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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第一章【偽りの姫君】
5/133

03

 ユウとサイガ、セレンの三人は間もなく入学式が始まる体育館の裏に来ていた。

 ユウが聞いた話によれば、入学式が始まったらまず体育館の中を覗き見るそうだ。それでめぼしい奴を見つけるらしい。そこで一つ疑問が浮かんできた。

「そういえば、めぼしい奴ってどんな奴? 俺聞いてないんだけど」

「そりゃあ言ってないからねぇ」

 ユウの疑問に、セレンは相変わらずのゆったりとした調子で答える。

「私らが今回引き込むのは……A組の奴さ」

 それはつまり、即戦力が欲しいってことだろう。去年はサラの『D組の最弱を連れてこい』という命令でユウとサイガが入部させられた。何でも試してみたいことがあったかららしい。そしてその思惑は見事成功している。

「しかも、ただA組を連れて来るだけじゃダメらしい」

「つまり、どういうことだってばよ? サイガ」

「A組の最強──つまり生徒代表だ」

「なん……だと……?」

 入学式のプログラムに組み込まれている『生徒代表の挨拶』で出てくる生徒の顔を覚え、終わり次第拉致するということだろう。

「なるほどな~。でも去年はD組の最弱だったんだよな? どうして俺らだってわかったんだろ?」

「そりゃ俺達、有名だから」

「うっそマジで!? さすが俺、すでに全校に我が名を轟かせていたとはなあ! フゥーハハハ!」

「ははは……」

 どこまでもポジティブなユウの発言にサイガはただ苦笑いを浮かべていた。一方セレンは「確かにユウの言ってることは事実だねぇ」と頷きながら納得していた。

 ユウは初等部入学してから魔力に変動がなく、そのことが話題を呼んだことにより校内ではちょっとした有名人になっている。

 サイガも初等部の頃は、当時なら高い魔力量を持っていたが魔力の変動がほとんどなく、どんどん下落していき今ではランキングワースト二位までに成り下がった。

「あ、そろそろ始まる時間だよ」

 セレンが腕時計で時間を確認しながらそう言った。

 三人は体育館のドアの方に移動し、バレないようにひょっこりと顔を出して中を盗み見る。陳列されたパイプ椅子の上に、新品の制服を纏った新入生達が座っていた。見た感じ女子が多い。世界の人口の約七割が女性だから当たり前なのだが。

「サイガサイガ」

「何だよ?」

「手前の列の最後尾の女の子見てみ? すごく、可愛いです」

「あーはいはいそうですね」

「ユウ、もしかしてあーいう娘が好みなのかい?」

「ユウも先輩も今はそれどころじゃないでしょう!」

 外でこんなに騒がしくしても中の生徒は誰一人も気づかない。完全防音なので中からの音も、外から入ってくる音も全て遮断している。

「なあなあサイガ」

「……関係無い話だったらぶっ殺すぞ」

「こんなに女の子がたくさんいるんだからさ、俺が告白しても一人ぐらいはオーケーしてくれる人がいると思うんだ」

「お前、マジで死にたいみたいだな」

 サイガは細剣を召喚して(きっさき)をユウの喉元に向ける。僅かな喉と刃の隙間、サイガが少し力を加えただけでユウの喉に風穴が空いてしまう。

「冗談だって、サイガくんはホント短気だなあ」

「二人共、ふざけ合ってないでそろそろだよ」

 セレンの注意でようやくユウはふざけるのを止めた。別にセレンが怖い訳ではないので誤解しないように。

 壇上を方を覗くと、学園長が話をようやく終えたみたいで、退場しているところだった。次は生徒代表の挨拶だ。

 そういえば、『魔界』と呼ばれる魔人の国の王──魔王の娘が新しく入学すると聞いたことがある。入学する前は魔王城で英才教育を受け、今日からは彼女の希望もあって三年間の学園生活を送るみたいだ。

 そんな彼女みたいな魔人がユウは大嫌いだ。

 この世界は魔力が全てだ。

 魔王の娘は魔人。魔人の多くは魔力量が少ない平民や武人を見下す傾向がある。魔人の王ならばユウを見た瞬間、蔑む視線を送ってくるに違いない。

 おそらく、A組最強は魔王の娘とみて間違いないだろう。だから新しく入部させられる奴とは仲良くなる自信は全くない。

「来たよ」

 セレンの言葉に、ユウは壇上の方に注目する。上がってきたのは女の子だ。頭には羊のような角。どこかで見たことがある。ピンク色でショートカットに切り揃えられた髪を揺らして、整ってはいるが無表情な顔を晒して壇上の上に立つ。

「…………」

 目を擦る。もう一度壇上を注目する。

 頭には羊のような角。どこかで見たことがある。ピンク色でショートカットに切り揃えられた髪、整ってはいるが無表情な顔を晒している。

「……………………」

 目を擦るもう一度壇上を注目する。

 頭には羊のような角。どこかで見た──、

「見間違いじゃねえよ」

「あれ~?」

 ようやく現実に目を向ける。壇上に上がったのは間違いなくユウとリリアの妹、リリス・ブライトだ。リリスは新入生と父兄、教師達の目の前で新入生の挨拶の言葉を述べている。

「びっくりだねぇ。てっきり魔王の娘かと思ってたけど、とんだ見込み違いだよ。ところでユウはあの子と知り合いのようだけど……サイガ、知ってるかい?」

「はい、あの子はユウの妹ですよ。ただ俺はあの子と話したことありませんね。ユウの妹ってことしか認識なくて……」

「へぇ、そうなの」

 魔王の娘を退け、一年の最強の座に輝いたのが自分の妹だということがとっくに判明したというのにも関わらず、ユウは未だに口をあんぐりと開けっ放しにしていた。

 それを見かねたサイガに「何でまだ驚いているんだよ」とツッコまれ、ようやく口を閉じる。そして少し落ち着いたところで言葉を発する。

「リリスが──喋っている……だと……!?」

「そりゃ人なんだし、喋るだろ」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」

「「?」」

 珍しく言葉を濁すユウに二人は怪訝に見つめる。

「その……俺アイツと会話した覚えがないんだよ、一度も」

「「は?」」

「いや~、一応兄妹なのにこんなことってあり得るんだな~。参った参った」

「え? 一度も喋ったことないの?」

 セレンの問に対し、普通に「うん」と返す。

 リリスがユウと喋らないのは大嫌いだからという一言に尽きる。本当に嫌いだから、口も利きたくないのだろう。リリアみたいに罵倒するのならともかく、絡むことすら皆無である。

「ふ~ん、そっかそっか……サイガ、あの子を絶対うちに入れるよ」

「ラジャ」

「ちょっ、待ってって二人共!」

 珍しく慌てた態度を見せるユウ。その姿を見て、サイガとセレンの二人は『ホントにあの妹のこと苦手なんだ』という視線を送ってくる。

 別にリリスに対して苦手意識を持っている訳じゃない。ただ、リリスをこんな危険な部活に入れたくないだけだ。

「安心しろユウ、俺達がユウとあの妹との仲、改善させてやんよ」

「なっ……!? サイガ、別にそーゆー事じゃ──」

「どっちにしろ、サラ先生から一年最強を連れてこいって言われてるんだよ。あの子の入部は決定さね」

 そのセレンの言葉が止めだった。ユウの言い分は聞き入れてはもらえない。次から部活に顔出すのが鬱になりそうだった。



       ●



 何事もなく入学式を終えたリリスは、帰り支度を済ませて校門へと向かっていた。だが突然、部活棟の近くで腕を引っ張られた。咄嗟のことだったが、すぐに撃退しようと魔力を練り攻撃体勢に移る。

 青い色彩の魔力がリリスの元で灯る。

「ちょっと待った」

 そんなリリスの気配を察知した背の高い女生徒は制止の声をかける。

 ──……危害を加える気はないみたい。

 練っていた魔力を霧散させて、構築しかけた魔術を自壊すると青い光が弾けて魔力の粒子が幻想的にリリスとその女生徒に降りかかる。

 そのまま導かれるように着いていって辿り着いたのは『魔物討伐部』と書かれたプレートが掛けられている扉の前だった。そこでようやく、ここまで連れてこられた張本人の顔が見れた。

 茶髪のボブカットで猫目、そして羨ましいくらいのスタイルを持った人だった。制服に付いているバッジの色は青なので三年ということがわかる。リリスは一年なので緑、姉のリリアは二年なので赤になっているはずだ。

「さ、入って入って」

 猫目の先輩に促されるまま中に入ると、よく見慣れた人達が居た。一人はサイガと呼ばれている中性的な顔を持つ少年だ。たまに家に来るから顔はわかる。もう一人は──いっこうに目を合わせようとしない兄だった。

「…………」

 黙って兄の方を見る。視線に気づいて一度振り返ってきたはものの、すぐに気まずそうにして別の方向を向いた。

 兄が高等部に上がってから随分と帰りが遅いと思っていたが、この部活に参加していたからだろうか。

『魔物討伐部』──聞いただけでも物騒な部活である。名前からして、この世界に蔓延る魔物を退治する部活であると容易に推測できた。つまり、死と隣り合わせ。そんな部活になぜ(ユウ)が居るのかが理解に苦しむ。

 ただただ優しいユウが、死闘とはほど遠い兄が。

「……何の……用ですか?」

 取り敢えずこの部室に連れてきた張本人の長身の女生徒に問いかける──あの『事件』以来、久し振りに兄の目の前で喋った。

「魔物討伐部に入んない?」

「……?」

「見ての通り、うちには今私とそこの男共しか居ない──このままだと廃部になってしまうのさ。で、キミには救世主になってもらいたい訳」

 規定の人数がいない部活は廃部となる。それは知っている。

 リリスは少し考える。そして出した答えは──、

「……入ってもいい、ですよ」

 入部することだ。そうした理由は兄の存在だ。一緒の部活なら──。

「案外あっさりと入ってくれたねぇ」

「もっと渋るかと思ったんですけどね。これであと一人ですね」

 サイガと女生徒の会話が耳に入る。この時点で入部してもあと一人入ってもらわなければ意味がない。

「ふ~ん、結構面白そうなことしてるんですね」

 別の女性の声が聞こえた。聞こえた方を振り返って見ると、腰まで深紅の髪を伸ばし、瞳も髪と同じ色で輝いている一年生の美少女だ。また、頭には立派な角が生えているので魔人だということがわかる。しかもただ

の魔人じゃない。

 だから皆が驚く。一人を除いて。

「なあなあサイガ」

 間抜けな声を出してサイガを小突くユウ。

「あの女誰? ってか、何でみんな驚いてるの?」

「ばっ……! お前、いくら魔人嫌いでもほどほどにしろよ。あの人は魔王の娘、カガリ・レア・フォルセットだよ。名前くらいなら聞いたことあるだろうが……!」

「へぇ~。あの娘が……」

 どういう世界に居たら魔王の娘の姿を知らずにこれたのか、リリスには不思議でならなかった。一応兄なのに。ただの魔人嫌いでは説明がつかない。それとも心の底から興味がないのか。

「私を知らない人、初めて見たです」

「そんなに有名だったの? いやー、魔王の娘が入学するとは聞いていたんだけど……、何か悪い。俺はユウ・ブライト。そーいえばこんな先輩いたな~程度で覚えてもらっても結構だぜぃ」

「ユウ・ブライト、先輩ですね。これからもよろしくお願いするです」

「ん? これからも……?」

「はい、私決めたです。私もこの部活に入るのです」

 こうして五人目が決まり、無事に部活の存続が決定した瞬間だった。

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