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第71話 真実の席〜5年目の真実〜

 夏樹はそっと手紙を開いた。明日香らしい、綺麗な整った字が見える。



――――――――――――――――――――――――――――


 朝倉 夏樹様    2004年4月27日


 あなたがこの手紙を読んでいるとき、多分、私はもうあなた

の目の前にはいないと思います。


 とつぜん、こんなお手紙書くことをゆるしてください。


 先日、秋田県に私がてん院することになったこと、知ってる

かな。


 お医者さんに私の病気の説明、してもらいました。


 私の病気、なんだか意味がよくわからないし、字もむずかし

くてわかんないの。でも、でんかいしつ異常とかいうのが出て

るらしくって。それで、低カリウムけっしょう……これも字が

わかんないけど、それになりやすくて。今すぐ体重を増やさな

いと、私、死んじゃうんだって。


 そんなの、どうなんだろう。


 私、みんなに迷わくいっぱいかけたのに、みんなにもっと迷

わくかけちゃうのかな。


 なっちゃんにつらい思いさせて。お母さんに心配かけて。


 ゴメンね。私、なっちゃんのこと大好きだったのに、ちっと

もなっちゃんにやさしくできなかった。


 病気、なおるかどうかは私が、がんばるかそうでないかで決

まるんだって。



 私……がんばろうと思った。




 でもきっと、まただめなんだろうな。



 そう思うの。



 なっちゃんのがんばれっていう声が聞きたい。



 でも、またなっちゃんに頼ってるっていう自分がいる。



 こんな自分がい













――――――――――――――――――――――――――――



「あれ?」

 手紙はずいぶん余白を残して中途半端な場所で切れていた。

「おばさん……手紙が途中で切れてますけど……?」

「あの子ね……」

 玲子はハンカチで涙を拭きながら話し始めた。

「あの子……あなたに手紙を書いている最中、急に容態が悪化したの」

「え?」

「あの子、電解質異常っていう症状を引き起こしてて……。利尿剤なんかを使ったときになりやすいらしいんだけど、あの子……よりによってそんな症状引き起こしちゃって。その電解質異常から低カリウム血症を起こして、不整脈に……。手紙書いてる最中、私はお茶やらを買いに出てて、全然知らなかったの。あの日、たまたま売店が閉店日で、外に買いに出てたから……。そうしたらあなたたちが大慌てで病室に行ったでしょう? あたし、驚いて……」

 夏樹は唖然としたまま、玲子の話を聞き続けた。

「何故か鍵が閉まってる。開けたら、何故かあの子が血まみれになってて……もう訳がわからなかった。でも、あの子が集中治療室に入った後、このメモ書きを見つけたの」

 玲子はグシャグシャになった紙を夏樹に手渡した。



――――――――――――――――――――――――――――

 わたしはびょうきなんかにまけない



 まけない



 まけない



 まけたくない



 まけ   た



 ま     けな   い



 ま      け




   な            い





 びょ




           きに

まけるくらいなら




 じぶんで



 

――――――――――――――――――――――――――――




「なんの……何が原因で明日香は?」

 夏樹は玲子にすがるようにして聞いた。

「あの子……手首を切ったでしょう? 検死でも……出血多量が判明したそうだから、自殺っていう結果になったんだけど、後日再検死したら、出血多量は間違いないけど、その前に……低カリウム血症から来る不整脈で心臓が……心筋梗塞を起こして、手首を切ったことによる出血多量よりも前に……亡くなってたの」

「そんな……」

 玲子はさらに1枚、紙を取り出した。

「あなたに……」

 夏樹は玲子からその紙を受け取り、そっと開いた。



――――――――――――――――――――――――――――












 だ       いす き   な   つ   き











――――――――――――――――――――――――――――




 血で染まった紙には、震える字でそう書かれていた。

「わかる?」

 玲子はそっと夏樹を抱きしめた。

「明日香は……あなたのせいで死を選んだんじゃないの」

「……。」

「最期の……1秒まで、あなたを好きでいたの。あなたのことを、ずっと思ってたの」

「明……日……香……」

 夏樹の、玲子を見つめる目が、かつて明日香に注がれたものへと変わるのを、陽乃は感じ取っていた。

「今まで……あの子を愛してくれてありがとう」

 夏樹の目から、涙がこぼれ落ちる。

「もう……手放していいのよ」

 その言葉を聞いた瞬間、解き放たれたように夏樹は倒れ込み、そのまま意識を失った。





 明日香――。





 本当に?




 

 俺、本当に……明日香を心から愛してた?






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