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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第六章【真夏の虚像】
80/133

04

久しぶりの更新です。

あまりにも久しぶりすぎてキャラ口調とか微妙に変わっているかもしれません。

 鳴り響いた爆音と雷鳴がリリアの鼓膜を揺すぶった。

 外へ出てみれば雷が落ちそうなどす黒い雷雲はどこにも見えないが、白い煙が空に昇っていくのが見えた。

 僅かに鼻孔を擽る魔術で発動された炎の匂い。誰かが火属性の魔術を発動したのだとわかる。

 音を聞きつけた生徒達についていくようにしてリリアも煙が立ち昇る場所に向かってみれば、なぜか気を失っていた男子生徒がようやく起き上がっていたところを目撃した。

 周囲では粒子となった色の無い魔力がその場に降り注いでいる。普段なら無色の魔力に疑問を持つところではあるが、ある意味幻想的な景色にただ言葉を失うばかりで頭が回らない。ただその魔力の粒子に混じって、コルウスの魔力とユナの魔力を感じる。

 ──どうしてコルウスとユナのが……?

 あの二人が戦ったのだろうか?

 あるいは……?

 ふと辺りを見回してみればここから学内の廊下へと繋がるガラスのドアが開いている事に気づく。

 夏真っ盛りということもありドアを全開にしているのは何らおかしくないが、不審に思ったリリアはそのドアを潜って廊下へと躍り出る。

 左右を見てみると、少し歩いたら辿り着くその場所で壁に凭れるようにして倒れている人影があった。

 白髪の少年──コルウスのように見えた。

 ──え?

 ほんの瞬きした瞬間に黒髪の少年へと変わる。否、さっきのはただの見間違いだったかもしれない。白髪に見えたのは光の入り方でたまたまそう見えただけだ。

 駆け足で黒髪の少年へと近づいていく。眠っており、眼鏡を外しているが間違いなくユウだとわかる。その顔はあまりにも真っ青で、いかにも苦しそうな顔を浮かべている。

 悪夢でも見ているのだろうか?

 そんなバカバカしい事を考えながら、起こそうとして脇腹を軽く蹴飛ばす。

 するとユウの体は力無く床に倒れ伏した。

「おい、冗談だろ……?」

 息はしているがその脆弱しきったユウは今にも死にそうで、頭の中がパニックになってくる。

 とにかく誰かに連絡を、と思いケータイを手に取る。するとポロっと手から零れ落ちてしまう。

 すぐさま拾おうとして、ようやく気づいた。

 自分の手が恐ろしいほど小刻みに震えていた事に。

 ユウが隠し事をしているような気がした──でも自分には関係ないと思っていた。

 ユウが家出した数日後、カイトがボロボロになっていたユウを連れ帰ってきて何かを話していた。その内容は詳しくまではわからなかったが、これでユウが何か重要な事──ユウの生死に関わること──を隠しているのだと理解した。それで初めてリリア自身がユウを失いたくはないとはっきり気づいてしまった。

 必死で震える手を止めながらケータイを拾い上げると、電話帳に登録してある『リム姉』という人物に繋げた。 ──これで冗談だったら、消し炭にしてやる。



      ●



 幼い頃の烏丸(からすま)(ゆう)には同い歳の女の子の幼なじみが二人いた。その二人が小学生の姿で夕の前に立っている。

 一人は篠崎(しのざき)愛瑠(める)。背が小さい可愛らしい女の子。

 そしてもう一人──名前が思い出せない。愛瑠より背が大きくて、長い髪の女の子なのは覚えているがそれ以上は何も思い出せない。

 ──そういえばこの子はどうなったんだっけ?

 確か家庭の事情とかで遠くに引っ越したはずだ。

 小学生の低学年までは一緒だったはずだ。必死に胸元に吊り下げられた名札に書かれた名前を思い出そうとする。

 書かれている名前はり──?

 ……そんな事思い出してどうなる?

 そういう結論に辿り着いた瞬間、目の前の景色が夕を境に急に遠ざかっていき、闇に溶けていった。



      ●



 ──何だ、今の夢?

 目が覚めたユウは寝転がった状態で腰の方へと手を伸ばす。スベスベとした固い感触があった。ユウが愛用している刀──銘は『無銘』──の刃を覆っている鞘だとすぐわかる。

 ──お前がまた見せたのか?

『無銘』にはユウの魔力が封じ込められている。そしてその魔力には記憶が刻まれている。それは生前のもの──詳しくいえばこの魔術の世界に転生する前のものすらある。『無銘』はその記憶をユウに流し込む事があるのだ。その記憶を夢という映像にしてだ。だからこそ大魔術で失った記憶を取り戻せた。

 今回も『無銘』がそうして過去の記憶を流し込んだのだろう。

 ──もう一人の娘はいったい誰なんだ……?

 一度は放り投げた疑問がまた気になり始めて夜も眠れない。

 それよりここはどこだろう?

 悪魔(ファントム)の少女が召喚した手足が刃になっていた無機物生物と戦った後、気を失ったはずだ。

 上体を起こすが視界がぼやけている。ポケットの中をまさぐって眼鏡を取り出してかける。視界が良好になったところで辺りを見回してみると、体が白いシーツと布団にくるまれていることがわかり、白いカーテンで周りを囲まれていた。

 ここは学園の保健室だ。どうしてこんな所に居るのか。絶対に自分の意思でここまで来るはずがないと言いきれる自信がある。となると、誰かがここに運んできたという事になるが……。

 そのとき唐突にカーテンが開かれる。

 開けたのは、仕事をしないことで有名なこの学園の保健医であるリムだった。

 背が高くグラマラスな体型。背中には身の丈程の大鎌を背負っている。ピンク色の髪に羊のような丸まった角──彼女はリリィの妹でもある。

「よぉ、起きたのか?」

 リリィの実妹という事もあり、ユウもそれなりに会う機会はある。

「どうも、久しぶりです姉さん」

 この人は『おばさん』と呼ばれることを極端に嫌う。だから呼ぶときは『お姉さん』か『お姉様』、もしくはそれに準じるものにしろと言われている。一度でもおばさんと呼ぼうものなら、とんでもないお仕置きを受ける羽目になってしまうので、呼ぶときは細心の注意を払う必要がある。

 そしてこの人は口が悪い。リリアの言葉遣いが荒いのはきっとこの人の影響だろう。

「それにしてもテメェが魔力の熱暴走を起こすとはな。姉ちゃんから聞いてたけど──やっぱり変じゃねえか?」

 そういえば熱暴走で倒れたはずなのに、嘘みたいに体が楽だ。

「ま、魔力の鎮静剤を打ったし、今は熱暴走で倒れる事はねえわよ」

「どうも、ありがとうございます」

 それにしてもどうして保健室にいるのか疑問に思った。職務怠慢しているリムが倒れているユウを発見して、ここまで運んでくるなんてどうも考えられない。

「どうして俺はここに?」

「リリアが連絡をくれたんだよ。ユウが倒れてるって」

「え……?」

 それは意外だった。正直倒れているユウを見つけても最悪、無視するのかと思っていたからだ。

「それよりもだ。リリア達が気になってんのはお前の体だ。魔力が少ねえくせに頻繁に熱暴走が起きすぎじゃねえの、って……」

「…………」

「聞いた話、『用事』ってのでお前の帰りが遅いらしいじゃん。お前は何をしている?」

 コルウスの活動をしているなんて言えるはずがない。特にこの人には。最近になって魔力を失った生徒達がここに運ばれてくるらしい。仕事嫌いなこの人にとって、犯人であろうコルウス──真実は違うのだが──は迷惑極まりない存在なのだ。

「それは禁則事項です」

 変にいたずらっぽく人差し指を口許に持ってくる。

 そのとき、首の辺りからチリチリと熱気を感じる。

 気づけばリムが真っ赤に燃え盛る鎌をユウの首もとに添えていた。灼熱の舌がチロチロと首を舐めているようだ。彼女が力を入れれば、簡単に首が跳ね飛ぶ。

「あたしはマジメな話をしているんだぞ」

「……ごめん……それでも言えないや」

「そうかよ。じゃあ、その『用事』ってのがお前をそんな体にしたと解釈していいんだな?」

「どうぞご勝手に」

 リムがようやく大鎌を退かしてくれた。

 外はすっかり暗くなっている。生徒達は皆帰った時間だろう。

「あのさ、リリアは元気?」

「さあ、家族が一人減ってるからな」

「……よしてくれよ」

 ユウは苦笑いを浮かべ、ギルドの寮に帰ろうと起き上がる。

「帰るんだったら、その子も持って帰りな」

「?」

 その子とはどこのどんな子だろう?

 確かめようと今まで寝ていたベッドに視線を移すと、そこにはマリアが寝息をたてて静かに眠っていた。

 思わず嘆息する。まさかユウが倒れている間、ずっとここで看ていてくれたのだろうか。

「全く……おい、起きろ」

 マリアの肩に触れてゆっくりと体を揺らしていく。

 瞼の辺りがぴくりと動いたかと思えば、ブラウンの瞳を覗かせる。

「ふぁぁ、お兄ちゃん……もう、だいじょぶ?」

「うん、もう大丈夫だから」

「そっか」

「ほら帰るぞ。家まで送っておいてやるから」

「うん!」

 ユウはまだ寝惚け眼のマリアの手を握り、そのまま手を繋いで保健室を後にする。

「あ、そうだお兄ちゃん」

「ん?」

 校舎から出て、街灯と月の光で仄かに照らされた歩道で急にマリアが急に声をあげた。何事かとマリアを見つめていたら、上目遣いで何かを懇願すような表情を浮かべている。

「お兄ちゃん、今回もお願いできる?」

「学園祭の間は一緒にいるって約束しただろ」

 ユウとマリアの間では、学園祭のときは一緒に回るという約束が交わされている。

 今までのユウならこの約束は義務で果たすものだったものかもしれない。

 けれど今回は違う。

 兄妹ではもうなくなったというのに、今でも自分を兄として慕ってくれるマリアへの精一杯の贖罪だ。



 ユウとマリアが出た保健室の中には二つの人影がある。一つはリムで、もう一つはリリアのものだった。

「鎮静剤と一緒に魔力感知を鈍らせる薬も入れてあったから、たぶんユウはアンタに気づいてないよ」

「…………」

 ユウがいた位置からは丁度陰になる所にずっとリリアは隠れていた。なぜリリアはこんな所に隠れてまでユウの容態を気にしていたのだろう?

 自分でもわからない。

「あのさ、お前とユウの間に何かあったのかは知ってるよ。けどさ、もういい加減赦してやったらどうだ? もう一〇年も前の話だろ。お前の自業自得ってのもあるんだしさ」

「…………」

「それとも……もう赦しているとか……」

「そんな事ない! あたしはアイツの事なんか──」

「それなのに失うのが怖いか? お前の連絡が遅ければ、ユウは危ないところだった。それはお前も気づいてた。だから真っ先にあたしに連絡したんだ。あたしなら何とかできると思って……違うか?」

「…………」

「いい加減素直になりな。失ってからじゃ、もう遅いんだ」

 そのためにはユウがひたすら隠している事を暴かなくてはならない。それがユウを救う近道でもあるという。これ以上ユウの体が悪化する前にそれを突き止めれば……。

「アンタはさ、ユウとどうしたいんだ?」

「あの糞虫と?」

「今のままでいいのか、仲直りしたいのか」

 リリアとユウはどっちも頑固だ。お互いに変に意地を張って、ベクトルがお互い違う方向に向いている。だからこそよく反発してケンカになる。謂うなら水と油のような存在なのだ。

「ユウはどう思ってんのかは知らないけど、少しはお前の方から歩み寄ったら? お前にその気があるなら」

「……あたしは──」

 果たしてリリアはどうしたいのだろう?

 自分がわからなくなる。

あとこの第六章、終盤までシリアスなしでいきたい……!

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