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王妃の階段  作者: 桜 詩
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ドレス協奏曲

ミリアの作ったドレスは、一週間という短い日数で大急ぎで仕上げられたドレスであるのにとても素晴らしい出来だった。

白に近いブルーで、上半身には白のレースで飾られウエストにはサテンのピンクのリボン、スカートはふんわりと広がり本物の花と花びらのような飾りがバランスよく飾られていた。


「ミリア!すごく素敵だわ。こんなの初めて見たわ」

「ありがとうございます!フェリシア様をイメージして作りました」

「ほんとに素敵。他のドレスも頼んでもいいかしら?」

ティファニーもうっとりとドレスを見て、ミリアに言った。


「ありがとうございます!早速デザインをいくつか書いて持ってきますね」


新しいドレスはエリアルドが言っていた王子との集団お見合いとも言うべき舞踏会ではじめて着ることにした。


その日は未婚の男女が会するという事が異色といえば異色で…。

付き添いには父親や後見人がなるという。

フェリシアはもちろん、ラファエルと向かう事になっていた。


(さき)の舞踏会は大広間であったが、今度はそことは違う広間で行われ、美術品で囲まれ重厚な雰囲気があった大広間と比べ、ブルーの壁と白の柱や金細工で飾られた室内は明るく若者向けに思えた。


広間の端にはピアノが置かれ、その横には椅子座った楽団がゆったりとしたメロディーを奏でていた。


大きく開かれた扉の近くにエリアルドとギルセルドが自ら立ち、招待した令嬢を一人ずつ出迎え挨拶を交わしている。

麗し王子二人を間近で見た令嬢たちは、戸惑ったり赤くなってまごついたり、または魅力的に微笑んでみたり…。


しかし、そのいずれの令嬢もそれぞれが一番豪華なドレスを選んできたのか、まるで孔雀のようなドレスから、リボンだらけのドレス…まさに、ドレスの饗宴ともいうべきか…。


着いた令嬢から順に挨拶をしているのでフェリシアは後方にいた。


―みて、フェリシア・ブロンテよ

―あのドレス、どこのかしら


ヒソヒソと友人同士だろうか話してる声が届く。


フェリシアの順番が来て、エリアルドとそしてギルセルドに向かって正式なお辞儀をする。

「フェリシア、ようこそ」

エリアルドが言い、

「こんばんは レディ フェリシア。ようこそ」

ギルセルドが続けて言葉をかける。

「お招きありがとうございます 両殿下」


フェリシアはうなずきを見て低くした姿勢を元に戻し広間の奥へと進んだ。

一堂に介した若い男女の集団を見れば、そこにはフェリシアとエリーとアイリーンを除けばあとは、爵位のない外戚の令嬢かもしくは最近羽振りが悪いと噂の家の娘か…という具合で、他に候補を上げられなかったという言葉も理解が出来た。

ダンスはワンフレーズずつ交代してという説明を従者から受けた。つまりは、フェリシアとエリアルドを一曲は踊らせないという意思表示に思えた。

(…これが、カートライト侯爵の、力なの?)

例え王族であっても、貴族たちの力は無視することは出来ないとそういう事なのだ…。


今、年頃の独身の令嬢の中で最も高位なのは侯爵家のアイリーンとエリーである。

エリーはアイリーンと同じく黒髪であるが、父のベネディクトが言っていた通り失礼ながら、寂しげな顔立ちは華やかさに欠けていた。


正攻法では、伯爵家のフェリシアは爵位で彼女に劣ってしまう。

この夜のアイリーンは、黒髪を結い、2房ほどをカールさせて下ろしていた。同じ年ごろだが大人びた艶やかなローズカラーのバックスタイルには膨らませた大きなひだが2段あり、とても華やかだ。

その隣にいる黒髪の紳士が父のナサニエル・カートライト侯爵だと思われた。その琥珀色の瞳と視線が合い、フェリシアは軽く会釈をした。


男女が輪に並び、ワンフレーズ毎に相手を変えていくそんな趣向がされていた。その中にはジョエルやカイルもいたし、白い近衛騎士の制服を着た男性も混じっていた。


ワンフレーズではほとんど言葉を交わすこともないのに…。


そして曲が終わると拍手が起こる。

そして皆が輪から散り散りになろうとすると、


「王太子殿下、私の娘はピアノが得意で是非殿下にもお聞かせしたいのですが」


ナサニエルはそう、話しかけているのが聞こえた。


「それは素晴らしいね、幸いピアノはここにある。是非お聞かせ願いたい」

「はい、殿下」


アイリーンはそう言ってピアノの方に近づこうとすると、

「一人では恥ずかしいですから…レディ フェリシア。歌って下さいませんか?」


突然に振られてフェリシアは戸惑った。


「皆が知っている曲で良いですわ」

アイリーンが言ったのは、本当に有名な曲であるがニヤリとしているナサニエルを見ると、突然に言うことで恥を欠かせようとでも言うのか…。


「ね?良いでしょう?」

「わかりましたわ、レディ アイリーン…」


眉をひそめたラファエルが、フェリシアの肩をそっと叩いた。

「大丈夫だ…フェリシアなら」


フェリシアはアイリーンに続いて、ピアノの側に寄った。

(この為に…ピアノがあったのね…)


ポロローン、とアイリーンが美しい旋律を鳴らした。


人々の目が二人に注がれて、緊張は最高に高まっている…が、ここで失敗は許されない。


(いつも通りに、よ…)


言い聞かせて大きく深呼吸した。

フェリシアの唇からは、話すときとは違う響く声がきちんと出た。


自慢ではないが歌は誉められて来た…。

アイリーンのピアノとフェリシアの歌はしっかりと合わせたかのように最後の一音までぴったりと奏でた。


歌い終わると、拍手が沸き上がった。


「二人とも見事だった」

エリアルドが拍手をしながら、二人に話しかけた。


アイリーンも、フェリシアも優雅にお辞儀でもってそれに応えた。

「突然なのに、よく大丈夫だったわね?練習したの?」

「いいえ知っている曲を選んで頂きましたから…」

「そう、他のもっと難解なのにすれば良かったかしら?」


「そんな…」


想像はしていたけど、やはり敵意を感じるのは気のせいでは無いだろう。

フェリシアはアイリーンと離れてラファエルの元へ戻った。


「急なのに良くやった」

こそっと耳打ちされフェリシアは扇を広げた。

「やはりわざと?」

「多分ね」

ちょうど飲み物をトレーに乗せた従者が来たので

「シャンパンでいいか?」

「ジュースにするわ」


(何がまたあるかわからないもの)

酔っぱらいはしないと思うけれど、出来るだけアルコールは避けるべきだ。

「どうぞ マイ レディ」

ラファエルの言葉にフェリシアは笑った。

素敵なラファエルは自慢の父だ。

ぎくしゃくはしていたけど、やはり大好きだ。こうして並ぶのも本当に嬉しい。


順番に令嬢たちと話して回るエリアルドとギルセルドがフェリシアの元へもやって来た。


「フェリシア、さっきは本当に見事な歌声だったね」

「本当に素晴らしかった」

エリアルドとギルセルドに順に言われて

「ありがとうございます、お耳汚しでした」


「いや、また聞かせてもらいたい」

エリアルドが微笑み、フェリシアは

「いつでも…お聞かせします」


「それにしても…全員に声をかけるとなると、大変ですね殿下」

ラファエルがそう呟いた。

「…独身の候補としてあげられる令嬢はたくさんいる…二人きりで会うのを避ければ、こうして集めるしかなかった。等しく機会を得るという意味で」

エリアルドは小さく聞こえない程の声で話した。

「フェリシアには言ったが…くれぐれも気を付けて」

「心得ました、殿下」

ラファエルはしっかりと笑みを向けて頷いた。


二人の王子はまた別の娘たちと話に向かっていった。






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