1 ブラコン由利亜!
由利亜は自他共に認めるブラコンだ。大好きな瑛丞お兄ちゃんが見事に大学に合格したのは嬉しくて誇りに思うが、東京へ行ってしまうのは悲しい。
「瑛丞お兄ちゃんは、ハンサムで優しいから、きっと女の子にもてもてやわ! 東京で変な女の子に引っ掛かったら、どないしよう」
両親に自分も東京の中学に通いたいと駄々をこねたが、いつもは由利亜に甘い父親も流石に反対する。
「アホなことを言うたらアカン!」
お父ちゃんに、全く相手にされないので、由利亜は家出して付いて行こうかとまで思い詰めたが、瑛丞に迷惑をかけるで! とお母ちゃんにカバンに荷物を詰めているのを見つかって叱られる。
「瑛丞は18歳や、あんたみたいなお子ちゃまのお守りしながら、勉強なんかできへん。足手まといになるで」
京女のお母ちゃんは、結構厳しい。老舗旅館『鶴の屋』の女将をしているだけあり、見かけはたおやかな着物姿の京女だが、芯はしっかりしている。由利亜は、悔しく思うが、その通りやと唇を噛み締める。
「ほなら、料理、洗濯、掃除がちゃんと出来るようになったら、東京へ行ってもええの?」
今まで甘やかし放題だった由利亜が、真面目に家事をするとは思えなかったお母ちゃんは、一人前に出来るようになったらと頷く。
「お兄ちゃん、ゴールデンウィークには京都に帰って来てね!」
京都駅の新幹線のプラットホームで、永遠の別れのように泣く由利亜を、瑛丞は困りながら抱き締めて約束する。
「もちろん、ゴールデンウィークには帰って来るよ!」
お父ちゃんに引き離されて、涙ながらに瑛丞お兄ちゃんを見送る。見えなくなった新幹線を名残惜しく思うが、チンと鼻をティシュでかむと、気持ちを入れ換える。
「お母ちゃん、瑛丞お兄ちゃんの好きな料理を教えて! ゴールデンウィークまでに作れるようになりたいんや」
「このブラコン娘にはかなわへんわ!」
お母ちゃんは、由利亜が東京へ行くのを諦めるだろうと考えていたが、もしかしたら甘かったかもと溜め息をつく。
「でも、まぁ修行に限りはありまへん」
長男の瑛丞に旅館を継ぐ意思は無さそうなので、甘えたの由利亜を厳しく鍛えるしかないのだ。ブラコン娘に女将が務まるのかと、不安になるが、目的は違うが本人はえらく張り切っている。