07
今回はちょっと長めです。二話に分けるという発想はこの作者には無かったようです。
雪と共に迫り来る敵の群れ。
ユウはただ一心不乱に刀を振り回して『夕凪』と叫んで、魔術を連発していた。
縦横無尽に荒ぶる魔刃は地を抉り、人の肉をズタズタに斬り捨てていく。
血飛沫が舞う中、返り血を浴びてもそれを拭う事なく、獣のような咆哮を上げては目の前の人間だったものを斬り刻んだ。
その姿はまさに、地獄より来たりし死神そのものだった。
月が頂点にまで昇り、月光が真っ赤なユウを照らす。
目下に広がっているのは血に染まった人の死体と積もった雪である。
ユウはその光景をただ見渡していた。
──どうして……?
こんな事になってしまったのか。
ずっと混乱しても、降り下ろす刃には迷いで一切曇らない。その姿はさながら殺人鬼といえよう。
『どうして?』
「ッ!」
とある少女の言葉が過る。
『ねえ、どうして!?』
「止めろ」
『どうしてこんな事になったの!?』
それはユウだって一番訊きたい事だ。
「止めろ止めろ! ゴメン……、だからもう止めてくれ……!」
『守るって、みんな助けるって約束したじゃない! そうでしょ、ユッくん!』
「止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろォ!!」
咆哮が慟哭へと変わる。
「ドウシテ……!?」
「ッ!!!!」
瞬間的に、反射的に刀を振るう。
だがその刃はただ空を裂いただけで、それを斬る事ができなかった。
「…… 」
目の前の少女の名を呼ぶ。その声は叫びすぎたせいで嗄れ、自分の耳で聞き取れなかった。きっと彼女にも届いていない。
「……ッ」
せめてこの少女だけは助けたい。
今まで使わなかった『魔力吸収』を使う。今ならまだ間に合うはずだ。
ユウはこの少女に対して愛情が芽生えている。だから助けたい──勝手な話だ。
約束したのに守れなかった。こんな嘘つきな自分に、この少女を愛する資格も愛される資格も無い。
それでも──。
「約束する……」
嗄れた声で、言葉を紡ぎ出す。
「俺、もう迷わないから……。もう二度と、こんな悲劇は起こさないから……」
これはユウの迷いが生んだ悲劇。この悲劇を繰り返さないためにも、ユウは迷ってはいけない。
目の前で救える命があるなら、ユウは全力を尽くす──それが、約束だ。
ユウの腕に抱かれて、死んだように眠る彼女の寝顔は美しかった。
──本当に、死んでしまったのか?
「まだ彼女は生きてるよ」
ユウの心を見透かし、嘲笑うかのような青年の声。ユウをこの裏の世界に引き込んだ張本人──レイヴンのだ。
「ただ、身体のダメージが酷い。俺達ならこの少女を救う事が可能だ。ただし条件が──」
「わかってる。その代わり必ず助けろ!」
嗄れていた声がいつの間にか治っていた。けれど今はそんな些細な事はどうでもよかった。
「いいか!? これは『協力』じゃない。『取引』と『利用』だ!!」
「……了解」
血に濡れた少年は彼女に約束した。嘘つきだとしても、これだけは絶対に破りたくない。一方的になするつけるようにした約束だとしても。
●
つい電車の中で眠っていたようだ。一年前のあの日──コルウスになると決めたあの日の夢を見た。
ある意味、悪夢である。ここ最近よく悪夢を見る気がする。安眠するが許されていない、誰かに呪われているのか。
「先輩……?」
カガリが覗き込むようにして見つめてきた。その表情は心配の一色だった。
「大丈夫ですか? かなり魘されていたみたいですけど……」
「気のせいだお」
「え? お? でも……まあ確かに今は大丈夫そうですね」
くあ~、と大きな欠伸を一つ。
横を見てみると、なぜか皆してユウを見つめていた。もしかしてスゴく魘されていたのだろうか?
ちなみにユウ達は横一列で並んでおり、ユウ、カガリ、リリス、セレン、アイリの順で並んでいる。
「バッカ、そんなに見られると恥ずかしいだろぃ」
「でも先輩、スゴい寝言言ってたですよ?」
「……止めろとか」
「ゴメンって急に謝ってたりしてたねえ」
「あと女の名前言ってた」
さっき見た悪夢で自分が口走ったことが口から漏れていたようだ。それにしても嫉妬全開で睨んでくるアイリが怖い。
「先輩、どんな夢だったか白状するですよ」
「……気になる」
「少し興味あるねぇ」
「それより女の事吐け」
ズイズイと迫ってくる美少女四人。向かえに座っていた小太りのおっさんが舌打ちをしてどっか行く。
ユウとしてはあまり喋りたくはないのだが……。
「聞くと後悔するぞ? 人がたくさん死ぬ話なんだぞ?」
「どうせ嘘ですよね」「……どうせ嘘」「いつもの如く、嘘だろうねえ」「十中八九嘘だろ」
「ぐぬぬ……」
嘘ではなく本当の事なのに。嘘つきな自分といつもいい加減な言動のせいでこういうときに信頼が無い。ちょっと泣けてきた。
結局ユウは何も喋らなかった。各々不満そうな顔をしていたが。
彼女らは知らなくていい、一生語る事はない。
あの日──『鮮血のホワイトクリスマス』に起きた事は何も知らなくていい。ユウがなぜコルウスになったのか、命を懸けるのに躊躇わないのかはずっと黙り続けていよう。
●
合宿はサラの実家で行われる。という事で魔物討伐部一行はサラの実家に到着していた。
サラの実家はかなり古ぼけており、なんというか忍者屋敷みたいで、どこかユウに懐かしさを与えていた。
早速中へ入ると、いつものポニーテールをほどいたサラが出迎えてくれた。腰まで届く白く美しい髪、鋭い緋色の眼光、そして着物姿がよく映えていた。腰に佩刀しているのは相変わらず魔装ではなく、何の能力を持たないただの刀である。
「いらっしゃ~い、待ってたわよ~」
やけにのんびりとした声がその女性から発せられた。
実はこの人はサラではなく、双子の姉のミラという人だ。容姿もスタイルも全て鏡合わせしたかのようにサラと瓜二つだ。声も同じである。
実際何度か会っているユウ達でさえ、相手が喋ってくれないとどっちがどっちだかわからない。リリスとカガリも口調が全く違うサラだと思い込んで混乱している。否、混乱しているのはカガリだけで、魔力の匂いで人を判別できるリリスはそれほど混乱していないようだ。
「そっちが新人さんね~。私はミラ。初めまして~」
「カガリです! 初めまして!」
「……リリスです」
軽い自己紹介が済んだところでひょっこりとサラが出てきた。
「よく来たな。さ、上がっていけ」
こうしてこの双子の姉妹が並ぶと本当にどっちがどっちだかわからなくなる。本物のサラもポニーテールをほどいているから、ますます見分けがつかない。しかし幸い着ていた着物の柄は違っていたのでそれで判別できる。
「リリス、お前スゴいな。ミラの姐さんが姐御じゃないってわかってたんだろ?」
小声でリリスに訊ねると、小さく首を横に振った。
「……波動も、匂いも全く同じだった。……だから驚いてる」
「そ、そーか……」
だったら驚いた表情をつくってほしい。勘違いしてしまうから。感情表現に乏しいのだから仕方が無いのかもしれないが。
「ところでユウちゃん」
「ん? どったの姐さん」
「姐さんって呼ぶのは止めてほしいな~」
「え? 姐さんは姐さんっしょ?」
「もういいわよ~」
どっかで似たようなやりとりをして、ミラが「そういうことじゃなくて~」と言いながらユウ一人だけを奥の部屋へと連れていく。
二人っきりになると、ミラからその鋭い眼光で睨まれる。
「姐さん、こんないたいけな少年を真っ昼間から連れ込んで何をする気? はっ、俺の貞そ──」
「あなたの中の闇がまた一段と強くなった気がするわね~」
「……俺、一応『闇属性』っすよ」
「そうじゃなくてね~……、う~んと、何て言えば良いのかな~?」
「…………」
「黙ってるって事は、身に覚えがあるのかな~? それとも自分でもよくわからないのかな~?」
それはユウ自身よくわかっていなかった。
ただ前者だとすれば、それは『コルウス』の事だろう。コルウスは機密──その隠し事がユウに『闇』を作り出しているのかもしれない。
あとは果たせなかった約束と、その代替になる約束。
それらをこの人は全部見透かしているのかもしれない。
人を見る目は確かなようだ。
「そういえばあの子も──」
「あの子……?」
「ほら、カガリちゃんって子。あの子もあなたとは違う闇を抱えてるわ~。だからあなたがその闇を消してあげてね~」
「何で俺が?」
「うふふ、どうしてかしらね~」
やけにミラは楽しそうに言う。
煮え切らない思いのまま、これ以上何も言ってこないミラを放っておいて部屋割りで決めた自室へ向かう。
部屋についてすぐ荷物を隅に放り込んでケータイを見る。
不在着信五三件。ものすごく増えていた。
嘆息し、目的の人物に電話をかける。
『コルウス、やっとでたー』
「ホント、いい加減にしろよ。いちいち電話してくんじゃねえ」
『だってぇ……』
「とにかく」
ユウの声が小さくなる。奴らがいつ聞き耳を立てているかわかったものではない。もしユウの電話相手が『Shout』のミヤだと知れたら、奴らは根掘り葉掘りユウとミヤの関係を問い質すだろう。パパラッチじゃないくせに。
「今は歌え」
『え?』
ミヤは急に歌えと言われて意味不明だっただろう。だがすぐに意味を理解したのか、ユウの耳には彼女の鼻歌が響く。
歌魔術『ディーバ』。攻撃力は皆無だが、歌手の思いが歌に隠れて伝えられる。ただし適合者にしかその歌が聴こえない。
ユウはその『ディーバ』の適合者の二人目である。更に『ディーバ』は適合者であれば自由に回線を繋げたり切ったりすることができる。
もう一人の適合者であるレイヴンとリンクしてユウは切ったままもできるし、その逆も然りである。
そしてリンクさえしてればリンク先の相手の心の内さえ読めてしまう。
これを利用してユウとミヤは誰にも気づかれず、盗聴される事もなく会話ができる。
注意しなくてはならないのは、『ディーバ』が人の心の内を読めるという点だ。だからミヤと『ディーバ』で話す際は無心になるように心掛けている。
《そこに誰かいる訳? 女?》
《さぁ? ま、今は居ないけどな。でもそのうち現れるよ》
《その女って誰なのよ!? あんたに男の友達なんかジンだけだもん! ジンならさっき見かけたし!》
《うるせえな。俺が誰といようがお前には関係ねえだろ》
《あるよ!》
《……もう切るぞ》
《あ、コラ、待ちなさ──》
電源ボタンを押す。素早く操作してミヤを着信拒否にすると、鞄の中にケータイを押し込む。
ふぅ、と一息吐くと同時に部屋の戸が開く。開けた犯人はアイリとセレンだった。
「ユウ、そろそろ時間だぞ」
「支度はできてるかい?」
「バッチリっすよ」
これから向かう所は裏山である。あそこは数多くの魔物が生息しており、危険で本来なら立入禁止の場所である。
この家が魔物に襲われないのは、魔物を退く結界が張られているためである。学校のと同じだ。
でも仮に襲われたとしても、ここの家族は皆化物みたいな実力の持ち主だから逆に魔物の方が逃げ出しそうだ。
「ところで、さっきミラさんからお呼びだしされてたけど、何をしていたんだい?」
セレンの素朴な質問に対してユウは──、
「逆凌辱」
と冗談一〇〇パーセントで答えてやった。そしたら二人はみるみるうちに顔が真っ赤になっていった。
──嘘だとわかっているだろうに。
●
魔物討伐部の部員は全員サラの実家の裏山へと来ていた。ここは魔物が生息しており大変危険である。だが、魔物討伐部として実力を上げるためにはもってこいの所でもある。
山の麓にはすでにサラが待ち構えていた。
「よし、全員定時通りに来たな」
凛としたサラの声。久しぶりの本格的な活動──ユウは思わず気を引き締める。
「新人の二人のために言わなきゃならない事がある。魔物と戦う際についてだ」
横から固唾を飲み込む音がした。おそらくカガリだろう。リリスはこんな事では動じないはずだ。
「知ってのとおり、魔物はとても狂暴だ。下手をすればこっちが死ぬ。だから魔物が出没するところでは常に複数で行動する事」
一対一で魔物と戦うのは無謀である。また魔物の中には群れをつくるのもいるため囲まれたら終わりなのだ。
もし一人で魔物と出会ってしまった場合、とにかくどんなに無様でもいいから逃走しなければならない。
「これだけは心がけてくれ。とは言っても、適応しない奴がそこにいるけどな」
ジロリ、とサラから睨みつけられる。もしかしてもしかしなくともユウだろう。
「いやだなあ姐御、俺だって人の子だぜぃ? 俺は化物ではないのです」
「黒竜を手懐けておいて何を言う」
「それを言うなら姉御と姐さんだってそうでしょ。俺より化物染みた強さだしさ」
「わかったもういい。これより魔物の討伐を開始する」
スイッチを切り替える。いつものおふざけモードではなく、滅多に見せない真面目なものだ。だがこうなったときのユウはコルウスの状態に限りなく近くなってしまう。だから微妙な調整が必要だ。今はコルウスではなく、あくまでユウなのだから。
●
裏山の中腹部までやってくる。これからリリスとカガリに魔物との戦闘がどんなものなのか、実戦を見せるのだ。
ここまで来る途中、魔物と出会っていれば手間は省けたが、運良くここまで一匹たりとも出会わなかった。もし遭遇したならここまで来る事もなかったのだが。
意識を集中させる。微弱な魔力の波動を感じる。仲間のものだ。
それ以外の魔力の波動はきっと魔物のものだ。そこら辺にうじゃうじゃといるし、禍々しさを感じる。背筋が凍るような、または戦慄が走るような──そんな感じだ。
これ以上魔物の魔力を感じていたら気分が悪くなってくる。
魔力の探索を止め、後に現れる魔物を待つ。
──ホントに、よくここまで魔物に出会わなかったもんだな。
ここは本来なら立入禁止区域。入り込めば魔物の餌食になる。
去年もここまで来てやっと出てきたのだ。その前も同じだったらしく、その前は普通に途中の山道で出くわしたらしい。
魔物が何かに恐れていた、と去年までいた先輩が言っていたが、真相はまだわかっていない。
いずれにしろ、ここまで来てしまったら油断しないことだ。相手は魔物。人間のように情けはかけない。負ければ殺される。
気は抜けない。
そして──咆哮を撒き散らしながら巨大な魔物がこちらに向かって突進してきた。
拳を握る。
アイリとセレンとの連携はきちんと確認した。
ここ最近は一人で戦うことが多かった。
だが今は二人がいる。
「アイリ、先輩、そんな装備で大丈夫か?」
「は? まあ、大丈夫だな」
「問題ないよ」
「お? 珍しくネタに乗った!?」
自分を守ってくれる仲間が。
自分の力を信じてくれている仲間が。
だから──。
「よっ、と」
自分は前進あるのみなのだ。
ユウが動き出すと同時に二人が詠唱を始める。
セレンは上級魔術を。アイリは中級魔術をだ。
魔物の眼前にまで接近し、足に施した『強化』を解除し、全ての魔力を右手に集中させる。
拳から黒い魔力が溢れ出す。『強化』を超えた技法──進化形とも呼べる『魔魂』だ。
「くぅっ……!」
溢れ出した魔力が凝縮し、ユウの拳と一体となる。
黒い紋様がユウの拳に刻まれていく。
『魔魂』を更に超えた究極の技法──現在の時代では完全に失われたと思われた幻の技法でもある『絶破』。
魔物の体がいかにも硬そうな甲殻に覆われていく。
お構いなしに、ユウは『絶破』を施した拳を躊躇なく突き出す。
甲殻にぽっかりと穴が空く。
そしてユウの拳は魔物本体へと到達する。
魔物の断末魔が大地を震わす。
同時に甲殻の形が変化し、鋭利な針になってユウを襲った。
「絶対なる御盾-bellum scutum-」
ユウを守るように、巨大な盾が出現する。
アイリの使い魔であるルーチェの防御の魔術だ。
盾に衝突した針はボロボロに砕けていく。
「神殺しの御剣-bellum gladius-」
今度は巨大な大剣を召喚し、一薙ぎするとその剣圧で甲殻を剥ぎ取っていく。
更に新たな使い魔が召喚された。
薄い緑色の地肌、エメラルドのような瞳、黄緑色のワンピースを着た緑色の少女。だが少女よりも幼女よりもその体は小さく、ユウの掌と丁度同じくらいの小さな女の子。
風の精霊シルフ。『風属性』の魔術師がよく召喚する使い魔である。
このシルフは確かセレンの使い魔だったはずだ。
シルフは掌を天に翳すと、小さな竜巻ができた。その竜巻は徐々に大きさを増し、周囲の木がざわめき始め葉っぱをむしり取って巻き込んでいく。
そしてできあがった巨大な竜巻を魔物に向かって放り投げた。
竜巻に巻き込まれ、宙を舞う魔物。
すかさず詠唱を完了させたアイリが魔術を叩き込む。
「氷結せし雨-grndo curis-」
天空により降り注ぐ霰の弾幕が、無防備の魔物を貫いていく。
「荒れ狂う暴徒の進行-typhon-」
トドメといわんばかりの風の凶刃が魔物をズタズタに刻んでいく。
相変わらず全力で魔力を練り込まれたセレンの上級魔術は凄い威力である。あっという間に魔物を蹴散らしてしまった。 ふと二人の方を見る。
思わず目を見開いた。
大型の魔物が二人に牙を剥けていた。
ユウは考えるよりも早くポケットに手を伸ばしていた。
ゴツリと感触が伝わり、引っ張り出して引き金を引いた。
銃声。
飛び散る魔物の血。
倒れた魔物は苦しそうにもがき、やがてその動きが止まった。
「ふぃ~」
ユウは安堵の溜め息を漏らす。同時に倦怠感が襲う。
「ユウ、ありがとう助かった」
「まさかあそこまであの魔物が近づいてきていたとはねぇ……、詠唱中は集中しなきゃだから気づけないんだ……って、ユウ大丈夫かい?」
アイリとセレンがユウの側に寄って、ようやく顔色が悪いことに気づいたみたいだ。
続いてサラも寄ってくる。ついでに心配で付いてきただろうリリスとカガリも。
──まさか一発で『常闇』と同じくらいの魔力を持っていかれるとはなぁ。
魔弾の充填は装備者の魔力で行われる。つまり魔力を消費しなくてはならない。
すぐにリリスが回復魔術をかけてくる。お陰で倦怠感が少し抜けた。後は魔力の回復を待つのみである。
サラと目が合う。その瞳は『後で話がある』と訴えていた。
おそらくこの拳銃の事だろう。なぜユウが持っているのか、ケイゴがどうなってしまったのかを訊きたいはずだ。
とりあえず適当に嘘でもつくか、とユウはいつも通り真実を隠す事を決めて拳銃をポケットの中にしまい込んだ。
そのとき、倒れた最初倒した魔物から異音が響く。
気づいた頃には遅かった。




