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第8話 斜め前の席

 給食の時間。


 今日のメニューは「うずまきパン」、「ブルーベリージャム」、「ミネストローネ」、「牛乳」、「ポテトサラダ」。洋食だ。

「それでは、いただきます!」

「いただきまーす!」

 給食係の号令とともに給食の時間が始まった。最近、土日しっかりと休みになったから小学校の高学年からは始業式初日からちゃんと授業があるようになってしまった。

 夏樹はこのうずまきパンが大好きだ。なんとなく、ちぎる時が好き。ふつうの細長いパンよりちぎるのが楽しい。うずまき型にちぎれていくのが1年生のときから楽しくて仕方がない。

 ただ、今日はふつうに食べる。

 ふつうにという表現が正しいのかどうかはわからないが、ちぎって食べたりしない。ちゃんとそういうことをせず、かぶりついて食べる。それも正しいのかどうかわからないが、ちぎって食べるとどうも遊んでるような印象を受けさせてしまうのではないかと思う。

(なんで俺……こんなに意識してんだろ)

 左斜め前の席。そこにいるのは、明日香だった。

 4人ごとに班になって食べるというやり方を取っている担任の大迫先生のやり方を恨むべきか、感謝すべきか。出席番号4番の夏樹と出席番号9番の明日香は必然的にこの組み合わせになってしまった。

(なるべくキレイに食べないと)

 由利に普段から夏樹は食べ方があまりキレイでないと言われている。ここで食べかすをこぼしたりしたら最低だ。

「なぁなぁ、朝倉」

 前に座っているのは嘉村(かむら)恭輔(きょうすけ)。小さい頃から野球をやっているとかでなんか粗野なイメージが夏樹にはあった。相変わらず、食べ方が汚い。夏樹ですら嫌悪感を抱くのだから、明日香や夏樹の隣にいる阿賀(あが)みのりにとったらどれほど嫌なんだろう。

「なに?」

 夏樹はなるべく食べかすが見えないように恭輔と話をする。見えたら食欲がなくなりそうだから。

 夏樹は牛乳を飲みながら聞いた。恭輔は気にせず続ける。

「朝倉って、岡本好きなの?」

 ブーッ!と音がして恭輔の顔に思いっきり牛乳が吹きかかった。それを見てみのりと明日香、クラスメイトも大迫先生も呆然としている。

「汚ぇな、朝倉〜! なんてことすんだよ〜」

 恭輔はハンカチで顔を拭き始める。夏樹も慌ててティッシュを取り出し「ゴメン! マジごめん!」と謝りながら恭輔の顔を拭いた。

「で? 好きなの?」

(まだ言うかよ、コイツ……)

 教室中が静かになる。こんな空気で返事ができるはずなんてない。

「私となっ……朝倉くんは、秋田県に親戚が住んでてお互いその親戚のところに行った帰りに偶然会ったんだよね」

 明日香が淡々と言った。しかし、そこで恭輔は信じられない切り返しを入れてきた。

「それって運命の出逢いなんじゃないの?」


 静まり返る教室。


 これが新年度1日目だっていうんだから最悪だ。


「なんなんだよぉ、アイツは〜」

 夏樹はほうきを持ちながらため息をついた。ちひろが同じようにほうきを持ちながら、しかし夏樹と違って一所懸命掃除をしている。

「なんだろねぇ。なんていうか、嘉村くんはいつもあんな風に自分の思ったことハッキリ言っちゃうタイプだから」

「空気読めねぇだけじゃん」

「あー、それもあるかも」

「それもあるかも、じゃなくって同じ意味だと思うよ」

 夏樹はまた大きなため息をついた。

「そんなに女の子とくっつけられるような話題、嫌?」

 ちひろが珍しく真剣な顔つきで聞いてきた。

「べっ、別に……嫌じゃないけど。ただ、恥ずかしいだけ……」

「じゃあふつうにしてればいいじゃん。あたしといる時みたいにカル〜いノリで」

「カル〜い、ね」

 夏樹は廊下を掃除している明日香をチラッと見た。すぐに顔が熱くなる。

(なんでだよ! なんで熱くなってんの俺……いつもどおり、いつもどおり)

 赤くなっている夏樹をちひろはクスクスと笑いながら見つめていた。


「それでー、この少数っていうのは……」

 5時間目。算数。給食後。窓際の席。暖かい日差し。

(眠い……)

 夏樹の目がトローンとしてくる。4月に入って急に暖かくなったからこの日差しが気持ちよくって仕方がない。

(ダメダメ。今始まったばっかだから寝たらわかんなくなる……。なんか目、覚める方法ないかな)

 ふと気づけば、斜め前にいる明日香の背中に目が行く。

(!!)

 顔が一気に熱くなった。目が覚めたのは覚めたが、これでは違う意味で授業にならない。

(なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ、なんとかしな」

「コラッ! 朝倉くん! ブツブツ何言ってんの!?」

 気づけば、独り言を言っていた。大迫先生の声で全員が夏樹のほうを見る。恥ずかしくてさらに赤くなってしまった。

 それから間を空けて笑い声が飛び交う。明日香も一緒になって笑っていた。

(アンタのせいでこうなったのに)

 夏樹は苦笑いしながら「すみません」と大迫先生に謝っておいた。


 5時間目がやっと終わった。

「んーっ! 帰れる、帰れる!」

 夏樹はグーッと伸びをした。5時間目まであるとは長くて長くて仕方ない。

「はーい、座って座って」

 大迫先生が入ってきた。生徒たちはいそいそとランドセルに教科書やら筆箱をしまい始めた。

「ん?」

 そこで大迫先生は動きを止めた。

「もしかして……みんな帰る気でいた?」

「はーい!」

 全員が一斉にそう返事をしたので、先生はガクンと椅子に座り込んでしまった。

「あぁ……事前に説明しておけばよかったわね」

 生徒たちはポカンとした様子で先生を見つめる。

「残念ながら、まだ君たち帰れないの」

「えーっ!」

「なんでですかぁ!?」

 生徒たちからこれ以上ないほど苦情が来る。大迫先生は慌てて生徒たちを静めた。

「5年生からは、月曜日は6時間目にホームルームが入るの! なにしても構わないってわけじゃないけど、みんなで決め事したりすることが多いからそういう時間を取るの」

「例えば?」

 恭輔が眠そうな声で質問した。

「例えば……今日だったら委員会とか係を決めちゃうつもりでいたの」

「他には?」

 ちひろが聞く。

「席替えをしたり、もうすぐある自然学校の班決めをしたり」

「なんか退屈な時間だね〜……」

 教卓の前にいた女子生徒が呟いた。

 パンパンパン!と大きな音を立てて大迫先生は手を叩いた。

「とにかく! 今日は係と委員会全部決めちゃうよ! 今日の給食係だって代わりで決めたようなものだったから」

「はぁ〜い」

 やる気のない返事がいくらか聞こえた。

 大迫先生は黒板に委員長と副委員長の字を書いた。そしてそのまま委員長の下に「朝倉」と書き、続いて副委員長に「岡本」と書いた。

「なんで!? 勝手に決めないでください!」

 夏樹は慌てて抗議した。委員長だなんてとんでもない。

「なんでよ? だって朝倉くんと岡本さん、知り合いでしょ?」

「知り合いだけど、そんな委員長と副委員長一緒にやれるほど仲いいわけじゃないし!」

 明日香は俯いたままでどんな顔をしているかわからない。抗議する素振りも見せない。

「とにかく、やめてください勝手にそういうこと決めるの!」

「そんなこと言って、実は嬉しいだけだったりして」

 隣の女子生徒二人がクスクスと笑いながら呟くと、教室中から笑い声や茶化す声が聞こえた。

「最低だ……先生のせいだから」

 夏樹はそれっきり、抗議もせず机に顔を伏せてしまった。

「朝倉くん。じゃあ、委員長やってくれるのね?」

「勝手にしろ!」

 夏樹が怒った様子で返すと、大迫先生はさらに怒った様子で「なんて態度! そんな子には委員長なんてけっこうよ」と朝倉の字を消してしまった。

「岡本さん。あなたはどうする?」

 明日香はチラッと夏樹のほうを見た。

「ヒューッ! 岡本、朝倉のほう見てるぞぉ!」

 また恭輔だ。さすがに耐え切れなくなった夏樹は机を蹴り飛ばした。すごい音がして夏樹の筆箱や教科書が飛び散った。

「朝倉くん!」

 大迫先生が切れ気味で叱り飛ばす。

「うっさいな! 岡本、岡本、岡本! なんだよ! 仲良くすんのがそんなに悪いかよ! 先生もみんなもバカにしやがって! ムカつく!」


 教室は一気に静まり返った。


「はい、これ」

 明日香が無言で倒れた机を起こし、筆箱の中身もしまって返してくれた。

「……ありがと」

「ヒューッ! モッテるねぇ、朝倉」

 恭輔がまだ言ってきたが、夏樹はそのまま机に伏せて耳も塞いでしまった。

 明日香は寂しそうな顔をして「先生。私は副委員長します」と返した。

 それを聞いて、やっぱり委員長すればよかったという気持ちがどこかにあるのを夏樹は感じ取っていた。

キライじゃない。でも、一緒にいると恥ずかしい。でも、一緒にいたい。矛盾した気持ちが渦巻く夏樹の心は少し不安定に。でも、明日香と一緒にやっぱりいたいという気持ちが強いのか……?

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