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4  あっかんべぇ!

「こんな急に、申し訳ありません」


 瑛丞が東京から祇園祭に、友だちを連れて帰って来た。亮が一緒なのは嬉しいが、女の人が三人いるのには驚いた。女の人達は、半分冗談で祇園祭を見に行きたいと言ったのにと、迷惑をお掛けしましたと頭を下げる。


「同じサークルの先輩の矢口さん、溝端さん、そして同級生の今井。西園寺には前に会っているし、こちらは先輩の江口さん」


 年上の亮にため口なのは、同級生だからだ。でも、女の人の今井さんに、さんをつけなかったお兄ちゃんに、由利亜は変やなぁ? と思ったが、東京の大学生のお姉さん達に圧倒される。


「きゃあ! 瑛丞君の妹チャン、超可愛い」


「日本人形みたい!」


「浴衣、良く似合ってますねぇ」


 祇園祭の浴衣を着ていた由利亜を取り囲んで騒ぐ。


「あのう、なんやったら浴衣でお祭り見物されますか?」


 お茶を出していた女将の言葉に、三人は良いんですか? と喜ぶ。京都の町には着物が似合う。それに、祇園祭には浴衣姿の人が溢れていた。


「男物もありますか?」女将の顔で、先輩の江口さんのなら有りそうだが、瑛丞より10センチも背が高い西園寺のはと、一瞬困った顔をする。


「そうや! 浴衣なら直ぐに縫うてくれはる人がいますわ! 由利亜、高乃原さんへお連れして」


 何時も着物を買う呉服屋さんへ亮を案内する。瑛丞は先輩の江口さんへ自分の浴衣を貸したり、他の女の人達が女将が出してきた浴衣を選ぶのを手伝ったりと忙しい。


「どれが良いか、迷いますね」


 浴衣を買うのは初めてだと言う亮に、由利亜は似合う柄を選んであげる。


「亮さんは、背が高いから……こんな大柄も似合います」


 紺地に、大きく祇園祭の模様が白く染め抜かれた浴衣生地を、亮の肩に掛けて、姿見に写す。


「やう、似合いはりますわ」


 高乃原の主人に言われて、亮もこれにしようと決める。


「えらい、すみませんが……」


 由利亜が言い出す前に、電話で女将さんから聞いてますと笑う。


「夕方までには鶴の屋さんに持って行かせて貰います」


 由利亜は、ホッとして亮と一緒に鶴の屋まで帰る。


『なんや、デートみたいやわ』


 二人っきりなので、由利亜はドキドキするが、亮はコンチキチンの祭り囃子に気もそぞろだ。


「祇園祭を見られるだなんて、思ってもみませんでした。鉾は美術品の集合ですね」


『東洋美術を勉強してはるから、興味を持たれるのは当たり前や。でも、やっぱり私は友だちの妹でしかないんや』と、由利亜は溜め息をつく。




 夕方には亮の浴衣も出来上がり、それぞれ着付けて貰って祇園祭の宵宮を見物しに行く。由利亜は、何となくお邪魔虫のような感じがする。大学生の男女三人どうし、自然とカップルになっていた。


『やっぱり! お兄ちゃんは、今井さんが好きなんや!』


 先輩の江口さんは、大人っぽい美人の溝端さんに気があるらしいし、三人の中で一番華やかな矢口さんは、亮にアピールしているのが、中学生の由利亜にもみえみえだ。


 コンチキチンの祭り囃子も、湿って聞こえる。


「うちは、少し疲れたから、もう帰るわ」


 送って行こうかと、瑛丞は一応は尋ねたが、未だ夕方だから大丈夫と応える。ブラコンの由利亜だが、人の恋路を邪魔するほど馬鹿ではない。大人しそうな今井さんなら、お兄ちゃんをたぶらかしたりはしないだろうと、家へと向かう。


「あれ? 由利亜ちゃんは?」


 亮は、こんな祭りの人混みに一人で帰したのかと、瑛丞に少し腹を立てたが、矢口さんに鼻緒で足が痛いと寄り添われて、その介抱で追いかけられない。


 由利亜は、橋を渡った対岸から、亮が矢口さんを抱き寄せているのを見て、あっかんべーすると、下駄をカラカラと鳴らして駆け出した。


「早く、大人になりたいわ!」


 部屋にぱたぱたと駈け上がり、ベッドにダイブする。由利亜は、あっと言う間に失恋した初恋に涙をこぼした。コンチキチンの陽気な祭り囃子が、今夜は湿っぽく感じる。



『由利亜ちゃん……中学生に恋したら、マズイ!』


 亮は、川の向こうから、あっかんべーした由利亜が愛しくて仕方が無かったが、友だちの妹に恋したらいけないと自分の気持ちを封印する。足が痛いと身体を寄せてくる矢口の熱烈アピールに、少しうんざりする亮だった。

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