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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
間章
132/133

鮮血のホワイトクリスマス-邂逅-

 冬の寒さにはどちらかといえば強い方だ。でも空調代わりの火の魔晶石は手放せない必需品となっている。特に屋根裏部屋というのは夏は蒸し暑いくせに、冬は凍える程寒いので下手をしたら命の保証が危ぶまれる。

 肌は突き刺さるような寒気を浴び、首もとから下は暖かい毛布にくるまり、モソモソと動きながら右手だけを出して火の魔晶石を起動する。暖をとったところでユウはようやく寝床から起床した。

「うっへ、今日は一段と寒いな」

 窓から外の景色を眺める。こんだけ寒いのだから雪でも降っているのだろうと思ったがそんな事はなかった。

「でももう少ししたら降るだろうな、これ」

 ふとこの屋根裏部屋に近づいてくる足音が聞こえた。ただボーッと待っていると、リリィがひょっこりと顔を出してきた。

「ようやく起きましたね。朝ごはんですよ」

「あいあい。いっつも俺が起きるまで待たなくてもいいって言ってんじゃん。適当にそこら辺置いといていいよ。起きたとき食べるから」

「もう……」

 リリィが梯子を昇りながら器用にお盆を持ってくる。そのお盆の上には焼いたトーストと湯気が立ち込めたコーヒー乗せられていた。

「いつまで一人でいるつもりですか? 家族なのに」

「あっちが嫌がってるからしょうがないじゃん? ま、なるようになるよ。そのうち時間が解決してくれるよ、たぶん」

「そういう問題じゃないと思うんですけどね」

 ユウには五人の家族がいる。父のカイトと母のリリィ。そして妹のリリアとリリスとマリアだ。ちなみにこの五人とは血の繋がりは全くない。

 現在ユウはその妹とはほとんど口を利いていない。ただの兄妹ゲンカとか思春期の兄妹にありがちな関係とかならまだ可愛いレベルの険悪さだ。

 リリアとはたまに家で顔を会わせたかと思えば罵詈雑言を飛ばし、挙げ句、魔術まで飛ばして殺意すら感じられる。

 リリスには無視されている。彼女と喋った記憶が全然無い。何の冗談ではなく、本当に一言もだ。

 一番下のマリアだけはユウを慕ってくれているのがせめてもの救いだった。ただその兄を想うがあまり、時々暴走するのが玉に瑕ではあるが。

 そもそもリリアとリリスを妹と認識したのがマリアより後というのもおかしな事である。この事と何か関係ありそうな気もしないでもないが、もう関係の修復はどだい無理な話である。気にかける必要はない。

 トーストを多めの砂糖を混ぜたコーヒーで押し流すように嚥下し、食べ終わると学園へ行く支度にために着替えるからとリリィを食べ終わった朝食と共に下げる。

 そろそろリリア達は家を出る頃だろうか。着替えながら何の気も無しに窓から外を覗く。すると案の定リリアが家から出てくる瞬間だった。

 寒さに弱い彼女は防寒具の類いをしっかりと着こなしていた。そのうえ自分の火属性の魔力を放出して体を温めているように見える。そこまでしたら逆に暑いだろ、というのは杞憂だ。あれが彼女にとって適温らしい。

「黒タイツってエロいよな」

「何を言っとるんだお前は」

「うわぁいっ」

 リリアが履いていた黒タイツに視線がいき、思わず──というより自分以外誰もいないだろうと安心しきって呟いただけに、カイトの声で心臓が口から出そうな程驚いてしまった。

「とうさん、急に現れるんじゃないって」

「それはまあ、悪いとは思ってる。でもよ、リリィから聞いたぜ、飯はあとここに持ってくるだけでいいって」

「……それが?」

「いいのか? それで」

「ああ」

「本当にいいのか? いつかできるもんもできなくなるかもしれないぞ?」

「……、構わない」

 カイトが言いたいのはきっと妹達の仲直りの事だ。けれどこの問題はたぶんそう簡単に解決はしない。ユウもあっちもまだまだ子供だ。お互いの意地だってある。そう容易にできていたら、今もこんな関係じゃないだろう。

「……そうか。伝えとくぜ」

 カイトは顔に出さなかったが、渋々承諾した感じに見えた。彼自身もユウとリリア達の関係を修復はしたいと思っているだろうが、これはあくまで本人達の問題だ。他人が干渉してどうこうでこるものでもないと弁えているのだろう。

「急げよ、遅刻するぞ」

「あいあい」

 カイトが部屋から出ていき、ユウは学園へ行くための支度を再開するのだった。

 これはただの普遍的な日常にすぎない一コマ。変わりなど今後しないだろうと思っていた。ただその日常の中に、ユウの居場所なんてものは存在しない。なぜなら、この世は魔力が絶対主義の社会だからだ。ユウは魔力量が極端に少ない。だから住みづらくもあるし、それに加えてあの家庭環境だ。

 いつかどんな所でもいいから自分の居場所が欲しかった。

 そんな願いを抱いて、ユウは学園へ向けて走り出した。その姿を二人の影が眺めているのを知らずに。



「あれが、例の少年か?」

 男性が隣にいる女性にそう問うと、コクりと頷かれた。

「俺にはアイツが救世主だとは思えんがな。見たところ、ただ魔力を抑えるのが得意な平民の学生にしか見えんぞ」

「それは違うな。魔力を抑えるのが得意なんじゃない。魔力があまり無いから感じられんのだよ」

 女性は男性の間違いを指摘した途端、彼の表情が曇る。

「本当に大丈夫なのか?」

「……たぶん。レイヴンさんが、そう言っているし……」

 いくらギルドのリーダーが言う事とはいえ、こればっかりはなかなかに信じられない二人だった。



      ●



 こう寒くなってくると、賞金がかけられた凶暴な魔物は早々に冬眠してる事が多く、部活の活動はしばらく無しとなったためユウは放課後さっさと帰るしかなくなっていた。

 親友とも呼べるサイガもさっさと帰ってしまうし、ユウは仕方なく一人で帰るしかなかった。まあそれはいつもの事であるが。

 だからといって早く家に帰ってしまうと妹達と鉢合わせする可能性が高いので、適当にブラブラして晩飯時に帰るように時間を調整しているのだが。

 ユウは財布の中身を確認する。小遣いはほとんど底を尽きかけていた。今月はどうやら使いすぎたようだ。これでは遊ぶために時間は潰せない。

 嘆息する。吐き出る息は白く、気温も数日前と比べればかなり下がってきているのも明らかだった。

 ──長くうろついてると、さすがに風邪引くよな……。

 こうなっては仕方がない。妹──特にリリアと顔を会わすのを覚悟でさっさと帰るしかない。

 そう思い立った直後に我が家へ向かおうと身を翻した直後、ユウが歩く道を立ち塞ぐようにして怪しげな三人が居た。

 黒いコートの上からいくつものホルスター付きの革ベルトを巻いており、そのホルスターには全て魔法銃が収まった赤い短髪で長身な男性。三白眼で目つきが鋭く、顎髭が生えている。

 冬物なのかモコモコした材質のローブを羽織り、白い毛糸の手袋をはめたその手には木製の杖が握られ古風な魔術師の印象を受ける小柄でターコイズブルーの髪の魔人の女性。気怠そうで欠伸をかましていた。

 そしてもう一人。この男性が異様な雰囲気を醸し出していた。平民の二〇代後半に見え、長身痩躯の出で立ち、肌は病的なまでに白く見ているこっちが心配になりそうである。

 いかにも関わり合いになりたくない連中である。とりあえず「ちょっと通らせてもらいますよ」と一言かけてとっとと退散しようとした。

 そのすれ違いざま。

 ユウの耳には──。

「ユウ・ルークス。年齢は一六。人種は──」

 赤髪の男性の声がはっきりと聞こえた。


「武人」


「!?」

 なぜ、それを知っている?

 歳の事はどうでもいい。見た通りの高等部の学生なのだから。問題は名前と人種を言い当てられた事だった。

 今ではユウ・ブライトと名乗っているが、ルークスはユウの本当の姓だ。

 そして、ユウの本当の人種は武人だ。

 カイトから武人の力を発動してはならないと約束して、それを律儀にずっと守り続け、むやみやたらと武人化せずに平民の姿になっている。

 ユウの秘密を二つも知っている。ユウの素性を隠すためのもののはずなのにそれを知っているという事は、即ち敵だ。

 足に魔力を集束させ、一気に駆け出した。

 ここでこの連中を取り抑えておかなければ、最悪周囲の人達を巻き込む事になりかねない。いくらあんな妹だろうと、それはユウの望む事ではない。

 すぐに裏路地に逃げ込み、佩刀してあった『無銘』に手をかける。

 溢れ出すように、刀に巻きついていた戒めの灰色の鎖が姿を現す。

 その鎖を、ユウは引き千切った。

 封印された武人の力が溢れ出てくる。

 ユウの寝ていた黒髪は真っ白に染まって逆立つ。瞳も緋色の色彩を帯びていく。その出で立ちはまさに武人そのものだった。

 どうせ正体知られているのだ、武人化しても問題はない。

 ──どうする……?

 相手は三人。だが実質二人とみて間違いはないだろう。異様な雰囲気の細身の男性は戦闘タイプには見えなかった。

 男性の銃使いと思われる赤髪は中距離が得意そうな魔法戦士。女性の魔人の方は見るからに魔導士タイプだ。どちらも近距離戦は苦手と見える。ユウの得意な近接戦闘に持ち込めば撃退はできるはずだ。

 ──どっちを先に攻める……?

 魔法戦士を先に対峙したところで、ちんたらしてたら魔導士の魔術でやられる。防ぐ術はあるにしろ、ユウの魔力量を考えたら何回も使えない。

 ならば──。

「これは驚いたぞ。まさか本当に武人になれるとはな」

「……!」

 後ろには赤髪の男性。気配もなく、ユウの背後に立っていた。

「くそっ」

 刀を横に薙ぎ払う。

 だが何の苦もなしに一歩下がるだけで躱された。

 ユウは刀を振るいながらもう一人の敵を探していた。

 まだ魔力探知は苦手だが、緊張する状況な中、必死でもう一人の魔力を探る。

 ──見つけた!

 ここに近づく魔人の魔力。

 ユウは足に魔力を溜め、その一点に向かって一気に跳んだ。

「おっ、アイツの魔力見つけたがったな。フブキィ! そっち行ったぞォ!」

 赤髪が叫んでいるようだが、もう遅い。

 ユウはすでに魔人の女性に向かって刃を降り下ろしていた。

「なっ!?」

 しかしその白銀の刃は彼女には届かなかった。

 氷の壁が受け止めていたのだ。

 咄嗟の判断で出したのだろうが、ユウには闇の魔力がある。

 白銀の刃が真っ黒に染まる──。

「遅い」

「えっ?」

 気づけば、ユウの体は巨大な氷堺に押し潰されていた。

「まったく、私達に戦う意思はなかったのに──正当防衛だ」

「フブキ、ちょーっとやりすぎじゃないのか?」

「グレン、お前説得すると豪語しておいて、コイツ真っ先に私の方へ来たぞ」

 どうやら赤髪の男性はグレン、魔人の女性はフブキという名前らしい。

 そんな事はどうでもいいとして──。

「お前ら俺に何の用だッ? 説得とか言いやがって──」

「それは俺の方から説明するよ」

 近づいてくる足音。その主はあの細身の男性だった。

「初めまして、俺はレイヴン。ギルドのマスターだ。キミを、我がギルドに歓迎するためにここへ来た」

「は……?」



      ●



 任意同行で喫茶店に連れていかれた。ほぼ強制連行といっても過言ではないだろう。

 木製のテーブルの四人席。ユウの隣には熱苦しそうなグレンが座り、迎いにはレイヴン、また彼の隣にはフブキが座るという形になっている。

「で、何で俺をギルドに?」

 注文したホットコーヒー──多めの砂糖入り──を一口啜りながらユウは訊ねた。

 ギルドといえば様々な依頼をこなす何でも屋だったと記憶している。そういえば昔、本当の父親であったシドもそこで働いていたと記憶の片隅に置いてある。

 不思議なものだ。シドの事は覚えているのに、それより記憶が新しい妹達の事は覚えていない。シドの件は、あれはどうしても忘れられない出来事と結びついているから忘れようにも忘れられない。対して妹達の件は、歳を重ねる毎につれて段々と忘れていくようなそんな記憶なのだろう。

「俺達は今、窮地に立たされているんだ」

 淡々とレイヴンが語りだす。

「救いたくとも救えない命。俺達は目の前で何度もそれを見た。その命を救えるのはキミしかいないんだよ」

 そこで一旦区切り、ユウと全く同じくらいの砂糖を混ぜたホットコーヒーを飲み込む。

「キミに救世主になってもらいたい」

「ぶふっ」

 啜りかけたコーヒーをぶちまけるところだった。

 目の前の奴が何を言っているのか理解ができなかった。

 ──救世主?

 ──何を言ってるんだコイツは?

「この二人に負けた俺が救世主とか寝ぼけてんの? 俺にそんな力はないよ、と」

 これは不毛な事だ。さっさとコーヒーを飲み干し、さっさと帰る。どうせお代はこのギルドの連中が払ってくれるらしいので先に帰っても問題はないはずだ。

「まあ待て」

「あ?」

 フブキに呼び止められる。相手が魔人だけに、魔人嫌いなユウのイライラはピークを迎えようとしていた。

「私に負けたのはただの年期と場数の差くらいだ。気にするな」

「フォローのつもりかよ。んなもん知るか」

「ただ、半年だけ鍛えたわりにはいい線までいってるよ」

「……なんでアンタらはそうも俺の事知ってんのかな? ストーカーか何か?」

「ギルドで鍛えれば、すぐに私達を超えられる。どうだ? ギルドに入らないか?」

「いや、勝負事には興味ないんで」

 実際魔物を狩るようになってからは着実にユウは半年前とは別人のように強くなった。ただ強くなったからといってそれを誇示したくはないし、そうなってしまえば嫌いな魔人と一緒になってしまいそうで嫌だった。

 それにあれは元々一対二。負けて当然だ。だからといってタイマンで勝てるかどうかを問われれば返答に困るが。

 どのみち、強くなる事に関しては執着はしていない。

「はっはっは、フられたなフブキ。次は俺に任せろ」

 今度はグレンが勧誘してくるらしい。元々この人がユウをギルドに連れ込むつもりだったらしいから、どんな誘い文句を言ってくるのか──。

「俺と一緒に気持ちいい汗を流さないかい?」

「却下」

 こんなもん即答ものだ。熱苦しくて汗臭いのは好きではない。

「そもそも何で俺なのさ? 別に俺でなくたっていいだろ」

 例えばリリア。彼女は魔人で、さらに魔人の中でも規格外な魔力量の持ち主だ。ギルドの人間なら、手中に収めたくて仕方がない逸材だとは思うが。

「キミでなければダメなんだ」

「……!」

 キミでなければダメ──ユウのアイデンティティとはこの『無銘』を扱える事だ。それはつまり、この魔装の能力を使える事を意味する。

 眉がピクリ動く。

 やたらとユウを知る人だから、無銘の能力を使った際の代償も当然だ知ってて当たり前だ。

「キミには、その無銘の『魔力吸収』を使ってもらいたい。そうすれば──」

 レイヴンの言葉の途中で、辺りが静まり返った。

 ユウがテーブルを押し退けて、レイヴンの胸ぐら掴み上げたからだ。

「お前それ──」

 小声で、近くにいるグレンやフブキにも聞こえるように喋る。


「俺に死ねと言っているようなもんだぞ」


 ユウの父シドはこの魔装の能力で亡くなっているのを間近で見ている。

 武人の体は魔力を多くは内包できない。鍛えても許容量を越える事はそう簡単にはない。ゆえに武人は魔力を上げられない体質と言われているのが世間の認識だ。だが実際は違う。魔力を上げてしまえば、そこに待っているのは死なのだ。武人は魔力を上げられないのではなく、上げてはならない。

 無銘は魔力を吸収し、少しずつではあるが己の魔力として蓄積するのが可能になるのだ。武人でしか扱えない魔装なのに、その武人がこの能力を際限なしに使用すれば臨界を迎え必ず死ぬ。

「わかっているさ。けど、それでなければ救えないんだ。キミを悪いようにはしない。この話、承諾してくれると助かる」

 大の大人がまだまだガキであるユウに頭を下げる。あっちはユウだけが頼りなのだろう。

 でも、それでも──。

 遠回しに死ねと言われて、素直に承諾できる訳がなかった。

「帰る。話は無かった事にしてくれ」



 ユウが荒れた事で静まり返った店内は、その当事者からしたレイヴン達には少々居心地が悪くなってしまったため、お代を置いてさっさと逃げるようにして後にした。

「レイヴンさん、これからどうするんだ?」

 ユウとの交渉が失敗し、目的を果たせないのではないかと焦燥した表情でグレンが訊ねる。

「心配はいらない。ユウは必ず来る」

 ユウがギルドに入る事は、レイヴンが歩んできた歴史が証明しているのだから。



      ●



「あっ」

「……ちっ」

 家に帰ると、丁度リリアも帰宅したらしく鉢合わせして彼女から舌打ちをされた。

「やけに機嫌悪い顔してんのな。そこまであたしと会うのが嫌か」

「いや、ちが──」

 リリアにギルドの連中と会って、死ぬまで働けと言われたと暴露するかどうか悩んだ。でもそれを言ってどうなる?

 言ったところでリリアには関係ないし、彼女が心配してくれるとは思わない。むしろユウがいなくなるのだから歓迎されるのではないか?

 そう思うと腹立たしく思い、リリアの目の前でも仏頂面を戻す事はしなかった。

「──そうだよ」

 心にもない言葉。否、それはどうだろうか?

 リリアだって血の繋がりはない妹でもユウの嫌いな魔人である事には変わりない。

「っ! いっその事死ね」

 リリアからそう吐き捨てられ、怒ったかのように彼女はさっさと家の奥へ消えていった。

 この家に居場所なんて無いと思っていた。厳密には少し違うのだろう。ユウ自身がここを拒んでいるのだ。

 ユウさえ魔人に心を開ければ、時間の解決を待たずともリリア達と仲直りできるのかしれないのにしようとしなかった。

 今だってそうだ。無意識かわざとかは知らないが好感度を下げるような選択肢ばかり選んでしまっている。

 なぜこんなにも愚かな事ばかりしているのだろう。

 自分で居場所を無くしていく。だったら、もうどうすればいいのだろう。

 先程会ったレイヴンの言葉が脳裏を過る。

 ──救世主になってくれ。

 だがその代償はユウ自身の命だ。他人の命を引き換えに自分の命を落とす事など到底無理な話だ。

 けれどもし無銘を使わずに済む方法があるのなら、こんなユウの糞みたいな現状を改善できるのかもしれない。

 この家に居場所なんて無い。でもギルドになら──こんなユウでも役に立てる事があるのなら、そこがユウの本当の居場所になるのかもしれない。

 翌日、ユウは自らの足でギルドに赴いていた。

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