ロクでなしの騎士
「あんた! 借金どうする気よ!」
街中で怒声が響く。
レンガ作りの家が並びイラストの書かれた看板が並ぶ市場の街並み。
ゲームの世界のような中世のヨーロッパのような町だ。
買い物途中の周囲の人間はその怒声を上げた女性とその言葉をぶつけられた騎士の少女に視線を集めた。
女性はこれから商談にでも行くというような正装のドレスを着ており、この町中で鎧姿をしている騎士と比べて長身である。
その女性に言い寄られてオロオロしながらも、騎士は言い訳だけは饒舌に並べ立てていた。
「私の家の者達が! 私を慕って褒めたたえてくれる人たちがいなくなる!」
「あんたが給料払っているから褒めたたえているだけよ! それと、あんたのパフォーマンスが上手いから!」
戦争はなくなり戦士である騎士は無用の長物になった。
荒事の解決は冒険者の仕事でプライドが高く、仕事に対するハングリ-さのない騎士には荒事の仕事など回ってこない。
「使用人の給料のために借金! 使用人の給料のためにまた借金! 使用人の給料のためにまたまた借金! あんたの借金いくらになってんの!」
「何を言う、文句があるならお前が払えばいいだろう!」
「死ね!」
騎士は女性がここまで怒るのも当たり前の事を言う。大きく息を吸った女性は、冷静に平坦な声で話し始める。
「私の荘園のお金は私の物じゃないの。荘園の従業員みんなのお金を管理するのを任されていると考えているわ。あんたは自分の金だとか思って勝手に使って、勝手に借りて、それを繰り返して気づいたらどうにもならなくなっていましたって事でしょう?」
そう言った後結論を女性は言う。
「あんたはそういう考えだから上手くいかないのよ」
経営者には責任と義務がある。それも考えずに自分の都合だけで金を使っていては、上手く運用できないというものだ。
「あんたの家督と経営権を貸しなさい。私が経営の見本を見せてあげるわ。ついでにあんたはうちの農園で農婦として働きなさい。今の時代の騎士の生き方ってものを叩き込んであげる!」
「何を言ってるのだ! もっといい方法を提案したらどうだ? 楽でスマートにカッコよく借金など返済できるだろう? お前なら方法を知っているだろう!」
「知っててもあんたには教えないわよ。コツコツやって苦労する以上にいい方法なんてないの」
「人に物を教えようというのなら少しは配慮を考えろよ。教えられる側がやってみたくなるような、楽しくできる方法を提示するのが教える側の義務だぞ」
「あんたが借金取りに奴隷にされるまで待つのが一番いい方法に思えてきた」
頭を抱えた女性はそれで振り返った。
「何だよ見捨てるなよ! なんで人の事をそう簡単に見捨てるんだよ!」
その言葉はまたさらに、女性の琴線に触れた。
「なんでか分からないなら死ね!」
最期の言葉のつもりで吐き捨てた女性は自分の馬車にまで歩いて行った。だが騎士はさらに女性の琴線に触れる言葉を言う。
「なんだよ聞いたかみんな! 今こいつ、私に向けて死ねって言ったぞ! 聞いたかー!」
大声で叫ぶ騎士に怒りが限界を超えた女性は振り返って騎士に向けて猛進した。
「むしろ殺してやるわよ!」
完全に頭に血が上っている女性の様子を見て、御者の男も止めに入るために馬車から降りる。
だが女性も騎士として日々訓練を続けている者だ。ただの御者に追いつく事ができるはずもない。
数分後にその場に戻ってきた女性は奥歯を噛みながらイライラした顔をしていた。
「あいつ、逃げ足だけは速い」
御者の男が自分の事をおどおどしながら見てくるのに気づいた女性は大きく息を吸った。
「もう行きましょう」
怒りを押し殺して言ったその女性は、自分の馬車に乗り込んでいった。
「借金借金って、嫌味を言いたいだけならわざわざ来るな」
愚痴る騎士。騎士は街を歩いていた。屋台で買った飴を銜えて街を歩いている。
日が傾きかけており屋台も店じまいを始めている。この世界は夜になったら活動をやめる。灯りになるのは松明やランプくらいであり、それでまともに活動をする事などできるはずもない。
カーテンなどの幕がかけられて、営業終了を示すバツの書かれた看板がぶら下げられている屋台が並ぶ中、騎士は家路を歩いていた。
「あいつ。いつか借金まみれにして同じことを言い返してやる!」
自分の借金を返すメドすら立っていないのに大層な夢を語りだす騎士。その騎士に声がかけられた。
「騎士様。あなたには不思議なパワーを感じますね」
その言葉に反応した騎士が声のした方を向くと占い師がいた。フードを深くかぶって顔も髪も伺うことはできない。見た目からでは年齢すらも全く分からないくらいだ。
水晶玉に手をかざした占い師は、騎士を手招きして自分の向かいに置かれている椅子に座るように促す。
「そうだろう。私はかのセイルーク家の当主である。よくわかったではないか」
何の疑いもなく席に座った後、ふんぞり返って言う騎士。
「なかなかできる占い師だ。あの女に不幸を与える事ができる方法を教えてくれたら、うちで雇ってやってもいいぞ」
騎士もどこまでクズなのだろうかという事を占い師に言い出す。
「町の郊外にある女神像に祈りを捧げるのです」
郊外とは今は子供の遊び場になっている場所だ。昔は信仰の対象としての広場があったなどという話も聞いた事があったが、女神像など影すら見たこともない。
「女神像に祈りを捧げれば、未来は開けますよ」
それを聞くと占い師にチップも払わずに騎士は郊外に向かっていった。
占いを聞いてお題も払わない騎士。不思議なことに、占い師はそれでも不満はない様子である。
「私には運が向いているのだな。こんなに早くあの女に復讐をする機会ができるとは」
すでに復讐ができるつもりの騎士。そろそろ薄暗くなってきた時間だ。一見では女神像は形も見えなかったが、騎士はこういう時に限って目ざとく目的のものを見つける奴だ。
「これか?」
倒れている大理石でできた像を見つけた騎士。土で汚れていて腕も欠け落ちている。どう見てもボロボロの姿をしていた。
「なかなか霊験あらたかな像だ」
この像に過剰な期待を乗せている騎士は、ボロボロの見た目の像を見てそう言った。
何の迷いもなく祈りを捧げる。
「あの女に災いを起こしてください」
そんな願いだったら悪魔に頼んだ方がいいような事を願う。
「願いを聞きました」
ふと、騎士の耳にそう声が聞こえてきた。
「おお! 女神様の恩恵を受けられるのだな!」
「私は時空の女神であるノルン。あなたに時空の加護を与えましょう」
やけにあっさりと降臨してきた女神。優しげな笑顔を称えた姿は、まさに女神という様子だ。
「私はあなたの信仰の心を力にします。私を崇め、褒めたたえなさい。賛美しなさい。私にすべてを捧げなさい」
「なんかこの女神、ずうずうしいぞ」
自分の事を棚上げしてそうつぶやく騎士。
話がうますぎるとか、おかしいとか、そういう事は一切考えない騎士。本気で女神が自分に恩恵を与えてくれると信じ切っているようであった。
女神はさっそく騎士に恩恵を与えるようである。
今は午前四時。鳰勝はパソコンに向かっていた。
「新キャラが入るこの瞬間が何よりも楽しみで」
毎日午前四時に新キャラが入る。
この時間に探索に出したキャラが戻ってくるように調節していた。
今鳰勝がやっているのは美少女が社員となる経営シミュレーションゲーム。出ては消え、出ては消え、を繰り返す、有象無象のゲームのうちの一つである。
鳰勝はこのゲームに並々ならぬ情熱を燃やしていた。
灯りもつけずこのゲームに熱中している鳰勝は、このゲームに出ている一人のキャラに熱中していた。
「モニシアたーん。今日も声を聞かせてー」
思わず口走る鳰勝。
このてのゲームは画面に出てきたキャラをクリックすると、声優の入れた声が出る。
『背が低いからと言って侮るのは許さんぞ。こら、頭をなでるな』
この声を聞くために鳰勝は、何度もそのキャラをクリックし続ける。
病的なほどにこのゲームに熱中している彼は、何かに取り付けれたように、その声を延々と聞き続けた。
それは学校に間に合うギリギリの時間になるまで続くのだ。
「目ぇ真っ赤だよきみぃ」
いつものバスから降りると鳰勝は声をかけられた。
ちょうど自分の通う高校の前に止まるバス停がある。毎日自分の事を待ち構えているクラスメイトのみさごがいつものように声をかけてきた。
目の前にはコンクリートで作られた標準的な見た目の学校がある。彼らの通う第二甲河高等学校は普通の県立校である。
美少女育成ゲームにハマっている事以外はふつうの高校生である鳰勝。だが、病的なほどのゲーム好きがたたり、冴えないオタク男子の一人として扱われて普通の寂しい高校生活を送っていた。
その鳰勝になぜかちょっかいをかけてくるみさご。
普通に友人も多く男子からも人気のあるみさごが鳰勝にちょっかいをかけて来る理由は周囲にとっても鳰勝にとっても謎であった。
本人に聞いたところこう帰ってきた。
「あんたは単純でわかりやすいからね。そういうバカな奴をからかうのが、日々の人間関係に疲れた私にとっては最高の癒しになるわけよ」
臆面もなく言ってきたし十分本音そうな言葉だった。
「また、愛しのモニシアたんに愛を語らっていたの?」
こうやってからかってくるみさご。あの言葉が本気であると確認することができる。
「ああそうだね! 愛をささやき続ける一途な想いが、いつか彼女を画面から飛び出してくるためのパワーになるのだ」
鳰勝は言う。
「相変わらず一途な愛ですこと」
ケラケラと笑いだすみさご。
こう言うとみさごは満足して他の友人のところに行って挨拶をし始める。
「ノルマ達成」
みさごを適当に追い払うことに成功した鳰勝は、彼女の後ろ姿を見送ってノロノロと歩いて学校に向かった。
鳰勝は昼休みには基本一人である。今の時代一人でもスマホをいじっていれば飽きることはない。いつもどおり、つまらなそうな仏頂面でスマホをいじっていると不思議なメールがあった。
『あなたの力で借金返済! 美少女達と親交を深めよう』
普通に見れば新しいゲームの広告だ。新作のゲームは一通りチェックしていたはずだが、見出しの『今すぐゲーム開始』というのを見ると、知らない間に始まった新作であると分かる。
昼食を食べ終えてやる事もなくなった鳰勝は、少しやってみようと思いそのゲームを開始させた。
「モニシアたん?」
自分が病的なほどに愛してやまないキャラが始めに現れた。流れていくテキストを見ると自分はノルンという時空の女神によって異世界からアドバイスを出すように頼まれたアドバイザーらしい。
キャラをパクられたのか、それともスピンオフかわからないが、自分の愛するキャラがメインヒロインのゲームなら始めるに決まっている。
さっそくゲーム開始する。農園を発展させていくゲームらしい。
普通のゲームなら初期に少量の資金があったり、小さな農場があるのだが、それもない。
出稼ぎという項目があるので、それでお金を集めて土地を買うのだろうと思ったのだが、どの出稼ぎの仕事を選んでも、モニシアはその仕事を拒否する。
冒険という項目もあるが、仲間が一人もいない状況で冒険に出るのは不安である。仲間を手に入れる方法も書いていない。課金でもないようだ。
「なんだ? どう進めるんだ?」
これは帰ってから詳しく調べる必要があるようだ。
昼の休みも終わりが近づいていたのでスマホを仕舞った。
「なんだ女神。お前のアドバイザーはロクな指示を出さないじゃないか」
騎士は降臨した女神にそう言う。
「出稼ぎに行けしか言わない。もっといい方法を教えてくれるんじゃないのか?」
この騎士の名前はモニシア。父は戦場に行って戦死をした。続いて母も病死。子供の頃から問題のある子で、彼女の母が死ぬ間際昔から仕える使用人にこう言い残した。
『遺産の運用には手を出させないで、余計なことをせず、遺産を切り崩して生きていけば死ぬまでやっていけるはずだから。困ったときはフレアちゃんに……』
フレアというのはモニシアの幼馴染の女の子だ。昔から頭がよく、勉強熱心な努力家で、女にしておくのが惜しいと彼女の両親が言っていたほどである。
彼女の母の言いつけを尊寿し、使用人はモニシアに資産の運用に手を出さないように止めようとした。
そうしたら、モニシアはその使用人を即解雇したのだ。
その使用人の解雇から彼女の横暴は始まり、自分の事を慕う人間のみをそばに置くようになった。
昔から仕えていた使用人は次々解雇。中には自分から辞めていった者もいた。自分を慕う使用人だけが残り、その使用人の給料を倍額に増やし、給料を調達するために農園や牧場を次々売却し、それがなくなると借金をして、今では自分の家の家督を抵当にあてて今に至る。
「そうですよ。モニシア様に合った仕事を用意できないなら奴もクビでしょう」
使用人の一人が言う。
見た目は若くて純真そうであるが、とんでもない事を言うものだ。
もともとは純真ないい娘だったのだが、モニシアの横暴を側で見て感覚が壊れてしまっている。
今ではモニシアのわがままで横暴な行動をかっこいいと言って称賛しているくらいだ。
「こいつをコキ使ってアイデアを出させないといけないわ。使い切ってボロボロになる前に解雇するのはもったいないわよ。給料も必要ないんだし」
それを言ったのはモニシアの元に降臨した女神ノルンであった。
荘厳な姿を見せていたのは最初だけ。モニシアと意気投合をしたノルンは、自分を清らかに見せる事などとうにやめている。
「だけど、ちょっとはエサを与えないとな」
モニシアも少しだけ思慮がある。
いきなり経営のアイデアを出せなどと言っても普通は無理に決まっているし、そこまで本気になってくれるとは思えない。
「昔から人をタダで動かすにはお涙ちょうだいだって相場が決まっていてな」
自分は賢いと思っているモニシアは余計な事を考え出した。
鳰勝が帰るとパソコンを開いてゲームを確認する。
ゲームのモニシアは変らずかわいい。自分の事をキリリとした目で見つめてくるのが無理して背伸びをしているようにしか見えないところが最高である。
スマホを開き、ついさっき始めたゲーム開いてみた。そうすると画面が開き何かのイベントのようなものが始まる。
『異世界からの知識を持ってきているのですか』
かわいいメイドが画面に出てきた。鳰勝に話しかけるようにしてテキストが流れていく。
『すごいです。私にもいろいろ教えてくださいね』
そうやっておだてた後、メイドは急に悲しげな顔になった。
『あの方は優しい方なんです。私達の事を大事にしてくださいます。使用人をどうしてもクビにしたくないと、借金をしてでも給料を払っていただいています』
それをはじめにメイドはモニシアの事をどんどん持ち上げ始めた。
モニシアは両親を亡くしている。両親から受け継いだ家督を守らないといけない。現在家督さえも抵当に納めているので後がない。
だが立場もあるのでみっともない仕事をする事もできない。鳰勝からの出稼ぎの指示を拒否したのもそれが理由なのだと。
そういう事情も踏まえてモニシアにふさわしい仕事を選んでもらえないだろうかと。
そこで新しいキャラが現れた。
『邪魔するわよ』
謎の女性の事を見てメイドは頭を下げた。だがあまり表情は穏やかではなく彼女の事を敵視しているのが丸わかりであった。
『これはフレア様。このようなむさくるしい場所にどのような要件ですか?』
『突っかからないでよ。別に邪魔しやしないわ。モニシアに異世界からアドバイスを出す奴がいるって言うから様子を見に来たのよ』
それで、フレアは背景に溶け込んだキャラの一つになった。
『自分は成功しているからって言っていつもモニシア様に嫌味を言う嫌な奴らしいです』
『モニシアはいつも私の事をそう言っているの?』
フレアのセリフだろう。そのテキストの後にメイドが怪訝な表情をしていた。メイドの表情はその後懇願する泣き顔になった。
『どうしても、今日中にお金が必要なことがあるのです。アドバイスをお願いします』
そのセリフを最後に通常画面に戻る。そうしたら、画面に取引というコマンドが増えていた。
それをタップすると画面が切り替わる。画面にはさっき出てきたフレアという女性が現れた。
『とりあえずすぐに金が要りような事態なら前金のある取引をする事ね』
そういうものがあるらしい。フレアの説明によると、もらえる前金を使ってその場をしのぐというのは、フレアが駆け出しの自転車操業だった時代によく使った手だという。
『当然の事だけど受けた依頼は必ず達成しなさい。達成できないと手痛いしっぺ返しを食らうわ。私が出した依頼は受けない事ね。達成できなかったら私自身が屋敷に乗り込んでいくわよ』
最後のセリフを言うとき、フレアは鬼のような形相になった。
親切な奴なのか悪役なのかよくわからない奴である。
こうやって乗り切るのかと思い、鳰勝はゲームのシステムである図鑑を調べて手に入れられそうなものを探す。
そのアイテムを求めている前金の出る依頼を見つけると、それをクリックしてその場はしのいだのだ。
相変わらず出稼ぎの仕事は受けないモニシア。
また時間が経ったら次のイベントでもあるのだろうと思い、スマホのページを切った。
モニシアは父の使っていた書斎をそのまま使っている。だが、父が手に入れた農学書や薬学書は価値も知らずにすべて売り払っていた。
本が一冊もない書斎。その上、父が集めた品のいいコレクションもすべて売り払われ、コレクションを並べる棚と立てかけのみが残った奇妙な殺風景さのある部屋の椅子にモニシアは座っていた。
後ろにはノルンとメイドの少女を控えさせ、王様になったような気分を味わっている。
「なんだ、そんな簡単な方法があったのか」
モニシアは前金のある取引の話を聞いた。
「フレアの奴はこういう事を教えないんだよな。方法があるじゃないか」
困ったやつだ。とでも言いたげにして頭を抱えるモニシア。
「ノルンが行ってくればいいだけだ」
フレアがモニシアに前金のある仕事が回らないように手配していたことを知らずに、モニシアは言う。
ただ、ノルンであれば前金のある仕事を受けることができるという事実だけは、目ざとくかぎつけた。
「金を持ってきたら一割をやろうじゃないか。かたっぱしからとってこい」
ノルンはモニシアに指示されてノリノリであった。
「アイサー。行ってまいりまする」
この様子からわかるように、すでに完璧にノルンはモニシアの取り巻きの一人に組み込まれている。
鳰勝はいつものゲームでキャラを探索に出してから寝る準備に入った。
布団に倒れ込むと、最期にスマホでメッセージなどの確認をする。
スマホのゲームの事も思い出し、そろそろイベントが起こっているだろうと思ってゲームを起動させた。
いきなり鬼のような形相をしたフレアが現れる。
『事情を聞かせてもらおうかしら』
「なんだこれ?」
『なんだじゃないわよ! あのアホが手あたり次第に依頼を受けまくっているというけど!』
鳰勝の言葉に反応するようにしてテキストが流れた。フレアはそれから続ける。
『バラ二百本なんてどうやってあと三日で達成する気よ! 農園全部売却したんでしょう!』
鳰勝は今とっている依頼を調べた。
取った覚えのない依頼が大量にならんでいたのだ。全て前金ありの依頼である。しかも手持ちの金は全く増えていない。
「一つしか取ってないのに……」
『そうね。最初の依頼はあんたがとった事は確認したわ。他の依頼はノルンとかいう女が取った依頼だって言うけど』
ノルンという名前にはうっすらと聞き覚えがあった。
「時空の女神……?」
『めがみ?』
怪訝な顔をしたフレアは鳰勝をにらみつけながら言う。
『あんたに言ってもラチが明かないって事ね。私があいつの屋敷に乗り込んでいくわ』
そう言い、フレアは画面から消えていった。