プロローグ2
ガラスを砕くような音が耳に入ってくる。
最初は聞き間違いかと思ったが、間を置いてまた響いてくる。
音と音との間が徐々に短くなるのを感じて、ようやくこの空間が崩壊しているのだと知った。
しかしいったいどうやって?
この空間では時間の概念が存在しないため、魔力が回復しないから脱出が不可能とされていた。中からでは絶対にこの空間を破る事ができないのだ。
それなのに崩壊しているのは、おそらく外から加えられた『闇の魔力』の圧力だろう。
いったい誰が?
誰もこんな所には来ないし、この封印を解くことができる『闇の魔術師』が通ることなど奇跡に近い。ましてやここに封印されている事すら知らないだろう。
だが奇跡は起きた。
異空間に入った亀裂に手を伸ばす。
力を入れれば、途端にその亀裂は大きくなっていった。
残された僅かな力を拳に込めた。
振りかぶって、亀裂に思いきり叩き込む。
異空間が破壊される。
異空間が消えてなくなり、闇の眷属は懐かしいと思える忌々しい地に足をつけた。
閉じ込められている間、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
ふと肌で魔力を感じた。闇の魔力の残滓だ。しかもただの闇の魔力じゃない。
思わず自分の口を三日月型に歪めて笑った。
植えつけた『因子』が成長したようだ。
あの戦いで、二人の女性に『闇の眷属の因子』を植えつけていた。子供ができれば、その子供は闇の眷属として生を受ける。
そしてあの封印を解いたのは間違いなく闇の眷属。それは残された眷属の魔力が証明している。
同胞がいる事に悦びを感じ、体が震える。
失っていた魔力を徐々に取り戻していく。しかし『転生者』の魔力が全く無い。また一から蓄えなければならない。
動かない主がまた剥製のように固まって、存在感が無くなっている。
主が復活すれば、今度こそ成し遂げられる。今は同胞だっている。次こそは失敗しない。
無機質な空間がこの地下室に拡大していく。それはさながら『死の世界』だ。
──さあ始めよう。 ──我々を拒絶した全てのものに、復讐を。




