表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王妃の階段  作者: 桜 詩
31/59

贈り物 (E)

 手元に残された……ハンカチに包まれた色合いの美しいお菓子。


エリアルドとフェリシアは……すでに国内外に、結婚するとその日取りまで決まっていて……その事実は動かしようもない。


フェリシアの心に触れてから……エリアルドはどう接するべきか、答えの出せない難問に頭を悩ませていた。


(政略……)


フェリシアがそう言ったもの、好きな相手と結ばれない事に由来しているのなら何もかもがぴったりと当てはまる。


「殿下、庭師の方からいつものように咲いた花をお預りしレディ カーラに贈りました、口頭で感謝の言葉を頂いてきたそうです」

「ああ、そうか……それはよかった」


侍従の言葉にも上の空で返事をしてしまう。


「失礼ながら……、殿下もご結婚される訳ですから、幼馴染みとはいえそろそろ贈るのはお止めになられてはいかがですか?」

「と、言うと?」

「フェリシア様がお知りになられたら、ご不快かと」


「カーラは妹と同じだが……」

盲目のカーラを慰めるための花を贈り出したのは、まだ少年の頃だったか。

香りのよい花が咲けば、カーラに贈るようにして欲しいとそう庭師に頼んでいた。それはいつしか暗黙の了解になっていた。


「グレイ侯爵夫人が、もう最後にと。エリアルド殿下とカーラに噂が出てしまえば娘の為にもならないからと」

「噂?」

怪訝に思ったその問いに、淡々とした返答が返ってくる。

「つまりはエリアルド殿下とレディ カーラの恋の噂です」

侍従の言葉にエリアルドはまじまじと見つめた。

「怪しまれる行動は慎むべきです、お気持ちが妹と同様ならばなおさら。殿下は男女の機微に疎くていらっしゃる、そういう小さな火を大きな火事にする噂があることもご理解されるべきです」


噂の怖さも、エリアルドはわかっている。あることも無いことも……人の口に戸は立てられない。


「わかった。その様に、取り計らってくれ」

エリアルドは一つ……継続されていた、頼みという形の命令を取り下げた。


***


 エリアルドとしてフェリシアと食事をし、会話をし、影として夜の窓越しに、フェリシアの話を聞いた。

フェリシアのその話は他愛のない領地の話や妹のローズマリーの話を聞いたりしながら……なぜ、これがエリアルドの時ではないのかと、嫉妬しそうになるほどフェリシアはエリアルドには見せない、寛いだ口調だった。



 自室の机には……、フェリシアのハンカチ。

お菓子の方は、フェリシアに渡す訳にもいかず……。かといって他の誰かにあげるつもりも無くて、執務の間にエリアルドが食べた。


「ギル」

ギルセルドの私室を訪れたエリアルドは、真面目なのか不真面目なのか、ゆるゆると寛いでいる所へ踏み入り

「近々街に連れていってくれ」


「……珍しいな、くそがつくくらい真面目な兄上が忍び歩きなんて」

「頼んだからな」

面白そうに目を光らせたギルセルドの返事を待たずに、エリアルドはそのまま執務室へと戻り、残りの仕事をこなした。



 夕刻前……、エリアルドはギルセルドと共に、街へと出ていた。

こういうことに慣れているギルセルドのその脱走手腕に舌を巻く。

「……アルベルト叔父か……」

アルベルトも若い頃はしょっちゅう王宮を抜け出していたという。

「俺は兄上と違って……比較的緩いからな」


成人した今は別として、確かに世継ぎのエリアルドとギルセルドとでは、少しばかり扱いは変わる。

エリアルドにはお忍びとはいえ、警護に私服姿のシャーロックとジェドが付き従っている。抜け出して騒ぎにされるよりもはじめから連れてきている方がましである。


「で、何がしたい?」

公的にはきちんとした話し方をするギルセルドだが、普段はいわゆる王子らしくない話し方を好む。


「女性もののハンカチとお菓子を買う」

「誰に?」

「フェリシアに、だ」


「それなら、王宮御用達から買うべきじゃないのか?」

「贈り主が私ではない」

「は?」


訳がわからないのも当然だ。エリアルドは、かいつまんでこれまでの経緯を話した。

「ここまでアホとは」

「……はっきりと言うな」

「これだから……真面目一辺倒は。拗れても知らないからな」


ギルセルドの案内で店を見つけ、店員の話を聞きながらレースのハンカチを買い、流行だというチョコレートの菓子を選び影が買えてもおかしくないくらいの金額の物を買った。



「だけど……良かった」

「なにが?」

「……同じ兄弟なのに、兄上はいつも……立場に忠実で。今回の結婚も、淡々と受け入れた。だから……自分で買いに行くほどの相手と、そうなって俺は、本当に嬉しい。兄上はアホじゃない、まぁ不器用だけど」


自分で買いに行くほど……。

確かにそうだ。


フェリシアへの物は、自分の目で選びたかった。どんな小さな物でも。


「付き合ってくれてありがとう、ギル。助かった」

「いつでも付き合うさ、こういう用事なら」

二人で少し笑いあって、またこっそりと王宮へと何事もなかったように王子へと姿を戻したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ