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第29話 ランダム席

「夏樹〜、このくじ引き引いて」

 水穂とジュースを飲みながら話をしていたところに、優翔が箱を両手に抱えてやってきた。

「何? このくじ」

「いいからいいから! ほら、飯沼さんも引いてよ」

「なぁんか怪しいコト考えてんじゃないの」

 夏樹が少し笑いながら優翔の持っている箱を振った。ガサガサと音がするあたり、くじはまだたくさん残っているようだ。

「いいじゃん朝倉くん。引こう?」

 水穂が率先して箱の中に手を突っ込んでくじを引いた。

「おっ、飯沼さん意外と積極的だね?」

「まぁね! ほら、朝倉くん」

「わかったよ」

 夏樹は水穂が手を突っ込んだばかりの箱に同じようにしてくじを引いた。

 ものの5分もしないうちに参加している全員がくじを引き終えた。優翔を含めて今日の参加者は14名。くじを引いた後に優翔の両親が長テーブルをセッティングしてくれていた。座席は7つずつ。参加者それぞれが向き合う座席配置になる。

「えーと、それじゃこれから座席に座ってもらうんだけど、窓際の席が奇数、ドア側の席が偶数番号の人に座ってもらうんで、よろしくでーす! それじゃ、くじオープンしちゃってください!」

 優翔の一言で参加者全員がくじを一斉に引いた。夏樹も同じようにくじを引くと、そこには「6」の数字。

「ねぇねぇ、朝倉くんはどうだった?」

 水穂が興味津々という表情で夏樹のくじを覗き込んだ。

「あ……6番だよ」

「えー! 残念。私、12番なんだ。席も向かい合わせにならないし、隣同士てもないね」

「あぁ……。でもさ、帰りだって一緒に帰れるし、学校も一緒じゃん」

 夏樹が笑いながらそう言うと、水穂もつられて笑った。

「ほら、飯沼も座りなよ。オレも座るから」

「うん! それじゃ、また後でね」

 水穂が座ったのを見届けて、夏樹も番号の席に座った。向かいを確認したが、どうやら優翔のクラスメイトの男子らしく、夏樹と面識はなかった。夏樹が次に探したのは、意識していたわけではないのに明日香の姿だった。

 明日香は9番の席に座っていた。話をするにはちょっと遠すぎる距離だったうえに、明日香は隣にいたこれはまた優翔のクラスメイトらしい女子生徒と話しこんでいた。

「はーい! 見て見て!」

 優翔が小さなボードに14人の名前が書かれた紙を貼り付けていた。


  窓際     ドア側

1 戸川   2 松本

3 西山   4 (おお)()

5 森崎   6 朝倉

7 田所   8 (ひさ)(ほり)

9 岡本   10 栗田

11 坂上   12 飯沼

13 前園   14 鹿島


「それで、この番号あるんだけど、この番号でいうと3番の人は1番の人に持ってきたプレゼントを渡してください! 2番の人は4番の人にっていう順で渡してください。あと、1番の人は2番の人、14番の人は13番の人に渡してください! あ、ちなみにプレゼントは今から預かって、包装紙などを全部統一させてもらいます」

 優翔の両親がプレゼントを預かっていく。

 それから優翔はCDをセッティングして音楽を鳴らし始めた。夏樹は聞いたことのある曲だったが、何の曲かが思い出せない。

「あっ、山下達郎の『クリスマス・イヴ』だよ!」

 鹿島という女の子が大声で言った。すぐに前園という男子が「なんだよ〜、辛気くさい曲流すなよ、優翔〜!」と笑い出した。

「それで、この曲を母さんが止めてくれるからそのときに持っている回ってきたプレゼントを止めてください」

 すると曲が流れ出した。同時に両親が包装も箱も統一された夏樹たちのプレゼントが返ってきた。

「ちなみに、今の時点ではちゃんとみんなのプレゼントが返ってるのでそれはご心配なく! はい、それじゃいきまーす」

 イントロから流れ出した曲。プレゼントが回るや否や、すぐに曲が止まった。夏樹の持ってきたプレゼントはいま、水穂の手にある。それに水穂も気づいているらしく、嬉しそうにそれを握っていた。

 すぐに曲が流れ出した。今度は長い。もう夏樹も自分のプレゼントがどこへいったかわからない。プレゼント包装が違うのならわかりそうなものだが、残念なことにさっき包装紙を全部統一してしまったためにサッパリ誰のものかわからなくなっている。

 結局、曲が全部流れきるまでプレゼントは回り続けた。こうなってしまってはもう、誰も自分のものがどれなのか、さっぱりわからない。自分のが回ってきている可能性も、途中で回す順番をランダムにしてしまったためにほとんどなくなってしまった。

「はい! それじゃ、これでクリスマスプレゼントは皆に回ったと思います! 今日のパーティーはいかがでしたか!?」

 優翔の問いに全員が「楽しかったでーす!」と返事をした。

「それじゃ、今日のクリスマスパーティーをこれで終わります!」


「飯沼? どしたの?」

 パーティーを終えてからすぐに優翔の家を出た夏樹は、水穂がしんどそうに歩いていることに気づいた。

「なんか……ちょっと頭痛くて」

「頭痛?」

 夏樹が水穂の額に手を当てると、とても熱くなっていることに気づいた。

「おい、飯沼まさか熱あんのに今日来たのか?」

「……。」

「そうなんだな?」

 水穂は何も言わない。しかし、それが逆にイエスであるということを夏樹は知っていた。

「早く帰ったほうがいい。ほら、急ぐぞ」

 夏樹は水穂の体をしっかり支えて歩き出した。その目の前を、真っ白いものが降っていく。

「あ……雪だ」

 同じ頃、一人歩いていた明日香も手のひらに落ちてきた雪に気づいていた。

「雪……」

 今年の冬は、暖冬だと聞いていた。それにも関わらず、雪が降っている。天気予報なんてものはあまりアテにならないものなのかもしれない。

「これが知ってる場所でだったら、ロマンティックなんだけどなぁ」

 明日香がため息を漏らすと、白くなってすぐに消えていった。

 実は、明日香はいま自分自身がどこにいるのかサッパリわかっていなかった。あれだけ顔を知っている優翔の家の場所を実は全然知らなかったのだ。

「ヤッバいなぁ……。今日に限ってなんで私ケータイも忘れちゃったんだろ」

 路傍に座り込んで手袋をしていても冷え切った手に息を吐きかけた。その息もすぐに白くなって消えていく。

「誰かと一緒に帰ればよかった」

 不安になってきた明日香は立ち上がり、公衆電話がないか探し始めた。災害時に携帯電話が使用できないという事態を想定してか、最近NTT東日本では公衆電話を再設置する動きが出てきている。

 しかし、探せど探せど公衆電話は見つからない。さらに動き回ったことでますます現在地がどこなのかわからなくなっていた。ここが七海市なのかどうかすら疑わしい。

「参ったなぁ……」

 もう一度座り込んでため息をつく。するとそのすぐ後に、聞き慣れた声が明日香の耳に入ってきた。

「それじゃ、お邪魔しました」

 水穂を送り終えた夏樹は水穂の母に挨拶をし、雪の散る中家路を歩き出した。

「うわっ……寒っ」

 雪が降り始めたことでますます寒さが厳しくなっていた。夏樹はマフラーに首をすぼめてあまり明るくない住宅街を歩いていく。

 しばらくすると、後ろからスタスタと足早に近づいてくる足音が聞こえてきた。振り向くが、暗くて誰かはっきり見えない。ふと前を見れば「チカン注意!」の看板。夏樹は男の子だったが、なんとなく嫌で足早に歩き始めた。すると、その足音も近づいてくる。

(な、なんなんだよ)

 夏樹は走ろうとして体勢を変えたが、その瞬間声が聞こえた。

「待って! なっちゃん!」

 振り向くと、息が切れながらも走ってくる明日香の姿が目に入った。

「岡本?」

「み、道に……迷っちゃって……ハァ〜、よかった。知ってる人に会えて」

「道に迷ったって……。じゃあ行くときはどうやって来たのさ?」

「地図見て」

「その地図はどうしたわけ?」

「優翔くん家に忘れてきちゃって……」

「……プッ」

 夏樹が笑い出した。

「な、なによ?」

「岡本って、意外と忘れっぽいんだな」

 夏樹が笑顔で明日香のほうへ近寄りながら呟いた。


 雪がウッスラと積もってきた。降り方も強くなってきている。明日は大雪かもしれない。

「雪なんてこの冬初めてかもね」

 明日香は手を広げて雪を受け取りながら楽しそうに言う。一方の夏樹は明日香の手にしているプレゼントが誰のものか気になって仕方がなかった。

「な、なぁ、岡本」

「何?」

「その……なんていうか」

「あ、そうそう! 私なっちゃんに聞きたいことがあってさ」

 遮るように明日香が喋り始めた。

「う、うん! 何?」

「なっちゃんのプレゼント、誰のだった?」

「え?」

「ちょっと開けてほしいな。見てみたい」

「うん、わかった。開けるよ」

 夏樹は内心ドキドキしながらプレゼントを開ける。ひょっとしたら明日香のプレゼントかもしれない。そんな期待を持ちながら。

 プレゼントを開けた瞬間、バネの付いたピエロの顔が飛び出してきて思い切り夏樹の鼻を叩きつけた。

「うあっ!?」

 夏樹はプレゼントを落として鼻を痛そうに押さえた。

「きゃ、ちょっとヤダ! 誰よこんなの入れたの!」

 明日香が慌ててプレゼントを見ると何とも下手な字で「まえぞの」と書かれていた。

「アイツだ……」

 夏樹は半泣きになりながら鼻をさすった。

「大丈夫?」

 明日香がハンカチで夏樹の涙を拭き取った。

「あぁ、平気。ありがとな」

 しばらく沈黙が続く。

「それよりさ、寒くなってきたから帰ろうぜ」

「あ、うん……そうだね。帰ろう」

 二人はそのまま無言で歩き出した。

 20分ほど歩くと、舞子原商店街の明日香の家に到着した。すっかり雪が一面に積もり、まさにホワイトクリスマスだ。

「それじゃ……また来年、かな?」

 夏樹が明日香の頭に付いた雪を払った。いつのまにか夏樹の背が明日香の頭より少し高くなっていた。それを意識すると、思わず明日香は赤くなってしまった。

「うん。また、来年ね」

「じゃ」

 そう言って夏樹はいま来た道を引き返した。しばらく話をしなくなっているうちに、二人はずいぶん話が下手になった。明日香はそう思った。

「え……」

 夏樹は足を止めた。明日香が後を追ってきて、夏樹のジャンパーを引っ張っている。

「岡本?」

「……かないで」

「何?」

「行かないで」

 そう、はっきり言った。夏樹も思わず固まってしまう。

「……なに言ってんだよ。ほら、もう帰らないと家の人心配するからさ」

「……。」

 夏樹はそっと明日香の頭をもう一度、()でた。

「オレは、どこにも行かないよ」

 夏樹の記憶が蘇る。あの日、夏樹が火の見櫓でしたこと。きっと明日香はそのことを言っているに違いない。そう夏樹は思った。

「……約束、してね」

 明日香が笑顔で言う。

「もちろん。どこへ行っても、きっと帰ってくる」

「きっとだよ?」

「うん。さ、もう帰ろう?」

「……わかった」

 そう答えたが、夏樹が見えなくなるまで明日香は手を振っていた。

「意味が違うよ……」

 明日香はそう呟いた。

夏樹と明日香が出逢った2002年がまもなく終わりを告げようとしています。しかし、夏樹は明日香の言葉をきちんと理解しないまま、履き違えたままの答えを彼女に出したのでした。

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