衛はできませんし、集中力がないと、もちろん魔法職も無理です」

「こいつらそろって、どこまでゴミなんだよ!」

「もちろんトイソルジャーも無理です」

「こいつは六歳児よりガマンできない奴って事か!」

 それからライラはノルンの出来そうな職業を探し出した。

「ありました! マーチャント。商人です!」

「また、何の役に立つんだ?」

 金を持っていない奴が商人になってどうしようというのか?

「商人の役目は基本的に後方支援です。安く装備を集めたり、冒険に必要な薬を集めたりします」

「こいつは資金がないんだよ! いくら安い物を見つけても買えないんだ!」

 ライラに言ってもしょうがない。だが、言わずにはおれなかった。ライラは恐縮しながら言う。

「上級職には生産職である薬師『ポーショナー』と鍛冶師『ブラックスミス』の二つがありますが、二つとも高い精神力。つまり集中力を必要とします」

 鳰勝がさらに激昂すると分かった上で、さらにライラは言った。

 鳰勝が怒るのなんて覚悟するしかない、どうにでもなれといった感じだ。

「もういい! こいつはマーチャントにしてくれ!」

 とにかく何かの特技がないとこの世界では役立たずだ。

「とにかく前衛を見つけないと」

 鳰勝は、今更になって無理してでも自分がシーフになっておくべきであったと考え始めていた。

「もしくは、アーチャーになってこいつらを撃ち殺すか」

 ノルンがいなくなれば元の世界に帰る手掛かりがなくなる。だが後の事なんていい。今すぐにでもこの連中を撃ち殺したいと本気で思っていた。

「いくぞ! 種集めるぞ種!」

 鳰勝は、ノルンとモニシアの二人を引きずってギルドを後にしていく。

 その後ろ姿を呆然とした顔をして見送るライラは心の内で思っていた事を呟いた。

「フレア様以上だ」

 フレアでも、モニシアにあそこまで厳しくはしないだろうとも思いながらの言葉だった。


 だが、ギルドを出る頃には空は暗くなっていた。日が沈んでしまえば馬車も営業をしていない。これでは森に向かうことなどできないというモニシアの言葉に、鳰勝は同意をせざるをえなかった。

「明日、日が昇ったらまた出発するから起きとけよ!」

 鳰勝は最後にそう捨て台詞を残してフレアの屋敷に向かう。夜になり街灯が無い暗い街を歩く鳰勝の後ろ姿を虚ろな目で見送りながら、モニシアとノルンは話し合い始めた。

「どうする? このままでは私達はあいつに殺されるぞ」

「あいつを殺ったら、フレアってのがまた出てくるだけ」

 鳰勝からしたら、死にたくなければ従えという所だ。そもそも二人の作った借金を返すために二人に檄を飛ばしている。

 だが、この二人がそんな事情など考慮するはずもなく、鳰勝から解放されるための方法を話し合っていた。

「あいつを元の世界に返したら、あの守銭奴も文句を言わないんじゃないかな?」

 ノルンの提案。モニシアに毒されているノルンはモニシアと一緒になってフレアの事を守銭奴と呼び出していた。

「名案だ」

 モニシアもそれに同意する。

「それでは力を」

 ノルンはそう言い。モニシアに手を出した。

「おしっこ」

「そうだった!」

 ノルンの力を引き出すのは美少女のおしっこ。鳰勝を元の世界に送り返すという事は、モニシアのおしっこがまた必要になるという事だ。

「あの男を追い出すためなら……」

 モニシアはそうつぶやいた。

「あの男を……あの男を……消し飛ばすため……」

 呪いの言葉をつぶやくモニシア。

 フレアがこの様子を見ていたら『相変わらずあんたは恨みのためなら動けるのね』と呆れながら言っていたところだろう。

「気合入ってきた!」

 言葉だけ聞けば前向きに聞こえるが、やる事といえばビンの中におしっこを溜めるだけ。

 モニシアは気合を入れて路地裏に向かっていった。

 何をするのかよく理解していないメイドはともかく、ノルンはモニシアのその行動をニヤリと悪い笑顔で笑いながら見つめていた。


「ふははははは! のこのこやってきたなぁ!」

「頭にウジでも沸いたかよ」

 次の日の朝、モニシアの屋敷にやってきた鳰勝は最初からカリカリしていた。

 モニシアが何か意味ありげにしてニヤついているのを見て、疑問を感じるでもなく、警戒をするでもなく、イライラしていたのだ。

 何か考えがあるようであるが、モニシアの考えることなど、どうせゴミの役にも立たない事であると思っているのだ。

「貴様の顔を見るのもこれで最後だ。ノルン! やってしまえ!」

「ふっふっふ。何もわからないまま消えていくのもかわいそうだから教えてあげようじゃないか」

 ノルンも一緒になってモニシアのしているような悪い笑顔をしていた。

「あんたは元の世界に送り返されるの。よかったじゃない。お家に帰れるのよ」

 鳰勝はそれを聞いても全く意味が分からなかった。

 この二人の様子を見る限り、自分に危害を与えるなり、損をさせるなりする気のように見えるが自分にとっていい事であるようにしか聞こえない。

「戻せよ」

 とりあえずそう答える。

 あの二人の様子を見ると何か裏でもあるのかと勘ぐってしまう。

 元の世界に戻すとは言いつつ、本当はまた別の世界に飛ばすつもりではないのかと、いらない勘ぐりをしてしまうくらいだ。

「ふっふっふ。強がりもそこまでにした方がいいぞ。私にした仕打ちを泣いて謝るなら止めてやらんでもない」

 さらに鳰勝には意味が分からない。だが、こいつのやる事についていちいち考えを巡らせても深読みになるだけであるとは、昨日の間に嫌というほどわかったことだ。

「戻すならさっさと戻せ! できねぇならサル芝居はやめろ!」

 もうめんどくさい。モニシアが何を考えているかは分からないが、やるならさっさとやってほしいと思う鳰勝。

 完全にキレた鳰勝は叫んでいた。

「や……やれ! ノルン!」

 鳰勝がキレたのビビったモニシアはノルンに指示を出した。

 ノルンは鳰勝になにやら魔法を使う。

 鳰勝の姿はいきなりパッと消えていった。

「これで戻ったのか?」

 鳰勝の姿が消えたのを確認したモニシアはふふふ……と笑い始める。

「はっはっはっはっは! あの男もこれで後悔しただろうさ!」

 高笑いを上げるモニシア。鳰勝を元の世界に戻し、目の前の危機が去った事実を喜んでいたのだ。


 鳰勝が目を開けると懐かしい自分の部屋に戻っていた。

 自分の服装は、フレアにもらった冒険者の服のままである。それは、あの悪夢が夢ではなかったことの証明であった。

「でも、戻ってこれた」

 今日が何月何日で、今の時間は何時何分か? そんな事を確かめるのは後である。

 今はあのバカに悩まされ続ける地獄から解放された事を喜ぶべきである。鳰勝は喜びが浮かんでくる感じではない。ただ、疲れが体に押し寄せ、頭の奥深くまで侵食して思考をするのが不可能になっていた。

「なんか甘いものが食べたい……」

 頭が疲れると甘いものが食べたくなるという俗説が本当であるという事が、今の鳰勝には嫌というほど感じられた。

 外が暗いという事だけを確認した鳰勝は、重い足取りで台所に向かって歩いて行った。


 鳰勝が戻ったのは自分が召喚された日の朝であった。水曜日の午前四時である。数時間後には学校に行くために家を出ないといけない。

 疲れ切った頭のまま学校に向かう事になる。だがモニシアの世話に比べたら、学校なんて大したことではない。

 これからは、どんな嫌なことがあっても笑顔で許せそうな気がしてくるほど、鳰勝の心は澄み切っていた。

 いつものバス亭で降りると、いつものようにみさごからちょっかいをかけてこられる。

「よう。今日もオタクってる?」

 ミサゴの言葉はいきなり何を失礼な事を言い出すのかという感じだ。

 だが今の鳰勝はその言葉を聞いても何も思わないくらいに澄んでいた。

「ああ。ついさっきまで画面の向こう側の世界に行っていたくらいだぜ」

「はい?」

 この答えにはさすがのみさごも面食らって固まっていた。

 鳰勝はみさごの様子など無視した。

 みさごはいつも適当に返事をしたら、さっさと他の友達の所に向かってしまう。今日もそうなるだろうと鳰勝は思っていたのだ。


「やっべえ。あの返事はさすがにやりすぎた」

 昼休みには、ついに鳰勝は現実と虚構の区別がつかなくなったという話になっていた。

 その話は教師にまで通っていき、今日の放課後に教師から面談があるという話をされた。「実際本気で言ったと思うか?」

 そうは愚痴るが、教師が出てくる事態になったらみさごも引くに引けなくなるだろう。こんな大事にしてみさごは何を考えているんだという話だ。

 だからといって、みさごのために変人になってやる義理までない。

「適当に言い訳を考えるか」

 本当の事を言うわけにもいかないが、この荒唐無稽な話に辻褄を合わせる方が難しい話だ。

 冗談で言ったとでも言えばごまかせるだろう。


 教師とみさごを合わせた三人は教室で面談をする事になった。

 神妙な顔をした教師と、鳰勝の事を見つめるみさご。神妙な顔をしつつも、本心ではくだらない事になってうんざりしている鳰勝は、誰の机かもわからない机を三つ合わせて付き合っていた。

「いっとくけど、今朝の事なら冗談ですからね」

 教師はそれでピクリと眉根を寄せた。まあ、教師自身も半信半疑のだったのだろう。鳰勝に言わせれば半分信じるだけでもどうかしているというところだ。

「適当にオタ発言をすれば、みさごさんは満足するんですよ。だからいつも適当言って話を合わせるんですが、今日の冗談は質が悪かったですかね」

「まあ、そんなところだろうと思ったが。みさご君がどうしても調べてくれというからな」

「冗談にもいい冗談と悪い冗談があるって分かりましたよ」

 教師とそう言い合い、みさごの早とちりという事でそのまま話は収束していった。


 話はすぐに終わり、鳰勝は下駄箱の前で靴を履き替えているところだった。

「ちょっと君! あんな事言うからびっくりするじゃない!」

 横からみさごがそう言ってくる。

「悪かったって。まさか本気にしているとは思わなかった」

「君は病気みたいにあのゲームに熱中しているし、私がいままで君の病状を監視してあげていたんだよ。本当に頭がおかしくなったらすぐに病院に連れて行けるように」

 うるせぇ大きなお世話だ。

 そう鳰勝は思っていたが、みさごはこの学校の人気者だ。友人のいない寂しい学校ライフを送っている鳰勝が彼女から目をつけられたら悪い噂を流されまくる事は明白。

 むしろすでに流されている。これ以上の衝突は避けたい。

「スマホは壊したし当分ゲームは禁止してる。監視ももうやめていいと思うぞ」

「壊したって何よ? 普通壊す?」

 みさごの疑問はもっともだが、鳰勝がスマホをぶっ壊すのには十分すぎるくらいの理由がある。

 次の携帯を両親にねだっているが、絶対にガラケーにすると心の底から誓っていた。

 だがスマホゲーをやっていたら異世界に召喚されたとは言えない。適当な嘘を言う。

「ふんずけちまったんだよ。親にも怒られてお前は当分ガラケー使えって言われてて」

「嘘よ。昔のならともかく最近のスマホが踏んだくらいで壊れるわけない」

「古い型なんだ」

 ズンズンとみさごは鳰勝に詰め寄っていく。

 どうすれば彼女の満足する返答が出せるだろうか?

 そう思っているところ、鳰勝の周囲の景色が一気に変わった。

 見覚えがある。ここはモニシアの屋敷の庭だ。

 周囲を見回すと、ものすごく綺麗な土下座をしているモニシアがいた。そしてその後ろには満足そうな顔で笑うフレアがいる。

「てめぇ! 何で呼びやがった!」

 モニシアの後ろにいるノルンに飛びかかりながら鳰勝はキレる。

「なんで私が呼んだって決めつけるのよ!」

「お前が呼ばないと俺がここにはいねぇだろ!」

 またも見え見えの嘘を言い出すノルン。ヤバそうになったらすぐに嘘を言うノルンのいつもの行動パターンにさらに激昂する鳰勝。

「ここはどこなの?」

 その言葉に鳰勝は固まった。

 後ろを振り向くとみさごがいたのだ。

「テメェ! 何してやがんだ! また無関係な人間を巻き込みやがって!」

「今回は私は知らない! 私のせいじゃないわよ!」

 ノルンはどうせ何を聞いても自分の責任じゃないと言うだけだ。そして、ノルンに責任が取れるはずもない。

「おかえりなさい鳰勝。会いたかったわ」

 ケラケラと笑いながらフレアが言う。楽しそうなフレアを、ジトリとした目で見つめるが、鳰勝は諦めてフレアの前に立ってお辞儀をする。

「また、お世話になってもよろしいでしょうか?」

 頭を思いっきり下げる。フレアの顔は見たくない。だって思いっきりニヤついているだろうから見たらイラッとくることになる。

「二人まとめていらっしゃい」

 みさごの面倒も一緒に見てくれるというフレアは、二人を馬車に乗るように案内し始めた。

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