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第72話 真実の席〜君が書いた手紙〜

 2009年12月24日(木)。クリスマス・イヴ。せっかくのイヴにも関わらず、夏樹は自分の部屋でボーッと窓から外を眺めていた。クリスマス、天気は大雪。ホワイトクリスマスだったけれども、夏樹には外へ出て過ごす気などなかった。綾音とは付き合っているが、彼女も今日という日がどんな日かを理解しているらしく、出かけようとは言わず、家族で過ごすのもいいやん、と言っていた。気を遣ってくれているのだろう。それが逆に申し訳ない。

「夏樹〜。入るわよ?」

 陽乃がドアを律儀にノックしてから、ドアを開けた。

「何?」

「手紙」

 陽乃は少し色あせた封筒を夏樹に差し出した。

「誰から?」

「調べたんだけど、封筒には差出人の名前がないの」

 夏樹もいちおう、封筒を調べてみた。陽乃のいうとおり、差出人の名前がない。

「開けてみれば?」

「爆発したりして」

「バカ言わないの。単に書き忘れただけでしょ」

「へへへ」

 夏樹は笑いながら封筒を開け、手紙を取り出した。

「……。」

「どうしたの? 初恋の彼女からとか?」

 陽乃は茶化すつもりで手紙を覗き込んでみた。それから、今のセリフがあながち嘘ではなかったと知ってしまった。




――――――――――――――――――――――――――――

 朝倉 夏樹様


                   2004年11月3日


 お元気ですか?


 多分、この手紙を読んでいるときは、2009年12月24日だと思

います。私の、18さいの誕生日です。


 なっちゃんのとなりには、だれがいますか?


 お姉さんかな。


 お友達!


 それとも、家族みんな?


 私だったらスゴくうれしい。




 なーんてね。


 ねぇねぇ、高校生の私、美人?


 それとも、かわいい?



 大学、行くのかな?



 なっちゃんは何してる?



 お母さん、元気かな〜。お父さんは私のこと好き?


 質問いっぱいしちゃってゴメン!



 なんていうのかな、これは。



 過去の私から、未来の私への手紙。



 雑誌で書いてあったのを、マネしてみたの。



 感動した? したよね?




 それじゃ、言いたいこと言います。




 私が、なっちゃんの隣にいなかったら。





 私のことを、忘れてください。




 あ、でも記おくからは消さないでね!




 いつまでも、私のこと引きずらないでねって意味だから。


 いまは付き合ってるけど、別れちゃうかもしれないでし

ょ? なっちゃん、優しいからなんかまだ、引きずってそう

だな〜と思って。


 ひょっとして、優しいから今も付き合ってる!?



 だったらうれしいな〜♪



 でも、そうじゃなかったら私のことを忘れて。



 なっちゃんの時間はなっちゃんのだもーん!




 私一人だけのために、なっちゃんの時間を使わない

で。これだけは、お願い。



 もう一つ、お願いがあるの。




 この手紙、2009年の12月24日に届くはず。



 それも、多分午後0時から3時の間に。



 もし、それがバッチリ合ってたら、今度は午後5時に

二人きりの座席(ばしょ)に来てください。


 私がいても、いなくても来てください。



 オッケイかな?




 では、午後5時に二人きりの座席(ばしょ)で待ってます。





               岡本 明日香



――――――――――――――――――――――――――――



 夏樹は部屋の時計を見上げた。午後4時45分ちょうど。今日は雪が降ったために、郵便配達の時間が乱れていたのだ。

「夏樹! 急げ!」

 陽乃が夏樹の上着を思い切り放り投げて彼に手渡した。

「で、でも……行って何の意味が」

「そんなこと言ってる場合じゃない! 急げ!」

「……。」

「いつまでもここでこうしてるより、行ったほうがいい! 早く!」

「……わかった!」

 夏樹は部屋を飛び出し、自転車に跨った。

「夏樹! 自転車は滑るから走って行きなさい! 自動車が走った跡を踏んでいけば、滑らないから!」

「わかった! ありがと、姉ちゃん!」

 夏樹は白い息を吐きながら、今はもうないあの場所へ――二人きりの座席へ向かった。

 雪が顔にぶつかっても、夏樹はスピードを緩めることなく走り続けた。そして、二人きりの座席があった神社に向かう。

「ハァ……ハァ……」

 少し息が上がったけれども、夏樹は休まずに辺りを見渡した。いま、二人きりの座席があった場所、火の見櫓の跡地にはその歴史を示す碑が建っている。そこへゆっくりと近づき、しばらくしてから人影が近づいてくるのが見えた。

 ハッとして左を見ると、そちらからも誰かが来る。さらに、後ろからも気配が感じられた。

「誰……?」

 夏樹がそっと呟くと、聞き覚えのある声が返ってきた。

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