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Trans Lover's  作者: 霊雨
15/20

ep14

やったぜ。

「あー疲れたぁ……」


 ボフンと部屋に敷かれた布団の上に倒れ込む薫を見て俺と杏子は苦笑いを浮かべる。

 オリエンテーションとは名ばかりのこの合宿、極端に言えば全時間体育みたいなものだ。この施設まで来る為に登山したにも関わらずさらにここから登山、そして帰ってきたら整列やらなんやらの練習……全く休む暇もない。

 元々体力の有り余っている男子ですら疲れている有様で、体力のある女子はともかく、そうじゃない女子群はまさにカオスだった。口を開けば愚痴だからな、怖い怖い。


「あとは風呂入って寝るだけだな」


 すでに夕食は終えた。疲れ過ぎて食欲をなくした人も結構いたけど。


「もうそろそろじゃない? 私たちが一番最初の筈だし」

「え〜もうそんな時間?」


 合宿での入浴は大浴場を使うことになっていて、入る時間がきっちりと決められている。時計を見ると現在の時刻は7時20分……確か7時30分からだったからいい頃合だな。


「うぅ……お風呂に行くまでが最早苦行の域だよ……」

「どんだけ疲れてんだよ」


 呻き声を上げながら準備をする薫に俺は呆れたように息を吐く。疲れるといってもそこまででは無かったけどな……俺は。


「これで温泉だったらやる気も出るんだけどなぁ……」

「ま、学校のオリエンテーションでそういうのはないわね」


 杏子と薫は「はぁ……」と溜め息を付きながらもちゃくちゃくと準備を進めていった。




「お、天笠……と、井上か?」


 大浴場へ向かう途中、俺たちと同じように着替えを手に持った天笠と井上、それプラス他の男子と出会った。井上は何やら他の男子にもみくちゃにされている、天笠をその光景を背景に苦笑を浮かべていた。


「なんか大変なことになってるな」

「あはは……部屋に戻った時からずっとこの状態だよ……」


 井上に集っている男子の集団からはなにやら不穏な用語すら聞こえてくる。これが男子高校生のノリ(・・)ってやつなのか……俺が男だったらあんな感じになってたのかな。

 嫌だと思うこの気持ちはなんなのだろうか……


「と、いうか」

「え、なに?」


 着替えを片手に持つ天笠をジロリを上から下へと視線を移し、再度顔へと持っていく。


「お前はどっちに入るつもりなんだ?」

「あ、それは私も気になる」

「私も」


 天笠への俺の疑問に他2人も乗ってくる。

 ズバリ……天笠は男湯と女湯……どっちに入るのか問題。


「いや男湯だよ!?」

「いや……ここにきてあるかもしれないぞ」

「そうね……実は……」

「ありそうで怖いよ……」

「ないよ!?」


 天笠は必死に否定するがその姿は全く男に見えない。杏子と薫に混ざっても違和感は無い、このまま女湯に行っても多分問題は起きなさそうだ、脱いだら話は変わるだろうけど。

 そんなくだらない茶化しをしていると直ぐに大浴場に付き、見覚えのある赤と青の暖簾が見えてきた。

 ここに来て一瞬躊躇してしまうが俺は赤の暖簾を潜る、というかそれしか道はない。天笠も当然の如く男湯に入っていくがその後に男の野太い悲鳴が複数聞こえてきた……あいつ本当に大丈夫か?


「っぐ……」


 天笠にいろいろと言っていたが俺も大概だ。

 見渡す限りの肌色、俺も女になって随分経つが未だになれない。いや、まだ小さい頃は良かった……でも高校にまでなってくるとその身体は半分大人といっても過言ではない。身体は女でも心は未だに健全な男の身としては幾分かキツいものがある。自分の裸なら何の問題もないんだけどな……


「どうしたの?」


 なかなか脱がない俺を奇妙に思ったのか脱ぎかけの薫が俺の顔を覗き込む、屈むことによって不意にソレ(・・)を見てしまい、俺の顔に熱が篭るのが分かった。


「な、なんで赤くなるの? 私まで恥ずかしくなるよ……」

「なっ、なんでもないですよ!?」

「なんで敬語なの……?」


 俺は慌てて脱衣棚の方を向いていそいそと服を脱ぎ始める。ガバッと豪快に体操服を脱ぐと後ろから「おぉ……」という声が聞こえてくるのが分かった。


「な、何……?」

「わぁ……月乃ちゃん肌真っ白……」

「は、はぁ……そっすか……?」


 薫の言葉に俺は曖昧な返事を返す。肌が白いのがそんなに良いか? 日焼けしたら大変なんだぞ、これ。まぁガングロにはなりたくないから助かってるといえば助かってるけど。


「そうだよー? 良いなぁ私もこんな肌になりたい……」

「あの……?」


 そのまま薫は今だに下着姿の俺の腕に頬ずりしてくる。それを発端に周囲の女子も俺に一方通行の断りを入れてからワラワラと群がり始めた。ヤメテクダサイ。


「そろそろ入らないと時間なくなるわよ」


 何分経ったのか、杏子が俺に群がる女子にそう告げる。時計を見ると……既に10分も過ぎていた。

 女子達は黄色い声をそのままにしてワラワラと風呂場へと移していく。

 女子の魔の手から逃れた俺はそのままヘニャリと床に座り込んでしまった。


「月乃……顔真っ赤よ?」


 ニヤニヤしながら俺を見つめる杏子に、俺はジト目で睨み返した。それを受けた杏子は「あら怖い」と思ってもいないことをいいながら俺にも早く入ってくるようにだけ言ってそそくさと脱衣所を後にした。

 俺も一つ溜め息をついてからさっさと浴場に向かった。


 ちなみに、風呂でも同じようなことをされた。クラスメイトとは仲良くなれたんだけど……思ってたのと違うんだよなぁ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「はぁ……スベスベだったなぁ……ね、月乃ちゃん」

「ね、じゃねぇんだよ」


 大浴場での惨劇――あくまでも俺目線――を思い出したのか、若干頬を赤らめて俺の方を見る薫に、威嚇するようにそう言った。

 薫はそんな俺を見て「まぁそんな怒らないでよ」とお菓子の袋を差し出した。


「お前……それで許しを乞うのか」

「いらないの?」

「いる」


 お菓子は正義。

 前世ではそんなにお菓子が好きではなかった――というか食べられる状況じゃなかったというほうが正しい――筈だけど、女になってからは非常に甘いモノに敏感になって美味しく感じる。


「糖分ばっかり摂っても意味ないわよ、タンパク質と脂質も摂らないと」

「アスリートの考え方だぞ、それは」

「そんな事ないわよ」


 まぁ……杏子の好きな間食はまさかのビーフジャーキーだからな、流石にワイルドすぎるだろ。

 杏子から言わせればこういうお菓子類は歯ごたえが無さすぎでダメなんだとか……味じゃないのかよ……


 その後もダラダラと雑談を繰り広げて行くと直ぐに消灯時間間際になった。


「もう10時か……」

「早いねー」


 この合宿の最終消灯時間は10時だ、早く感じるかも知れないが俺は普段からこんな感じなのであまりそうは思わない。

 本当ならここからなんやかんや話が盛り上がるんだろうが……俺は多分寝る。10時に寝て6時に起きるのが俺の普段の生活リズムだからな。


「あーちょっと外すわ」

「お、いってらー」

「一緒に行ったほうがいいかしら?」

「いや、大丈夫だよ」


 俺の一言で何をしに行くかは理解した2人はそれぞれの反応を返してくる。薫はまぁそうだが……杏子の返事は俺を心配してのことだろう。

 流石に過保護過ぎるような気がする。まぁ……悪い気分じゃないけど。




 無事に……というのも可笑しい話だけど、用を済ませた俺は手を吹きながらその場を後にする。すると同時に反対側の出口から天笠が出てきた。


「天笠……お前……」

「え、何?」


 俺は天笠の姿を見て驚愕した。

 天笠は何が可笑しいのかわからずにオロオロしていたが……お前、それはないぞ。

 花柄のピンクの下地の軟らかい生地の寝巻き……まんま女子だ。


「お前実は楽しんでるだろ?」

「え?」

「いや……別に……」


 どうやら天笠は若干……というかかなり天然な部分があるらしい。見た目は女っぽいけどそれ以外は普通ならまだわかるんだが、中身も見た目通りとなると……もう手の施しようがないな。そのうちタイ旅行でも薦めるか。


「あ、あの……日野原さん……」


 そんな事を考えていると不意に天笠から声がかかる。

 そちらを振り向くと何故か天笠は覚悟を決めたような目をしていて、その気迫に押されて思わず唾を飲み込みゴクリと音が鳴った。


「な、何かな」

「えっと……さ」

「は、はい……」










「前世って、信じる……?」










 しばらくはもじもじとしていた天笠だったが、遂に俺の目を見て……そう言った。


「は?」


 誰もいない廊下には、思わずでた俺の素っ頓狂な声が響いた。

やった……久しぶりに一週間以内に更新出来た……!

このペースが続けばいいんですけどね。


読了感謝です。次話もなるべく早くあげるんでよろしくお願いします!

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