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HEROES+《ヒーローズ・プラス》  作者: しんどうみずき
序章:異世界の邂逅編
15/56

未来

 悪魔の力が右腕だけにとどまっているなんて道理があるだろうか。


 そう、その異形がヒデオの右腕に最初に現れたのはほんの偶然でしかなかったのだ。彼はそれを理解すると同時にルークを弾き飛ばす。派手に音を立ててルークが後方へ投げ出される。


 パワーもスピードも段違いに上がっているようだった。それに意識もはっきりしている。暴走もしていない。

 いける。

 ヒデオは宙を舞うようにルークの頭上へと跳躍する。重力も加えて振りかぶった一撃はすんでのところで回避されるが、休む間を与えず追撃。スライムのように身体をねじ曲げてルークが逃げ出そうとする。


「させるかよ!」


 素早く追いすがって引き倒す。

 もう小細工は必要ない。圧倒的な能力差でねじ伏せるのも時間の問題だ。


 それに、できることなら殺さず捕虜にしたい。ヒデオに眠る得体のしれない力のことについて多少なりとも知っている様子だったし、悪魔について尋ねたいこともたくさんある。


 今度こそは力を制御できている。そう自分にいい聞かせる。両腕とも自分の一部として心配なく機能している。暴走してルークを殺めてしまうことはない――はずだ。

 石の床に打ち付けられたルークがよろめきながら立ち上がる。


 ヒデオは呼吸を整えながらその挙動を見つめた。相手はかなりのダメージを受けている。いくら悪魔といえども不死身ではない。人間の軍隊でも勝てるのだから、相当の傷を負わせれば戦闘不能になるだろう。


「その力――流石というべきですか。私を殺さないよう手加減をして戦うなどとふざけた真似を」

「あんたには教えて貰いたいことが山ほどあるんでね。悪いが両手両足くらいは引っこ抜かせてもらうぜ」

「そのような辱めに遭うくらいならば私は命など惜しくもない。魔王様、不甲斐ない私をお許し下さい」

「――おい! やめろ!」


 ヒデオの制止も虚しくルークは自ら喉を貫いた。反射的に顔を背けてしまう。重力に逆らうことなく身体が落下する鈍い音がした。

 まさか自死を選ぶなんて。

 ヒデオは底知れない戦慄を覚えて身を震わせた。魔王と呼ばれる存在は死ぬよりも恐ろしいものなのだろうか。自分の命を賭してまで守ろうと思える相手なのだろうか。


「――ヒデオ殿!」


 リエーヌの悲鳴のような声がして振り向くと、眼前にナイフが迫っていた。咄嗟に身体を捻って刃をかわす。その瞬間、すべてを理解した。

 背後に鋭く右腕を突きつける。

 決して忘れることのない、生物の温もりを嫌というほど感じた。


「死んだフリなんかしなけりゃ殺すこともなかったのに」

「我々に、敗北は、許されない、のです……」


 ルークの眼にはリエーヌの投擲した小刀が刺さっていた。


 擬態。自決したかのように見せかけて背後から襲う、最後の賭けだったのだろう。戦闘中にリエーヌが小刀を回収し、投げつけていなかったら避けきれなかった。


 また自分ひとりの力では守り切ることができなかった。あまつさえ助けてもらうなんて。

 ゆっくりと右腕を引き抜く。

 悪魔の血も、人間と同じように温かかった。


「その力は、あなたを、滅ぼすことになるでしょう」ルークが息も絶え絶えに喋りかける。助けることはもうできない。残りわずかな生命の火を燃やして伝えようとしていることを聞くほうが大切だ。「もう……我らの計画は、始動、しているのです。その定めを、覆すことは、できない」


「どういうことだ」

「そう遠くない未来に、戦争が、始まる……今度こそ、我らの勝利で、幕を終える。我らの王の、復活は、近い……」

「お前らの狙いはいったいどこにある」

「それを知る、必要は、ない……だが、貴様らの、未来に希望は……ない」


 ルークの全身から力が抜けていく。演技ではない本物の死だった。


「――終わったのか」


 リエーヌが横たわりながら訊く。ナイフを取るのにすべての体力を使い果たしてしまったようだった。


「いや、これからが始まりだ」


 ルークは戦争が起こるといった。サフラン国の新しい女王となるリエーヌの目前には決して明るくない未来が待ち受けている。その苦難からすこしでも彼女を守ることが出来るなら、どんなことでもする。

 失敗は一度でいい。


「行こう。また、怪我を癒さなくちゃいけない」

「ヒデオ殿――その腕」


 いつの間にかヒデオの両腕は元通りになっていた。何事もなかったかのような人間の腕にはしかし、ルークの血液がべったりと付いている。

 ふたたび殺めることになった証拠。

 だが、今度は後悔していない。


「これはおれの問題だ、おれがなんとかする」

「大丈夫なのか」

「リエーヌさえいてくれるなら」


 そうか、と小さく呟く。

 すべてはこれからだ。長く、辛い戦いが待ち受けていることだろう。それでも彼女さえそばにいてくれるのならば、どんな未来でも迎えられる気がした。

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