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エピローグ

「成人、おめでとう。これからの諸君の活躍に期待して、挨拶とします。平成24年1月9日。七海市長、()(とう) 正臣(まさおみ)


「夏樹ーっ!」

 スーツに身を纏った朝倉 夏樹(20)は自分を呼ぶ声に振り返った。

「おう! 優翔……ってお前、その袴イカツすぎ!」

 坂上 優翔(20)は息を切らしながら夏樹の元へ駆けつけた。

「元気そうじゃん!」

「優翔こそ」

「佐野さんも、元気?」

 佐野 綾音(20)が「うん! ありがとう」と笑って答えた。

「なんだ、やっぱり仲いいんじゃん」

 優翔がトントンと夏樹の肩を押した。

「ま、ケンカもたまにはするけどな」

「ケンカするほど仲がいいってことだよ」

「それより、お前はどうなの?」

 優翔の顔が赤くなった。

「うん……まぁ、順調?」

「どこにいるんだよ?」

「あっちで、飯沼と中塚、新庄と話をしてる」

 夏樹が目をやると飯沼 水穂(20)、中塚 麻里(20)、新庄 萌(20)の3人が和田ちひろと楽しそうに話をしている。ちひろと優翔は大学1年のときから付き合いだしたのだ。

「それで? 皆は最近どうなんだ?」

 夏樹が優翔に聞いた。

「あぁ、飯沼はいま、半田と付き合ってるらしいぜ」

「マジでか! 意外な展開だな〜」

「新庄と中塚は女子大だから、彼氏ができなくって困るとかわめいてる」

「ハハッ! らしいよなぁ」

 夏樹はおもしろそうに笑った。

「それで? お前はどうしてんの?」

「あー、今は下宿してるけど、たまに姉ちゃんや綾音が来てくれるからなんとか生活が崩壊しないですんでる」

 夏樹は千葉県内の大学で物理学を専攻していた。自分のしたい勉強ができる学部学科がここにしかないから受けたいと両親を説得し、覚悟を見せるためにその大学1本だけで受験した。結果は見事合格。それも、トップ5入りする成績を収め、1年生のときの授業料は無料になったほどであった。

「そっか……楽しそうにやってるな」

「うん……」

 しばらく沈黙が続いた。

「なぁ」

 優翔がカバンを見つめて夏樹に聞いた。

「ん?」

「そのカバン何が入ってるんだよ?」

「へへ。ナイショ」

「えー? 気になるなぁ」

「へへーん! ナイショ!」

 夏樹は少し意地悪そうに笑ってカバンを後ろに隠した。

「夏樹ー! 写真撮ってあげる!」

 夏樹の姉・陽乃(22)が綾音の兄でもある彼氏の佐野 翔(22)と並んで夏樹たちを呼んだ。

「どうせなら、皆も入って」

 陽乃が優翔やちひろたちを呼んだ。

「いいんですか?」

「多いほうが賑やかでいいじゃない! さぁさぁ! あ、二人も入りなよ」

「あ……あー!」

 夏樹が思わず大声を出した。

「よう! 夏樹!」

「元気にしてた?」

 陽乃の後ろから現れたのは、なんと森脇 勇人(20)と幾田 早苗(20)だった。

「勇人! さな! めちゃめちゃ久しぶりじゃーん! どうしたんだよ!?」

「へへ〜。俺は東京の大学、早苗が神奈川の大学に通ってるんだ」

「マジかよ! いつ上京したんだ?」

「決まってるじゃない。大学1年生からよ」

「そっかー! すげぇ久しぶり! 嬉しいなぁ」

 夏樹の顔が、小学生当時とは違いずいぶん明るくなったのに勇人と早苗はかなり驚いていた。

「お前も元気そうでよかった」

 勇人が嬉しそうに笑う。

「まーな」

「それに、彼女さん美人じゃない」

 早苗がツンツンと夏樹の肩をつつく。

「よせよ、さな」

「ま、早苗のほうがカワイイけどな〜」

「よしてよ勇人!」

 夏樹は少し呆然としたが、しばらくして聞いた。

「何? お前らひょっとして……」

「うん! 付き合ってる」

「っひょー! マジか!」

 夏樹は大声を出して喜んだ。

「ちょっと〜、積もる話は後、後! 先に写真撮るよ〜」

「あ、わかった! 行こうぜ勇人、さな!」

 2列に並ぶ。後列の向かって右から勇人、早苗、萌、麻里、恭輔、敬吾。前列が右から優翔、ちひろ、夏樹、綾音、水穂が並んだ。

「いい? 撮るよ〜」

「あっ! 待って姉ちゃん!」

 夏樹はそう言うなり飛び出して列を抜けた。

「ちょっと! どこ行くの?」

「すぐ戻るって」

 夏樹はカバンの中から何やら大きいものを取り出した。

「……。」

 全員が一瞬、黙り込んだ。しかし、夏樹の一言で空気は和らいだ。

「絶対一緒に写さないと、マジギレすると思うから」

 夏樹が取り出したのは、明日香の遺影だった。

「……いい?」

 夏樹が綾音に聞いた。

「当たり前やん。貸して、ホラ!」

「え?」

 綾音が明日香の遺影を夏樹から取り上げた。

「なっちゃんがいっつもお世話になってます〜やって!」

「バッ、バカ! 似てねぇよ!」

 夏樹が真っ赤になる。ドッと笑い声が起きた。

「はいはーい! じゃ、撮りますよ!」

「はぁーい!」

「いきまーす、はい、チーズ!」


「じゃ、今から同窓会行ってくる」

 夏樹は成人式でもらったプレゼントを陽乃に預けた。

「オッケ〜。ま、飲み過ぎないようにね」

「姉ちゃんじゃないからそれはないな」

 ゴツン!と陽乃が夏樹の頭をグーで叩いた。

「陽乃、お前それはキツいわ」

 翔が苦笑いしながら言った。

「今日は成人の祝いで特別のゲンコツなんだから」

 陽乃も笑いながら言う。

「明日香ちゃんも一緒?」

「うん」

「綾音ちゃん、怒らないの?」

「全然。むしろ、夏樹のこといろいろ教えてもらうのとか言ってる」

「そっか……なら、よかった」

「夏樹〜! 早く早く!」

 優翔の呼ぶ声が聞こえた。

「じゃ、行ってくるよ!」

「うん。気をつけてね」

「はーいよ」

 夏樹がサッと走り出した。


 一瞬、足を止めた。


 快晴だ。


「明日香……成人、おめでとう」


 空に向かって呟く。






 一人じゃないからね。





 そう、聞こえた。



「うん……ありがとう。またな……」



 夏樹は空に向かって手を振った。



 それから、綾音と優翔の間に駆け込む。



 明日香。



 今まで、俺は君と愛し合ったのは、間違いだったのかなとか思った。




 でも、間違いなんてひとつもない。




 起きたこと、すべてが皆にとっても、明日香にとっても、俺にとっても意味があったんだよな。



 明日香は、いろんなことを教えてくれた。




 でもこれからは、きっともっといろんなことを教えてくれる人ができた。




 ね、綾音。



 俺は行くよ。




 また、会えるときがきっと来るって信じてる。




 友達かもしれない。




 家族かもしれない。




 恋人かもしれない。




 でも、きっと、間違いなんてない。




 サヨナラなんて言わない。



 

 またいつかきっと、会えるから。




 そう、信じてる。




 また、会おうな。











 



                                      二人きりの座席 〜完〜 










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