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Trans Lover's  作者: 霊雨
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ep4

 まず1つ、いくら教育環境が良くて学校全体の規律が正しくても、彼女達が幼いことに変わりはない。転校生……つまり月乃が転校するという噂が立ったときからテンションは上がりっぱなしだった。ただ、騒いでいけない場所では騒がないという教育がしっかりとされていたために静かになっていただけだった。それも半分ほどで、もう半分ほどは先生に気づかれないようにと小さな声で隣の席の子と囁きあっていたりしていた。


 ガララと扉を開けて入ってきた月乃に視線が集まったのは、ただ単に月乃の容姿が整っていたからだ。殆どの生徒は「ほわぁ……」とやるせない声を息と一緒に小さく吐き出しながら月乃を眺めていただけだった。

 月乃が自分の自己紹介をした祭に出た声はそれだけでクラス中の心をグッと掴んだ。月乃は内容の部分を気にしていたが、気の毒な話、自己紹介の内容は彼女たちの耳にはあまり入っていなかった。

 高すぎず、低すぎない、媚びるような甘い声でもなく、凛とした透き通った声だった。


 まぁ……結論から言うと、月乃が気にしていたことは全くの無意味だということだ。

 むしろ好印象も好印象、早く話をしたいと彼女達はウズウズしていたくらいだ。


 朝のSHRからそのまま1時限が始まる、月乃は久しぶりの学校の授業で少し興奮していたが、彼女達は別の事でずっと興奮していた。

 そして1時限の終了を告げるチャイムがなり、挨拶が終わると同時に、酷い例えだが花に群がる虫のようにクラスの女子たちは月乃の席に集まった。


「え? えっ!?」


 自分の席に殺到するクラスメイトを見て、月乃はただ慌てふためくことしか出来なかった。


「ねぇねぇ、前の学校はどんなところだったの?」

「どこから通ってるの?」

「兄弟はいる?」

「好きな物は何?」


 漫画で見るような質問責め、前世現世含めてそんな経験をしたことがない月乃はどうしていいかもわからずにさらに慌てふためくだけだった。


「皆さん、日野原さんが困っているわよ」

鳥遊里(たかなし)さん……」


 そんな月乃を助けてくれたのは見事なツインドリルを提げるお嬢様な女子生徒だった。彼女の名前は鳥遊里香苗(かなえ)、お嬢様な、ではなく生粋のお嬢様である。

 月乃は自分を助けてくれた香苗にぱぁっと輝くような表情を向けるが、それを見た香苗は「ふふ……」と微笑みながら「質問するならお一人ずつなさった方がいいですわ」と付け加えた。


(質問は受けないといけないのか……)


 月乃はシュンと肩を落としながらも、クラスメイトたちの質問に丁寧に答えていくのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時間は少し過ぎて昼休み。明成付属小には校舎に大きな食堂があり、生徒はそこで食事をとるような形式になっている、朝から質問漬けにあった俺は「どうか昼休みだけは……!」と言い残しながら一人走りさり、食堂に向かっていた。


「結局俺から一人になって行くのか……」


 ぼっちにはなりたくないと言いながら、いざ大人数に囲まれたら耐え切れずに走り出した自分自身に溜め息が自然と出た。あれが男子だったら……とは考えたが、その考えは無いな、と首を振る。


「あれ、食堂に行こうと思ってたら音楽室に着いた」


 ついでに絶賛迷子中。まぁ……ロクに校舎の構造も知らないで、チラ見した校舎図を頼りに移動すれば迷子になるのはわかりきったことだったんだけど……切羽つまっていたんだ、仕方ないね。だってあの女子郡怖いんだもん、ツインドリル(鳥遊里)さんもずっと微笑んでるだけだし。


「それよりも食堂に行きたい……お、あの子は……」


 俺の視線の先には俺の隣の席の子、大原さんがいた。


「あ……」


 どうやら向こうも気付いたらしく、俺と視線が交わった。しかし直ぐにふいっと視線を逸らされてしまった。何故だろうか……やっぱり嫌われてるんだろうか。

 いや……決めつけは良くないぞ、もしかしたらただ単に大人しいだけなのかもしれない……やらないで後悔するよりやって後悔しろ、だ。どっちみち嫌われてるなら嫌われてるで仲良くなりたいし! 

 俺はススーと大原さんに近付いて声を掛けた。


「えーっと……大原さん?」

「は……はい、なんでしょうか……」


 なんでそんなにビクビクするんだ。


「そのですね、申し訳にくいんですが……迷子になってしまいまして……」

「ま、迷子ですか?」

「そうです、食堂に行こうと思ってたら……ここに」

「……食堂は1階ですよ?」


 わお、初耳。ここ? 3階。


「一階に食堂なんてありましたっけ?」

「別の棟にあるんですよ」


 別の棟か、そういえばこの学校って幾つかの棟に分かれてるんだっけ。若干田舎とはいえ……どんだけ敷地もってるんだこの学校は……加えて大学とかの敷地を合わせると東京ドーム幾つ分になるんだろうな。

 というか、大原さん凄い喋る……口調からして大人しい性格なんだろうとは思うけど……別段俺のことを嫌っているという雰囲気はなさそうだ。


「大原さんは、もう食べたんです?」

「いえ、私もまだですよ……?」

「良かったらなんですけどっ……! 一緒に食べませんか」


 どうよこのパーペキ(おそらく死語)な誘い方は……!


「えっと……」


 マジか。

 やっぱり嫌われてるのかな……

 くっ……目頭が熱い!


「い、行きます!」

「え? いや、いいんだ……無理しなくても……」

「む、無理なんてしてないです! むしろ嬉しいくらいです!」


 以外な解答に俺はチラっと大原さんの方を振り向いた。なんで鼻を抑えてるんですかね?


「鼻血?」

「い、いえ……大丈夫です」

「そっか」


 まぁいいか、これでぼっちからは抜け出せたし、大原さんいい人っぽいし、やったぜ。

 この学校での初の友達――クラスメイトはなんて呼べばいいのか分からないからまずは放置――が出来たことで頬が自然に緩んだ。


「そうだ、そういえば大原さんの下の名前知らないんだけど……教えてもらっていい?」

「あ……そういえばまだ自己紹介まだだったね、大原杏子(きょうこ)です、よろしくね」

「改めまして日野原月乃です、改めてよろしく」


 何がおかしいのかは良く分からなかったけど、俺たちは小さく笑い会った。

 良いな……やっぱりこうやって自立して行動できるっていうのは……!




 移動して食堂、デカい、そりゃ結構な数の生徒いるもんな。杏子ちゃんに聞いた話だと弁当を持ってきている人をいないわけではないらしいけど。

 ちなみにこの学校の食堂は日替わりと固定のメニューがあってそれをカウンターで注文して受け取るスタイルだ。俺は取り敢えず日替わりを頼んでおいた、杏子ちゃんも一緒だ。

 注文してから少し待つのかとも思ったが、数分だけだった、早い、まるで定食屋だ。定食屋とか行ったことないけど。


「うめぇ……これ学校で出す食事のレベル超えてんだろ……」

「この学校のご飯は美味しいって有名なんだよ」

「やっぱり」


 今日の日替わりメニューはまぁ……良くある給食を豪華にしたような感じだ。盛り付けが綺麗だったりするけど全体的に見ればそれほど変わりは少ない。味を除いては、だけど。

 流石私立。


「あ、おねーちゃん!」


 杏子ちゃんと昼食を食べていると、遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「おぅ、月紫か」


「よっ」と軽く手を上げて月紫の呼びかけに答えておく。

 そういえば同じ学校になったんだったっけ……なんか新鮮だな。

 月紫はそのまま何処かへ行くのかと思ったが、そのままこちらに向かって歩いてきた。装備品は俺たちと同じ日替わり。


「友達と一緒にいたんじゃなかったのか?」

「うん! おねーちゃんのとこに行ってくるって言ったから大丈夫だよ!」


 相変わらず元気が良いな、月紫は。


「月乃ちゃん……もしかして妹さん?」

「うん? あぁ、妹の月紫です」

「よろしくおねがいします! ……えーと」

「大原杏子です、よろしくね」

「きょーこさん!」


 見てて微笑ましいなぁ。

 それよりも杏子ちゃんの雰囲気変わり過ぎだろ、あの暗い感じはなんだったんだ? まぁ……あれだろ、人見知りとかそう言う感じの……そういうことだろう。




 昼食を食べ終わり、月紫とも別れた俺は現在、杏子ちゃんと一緒に図書室へと向かっている。

 以前までなら腹ごなしに校庭を走り回るところなんだけど、どうやらこの学校では昼休みで校庭で遊び回るという習慣がないらしい、なんでだ……別に禁止されているわけでもないのに……

 基本的にはみんなで雑談したり、図書室で本を読んだり、食堂でのんびりと過ごしたりと……非常に落ち着いた昼休みを過ごしているらしい。いや、いくらなんでも落ち着き過ぎだろうと思う。

 別にそんな中で一人校庭を全力で走り回ってもいいんだけど、流石に転校初日になにかましてんだという目で見られるだろうということは予想できるので、そこは自重した。

 それに俺自身も読書は好きだし、暇つぶしに勧められて最初こそあまり乗り気じゃなかったけど、読んでいくに連れて本の楽しさが分かっていった、気付いた時には本の虫と化していた。まぁ、読書以外にすることもなかったしな。それも、結局は出来なくなったんだけど。人にページをめくってもらうのは俺は嫌いだったから、完全に手足が動かなくなったあとは読んだ記憶はない。

 そんなわけで、俺は杏子ちゃんと一緒に図書室に行くことにしたわけだ。


「広くない?」

「普通だと思うけど」

「いや、それはない」


 まず普通の図書室に2階とかないからな。

 校舎を見たときに出っ張りがあるなと思っていたけどここだったのか、なにがしたいんだよ、金余り過ぎだろ。

 見渡す限りの本、本、本! 前の学校の図書室は小学生でも手が届くほどの低い背丈の本棚が6、7列並んでいるだけだったからな。高い所にある本を取るために本棚には移動可能な梯子の様な物も付いていた、あれって空想の中だけの話じゃなかったのか……

 一通り見て回ったが、懐かしい本が至るところにあった。ファンタジー小説だったり、伝記だったり文学だのなんだのの小難しいなんで小学校に置いてあるんだと思うような本まで。


「そういえば」


 めぼしい本が無いか探していると、ふと後ろにいる杏子ちゃんからそんな声が聞こえてきた。


「月乃ちゃんって見た目と違って言葉使いが男の子っぽいよね、すっごく意外だったよ」

「そうかぁ?」

「その反応が既にそうだよ」

「そうかぁ……でも俺は杏子ちゃんの方が意外だったけどなぁ」

「私?」

「朝は凄い暗い顔してたから。俺が嫌われてるだけかもと思ったけど、そうじゃないみたいだし」

「あぁ……うん、まぁね」


 俺がそう言うと、杏子ちゃんは複雑そうな顔をした。


「どうかしたか?」

「ううん……なんでもないよ。それよりも良い本は見つかった?」

「……あぁ、これでいいや」


 杏子ちゃんはさっきまでの表情を隠すように笑みを浮かべて、そういった。

 俺は取り敢えず、安易に踏み込むこともないだろうという結論に至ったので、そのまま追求することはしなかった。


「それ凄い難しそうだけど……大丈夫なの?」

「え? 宇宙論って面白そうじゃない?」


 ちなみに杏子ちゃんが選んだのは恋愛小説でした。

10話まであるので今日を合わせて1週間は毎日更新出来そうです。

その後は不定期……一週間に一回は更新したいところですね。

それではまた明日、18時に更新致します。


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