サンドバッグプログラム
暴行などが苦手な方はご注意ください。
素行の悪い不良少年がいた。眉がなく、坊主頭の少年だ。彼が通う中学校では不良仲間を仕切る問題児。弱そうなやつをいじめたり、無免許でバイクを乗り回す。周りからも腫れ物に触るように恐れられていた。
ある日のこと。停学中で暇の彼は、近所の裏山を何の気なしに登った。ここは失踪者が出るという言い伝えがある。
その道中、樹木を背に座り込む男性が目に留まった。別に助けようとは微塵も思わなかったが、興味本位で近づく。
男性は生きていた。いや違う。生きていても不思議ではないほどの躍動感を表していた。顔は嘲笑しているかのように目を細め、口元は満面の笑み。着ている服は大層みすぼらしい。齢は三十代後半だろうか。
少年は手を伸ばし、男性の腕に触れる。感触も人肌となんら変わらない。
少年は、早計なことに人形であると断定した。最近の職人技術はすごいと聞く。こんな精巧な人形があってもおかしくはないだろうと。
男性を眺めていたら、少年はじわじわと怒りが込み上げてきた。
そして蔑むその顔面を思い切り蹴り飛ばした。変形してもおかしくない威力。
だがその表情は保たれたまま。傷一つつかない。気のせいか、さっきより生き生きとしているかのようだ。
こんなものか? と挑発されていると思い込んだ少年は、立て続けに蹴りまくる。
ガンッ、ドンッ、バシンと鈍い音が辺りに響くが、何ら変化は見られない。
しばらくすると日もだいぶ暮れてきたので、少年は山を降りた。
次の日も裏山まで来て、男性に暴力をふるう。持参してきた縄紐で木に括り付け、男性を吊し上げた。
サンドバッグの要領で、殴打、殴打、殴打…………。
気が済むまで殴りつけると、少年はぶるっと身震い。突如ズボンのチャックを下ろし、男性に向かって小便をかけた。
用を足し終え、「汚ねー顔だな」と唾を吐き捨てて、その日は山を降りた。
少年は頻繁に山に通い、その度に鬱憤晴らしをした。時にはライターで炙ったり、ナイフで切りつけたりと、際限なしに。
月日が流れ、少年は定時制の高校へ進学することになった。ここから少し離れているので、家ごと引っ越すようだ。最後に見納めようと、少年は山を登る。
いつものところまで登ってきたが、そこにあったはずの男性の人形がない。
誰かが回収していったのかと踏み、帰ろうと踵を返した矢先、何かにぶつかる。
「なんだてめ」と言い切る前に、強い力で吹っ飛ばされる少年。
樹木に背中を打ち付け意識が途切れそうになるが、見上げるようにそちらに目を向けると、一気に目が覚めた。
見下すような目つきと口元、みすぼらしい見た目はまさに、暴行を繰り返してきた男性だった。
男性は少年に近寄る。今までを応酬するかのように、無言で少年を蹴り続ける。
「おいっやめろっ」と大声で叫び続けていると、出し抜けに動作が停止。
そしてボロボロの少年の胸倉を掴み持ち上げた。どこから取り出したのか、縄紐を少年に巻き付け、木に縛りつける。
これでもかというパンチの連打。一打一打が蓄積し、少年の頭も朦朧とした。
顔も膨れ、所々から出血。あと何発かで気を失うかというところで、ピタッと動かなくなる。
男性は突然ズボンのチャックを下ろし、そこから黄色い液体を少年にかけた。
放射が止まると、男性は顔に向かって唾液を吐きかける。
少年は、これから起きる悲劇を悟ると、自然と失神した。
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ある日。一人の少年が近所にある裏山に登った。最近行方不明者が出た場所だ。
緩やかな斜面を登っていると、見覚えのある人物が、座り込んでいるのを発見。
その外見は行方不明者にそっくりである。急いで通報するかと思いきや、少年は走りだして顔を蹴り飛ばした。何回も何回も、飽きることなく……。
行方不明者の顔は眉のない坊主頭。彼は少年をよくいじめていた不良の一人だった。
肌には傷一つつかない。