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第62話 1年1組の席

「ふあーあぁ……」

 夏樹は昼休みというのに自分の席に座ったまま、机でうつ伏せになって校庭を見つめていた。クラスメイトがワイワイと外で騒いでいるのを遠目に見る。

「元気だよなぁみんな」

「朝倉くんが冷めてるだけなんじゃん?」

「?」

 振り向くと、見慣れない男子がいた。

「誰?」

「おっと、やっぱ思ったとおりクールだね」

「別にそんなことないけど……。っていうか、誰?」

「やっぱりクールじゃん」

(なんだよコイツ。自己紹介しろっての)

 夏樹はプイッと顔を背けた。男子生徒はガタンと前の席に腰掛け、ようやく自己紹介を始めた。

「俺、ハヤミナイト」

「ナイト?」

「うん。『速』い『水』の『騎士』、ナイトの『騎士』って書いて、(はや)()騎士(ないと)

 なんだかファンタジーに出てきそうな名前だと思い、ポカンとしてしまった。

「はぁ……。スゴい名前だな」

「よろしくね、朝倉くん」

「うん。あ、朝倉くんなんてなんかうっとおしいからさ、夏樹でも何でも呼んで。朝倉って呼び捨てにしてくれてもいいし」

「ホント? じゃあ夏樹って呼ばせて?」

「どうぞ」

「やったー」

 騎士はニコニコと笑う。屈託のない笑顔。よく見れば、夏樹よりずっと背が低い。童顔ってこういう子のことを言うんだろうか。まぁ、まだ子供だけど。

「何考えてるの?」

「え?」

 ドキッとした。何かを見透かされている気がした夏樹は一瞬言葉に詰まったが、すぐに冷静に返した。

「別に。ただ、速水が背が低いと思っただけ」

「けっこうヒドいことズバズバ言うね」

 騎士が苦笑いする。夏樹も思わず苦笑いしてしまった。どちらかといえば、自嘲の笑い。最近、なんだか無意味にイライラすることが多い。家ではそうでもないが、学校ではどうも落ち着かない。

「ゴメン……」

「いや、いいんだけど。ちょっと聞いていい?」

「何?」

 騎士は耳元でそっと囁いた。

「岡本さんって、どんな子?」

「え?」

 騎士の質問に心臓がドクン、と大きく反応した。

「病気で休んでるっていうから……全然会ったことないじゃん?」

「……そうだな。でも、なんで俺に聞くの?」

「えっ……と……」

 騎士はしばらく言葉を詰まらせたが、先ほどと同じように耳元で囁くように答えた。

「君たち二人、駅で見たことあるんだ」

「俺たちを?」

「うん。雪が降ってた日っていうのは覚えてるけど。俺、たまたま君と同じ電車に乗ってて。なんか……お別れっぽい雰囲気だから、君がどこか引越しするのかと思ってさ。でも今、君がここにいて岡本さんがいないでしょ?」

「ちょ、ちょっと待って」

 夏樹は騎士の会話を中断させた。

「なんで速水はあ……岡本のこと、知ってるの?」

「俺の親が岡本さんの店によく行くから、それで話するみたい」

「そうなんだ……」

 夏樹は少し驚いていた。まさか、明日香と接点のある子がこんなにも早く自分に寄ってくるとは思っていなかったからだ。

「でも俺自身、岡本さんに会ったことなくって。名前だけ知ってたんだ! でも学校病気で来ないっていうから……。そのとき、駅で夏樹を見たこと思い出して。そしたら偶然、同じクラスじゃん? だから、岡本さんと仲良さそうな夏樹なら、何か知ってるかなっと思って」

「そっか……」

 夏樹は悩んだ。騎士に明日香を紹介するのは簡単だ。あそこへ連れて行けばいい。しかし、初対面であんな姿の明日香に会わせるとどう思うだろう。そもそも、母親が知り合いなら、話を聞いていないのだろうか。

「あの、さ」

「なに?」

「お母さんから……岡本の話、聞いてないの?」

 騎士は顔をしかめた。この様子だと知っているようだ。

「聞こうとしたけど、子供の知ることじゃありません!って怒られるだけでどうしようもないんだ」

「……。」

 それはそうだろう。夏樹にとっても、おかしくなりそうな現実。それが明日香の現状だ。

「誰にも言わない?」

「へ?」

「誰にも言わない。そう、約束する?」

「う、うん……」

「わかった。じゃあ、放課後に校門で待ち合わせしよう」

「わかった。ヨロシクね!」

「うん」

「じゃ、後でね!」

 そう言うと騎士は嬉しそうに自分の席へ戻っていった。

(やっぱり……やめとくべきだったかな)

 夏樹は少し、自分のやったことを後悔した。


 放課後。校門で待っていると、騎士が女子生徒と歩いてやってきた。

「夏樹……あの、さ」

「ん?」

 夏樹と目が合った女子生徒は少し戸惑いながら騎士の後ろに隠れていた。その表情に夏樹は思わずドキッとする。

「似てる……」

「え?」

「な、なんでもない! で、その子どうしたの?」

「実は……岡本さんに会いたいって子で……今日、ついてきたいって」

「え……。言ったの?」

「ゴメン……。言ってないんだけど、聞かれてたみたいで」

 夏樹は彼女の顔をマジマジと見つめた。

「あ、君、俺の横にいる……」

「か、片岡です。片岡(かたおか)なぎさ」

 そう。彼女は夏樹の横にいる片岡なぎさだった。

「それで、あたしも岡本さんに会いたいっていうもんだから……断りきれなくって」

「……。」

 夏樹はしらばく黙り込んだ後、小さくうなずいた。

「いいよ」

「本当!?」

 なぎさと騎士は同時に声を上げた。

「その前に、これだけ見て行って」

 夏樹は制服のボタンを取り、カッターシャツのボタンも開けた。

「お、おいおい! ヤバいよそれは」

 騎士が慌てて止めようとする。

「勘違いしないでよ。そういう意味じゃない」

「そうなの?」

 夏樹は胸元を少し見せた。

「ひっ!?」

 騎士が息を吸うような悲鳴を上げた。

「あ……」

 なぎさが唖然とする。

 夏樹の胸元には、幅10センチくらいの(あざ)があった。

「こうなるかもしれない。もちろん、そうならないように俺やおばさんが気をつけるようにする。でも、絶対に驚かない。言わない。なぜとか聞かない。それでいいなら……来て」

 夏樹はそういうと歩き出した。騎士が黙ってうなずき、なぎさが後を追った。

(夏樹って大人びてると思ったけど……もしかして、岡本さんとの関係で……なのかな)

 騎士はこれから起きることに少しおびえながら、黙って歩く夏樹の後を追った。

 学校から歩くこと30分。七海市の北側に位置する入江総合病院に着いた。

「……。」

 その不気味な外観に、なぎさも騎士も呆然と見上げるばかりだ。

「大丈夫だよ。お化けなんて出ないから」

 ニッと夏樹が笑った。普段は妙に大人びている分、そんな風に笑うとホッとする。

「こっち」

 夏樹の後を追うばかりの二人。暗い待合室を抜けて、湿っぽい階段を上がって5階に到着した。

「ここだよ」

 騎士となぎさは表札を見上げる。『岡本明日香様』と書いてある。

「じゃ、入ろっか」

 夏樹がドアノブに手をかけた瞬間だった。

「いらないって言ってるじゃない!」

 明日香の怒鳴り声の後に、食器やスプーンが落ちる音がした。

「でもね明日香、ちょっとは食べないと……」

「いらないって! なんで無理に食べさせようとすんのよ!?」

 夏樹が慌てて戸を開けて中に入った。

「夏樹くん!」

「明日香、やめろよ! ちょっとは食べないと体に悪いって!」

「放してよ! なんでお母さんもなっちゃん私に何でもかんでも無理やり食べさせようとすんのよ! 意味わかんない!」

 騎士となぎさは目の前で繰り広げられる光景が、自分たちのいる世界とはまったく違うもののように見えていた。想像していたものとは違う、異次元の世界。そんな様相だった。

「放してっ!」

「痛ッ……!」

 夏樹が突き飛ばされ、ベッドから落ちて背中を強く打った。

「夏樹!」

 思わず騎士が夏樹を助けに入った。

「誰……あなた?」

 明日香の目に映った見慣れない少年に、彼女は冷たい目を向ける。

「勝手に私の部屋に入らないで! 出て行って! 出て!」

「あ……」

 明日香が騎士に向かって皿を投げつけた。

「速水くん!」

 なぎさが泣きながら声を上げる。玲子はナースコールでさっきからずっと大声を上げている。

「騎士!」

 夏樹が騎士をかばった。夏樹の背中にプラスチックの皿が鈍い音を立てて当たった。

「……痛ッ!」

 そこへ男性看護師と女性看護師数名、医師が入ってきて明日香に何かの処置を行った。

「あ……な、夏樹ぃ」

「大丈夫、大丈夫だから、外出よう」

 夏樹は痛みを堪え、なぎさと騎士を連れて談話室へと向かった。

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