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恋人

朝になった。二人の寝不足顔は、周りの皆を怪しませた。(あれから普通にそれぞれ部屋に戻って寝ただけなのですけど。)

魔の国行きのことは、榊が頼むと皆、同意してくれた。

「入り口はねえ。この真下の部屋に今から繋げるのよ」

ロビーで、メアリーが教えてくれた。

「そんなこと、できるんですか?」

「蓋を開けたり、閉めたりしているだけだけどね」

ドドドドド。不審な音と共に、部屋が軽く揺れだした。

「来るよ。地下に行こう」

ジュンが促した。

全員で下に降りると、水色の髪の、白い肌の青年が、下に空いた大きな穴の手前に立っていた。彼は私達を見ると、軽く手を挙げた。

「彼が魔の国の王子だ。」

榊が耳元で呟いた。

メアリーと王子は何か話をした。榊が穴に近づいた。百合は共に歩み寄ると、穴の中に大きな竜が平らにとぐろを巻いていた。王子が先にその竜に乗り手招きし、それを合図にメアリーを残し皆乗った。百合は榊の服を引っ張り、

「彼女は残るのですか?」

と、聞いた。

「彼女は魂を操る者だから、あまり危険な場所には、行かないんだ」

「そうなんですか。彼女の能力も榊君みたいに、産まれた時からなのですか?」

「特別な能力は、魔物の生まれ変わりがもっているんだ。転生術を使えば、生前の能力を持って生まれ変われる。彼女も元を辿れば、吸血鬼の生まれ変わりだよ。何百年も生きた魔力の強い吸血鬼だけどね。もう何回も転生術で転生している」

「でも榊君の能力は、ワズ持ってなかったですよね」

「持ってたさ。使い方を知らなかっただけだ。証拠を見せようか。あの時の僕は、この使い方しか知らなかった」

榊は、百合の首にある牙の傷を軽く触った。

「ああそうか、こういう方法もあるな」

榊は独り言の様に呟くと、少しいやらしくにやついた。瞬間、百合の体を快感が貫いた。あの血を吸われた時に感じる快感だ。

「あっ」

百合は思わず声を出し、恥ずかしくなって榊の手を振り払った。

「いい顔していた」

 榊は手を口にあて、クッと笑った。百合はカッとなった。

「もう、やめて下さい。こんな・・・ところで・・・」

「こんな、ところで・・・ね。悪かった。ちょっと、調子に乗りすぎたよ」

「おーい、二人の世界に入るなよ。出発するぞ」

 ジュンが声をかけた。百合は恥ずかしそうに俯いた。榊は、そっと百合の耳元に顔を近づけた。

「続きは、二人きりの時にでも」

そしてジュンに向かって声をかけた。

「ごめん、叔父様。僕、嬉しくてさ」

「気持ちは分かるが、程ほどにしろよ。見てられない」

「注意します」

 榊は、ジュンに向かって、軽く手を挙げた。

「いいか、動くぞ」

ジュンが言うと、王子が手を鳴らした。竜はグラグラと揺れ、静かに下に沈んで行った。

「怖くない?」

 榊が百合に聞いた。

「・・・魔の国には、いやな思い出ありますけど、今はみんな一緒ですし、魔の国の王子もいますし」

上の方では、メアリーが手を振っている。王子が寄ってきて、百合に握手を求めた。何か言っているが、何を言っているか分からない。百合は握手だけして、困った様に榊を見た。榊は不機嫌そうに王子に何か言うと、王子は笑って去って行った。

「何て言ったのですか?」

「新しい子だね。僕の妻になる気はない?ってさ」

「会ったばかりですよね。」

「あいつは見目の良い子なら、誰にでもそう言うんだ。何人でも妻を持てる身分だからな」

「軽そうな人ですね」

「仕事の時は、きっちりしてくれるんだが」

榊は無愛想にそう言った。そして王子の方へ行って、なんやかんや話したので、百合は少しハラハラした。

下に着くと、そこはもう王宮で、人が何人もいた。乗っていた竜は人に代わり、王子の側にぴったり着いた。家来なのだろう。

ジュンを中心に、皆でそこにいたお偉いさんらしき何人かと挨拶をし終えると、その人達全員で大広間に通された。そこは部屋の半分に壁代わりに大きなカーテンが掛かっており、中に何か大きな者がいるのが分かった。

「王だ。老化で人の姿でいられなくなったのさ」

榊が小声で百合に教えた。

「王子が若そうなのに、もう老化ですか?」

「王子は、やっとできた男の子だ。上に沢山姉がいる。・・・百合、ちょっと、出ない?この話し合い、長そうだし」

「えっ、いいのですか?」

二人は、お偉いさん達を後に人混みをかき分け部屋をでた。

「榊君。さっきの話しですけど、私だけ気持ち良くなるのは、その・・・」

 榊に連れられながら、百合は、言いにくそうに話しかけた。

「ああ、そのうち僕も気持ちよくさせてもらうから」

「いえ、あの・・・それも・・・」

榊は、立ち止まって百合の方を向いた。

「心配しなくても大丈夫だよ。しばらくは、紳士でいてあげるから」

そして、また歩き出した。

「しばらく・・・ですか」

 百合が追いかけながら聞いた。

「そう、しばらく」

榊は楽しそうに言った。百合はしつこく話しかけた。

「榊君は優しいですよね」

「もちろん。優しくするよ」

「あの・・・ですね」

 榊はもう一度立ち止まって、百合の方を見た。

「百合の意志は尊重するよ。大事だからね。ただ、君が少しでも望むなら、僕は迷わないから」

百合の心臓は破裂しそうに脈打った。

「ずるいです」

「僕は17年も禁欲生活耐えているんだぜ。百合はまだ1日だろ。3日目くらいが、きついんじゃないの。僕、そのくらいのタイミングで抱いてたし」

「ワズと違う顔で、そう言うこと言わないで下さい」

「そうだね。でも、妬けちゃうな。君を抱けた昔の僕に」

 榊は、すっと百合の頬を撫でた。

「本当にずるいですね」

 榊がフーッとため息をついた。

「僕も、高校生では早いっていう常識くらい学んださ。だから百合のこだわりには、付き合うよ。気の済むまでね。つらくなったら昔の方法で、気持ちよくさせてあげるから。その時は、僕の気持ちとか考えなくていいよ。ああっ、僕っていい彼氏だなあ」

「複雑です」

百合は、少し頬を膨らませた。

「まあ、今はこっちこいよ」

榊に連れられて王宮の庭にでると、さっきの王子の家来らしき人が、ペガサスを二頭連れて待っていた。

「これって。もしかして」

百合は、榊の顔を見た。

「いつか言っていたろ、ペガサスに乗るのが夢だって」

「ワ・・・ズじゃなくて、・・・榊君」

「そろそろ、下の名で呼んでくれないかな」

「ま・・・こと?」

「ああ」

榊は優しく笑った。そして百合を軽く抱き上げると、ペガサスの上に乗せた。(さっき王子と話していたのは、これを頼んでいたのですね。)

「一人で乗ってもいいですか?」

百合が尋ねると、榊は軽く頷いて、自分ももう一頭に乗った。二人にとって、それはとても素晴らしい時間だった。


夏休みが終わった。朝から榊と待ち合わせして学校に行くと、丘ちゃんが声をかけた。

「おーラブラブですね。朝から一緒ですかぁ」

「はい」

百合は嬉しそうに頷いた。

「あれ?夏休みに何があったの?いつもと、反応違うじゃん」

「そうですか?」

(そういえば前はこういわれると、困った顔していました。)百合は頬を掻いた。(なんだか照れますけど、これからワズと・・・誠と一緒に学校生活を送れるのですね。)

百合は、知らずに顔がにやけてきた。

「こらっ白状しなさいっ」

丘ちゃんが顔を近づけて来た。百合は逃げだした。そして、窓の外の晴れた青空と日の光を見て、改めて恋人と太陽の下で生活を送れる幸せをかみしめていた。

                                 


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