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王妃の階段  作者: 桜 詩
29/59

影はそばに

エリアルドはいつもフェリシアに優しい。


夜の晩餐は、二人きり。

フェリシアの夜のドレスは舞踏会とは違い、もっと身軽なもの。艶のあるペールピンクのシンプルなドレスと、エリアルドからの貰ったアクセサリー。

「フェリシア、贈り物は受け取ってくれた?」

「ええ、殿下。いつもありがとうございます」

フェリシアは微笑んで返事を返した。


「良かった…。近頃、元気がないのは私のせいかと思っていた」

「いいえ…慣れない生活に少し、戸惑っているだけです」


この日の贈り物のレースの扇はとても素晴らしくて、一目で気に入った。

「でも、こんなに度々贈り物をしては国庫の負担になるのでは?」

「そんな事」

くすくすとエリアルドは笑った。

「ここ何年か…私の妃の為の予算は貯まりっぱしで、少し散財したくらいでは何も言われない」


「そうですか?じゃあ…もしも、とんでもない散財を私がしたらどうします?」

「君が?」

「ええ」

「そうだなぁ…。侍女たちのいる前でお尻でも叩くことにするか?」

「ええっ?」

想像して思わずフェリシアは笑った。

「うん、これはかなり恥ずかしいはずだから、きっと効くだろうね」


お尻を叩く…最近、そんな話をした人がいたなとフェリシアは思い出した。そうだ…それは、影…。どこか謎めいてみえる黒騎士


フェリシアは自室に戻り、侍女たちが下がると飾り窓を開けて歌を口ずさんだ。

月は輝き星は歌う


いつも母が歌ってくれた。その歌を


「影…いるの?」


飾り窓の横のバルコニーに音もなく影が現れた。

「俺を、呼んだ?」

「…本当に来たのね、魔法みたい」


くすっとフェリシアは笑った。飾り窓を閉めて、バルコニーの窓を少しだけ開けて、その前に座る。

「おい、お嬢様」

「独り言を…今から言うの。影に向かって」


「…おう…」


影はそう言うと、同じように小さくバルコニーに座った。


「影は、結婚してるの?」

「それ、独り言じゃないからな」

「恋人は?」

「あー、まぁ。いるといえばいる」

諦めたように答える。

「もしもよ?」

フェリシアは一旦言葉を切った。

「ここでの会話は、誰にも秘密よ?言えば…貴方に襲われたって言っちゃうから」

「おい、どんな脅しだ…」

額を押さえる彼をおかしく見ながら、細く開いた窓越しに話を続けた。

「例えば…。上司から、結婚しなさいって言われてどうしても、断れないとするでしょ?貴方はどうする?彼女と別れて、その人と結婚する?結婚しても、彼女と付き合い続ける?ね?どうする?」


「なんだって、そんな事…」

「ねぇ?どうする?」

「…悩むなぁ…。別れる…かな、付き合い続けるのは誠実じゃない」

「…それで、その奥さんのことは愛せると思う?」

「…わからないな…相手次第だ」

「結婚して一緒にいても…やっぱり保障はないってことよね?」


「お嬢様…これって…もしかして」

「独り言って言ったでしょ?誰の事でもないの、単に…そうふと誰かに聞いてみたくなっただけ」

フェリシアは立ち上がると、部屋にあるチェストの上のお菓子をハンカチに包んだ。


「聞いてくれてありがとう。これ、恋人にでもあげて」

そっと隙間に差し入れて渡す。

「おい、一方的に終わりかよ」

「いつでも聞いてやるって言ったのは貴方でしょ?」


渡す時に黒の革の手袋の指先と少しだけふれあった。


(付き合い続けるのは誠実じゃない…か…)


男の人はなんでも手に入れたがるのかと思っていた…。エリアルドも、そうして諦めてるの?

影は来たときと同じように姿を消した。


後には少し開いた窓があるだけだ。

フェリシアはそっとそれを閉めてベッドに横になった。


どうすればいいのかは全くわからない。何も…変えようもない、それが現実。






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