表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trans Lover's  作者: 霊雨
4/20

ep3

前話での大まかな出来事。

夏休みに父方の祖父母を家に遊びにいった月乃ちゃんは、その夜にどこぞの小屋へと連れ去られて悪い魔法使い(40手前)に男が怖くなる呪いを授けられて意識を失った。

 夢を見ていた。いや、夢かどうかわ知らないけど、多分夢だ。

 だって俺の姿が前世のままだし、しかも高校生の格好をしている。あの頃によく見た夢だ、いつの日か病気が治って普通に暮らせていけばいいなとも考えていた、それが絶対に叶わない夢だとしても。

 現にそれは叶わずに死んだのだけども。

 夢の中で俺は高校生としての生活を満喫していた、夢だからだろうか、ダイジェストっぽくサラサラと流れていく、高校生が終わり、受験を経験して大学生に……彼女が出来て結婚して……




 そのまま続くと思った夢は、そこで途切れて、俺は目が覚めた。

 夢の内容は……もう既に少し忘れていた。ただ、自分の身体を見てアレが夢だったのだけは理解できた。


 ……それにしても、身体が重い、まるで自分の身体じゃないみたいだ。いつまにか寝巻きが秋仕様になってるし、いや元からこんなだっけ?

 シャッとカーテンを捲ると、外はまだ夜明けの真っ最中だった、ほんのりの暗くて、ちょっとだけ明るい。

 そっと触れた窓ガラスは冷たくて、ついでに部屋の室温も夏とは思えないほどに涼しかった。最近はホント異常気象が多いな、まだ夏だぞ、10月並の気温じゃないか。


「喉が痛い……」


 そう言って喉から出た俺の声も酷いものだった、風邪かな、この気温差だし、その可能性もあるかな。

 軽く身体を伸ばして、俺は外に出ようと一階の玄関に向かった。こんな早朝にマラソンはしないが、それでも家の広い庭で軽く運動でもしておきたい、そんな気分になっていた。

 玄関に近づくと、少しだけ肌寒く感じた。え、寒くない? まぁ……走っていれば暑くなってくるだろう。

 俺はスリッパから靴に履き替えると、そのまま玄関の扉を開けて呑気に欠伸をしながら外に出ようとして、陽の光を浴びた。その瞬間だった。


 ドクンと心臓が一跳ねしてキュっと締まるような痛みに襲われる。そこで寝ぼけていた俺の思考が一気に覚醒して最悪な記憶が蘇ってくる。

 胃の中のものが込上がってくるような気持ち悪い感覚に襲われて、俺は幸いにも玄関すぐ近くあるトイレに駆け込んで、そのまま俺が我慢できずにこみ上げて来たものそのまま吐き戻した。


 しばらくすると多少マシになって来たので俺はそのまま水を流し、洗面所で手を洗った。


「……酷いな」


 手を洗う際に洗面所の鏡に俺の顔が映ったが、それは酷いものだった。なんというか……死にそうな子供だな、目の下には大きな隈が出来てるし、髪は艶を失ってボサボサになっていた。身体は別に臭わないからそっちは大丈夫らしい。

 そんな時、トントンと階段を降りてくる音がした。このゆったりしたリズムは、母さんかな。

 ヒョイと俺が洗面所から顔を出して確認すると、ちょうど階段を下り終わってこちらを振り向いた母さんと目があった。


「……月乃……?」

「おはよ」


 笑いながら言ってみたつもりだが、ちゃんと笑えていただろうか、引きつってそうだ。

 俺が何気なく朝の挨拶を母さんにすると、母さんは口を押さえて目に涙を溜めていた。そしてそのままゆっくりと近付いてきた母さんにしっかりと抱きしめられた。そのまま何度も、何度も謝られた。なんのこっちゃい。


 そういえば、母さんと父さんは俺が叔父にあれこれされていたのを知って……るんだよな。小屋に来てたような記憶がある。




「どうした?」


 母さんに続いて、父さんも降りてきた。そしてそこからは大体母さんと反応は一緒だった。泣きそうな顔になってフラフラと近付いてきた。

 俺を抱きしめようと、父さんが俺に手を伸ばしたところで、何故か俺は反射的に父さんの手を払い除けていた。

 父さんはそれを見て、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。俺は払い除けた父さんの手に慌てて触れるが、父さんの手に触れると、俺の身体は意識に反してガタガタと震え、視界も真っ暗になっていくような感覚に襲われた。


「無理しなくて、いいんだよ」


 そんな俺を見かねて、父さんは手を引っ込めた。気を悪くしただろうか、そんな思いに駆られて顔を上げてみるが、俺の視界に写った父さんの顔はいつも通りの柔かな笑みを浮かべていた。


「ぁ……」


 罪悪感のせいだろう、俺の目からは意思に反してポロポロと涙が溢れてくる、グシグシと乱暴に服の裾で涙を拭き取るが、視界の歪みがなくなることはなく、付属品のように嗚咽まで付いて来た。

 決して泣いてる訳ではない、これはその……罪悪感のせいだから……




 俺が落ち着くまで、父さんはそのまま俺を見守っていて、母さんは俺の背中をずっと撫でていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから、父さんと母さんと俺との3人で少し話をした。

 どうやら俺の気がつかない内に数ヶ月ほど時間が過ぎていた、リビングに掛けてあったカレンダーで気がついた。

 取り敢えず、話の内容としては、安否確認みたいな……そんなものだったが、叔父に関しては何も触れてはこなかった。

 そして父さんからは、「転校しないか?」ということを持ちかけられた。


「明成付属……それって」

「月紫も通っているところだよ」

「でも」

「遠慮しなくていいんだぞ?」


 いや、別に遠慮している訳ではないけど。

 でも、聞いた話だと、どうやら俺は“男性恐怖症”とか言うものに陥ってしまったらしい、それを伝えるときの父さんは大分遠まわしに言っていて、理解するのに時間がかかったけど。

 でも、その提案は今の俺にとってはありがたいとは思う、男性恐怖症のことだって、にわかには信じられないが、さっきの父さんの手を取った時の俺の反応からして、そうなんだとは理解したつもりだ。

 明成女子大学付属小学校は月紫も通っている完璧な女子校だ、いまの俺にはぴったりだろう。


「分かった、そうする」

「……そうか、ごめんな」

「父さんが謝ることじゃない」


 俺は転校することを決めた、どっちみち今の学校へは行けそうにもないし。自分の状態はこれでも理解しているつもりだ。

 取り敢えず女子校に転校することになったけど、いつまでも男を怖がっている訳にもいかない。転校するまでもう少し期間があるから、その間にせめて父さんとは普通に接せるくらいには改善しておきたい。あとは気合でなんとかしようと思う、これでも元男だ、なんとかなるだろう……多分。


 このあと、眠たそうに目を擦りながら降りてきた月紫が俺の姿をみて泣き喚きながら抱きついてきた。また、いろんな人に心配をかけたな……




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あれから少し経って、年も明けて現在1月。

 俺が正気に戻ったのが11月の中旬で、そこから念の為の検査とか療養とかで1ヶ月ほど時間を使い、俺は1月から……つまり3学期から明成付属に転校することになった。

 それと男性恐怖症の方だが、割とどうにかなった。始めは外に出ることすらままならない状態だった――もはや男性恐怖症ではない――のだが、今では当然だけど父さんとも普通に接せるし、谷坂らとも普通に話せるとは思う……触れる云々は別として。ただ、ちょっと小太りのおっさんを見ると身体が反応するのはどうにもならなかった、それでも1ヶ月前に比べたら随分マシなんだけど。まぁ……流石にまだ大量の知らない人――特に男――が居る場所には行けないんだけどな。学校くらいならいけると思う、生徒は全員子供だからな、しかも女子。

 酷かった隈も殆ど見えないくらいになり、見栄えも随分良くなった。外見で変わったとこといえば髪を切ったくらしか……今は肩にかからないくらいにまで短くなっている。ボーイッシュな感じだ、まだ身体が幼いこともあってか服装によっては男子か女子かわからなくなるだろう……何故か凄く安心できる髪型だ。


 明成付属は以前の小学校と同じく私服登校だ、俺は勿論スカートなんて履いていない、というか履きたくもない。なんだろうな……なんとも言えない嫌悪感が出てくるというか、よく分からないんだけど、兎に角そういうことだ。母さんももう勧めてくるようなことはなかった。




 入学する前に一度、明成付属小の校舎を見学をしたのだが、流石私立というべきか、めっさ綺麗だった。設立から年月が経っているらしいんだけど、それを感じさせないピッカピカの廊下や窓、埃なんてものは存在しなかったんだ。特に窓に水垢がないことには驚いた、何度こすっても落ちないんだぞ、アレ。

 ここの学校の生徒は流石いいとこのお嬢様なのか、掃除をしっかりやって偉いなー、と思っていたのだが、どうやらこの学校では掃除専門の業者を雇っているらしく、生徒は殆ど掃除をしないらしい。ベランダに雑巾が無いとは……ここは本当に小学校なのか……


 それは置いといて、今日は俺の明成付属への初の登校日だ。実をいうとかなり緊張している、流石にもうぼっちには戻りたくない。第一印象が大切だ……前世で読んだ本にそう書いて会った、大丈夫だ……笑顔ではっきりと、そして要件をまとめることが大切……大丈夫、箇条書きでメモってきちんと練習もしてきた、行ける筈だ。

 俺はタレ目が特徴的な優しそうな雰囲気の担任の(たまき)先生(おそらく30代)に連れられて転入先のクラスへと向かう、クラスは4-2、ちなみに全部で3クラス、1クラス30人ほどだ。

 先生が教室の中へと入り、所謂朝のSHRを始める。こっそりと聞き耳を立ててみるが教室からは先生以外の声は一切聞こえない。そういえば男子いないんだっけ、いつもなら男子諸君が騒いでいるんだが……それにしても静かだな、流石はお嬢様学校ってところか。

 そしてSHRも終わりに近付いてきたころに、先生が少しだけ扉をスライドさせて俺を呼んだ。……遂にこの時が来たのか。

 俺は意を決して教室内部へと足を踏み出す、下を向くのは良くないと書いてあったので前を向いていたけど、チラっと横を除いたときに女子の視線が全てこちらに向いているのを見たときは戦慄した。


(怖ぇええ……!)


 首が動く日本人形みたいな感じだった。意図せずに身体が硬くなった。


(お、落ち着け……)


 教卓の前まで移動すると、否応が無しに前を向くことになった。

 若干恐怖を感じながらも前を向くと、個性豊かそうなクラスメイト達の姿が視界に飛び込んできた。お団子2つを頭にくっつけていたり、ポニーテールだったりツインテールだったり、眼鏡だったりそうじゃなかったり、金髪だったり黒髪だったり……中でもドリルみたいな髪の毛の娘がいたのは衝撃的だった。緊張は、もうしていなかった。


「それじゃあ、自己紹介お願いするね」


 先生にそう促されて、俺はふぅ……と息を短く吐いてから、自己紹介を始めた。


「初めまして、日野原月乃です。いろいろあってこの学校に来ることになりました、これからよろしくお願いします」


 ゆっくりと、そしてしっかりと言い切って、俺は腰を折った。噛んでないし……これは好感度バツグンだろう……!


 ……反応がないな。


 ゆっくりと上半身を起こしてみるが、クラスメイトは動いてすらいない。拍手とかないのか、涙出そうなんだけど。これミスった感じなのか……? ぼっちは……いやだ……!


「それじゃあ……大原さんの隣の席に座ってくれるかしら」

「あ、はい」


 俺が考えこんでいると、先生はそういって俺の席を指定した。そっちを見ると、窓際の一番後ろの席にひとつだけ誰も座っていない席があった。

 いつまでも落ち込んでいても仕方がないので、俺は取り敢えず指定された席に座ってランドセルを机の上に置いた。仕舞う場所は後ろだが……それはこのSHRが終わってからでいいだろう。

 取り敢えず……隣の席の娘には挨拶しとかないと……こういうとこから友達が出来る可能性ってホラ……あるじゃん?


「えっと……日野原月乃です……大原さん、だよね? よ、よろしくね―……」


 最後のよろしくねが尻すぼみになってしまったのはゆるしてくれ。

 ちなみに、隣の大原さんは後ろで2箇所を縛っている無難な髪型をした娘だ。外見だけみると……大人しい感じだ。


「あ……うん、よろしくね……」


 返ってきた返事がこれである、俺嫌われてるのかな……もうちょっと自己紹介のとこで詳しく言っとけば良かったかな、好きな食べ物とか。よく考えてみれば俺が参考にしてたあの本って確か面接関係の本だった気がする。

 今になって思うが……なぜそれを参考にしたし。

こんにちはみなさん、作者の僕です。

前小説からかなりの時間が空きましたが、一先開始させて頂きました。

これからよろしくお願います!!

ここまでの読了感謝感謝です。次回は明日の18時に投稿します、お楽しみにィ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ