M-00
第七章の始まりです。この章から少しずつ伏線を回収していく予定です。
メル・シュバルツァ。外観的特徴は背が小さい事、いつも金髪のツインテールだという事。そして内面的特徴は魔力量が多い事、『転生者』であるという事だった。
篠崎愛瑠。これがメルの前世の名だった。この頃は同じツインテールでも髪の色は真っ黒だったが、背が小さかった事には変わりはない。しかし不自由のない生活を送り、毎日がまるで宝物のような一日だった。そう思えたのは『彼』がいてくれたからである。
『彼』──烏丸夕は愛瑠の幼なじみにしてボーイフレンドであった。年頃の男の子らしく見た目を気にしたり、変な話で盛り上がる等身大の男子。髪の毛はツンツンしており──本人は天然といっている──、中肉中背の男の子。そして何より一緒にいてとても安らぐ存在だった。
二人を切り裂いたのはあの事故だった。高校二年の修学旅行の帰りのバスが、不運にも高台から落下してしまったのだ。その事故で愛瑠を含めた四人が死亡した。
そうして愛瑠はメルとして、魔術で繁栄してきたこの世界に転生した。
転生者の特徴はとにかく人種に似つかわしくない魔力量を誇るという事らしい。らしいというのは例外があるからだ。メルは魔力量の平凡な平民に産まれたが、魔力量は魔人並。多少は親の遺伝子も関係してくるが、メルに至っては両親ともただの平民である。
メルはこの魔術世界でも不自由のない生活を送った。そして魔術学園に通い始めたあるとき、時空を超えた再会をする。
それがユウ・ブライト。烏丸夕の転生体である。ただ不思議な事に彼の魔力は平民でありながらも魔力量は最底辺に位置している。これが例外である。そして見た目もツンツンだった髪が寝ているし、髪も目も色もほとんど変わっていなかった。ただ悲しかったのは、ユウは何一つ夕としての記憶を持っていなかった事だった。彼は自分達が付き合っていたカップルだという事を忘れていたのだ。
もしかして別人だったのか。性格も若干丸くなっているが、それにしても雰囲気が似すぎている。他人の空似という可能性もあるが、やはり似すぎているのだ。
そしてこのユウが烏丸夕である決定的な証拠を見つけてしまったのだ。
それはとある日の人気バンドグループの『Shout』のライブ会場で偶然出会ったのだ。知りたくなかった事実を引き連れて。
メルが生徒会長を努める魔術学園には『コルウス』と呼ばれる魔力の強奪犯がいる。姿自体はメルが直接目にかける事は無かったが、その日にたまたまコルウスと出会った。
開いた口が塞がらないというのはこの事をいうのだろう。
髪は白髪、目は緋色になっていたが、そのツンツンな髪型は前世の夕と瓜二つだった。醸し出す雰囲気もキレた夕と似ている。間違いない。普段のユウとコルウスを重ねれば同一人物である事は間違いなかった。烏丸夕は、ユウとコルウスを足して二で割ったような感じだ。それにここまで似ている人物が近くで二人もいる訳がない。コルウスはユウが化けたもにだと直感で理解する。
あれだけ前世で一緒にいた。間違いはない。
「なあメル。そういえばやけに静かだったじゃねえか。いろいろ言ってやりたい事とかあったんじゃねえの?」
その場にはメルの友人であるリリアとセシルがいて、さっきまでリリアはコルウスであるユウと何か喚いていた。
「え? ああ、うん……そうね」
ただ目の前の事実が信じられなかった。
様子が変だったのか、「どうしたんだ?」とメルに訊ねられる。
……リリアは気づいていないのだろうか?
メルより早くコルウスと会って、メルより長くこの世界のユウと一緒にいたのに?
「リリア、もしかして気づいてないの?」
そしてリリアは首を傾げた。確かに別人のように振る舞っていたので気づきにくいか。
「あっ……普通は気づかないよね……うん。ゴメンね」
「……どういう事? 教えろよ」
「知らない方が良かったってこともあるのよ。だから……ね?」
メルにはわかる。コルウスのあの仏頂面は、夕が不機嫌だったときにする顔だ。彼の癖などを熟知しているからこそ、わかってしまったのだ。
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「ねえユウ……どこへ行ってしまったの……?」
『星華祭』の一日目、その日ユウはコルウスになってセシルを刺した。どういう魔術を使ったのかはわからないが、セシルの体を砂に変える魔術を使っていたように見える。コルウスは他人から吸収した魔力をそのまま使えるらしい。だからあの砂に変える魔術もどこかで盗んできたものだろうか?
それはともかく、その直後ユウは姿を消して、『星華祭』も緊急で中止になった。
彼は今どこで何をしているのだろうか?
人殺しの罪は重い。それもよく民衆の前で堂々と……。
ユウは殺人者。もうどこにも居場所は無い。
「……なにやってるのよ、ユウのバカ」




