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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第四章【魔物の王女様】
59/133

09

皆様のお陰で一応スランプからは脱出したかもしれないです。

だからといって、更新が早くなるとは限らないですけどね(^^;

 ユウとジンが居る医療室に仲間であるギルドのメンバーの一人が入ってきた。

「ゴルドーの居場所がわかったぞ」

 ジンがその報告を受けてユウの方を見る。

「だとさ。どうする? お前の事だから一人で落とし前つけたいんだろう?」

 ユウは黙って頷いた。



 ゴルドーは主に和国(わのくに)と呼ばれる国家を拠点としている。

 和国とは、首都、帝都、魔界に次ぐ第四の国家で、そこの住人のほとんどは武人で占めた国でもある。

 そこは『魔術を棄てた国』とも呼称されている。武人という種族は他の種族と比べれば、魔力の許容量が少ないため発動できる魔術に限りがある。そのため魔装というツールを用いて魔術を扱ってきた。魔装が無ければ魔術師として地位を確保できなくなる。そこで和国の人々は新たな魔術を開発した。それは魔術でありながら魔術とは全く異なったものでもある。

 それが『機械魔術』と呼ばれるものだ。

 例えば人と人との間で交信を可能にしたケータイ。例えば魔力を弾丸として込めることを可能とした拳銃。例えば外部の魔力源を使用することで駆動する機械兵。また、機械兵と同じ原理のミサイルやマシンガン。

 魔装と『機械魔術』。それらを用いることで、この魔力絶対社会を覆そうとしているのも事実ではある。

 頂点にいる魔人は『機械魔術』に特に危険視している。それが本格的に実用化すれば、魔人の立場が危ぶまれるからだ。

 かといって、『機械魔術』は光属性と闇属性と同じく未知の魔術ともいえる。そう簡単には潰しにかかることはできないだろう。

「でも一人で戦わせる訳にはいかねえ」

 あの猫の亜人──ユウはセレンと呼んでいた──の話によれば、ゴルドーは『機械魔術』を使う。『機械魔術』は通常の魔術とは勝手が違うらしく、魔力のシールドは通用しなかった。

 正直ユウ一人では対抗は難しいと思う。

「俺も一緒に戦う」

 コルウスの正体を知らない者がユウと共に戦おうものなら、ユウは武人の力を発揮できない。

 それにセレンの話によれば、ユウの魔力が少しおかしくなっていると言うのだ。それはジンも感じていた。

 今ユウは魔力を解放していなくとも、微弱な魔力の波動が以前のものとは少し異なるのだ。

 それに力を奮う様子も変だったみたいだ。それで暴走なんてされたら、どんな被害が及ぶかわかったものではない。

「いい。俺一人で充分だから」

「何でだよ……? 聞いた話じゃ、お前の力が変になって──」

「悪いんだけどさ、あのゴルドーって奴には個人的にケリつけなきゃならない事ができた。だから他の奴らに俺とアイツとの戦いを邪魔されたくない」

「でもよ……、『機械魔術』は俺らの知る魔術じゃねえって知ってるだろ。お前一人で勝てるかどうか……」

「アイツが使う機械兵には弱点がある」

「弱点……?」

「俺自身だよ。あの機械兵、どうやら速い動きにはついてこれないみたいだ」

 ユウが言うには、ゴルドーが使う機械兵は対象を捕捉してから攻撃に移行するらしい。つまりユウがずっと速いスピードで動き回れば機械兵に捕捉されることなく、攻撃もされずに無防備な機械兵を叩くことができるのだ。

「ハァ……」

 ジンは嘆息した。

 ユウとはわりと長い付き合いだ。ユウがいったいどういう奴でどんな奴かはわかってるつもりだ。

 周りからは嘘つきと称され、言うことを聞かずに我が道を進むバカだ。正直に言えばワガママな奴だ。

 そんな奴でもジンにとっては親友だし、一番頼りになる存在でもある。

「しょうがないな……、行けよ。その代わり絶対に勝て」

「誰に向かって言ってるんだい? こう見えても、このギルドのボスからは最も信頼されてるのだぜぃ──癪だけど」

 医療室のベッドから降りて出ていくユウの背中を、ジンはただ黙って見守った。



 ジンにはああ言ったものの、ユウには一抹の不安があった。

 自分の力がおかしくなっている。それを一番わかってるのはユウ自身がよくわかっている。

 またあの声が聞こえたら、その声に身を任せてしまえば、ユウは自我を保てなくなりそうだ。

 どうして奴は封印から解かれた?

 どうしてユウにコンタクトをとるのか?

 闇の魔術師がなぜ世界から隔離され管理されているのかは、もし闇の魔術師が暴走しても最小限に治めるためでもある。

 ユウは闇の魔術師でありながら、光の魔力を持ち合わせている。そのため『特殊ケース』とされ管理されずに済んでるが、あくまでそれは『二重属性』で、闇の単一の属性の魔術師よりも暴走する可能性が低いという仮説の元で成り立っている。

 魔力を一〇とすれば、ユウは闇に七、光に三といった風になり、闇の魔術師は一〇の魔力が全て闇に配分されている。こう見ればユウの闇の力は弱いと見えるだろう。

 だが実際は違う。


 ユウは産まれながらにして闇の魔術師だったのだ。


 光の魔力は後から付け足されたものにすぎない。

 しかもただの闇の魔術師じゃない。闇の眷属でもあるのだ。ユウの母親であるアコに因子が埋め込まれたのだから、その因子がユウに憑依している。

 だからユウの闇の力は闇の眷属に所以しているため、その力は強力だ。

 暴走すればそれだけで管理対象となるだろう。

「ユウ」

 ガヤガヤと騒ぎたっているギルドのメインホールの中で、凛とした少女の声がユウを呼んだ。その正体はユウの良く知る人物のものだ。

「セレン先輩じゃないっすか」

「ユウ、もう動いて大丈夫なのかい?」

 今のセレンは人間に擬態した姿だった。そのせいか倒れるまで散々聞いていた猫撫で声や、語尾に『にゃあ』とはつけていない。

「俺の体が丈夫って事は知ってるっしょ?」

「そうだけど……、かなり血が出てたし……」

「このギルド、わりと良い治癒術師揃ってるっすよ。もう平気っす」

「……ならいいんだ」

 セレンがちょっとモジモジし始めた。何かを言いたそうにしているように見えるが、何を言っているのかユウの耳には届かない。

「あ、あのさっ」

 そして急に大きな声を出してきた。

「ありがとね。いろいろ言いたいことあるんだけど……うまく纏まんないや。だから、とにかくありがと」

 亜人の救出はユウ無しではあり得なかった。だからその礼だろう。いろいろ言いたい事があるみたいだが、セレンがちゃんと言えるようになったら聞いておく。

「今まで捕らえられていた私達の仲間は全員戻ってきた。このギルドのお蔭で。ユウが入ってたのには驚いたけどねぇ」

「言ってなかったもん」

「とにかく、私達亜人は助かったんだ。イルもハピィも、ユウだけは認めるって……完全に敵意が消えた訳じゃないんだけど……」

「まあ、しょうがないでしょ、それは」

「……ところでさ、あのときはハピィが襲ってきたから聞き逃したんだけど、あのとき──何て言おうとしてたんだい?」

 それはあの森でセレンから問われた、敵なのかどうかに対する答えだろう。

 そしてユウはその問いにゆっくりと答えた。

「例え先輩達亜人が俺の事を敵として見ていなくても、俺は今の亜人を敵としては見れない」

「……そっか」

 まだ決着はついていない。完全に亜人を救うためにも、元凶であるゴルドーを倒す。

 ユウはそのために和国へ向かった。



「ここだったか……」

 とある男性がポツリと呟いた。

 傍らには彼の使い魔である女性型の土の精霊『ノーム』がいた。

 精霊型が使い魔として現れるのは良くある事だ。

 火の魔術師には火の精霊『イグニス』。水の魔術師には水の精霊『ウンディーネ』。風の魔術師には風の精霊『シルフ』。土の魔術師なら『ノーム』といった風に、その魔術師と同じ属性を持った精霊を使い魔として良く召喚される。

 つまりこの男性は土の魔術師だということがわかる。

 ノームの能力は大地から情報を読み取る事だ。そうする事により、対象の位置情報を知れる。

 男性はその能力を利用し、とある人物の居場所を特定した。

 その人物とは──、

「やっと見つけたぞ、ユウ」

 ユウ・ブライト。否、今はユウ・ルークスか。

 そしてそのユウがギルドのアジトから出てきた。何やら急いでいる様子に見える。

「どこかへ向かうのか?」

 ノームがヒソヒソと男性の耳に小言で伝える。

 大地から読み取れる情報の中には記憶もある。今そこで何があったのかも読み取れるのだ。

「和国だと?」

 ユウの行き場所がハッキリした。どうやら面倒な事に巻き込まれているみたいだ。

 とりあえず今この男性はユウを見守るしかできない。



      ●



 移動するために力は使えない。変に暴走するのを避けるためだ。

 ユナはユナで今は発情期と訳のわからない症状で全く言う事を聞いてくれそうにない。

 和国までの足は船しかない。

 船に揺られること一〇数時間、ようやく和国に到着する。ゴルドーが他の場所へ逃げていなければ良いが……。

 まず和国に来て思ったのは、皆が首都やその他の国では見かけない着物を身に纏っているのだ。ユウはただの洋服なので、一人だけ場違いなような気がする。

 とりあえずゴルドーを捜すために、街中へ入っていく。服装が一人だけ違うということもあって、周りから視線が集まってくる。特に気にする必要はないだろう。

 とりあえず渡された新しい無線機をオンにする。

「俺だ」

『無事に和国に着いたんだな』

 無線機を繋げて出てきたのはジンだった。

「ゴルドーはどこに居る?」

『和国の西端だ。そこに奴の隠れ家があるはずだ』

「了解」

 ケータイの機能で位置情報を確認する。こうしてみると、『機械魔術』は生活に密着している。こうして生活が便利になったのも『機械魔術』のお蔭ともいえる。

 場所を確認してすぐにその場所を目指そうとした矢先、誰かと肩をぶつけて盛大にこけてしまう。

 ポケットしまってあったケイゴの二丁拳銃が飛び出す。

「すみません、余所見してたっす」

 すぐにぶつかってしまった人に謝る。

 白く長い髪に花であしらわれた簪を挿した長身の武人の女性で、手にはキセルを持ち、着物の丈には大胆なスリットが入っている。

「いや、こっちこそ悪かったね。急だったもんだから『強化』使っちまって……おや?」

 女性が二丁拳銃を拾い上げ、まじまじと眺める。

「アンタ、未だにこんな旧式使ってんのかい? ウチが改造してやんよ」

「は?」

 その女性はユウの答えを聞かずにどこかへ向かう。ユウは意味もわからないままその後をついていく。

『どうした?』

「……なんか、変な奴に絡まれたっぽい」

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