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モニシアの監視役

「あら? 叩き起こそうかと思っていたらもう起きていたの? 残念ね」

「そんな気はしてたからな」

 次の日、日が昇る前に鳰勝の寝る馬小屋にフレアが現れた。

「朝飯前の仕事にいくわよ」

「朝飯前の使い方間違っていると思うが?」

 寝起きなのにフレアの軽口には反応する鳰勝。フレアは楽しそうにして頬を緩ませた。

 ブレスマジシャンとして戦うために最低限の装備として、いくつかの服と杖を渡された。

 それに着替えるとフレアは満足げにしていた。

「見た目は立派な冒険者だわ。あなたには私の息がかかっているのだからそれなりの行動を忘れないでね」

「フレア様の恥にならぬように精一杯お勤めをする所存でございます」

 嫌味たっぷりにそう返す鳰勝。

「この生意気な」

 嫌味に気づいたフレアの言葉だ。

「そうはいっても、馬小屋に押し込められて粗末な扱いを受けている新人だしね。過大な期待を寄せる人もいないだろうさ」

「粗末とかあんたの方から言うなっての」

 お互いに憎まれ口をたたき合っていても嫌そうな顔はしていない。二人は奇妙な友情で結ばれていた。

「ブレスマジシャンの力を見せてもらおうじゃないの」

 どうやら朝食前に仕事に行くつもりらしい。


「バグっていってね」

 フレアが言うには一言で言えばどでかい蜂だ。

 異世界の生き物は軒並み大型で、ウサギでさえ一般人の手に負える大きさではない。

 とはいえバグは冒険者としては手頃な相手だという。

 そのバグがフレアの農園に現れたのだという。いつも朝のこの時間に、ブドウの蜜を吸いに現れるのだ。

「普段なら勝手に帰るからほっておくんだけど、今日は新人の力を試す意味でも倒してみようと思うの」

 そう言いフレアは上着を脱ぎ捨てた。

 コートを脱ぐと、胸当を取り付けた軽装の剣士のような鎧姿が現れる。

「鳰勝。指示を出しなさい」

 剣を構えてバグと相対しているフレアが言う。

「なんだって? 俺が指示を出していいのか?」

「私がいいって言ってるのよ。私に指示を出してあのバグを倒しなさい」

 これもフレアのテストの一環なのだろう。

「バグを取り逃がしたらメシ抜きって事か?」

「それだけじゃないわ。私に怪我させたらうちの者が黙っていないわよ」

 フレアが言うには、自分が怪我をしたら烈火のごとく怒り狂う者がいるという。そいつが怒り狂うと、相手を殺すまで止まらない。

「どうせ。大げさに言っているだけだろう?」

「大げさかどうか賭けてみる?」

 そういうとフレアは自分の腕に剣の刃を当てた。

「ほら。刃を引けって言ってみなさい」

「分かったって」

 フレアの持つ剣は刀ではない。少し引いたところで腕がボトリと落ちることはないが、最低でも皮膚が裂ける結果にはなるだろう。

「私には怪我をさせず、バグを取り逃がさずに倒す。これ結構難しいのよ」

 バグはすぐに逃げ出すし、無策で突っ込んだらフレアが怪我をする危険がある。

「このモンスターの特性がわからんとなんとも」

「見ての通りの虫だから光に近づいていくし毒に弱いわ。こいつを倒すときには殺虫剤を使うのが普通よ。今は持ってないけど」

 フレアの説明で大体のこのモンスターの特徴はわかった。

「やってみないとな」

 だが、戦闘の指揮の経験などない鳰勝が、それを聞いてどうしろという話だ。

「メイル!」

 鳰勝はブレスマジシャンの基本スキルである『メイル』を使った。

 この魔法はフレアの周囲に魔法の壁を作り出し、術を使われた人間を守るのである。

「指示がないと動かないわよ」

「うるさい。今考えてるんだ」

 フレアのハッパをかける言葉に鳰勝は答える。

「これはもしかして……」

 鳰勝はそう言ってメイルの魔法をバグの止まっている木に使った。

 周囲の様子がいきなり変わったのに驚いたバグは逃げ出そうとして暴れているのだ

が、木にかけられたメイルがバグの事を閉じ込めていた。

 バグは木から離れようとするが、カンカンという音がしてはじかれて逃げられずにいる。

「メイルをこんな使い方するなんてね」

 フレアは剣を構えたままそういう。本当に鳰勝からの指示がない限り動かないつもりらしい。この絶好のチャンスでも動こうとしない。

 鳰勝が何か言うしかないらしい。

「木の前まで歩け」

 フレアは言われると悠々と歩いていた。それも当然だ。急がなければいけない状況でもない。

「バグの動きが止まったらメイルを解く。そしたらバグを倒せ」

「アイサー。キャプテン」

 軽口混じりに言うフレア。

 バグの動きが止まった瞬間を見計らい、鳰勝が『ロスト』の魔法を使うと、フレアは剣を振り上げてバグを切り捨てた。

 グシャンと乾いた音で響きつぶされていった。


「はっはっは。なかなか面白いやつじゃない」

 フレアが帰ると鳰勝に朝食を出す。この屋敷には五十人近くの人間がいて、それぞれ冒険者や農夫たちなのだという。

 冒険者と農夫たちは決まった場所などなく思い思いの場所で食事をしているのだが、鳰勝はフレアを同じテーブルで食事をしていた。

「なんで俺だけ?」

 フレアのテーブルのみ、テーブルクロスはシルクでできた高級なものである。

 主人と同席で一段上の高さに置かれている。料理は数品多い気がする。そして、普通のテーブルで座っているこの家の従業員たちからの視線もなにやらいぶかしげだ。

 特別扱いなのは鳰勝にもわかる。

「さて、なんででしょうね?」

 フレアは上機嫌でそう言う。家の者達は、フレアの様子を見てヒソヒソと話をしていた

『あんな楽しそうなフレア様初めて見た』『もしかしたら、あの少年がフレア様の片腕に? 俺たちよりずいぶん年下だが』『そうは言うがフレア様だって十六歳だぞ』

「おまえ十六歳だったのか!」

「そりゃ若く見られないようにいろいろ化粧とかしているからね。私も普通の女の子みたいにかわいいオシャレしたいなー」

 鳰勝は自分と同じ年齢だったフレアに言うが、それは軽く流してどこまで本気なのかわからない事を言ってくるフレア。

「これからは冗談抜きで話すけど」

 フレアはニヤついた顔のままで言う。

「あいつの事をあんたに任せようと思ってるのよ」

「モニシア?」

 鳰勝はそれなりに見込みがあると判断したし、自分はあのアホのために大分時間を使わされている。信頼のおける人間がいればモニシアを任せたいが、優秀な上司がいる場所では部下は育たないというのはどの世界でも共通している事だ。

「荘園の経営のために、なだめて、すかして、ときには脅してで、苦労してやっているのよ。あのバカの世話なんてしている時間はホントはないわけ」

「時には脅してっていうのは納得」

「そこだけ拾うな」

 気分を害した様子もなく、クスクスと笑いながらフレアは説明をつづけた。

 フレアの力を使っていいからモニシアの家の建て直しに協力をしてほしいのだという。

「元の世界に戻る方法を知ってそうなのはあいつらだけだし、元々あいつのアドバイスのために呼ばれたわけだしとか、受ける理由はいろいろあるな。それで、どれだけの協力がもらえるんだ?」

「そうね……あなたには……」

 さっそくモニシアの世話をするための話し合いが始まった。


 鳰勝とフレアは二人でモニシアの屋敷にやってきた。

「あのバカと話す前には気合を入れないと」

 大きく深呼吸をして気合を入れるフレア。フレアは毎回モニシアに会うときはこうして心の準備をしているという。

 フレアの屋敷で一晩過ごしたから鳰勝にも分かるのだが、モニシアの屋敷は汚い。草は雑多に伸び、門に掃除もしておらず靴跡のような泥汚れが付着したままになっている。

 現代の日本であれば木を切って美観を保てなどという文句がきそうなありさまだ。

 現代で言うゴミ屋敷と考えれば大体どのような惨状なのか分かるだろう。

「勝手に入るのか?」

「声かけても出てこないわよ」

 あの屁理屈屋であれば不法侵入だとか騒ぎ始めそうであるが、それには先に手を打ってあり、住居の通行権をモニシアから買っているのだという。

「そんなもんあるのか?」

「ないわ。でもあのバカは金を出すって言ったら何でも売る奴だから」

 鳰勝としてはそんなもの買わずに不法侵入などと騒ぎ立てても殴って黙らせればいいと思う。フレアは妙なところで義理堅い奴なのである。

「なんだ! 金ならないぞ!」

「そんな事知ってるわよ」

「守銭奴が何の用だ?」

 自分の家の敷地を金で開放する奴に言えた言葉ではない事を言う。

「ギルドからの通達よ。今回の依頼を踏み倒した件はギルドが変わりに責任を取ることになったわ」

「ふむ」

 フレアが言うとモニシアはふんぞり返った。

 その様子だけで『相手がギルドなら踏み倒せる』とかクズな事を考えているのは明白だ。鳰勝も心の底から怒りがこみ上げたが、ここではそれを表には出さない。

「その変わり、私が責任をもってあんたの事を監視する事にしたわ。この鳰勝が私の代理としてこの家で監視をする事になったから」

「ほう。なるほど」

 モニシアはうんうんと頷く。どうせクズな事を考えている事は明白だ。大方、鳰勝なら脅しが効きそうとでも思っているのだろう。

「言っとくけど、支払いの義務がなくなったわけじゃないわ。どれだけ時間がかかっても納品はする事。いいわね」

「了解だ」

 了解と言いつつ絶対に出す気がないのは明白である。

 怒りがこみあげてくるものの、フレアから絶対に怒ってはならないと言われている鳰勝は無表情でモニシアの事を見つめる。

「まずは、依頼の一つであるウサニンジンの種五十個を集めに行ってもらいましょう」

 ウサニンジンとは異世界の大型の根物の野菜だ。

 人参と似ており甘みがあって赤い色をしている。

 これはよくヒトクイウサギという、大型のウサギ型のモンスターの体に付着しており、ヒトクイウサギを倒して種を集めるのだ。

 この世界で栽培してもなぜか種ができる前に枯れてしまう。気温や、日照などが原因であるなど仮説はあるが、現在種を栽培することは不可能でヒトクイウサギを倒して手に入れるしかない。

「あんなもの私であれば一ひねりである」

 モニシアは自信満々で言う。

 だが鳰勝は、モニシアはヒトクイウサギを一頭も倒したことがないとフレアから聞いていた。

「案内をつけてあげるから代金を徴収するわ。後払いは受けないわよ」

「なんだと。横暴だ」

 いきなりモニシアはこちらを強くにらみつけた。やはりフレアの言った通りであった。

 金を払えと言った瞬間モニシアの態度は急変する。物を請求するなら踏み倒せばいい。だがここで料金を徴収するとなると金を出さないわけにはいかない。

「私に従わないなら、私は保証人を降りるわ」

 そして、モニシアの保証人になると手を挙げている人物がいるのだという。

 ライネッドというその名を聞くとモニシアはピクリと眉を動かした。

「もう話は済んでるわよ。屋敷の通行権もライネッドに売るし、その他もろもろもね」

 それを聞くとモニシアも固唾を飲んだ。

 あの借金取りが自分の家の敷地を自由に出入りできる権利を得るのだ。

 それに債務も増える。いくら先を考えないモニシアでも、これがどれだけまずい事かくらいは分かるだろう。

「タダではうちの者は貸せないわ」

 力を借りたりお願いをするには何かの代償が必要である。例え仲の良い相手でも幼馴染でも同様だ。金のつながりを軽んじる人間には、この世で取引をする資格がなくなる。

「あんたはそういうとこから覚えなさい」

 フレアからの厳しい言葉だ。それからフレアはモニシアに詰め寄っていった。お決まりの口調でモニシアにプレッシャーをかけていく。

「は……ら……い……な……さ……い。いいわね?」

「これは脅迫と押し売りだぞ。この事は覚えておけ。いつか訴えてやるからな」

「そうなってほしいわ。そうなってないという事は、あんたが奴隷としてどこかに売られていて、訴訟を起こす権利すら失っているという事だからね」

 これはフレアの心の底からの本音であった。


「準備の時間くらいあってもいいだろう」

「お前、装備残ってるのか?」

 モニシアの文句に鳰勝が言う。

 モニシアの事なら大体わかる。こいつは、武器や具足なんてものを持っていたらすでに売っているはずだ。

「えっと。モニシア様。本日の案内を務めさせていただきますテオニカといいます」

 モニシアの案内役として派遣された冒険者の少女が言う。

「やっと名乗ったか。いつ言うかと思っていたが、今更か?」

 モニシアは初めての相手にはとりあえず強気の態度をとる。鳰勝は黙ってそれを見ていた。

 形はどうあれモニシアは客だ。客に対して無礼があってはいけないのは当然である。

 フレアはこういう義理は絶対に通すように徹底している。どのような態度を取られても彼女はモニシアに文句を言ってはいけない。

 今は森に向かう馬車の中。

 森の入り口にはキャンプがあるのだという。そこでは割高で異世界の植物から作られた、傷を一瞬で治したり体の中の魔力を回復させるポーションが売られている。

 深くに行けば行くほど、濃い異世界の魔力が森の中に充満し、魔力が濃ければ濃いほど強いモンスターが現れる。

 その魔力の濃さは専用のメトロノームで計る。メトロノームの振動が早ければ早いほど、魔力が濃い場所の証であるという。

 異世界のモンスターにとっては、魔力の濃い場所のほうが居心地がよく、強いモンスターは魔力の濃い場所で活動する。

 弱いモンスターになればなるほど、強いモンスターに追いやられて魔力の弱い場所に行くので、魔力の弱い場所には弱いモンスターしか出ないのだ。

「今回は一段階の場所に行きます。まだこのメトロノームも反応していません」

 キャンプに行くと一段階目までメトロノームが反応するのだという。

 キャンプから出れば、どこでもヒトクイウサギと遭遇するチャンスがある。珍しいモンスターでもないので、種を集めるには一日かからないはずだ。

 以上がテオニカの説明である。

「私はただの案内役であり戦闘に参加は致しませんのでご理解ください」

 テオニカの最後の説明に尊大な態度のモニシアが舌打ちをして言い出した。

「相変わらずお前の所は融通が利かないな。そんなんでよくやっていけるものだ」

「やっていけてない奴が何言ってやがる」

 さすがに頭にきた鳰勝が言う。

「貴様。私に無礼を働くとどうなるか分かっているのか?」

 モニシアが鳰勝に言い出す。

「お前はそれよりも先に自分の行く末をわかる様になれ」

 鳰勝が言うのにビクリと体を震わせるモニシア。鳰勝に限界が近づいてきている事を、本能で感じていた。


「さっそく見つけました」

 テオニカは慣れているだけあって素早い。

 すぐに獣道を見つけ、餌場を予測し、糞を見てヒトクイウサギの居場所に目星をつけて十分で一頭目のヒトクイウサギを見つけたのだ。

「あれで人が食えるのかね?」

 腰ほどの高さのヒトクイウサギ。確かに大きいが人を食える大きさとは思えない。新米の冒険者にとっても片手で捻れるような敵であるというからにはこんなものなのだろう。

「ふん。あんな奴で私の剣を汚さないといけないとは不愉快だ」

 モニシアは言いつつ、持っているのは木の枝である。カッコつく見た目ではない。

「メイル」

 鳰勝はモニシアに魔法を使った。

「俺がサポートだ」

 この仕事はモニシアにやらせる。自信満々だからあれくらいの相手は倒せるであろう。

「いやまて。こいつの自信満々?」

 モニシアが自信満々なのを見て不安になってきた。こいつがクズだとは重々身にしみてわかったこと。

 こいつが自信満々でも虚勢にしか見えない。

 もしかしたらヒトクイウサギにも負けるかもしれない。

「お前の手助けなどいらん。魔法を解け」

「ロスト」

 モニシアの言葉通り、鳰勝はメイルを切った。

「なっ! 貴様は何をしている! 魔法を解いたらお前は何のためにここにいるのかわからんだろう? 役に立たないつもりか!」

「俺はお前の監視として役に立ってるし、テオニカは案内役として役に立っているし、何の役にも立っていないのはお前だけだ」

 もう今更『さっき魔法を解けといっただろうが』などという事は言わない。いっても意味はない。

「さっさといけよ」

「ふん。この無礼をいずれ後悔させてやる」

 ほんと、そうなってくれたらいいんだけどね。

 ふと鳰勝の頭にそう考え浮かんだ。

 モニシアの尊大で自分勝手な言葉にはすでに腹が立たなくなってきている。モニシアの事を人間として見ていない冷静な自分が自分の中にあるのを、鳰勝は感じていた。

「私があんな小物に後れを取るはずが無かろうが!」

「だから行けよ」

「低級のモンスターだぞ。役不足も甚だしい」

「ビビってんだろ」

 なかなかヒトクイウサギに攻撃を仕掛けないモニシア。やたらとゴタクばかり並べるのを見て、どうやらヒトクイウサギが逃げていくのを待っているような様子だ。

「メイルかけてやるから、勇気だそうか」

 鳰勝が再びモニシアにメイルをかける。

「ふん。では行ってやる」

 そう言いモニシアは重い足を一歩踏み出した。それから駆け出す。

「でやああああぁぁぁぁああ!」

 やけに大げさな気合を入れてヒトクイウサギに猛進していく。モニシアがヒトクイウサギに枝を叩きつけるが、ヒトクイウサギは全く微動だにしなかった。

「効いてないんだな」

 モニシアの攻撃はまったくダメージを与えていない。

 鳩が豆鉄砲でも食らったような様子で顔をあげたヒトクイウサギは、モニシアの事を見上げるとモニシアに正面を向けた。

「あ……あ……」

 ウサギと対面してビビりまくっているモニシア。

「動きを止めちゃだめですよ!」

 テオニカがアドバイスを出すがモニシアに聞こえているとは思えない。

 ヒトクイウサギはモニシアに体当たりをしていった。モニシアはそれをもろに食らって吹き飛ばされる。

「弱い!」

 騎士を名乗るだけあってモニシアも多少の力があると思っていたが、モニシアはヒトクイウサギに一撃でのされていた。

「テオニカ! 戦えるか!」

「装備を持ってません!」

 まさかヒトクイウサギに負ける冒険者がいるとは思っていなかったというのだ。

「えいくそ!」

 戦える装備を持ってきているのは鳰勝だけだ。

 杖など役に立たないので鳰勝は拳を握った。

「かかってこいやぁ!」

 その威勢に反応したヒトクイウサギは鳰勝の方を向いた。


「なんとか勝てた……」

 いくらどでかい生き物とはいえウサギだし腰ほどの高さ。必死になれば倒せない事もない。

 ヒトクイウサギは多分死んでいないだろう。だが目を回して動かなくなっている。

 ヒトクイウサギの事を見下ろした鳰勝。そして、モニシアの事を見下ろした。

「こいつはどんだけ弱いんだ?」

 鳰勝は攻撃の手段を持たない。テオニカも護身用のナイフすら持ってきていない。

「ずらかるぞ!」

 モニシアの事を抱え鳰勝はその場から逃げ出した。

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