04
昨日、一気に二人が入部してくれたため廃部は免れた。入ってくれたのは一年最強でユウの妹であるリリス・ブライトと魔王の娘であるカガリ・レア・フォルセットだ。その事について、サイガは溜め息を漏らしていた。
「はぁ、まさか急に魔王の娘が入ってくるなんて思わなかったよ」
「でもあと一人は指定が無かったんだから誰でも良かったんだろ? こっちでテキトーに連れてくる手間が省けたじゃん。いや~良かった良かった」
「良かったって……ユウ、魔王の娘だぞ? どう接したら良いかわかんねえよ」
「別に普通で良いんじゃないの?」
「う~ん、普通で良いのか? ってか、お前だって魔人ダメなんだろ? いいのかよ?」
「別にぃ」 相手が魔王の娘だと、どうも対応に困るのはサイガだけなのだろうか。ユウは魔人嫌いなのにも関わらず普通に接して──少しばかりの壁は感じるが──いるように見える。リリスは同じクラスみたいだから大丈夫そうだ。セレンはなんだかんだで適応しそうだ。
「はぁ」
「サイガ、溜め息ばっか吐いてっと美形な顔が台無しになるぜぃ」
「うるさい黙れ」
「おー怖い怖い」
と、こんな風にユウとサイガは昼休みに駄弁りながら弁当を食べていた。
二年A組の教室ではリリアとメルが机を向かい合わせて昼食をとっていた。
「ホントに何者かしらね、あの人は」
「ん? 例の武人のことか?」
ユウとメルが幼なじみということは当然リリアもメルとは幼なじみという事になり、魔人と平民という間柄ながらその仲は非常に良い。
「そ、生徒会で追ってる刀を持った謎の武人ね」
この学園には夜になると、どこからともなく現れて生徒や教師の魔力を奪う神出鬼没の武人がいる。この武人は今年の一月くらいから現れるようになり、いつも高等部の制服を気崩して着ているらしい。夜で暗いためバッジの色が確認できず、どの学年でどのクラスなのかの情報が一切不明である。
この学園の制服を着ているためここの学生だと推測できるが、武人で得物が刀という特徴が一致するのはサラ教諭しかいない。だがその例の武人は外見や襲われた人達が証言するには『男性』で、サラ教諭はれっきとした女性である。
「目的は魔力の奪取のようだけど、それ以外何かするわけでもないし……、ホントに何なのかしら?」
「メル、何で生徒会はその武人を追ってんだ? 魔力を奪うといっても、奪われた後はちゃんと回復してるんだろ?」
「そうなんだけど……そこは大した問題じゃないのよ。問題なのは魔力を奪う魔術を使ったって事なのよ」
確かにいくら魔術学園とはいえ無許可での魔術の使用は禁止されている。その武人がここの学生であるのなら立派な校則違反だ。よって生徒会の執行部で取り締まらなければならない。
メル率いる生徒会はそういうところが律儀だなと思う。
それに、過去に他人の魔力を利用して阿呆な事をしでかそうとした者がいたと噂で聞いたことがある。
「ついでに正体を暴かないと……」
「正体?」
「誰にも当てはまらないってことは誰かが変装しているってことでしょ?」
「それは……まあ、そうだけど……。ってか、そいつの刀って『魔装』じゃないのか?」
「……あ、そっか。魔力の吸引がその刀の能力だとしたなら、その能力を引き出せるのは武人だけ……。どっちにしろ、無許可で力使うのは禁止だけど」
魔力が込められた武器は魔装と呼ばれ、魔装には各々に能力が備わっている。その能力を引き出し、活用して戦うのが武人だ。武人自体の魔力は少なく、魔力測定の際は魔装を用いて測る。各々で用意した魔装の能力を引き出し、その力を数値化したのが魔力測定の数値となる。
「なら逆よ。普段は別の人種になりすましてるのよ」
「まあ、その可能性は無くはないかもな」
「そうなると刀を持った生徒が全員怪しくなるわね。となると、全員調べてみないと……」
「校則違反の武人探しか、何かおもしろそうじゃん。な、あたしも武人探しを手伝わせろよ」
「え? でも、いいの?」
「いいっていいって。どうせ暇だし」
「うん、ありがとう」
●
メルとリリアは生徒会室で生徒の写真を広げていた。刀を所持している生徒は全部で五人。うち男子は三人。
一人は昨日入学してきた男子生徒。例の武人は去年くらいから現れるようになったので、この時点で高等部の制服を持っていないこの生徒は完全に違うだろう。例え持っていたとしても、この生徒は小柄だ。例の武人は中肉中背だと報告されている。よって自動的に二人に絞られる訳なのだが──。
「なあメル、これってもうこの人で決まりじゃね?」
「そう、よね」
残り二人のうち一人は三年生のヒースという生徒。見た目は完全に魔人である。魔力数値は武人じゃありえない数値だ。 この時点で例の武人ではない可能性が高いのだが、もう一人が絶対に武人じゃないと言いきれる人物なのだ。何せ武人かどうか検証されたくらいだ。
「とりあえずこの先輩にあたってみようか。何か呆気ねえわ」
こうも簡単に見つかるとは思いもしなかった。リリアとしては一悶着ぐらいあっても良かったのだが、どうも起こりそうになかった。
「え? 俺が武人?」
ヒースは放課後にも関わらず教室の中で友人と思わしき人達と居て談笑していたようだった。
「そんな訳ないだろ? どこをどう見たら俺が武人に見える訳?」
「……実は私達、この学園で出没してる武人を探してるんですよ」
「わざわざ会長直々に?」
生徒会の中でもそんな奴放っておけばいい、という意見もある。校則には違反しているが、魔力を奪うだけで特別悪さをしている訳ではないし、実際例の武人を捜しているのは生徒会の中でメルだけだ。
「言っておくけど、俺だってその武人に魔力奪われてんだぜ?」
「え、そうなんですか?」
「ああ、急に襲われたから顔まで見てないけど」
「……そうですか。失礼しました」
どうやらヒースはあの武人ではないようだ。当てが外れて、また一からの捜査が始まる。
「まさかOBってことはないよな?」
「それはないでしょ? 制服着る必要ないじゃない。それに一般人は立ち入れないし、そもそも制服着てる意味もわからないし……。あと、わざわざ学園に来てまで魔力を奪う必要はないでしょ」
「じゃあ……ありえねえと思うけど、アイツも調べてみるか?」
「……うん」
やるだけ無駄だと思うのだが、とりあえず話だけでも聞いてみよう。今の時間なら部室に居るはずだ。
魔物討伐部の部室には全ての部員が集まっていた。三年生のセレン、二年生のユウにサイガ、そして新入部員の一年生のリリスとカガリ。只今この五人はミーティングをしていた。その内容は合宿についてだ。
この部活は五月の連休に合宿を行う。魔物と戦うための力を身につけるためにだ。
「──という訳で、今回もサラ先生の実家でやるけど、ユウとサイガはリリスとカガリにちゃんと家がどこにあるか教えておくように。忘れてたらサラ先生の鉄拳制裁だからね」
「「イ、イエッサー」」
「……あの……」
小声で、しかも小さく手を挙げるリリス。
「……合宿って何日間やるんですか?」
「ん? ゴールデンウィーク全部だけど? 去年ユウだって連休はずっと家に居なかったでしょ?」
「……いえ、家の中で兄さんを見かけることたまにしかないので」
本当に同じ屋根の下で住んでいるのだろうかと本気で疑いたくなる言葉である。ユウとしても家でリリスを見かけるのはたまにしかない。
これはマジで仲が悪いんだな~、と皆が思っているに違いないとユウは予想する。
「ユウ先輩、合宿始まったら私の隣で寝るですよね?」
「え? なぜに?」
「すぐに襲えるからです」
「セレン先輩、部屋割りは俺に任せてオーケイなんだぜぃ。それにカガリくん、先輩をからかうもんじゃありません」
「わりと本気だったんですけど……先輩はいけずです」
と、ユウとカガリがこんなやりとりをしていると、なぜかユウの隣に座ってきたリリスがユウの制服の袖をきゅっと掴んできた。
「? どったのリリス」
「…………」
顔を真っ赤にして俯いたままいつものように黙ったままだ。いったい何を伝えたいのかさっぱりわからない。
──そうか、わかったぞ。
カガリに手を出したらぶっ殺すと言いたいんですね、わかります。
でも顔面真っ赤にして怒らなくてもいいとは思う。
「とりあえずユウとリリスちゃんは同じ部屋だねぇ。はい、これ決定」
セレンの勝手な決定に抗議しようと思ったが、見事にサイガに口を塞がれた。「ふもが、ふも」と訳のわからない言葉しか発することしかできない。
これが、仲良くさせるということなのか? むしろ気まずい。絶対に無理矢理にでも部屋割りは自分が決めてやると奮い立つ。
そのとき、勢い良く扉が開き大きい音が部室に響く。犯人はロリと罵声女だ。
「何かユウ、失礼なこと思ってない? 特にリリアに対して」
「いや、失礼も何もいつもウザい女だと思ってるけど」
炎の塊がユウの顔を掠めた。地味にヒリヒリと痛い。犯人はリリア以外ありえない。
「ちょっ、魔術の使用は……!」
「ごめんメル。けどこのバカ野郎が悪いんだ。許せ」
いきなり火の下級魔術を撃ってくる──相変わらずケンカっ早い奴だ。
「おいそこの糞虫野郎、テメェホントは武人なんだろ?」
「おいおい、また俺様に武人疑惑が浮上してんの? 勘弁してくれよ、その誤解を解くために俺は全て晒け出したろうが」
「え? 全てを?」
「カガリちゃ~ん、そこに食いついちゃダメだぜぃ」
「テメェふざけんのもいい加減にしろよ?」
「何を言うか、俺はいつでもどこでも大マジメだから」
「大マジメにふざけてるんだろ?」
「あ、バレちった?」
「もういっそのこと死んじまえ!」
リリアとはホントに仲が悪いんだな~、とここに居る者全員が思ったに違いない。こういうやりとり自体初めて見た人が多いはずだ。家で顔を会わす度にこんな言い合いは日常茶飯事だ。
「あれリリス、どうしてお前がここに?」
姉としては、なぜこんな兄と一緒の部活に居るのか不思議でたまらないのだろう。
「……入った」
「そ、アンタが良いって言うなら別にいいけど。おい糞虫」
「…………」
リリアが『糞虫』と呼ぶのは一人しかいないのだが、わかっていながらもユウは無視を敢行する。
「呼んでるのが聞こえないのか糞虫」
「あーっもう何だよ?」
「リリスを一回でも危険な目に遭わせみろ、すぐに灰にしてやるからな」
「おっかないな~」
これは脅しではない。こう言われたら文字通り灰にされる。実際一回だけ灰にされそうになったことだってある。全く、恐ろしい妹である。せっかくの美少女がこの狂暴性のせいで台無しだ。
もっとも、リリアから言われなくとも、この部活にリリスが入った時点で守るつもりだ。こんなでも、妹であることに変わりない。
「でメル、一体何の用?」
リリアでは話にならないので、ここに来た理由をマトモなメルに訊ねてみる。
「例の武人を探しているのよ。それでユウに辿り着いて……」
「そゆこと」
去年から出始めた魔力を奪う武人。リリスが『?』と首を傾げ、カガリが「例の武人って何ですか?」と訊いているところを見るあたり、新入生にはまだその噂は広まっていなかった様子だ。
「今年の一月から魔力を奪取する武人が現れたんだ。何の目的でかは知らねえけど、なぜかこの学園の生徒や教師から魔力を奪っていくような奴だよ」
サイガがカガリの問いに答える。
本来、武人にとって魔力は『強化』という基本的な技法を行うためにしか使わない。つまりどれだけ魔力を集めようと全くの無意味という訳だ。
何のために魔力を奪っていくのか。その理由は一切不明である。
「どーゆー経緯で俺に辿り着いたかは知らんけど、俺が武人じゃないってことは実証されたじゃん。父親だってごく普通の平民だぜぃ? リリアだって知ってるっしょ、お前の父親でもあるんだし」
「母親が武人って可能性もあるよな?」
まだユウを疑っている目だ。
平民と武人で子供ができた場合、五割の確立で武人が生まれる。
例えユウの父親が平民だとしても、母親が武人ならユウが武人だということも充分にありえるが──。
「あー、俺さ、母さんの事あんま覚えてないけど──」
リリアは──というより、他の妹達もユウの母親については知らない。
そしてユウ自身も知らない。ユウが産まれてすぐいなくなったのだから。
しかし、これだけは言える。
「父さんが言ってた。俺の母さんは俺と同じで髪と目の色が黒だって」
多くの場合、頭髪や目の色は親のどっちかと同じなる。もしくは、マリアみたいに髪は母親の、目は父親のと同じになったりする。
「そうかよ……」
「ていうかさ、リリアはそんなに俺の事知りたいの? そうなら早く言えば──」
「灰にすんぞ?」
リリアの掌で炎が球体を形作った。ケンカが始まる前に慌ててメルが止めに入って事なきを得る。
「なあなあ、今思ったんだけどその例の武人ってホントに武人なのかな? 武人じゃなくても扱える魔装って出回ってるじゃん。そいつだってその魔装使って、武人の変装までしてた奴じゃないの?」
ユウの指摘はもっともだ。
そもそも、例の武人が必ずしも刀を持ち歩いているとは限らない。本当に武人なら魔装は必ず携帯しなければならないが、武人でないのなら持ってくる必要はない。
「……じゃあ、例の武人はユウじゃないってことよね?」
「当たり前っしょ。お前俺の幼なじみだろ、俺が武人じゃないってよく知ってるし、俺が武人に変装するような奴じゃないってわかるだろ」
「うん」
●
ユウが例の武人ではないことがわかって、捜索はふりだしに戻ってしまった。更に武人じゃなくても扱える魔装──『レプリカ』の線も出てきたから捜索は困難を極めた。結局、捕まえてしまえば正体はわかるという結論に至った。
という訳で、メルとリリアは夜の学園を巡回していた。
こんな夜でも、まだ部活で残っている生徒はわりと多い。
メルとリリアは二手に分れて捜索することにした。発見したら連絡し、二人で捕まえる。
A組──それも戦闘学の成績は二人共五段階評価の五。捕まえられないはずがない。
リリアは街灯が立ち並ぶ校庭の横道に来ていた。人影は、ある。
足音が聞こえる。それに伴って人影は近づいてくる。
人影の姿が街灯の光に晒させる。ツンツンに逆立った白い髪、瞳は緋色、そして腰には刀を差している少年。例の武人だ。
──こんなに早く登場かよ……!
すぐさまケータイを取り出し電話をかける。
「奴を見つけた。場所は校庭の横道」
『わかったわ、すぐ行く』
これで一分もしないうちにメルは来る。それまでに魔力を奪われなければ──勝てる。
突如、武人の姿がブレた。
気がつけば武人は隣に立っている。
手は腰の刀の柄を掴んで今にも抜刀しそうな勢いだ。
──ちょっ……速っ……!?
足に魔力を供給する。
魔術師の基本技法──『強化』。
体に魔力を乗せることによって身体能力を飛躍的に上昇させる。
リリアは地面を蹴って距離をとる。
距離を充分にとると、武人はすでに刀を振り切った後だった。
「テメ……っ、殺す気か!」
「安心しろ、峰打ちだ」
「いくら峰打ちでも安心できるか!」
低く、押し殺したような声がリリアの耳に入る。
初めて武人の顔を見れた。思わず、見とれてしまった。
眉間に皺を寄せ、仏頂面を顔に張りつけているが、その顔は綺麗に整っていた。
しかし見とれている暇はない。
再び武人の姿がブレた。
「!」
リリアは見逃さなかった。
魔術師が魔力を使うとき、魔力を色として目視できる事が可能となる。
属性によって色が異なり、火なら赤、水なら青、土なら黄、風なら緑になる。
そしてあの武人の魔力色は黒──『四大属性』のどれにも当てはまらない色。
つまり、未知の属性なのだ。
「こ……のっ!」
瞬時に魔力を練り合わせる。
リリアはとある能力により『四大属性』を全て扱うことができる。
そのせいで周りから天才だと持て囃された事もある。
そんな彼女が最も得意とするのが、全属性の中で一番攻撃力の高い火だ。
赤い魔力が集束して紅蓮の炎が生まれる。
炎はリリスをグルリと囲むように広がり、炎上した。
火属性の魔術でもある 『火炎の障壁-armatura-』と呼ばれるものだ。
炎の壁を作り出しておけば、迂闊に近づくことはできないはずだ。
しかし……。
──どうなってる!?
何で奴の魔力色が黒なのか?
黒い魔力を持っているのはあの少年だけだ。
リリアは一度だけユウの魔力を見たことがある。
色は黒。
何でユウと同じなのか……。
──まさか……。
かぶりを振って振って余計な思考を追い出す。
──でも、糞虫とあの武人じゃ似ても似つかねえ。
さっきまでユウのことを疑っていたのに、実際に会ってしまえば全くの別人だった。
魔力を練る。
そして高速で詠唱を始める。
「深紅に輝く爆炎 其れは紅き女神の脅威なる怒号 怒りに触れた者に業火の鉄槌を ──爆ぜろ」
炎の壁が消滅する。
眼前にはあの武人。
「爆炎の園-eruptio-」
赤い小さな光が武人の目の前に現れ、次の瞬間──轟音と共に大規模な爆発が起きた。
至近距離で喰らったあの武人はただでは済まないだろう。
「大したことねえわね」
まさかこんなにあっさりやられるとは思わなかった。
メルの出番は無いみたいだ。とりあえず、さっさとあの武人を拘束するべきだ。
……だが。
爆炎が消えていく。
否、消えるというより、まるで掃除機に吸い込まれるようにして武人が持っている白銀に輝く刀の刀身に吸収されていく。
「火の上級魔術か。詠唱の早さ、威力──どれをとってもギルドの構成員とそうは変わらねえな。だけど、俺に魔術は通用しねえ。そんで、俺に上級魔術をぶつけるのは自殺行為だ」
白銀の刀身が赤く、激しく輝いた。
その状態の刀を振るうと炎が爆ぜる。
「それ……あたしの……」
「そうだ、お前の魔力だ……いっぺん自分の魔術くらってみるか?」
武人が一瞬のうちでリリアの目と鼻の先に現れる。
リリアの魔術が籠められた刀が降り下ろされた。
●
ユウのケータイが喧しい音を上げる。『喧しい』と言ってしまえば、ユウのケータイの着信音に設定してある音楽のアーティストのファンから確実に殴られてしまうだろう。
ユウは今人気急上昇中の三人組のバンドグループ『Shout』の曲を着信音に設定していた。だからといって別に『Shout』のファンという訳ではないし、正直あまり好きでもない。じゃあ何でその着信音なんだよ? と訊ねられると、面倒くさくて答える気が失せる。
そんなことより電話をかけてきた相手を確認する。
……メルだ。
ちょっと嫌な予感がする。出たくはない……が、出ておかないと後がうるさい。仕方なく通話ボタンを押した。
「もしも~し、こちら超絶美少年のユウさんですよ~」
『ユウ大変なの! 今すぐ校庭の横道に来てっ!』
「……?」
様子がおかしい。
普通ならツッコミが飛んで来るはずなのに、それすらをすっ飛ばしてさっさと本題に入っていった。それほどメルが焦っているという訳だ。急速に変なことに巻き込まれていきそうだ。
「メル、少し落ち着け。いったい何が起きた?」
『リリアが、リリアがぁ……!』
「…………」
ダメだ。完全に冷静さを欠いている。ただ一つ言えることは──、
「リリアが大変なことになってるんだな? すぐ行くから待ってろ」
ちょうど用事も済んだし、まだ校舎の中に居る。校庭まではすぐそこだ。
校舎の横道まで行ってみると、すごい人集りができていた。それを「ブライトさんが通りますよー」とふざけながら掻き分けて中心に向かっていく。
「メ~ルちゃん、どったのかな~?」
明らかに場違いな声が響く。
「あ、ユウぅ~」
泣きじゃくるメル。もう目が赤くなっていた。
その原因はぶっ倒れているリリアにあった。
目立った外傷はないが、感じられた強大な魔力がごっそり抜けていた。魔力を使えば何かが抜け落ちる感覚──倦怠感にも似た感覚──に囚われ、それも大量の魔力ならその感覚は大きくなる。魔力を全てをもっていかれるとなると、体に現れる被害は甚大なものだ。
「まさか、あの武人と戦ったのか?」
コクり、とメルは頷く。
「はぁ……、さっきの爆発音はコイツのか。喧嘩っ早い奴だとは思ってたけど、まさかあの武人にケンカ売るとはな……よいしょっと」
「ユウ?」
「コイツのこんなとこ見ちまったら放っておく訳にもいかないだろ。おぶって帰る」
「あ、ちょっと待ってよ」
リリアをおぶって帰ろうとするユウの後をメルがついていく。
……本当に、困った奴だ。