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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第一〇章・前編【白翼】
122/133

03

 ケントとカノンを『ルーンナイツ』に配属させ、監視下置いてから既に半年が経過しようとしていた。オロルの予想通り、直接は攻撃してこないもののオロル単体へと集中的に狙われるようになってきていた。だがその対象にケントも加わるのはそう遠くはないだろう。更にその対象は『ルーンナイツ』もしくは騎士団全体に移行するかもしれない。

 ──そんな事は絶対にさせない。

 それにそろそろ痺れを切らしたフリードが直にオロルを倒しにくる可能性だってある。おそらくオロルに与えられたあと半年の猶予以内には。

 そして現在、団長室には騎士団長であるオロルとその秘書の座に就いたアシュレイが居た。

 アシュレイが手に持っているのは今年騎士学校を卒業した者達の名簿だった。オロルはそれを受け取るとざっと目を通していく。

 団長には卒業生をどの部隊に配属させるかを決める義務がある。戦闘班やら衛生班やら遊撃隊やらにだ。個人の能力を最も生かせる所に所属させるための大事な責務といえる。

 とはいっても、オロル自身あまり他人に興味が無いせいか、団長に就いてからのこの仕事は三年程経っても不慣れなままだった。なので少しだらしないがアシュレイと相談してやるしかない。

「……!」

 とある卒業生の名前が目に入る。その者の書類には得意魔術や戦術スタイル、性格等々事細かに書き記されていた。

 得意魔術は火属性。火属性による『強化』により、女性でありながらも物理、魔術共に火力は申し分ない。また高速詠唱により、近接戦での『完全詠唱』の魔術の発動を可能とできる。性格は短気。だが仲間思いな面もある。それ故に守護目的で己の限界を越えた行動にでる危うさがある。

「あれ……、この子は確か……」

 アシュレイも実はこの卒業生と一度は面会している。三年前のあの戦場で。当然彼女はそのときは一般人であの戦場に居てはいけない存在だったのだが。

「……やはりここまで来てしまったか──」

 そんな命知らずな卒業生の名前は──、


「リリア」


 リリア・ブライト。首都の魔術学園を次席で卒業。だが卒業後は義理の兄であったユウを失った事でほぼ抜け殻のようになってしまいろくに仕事に就いていない状態が続いていたらしいが、実父の復讐のため三年前に騎士学校に入学して今に至る。

「どうしてこの子が……三年前の感じじゃ騎士になんて興味無さそうだったけど」

「……僕のせいだよ」

 アシュレイはオロルを見つめながら首を傾げた。

「僕は三年前、騎士団にいれば、フリード近くなるって言ったせいなんだ」

 こうなってしまった以上、オロルのやるべき事は一つしかない。

「彼女に関しては相談は不要だ──『ルーンナイツ』に入れる」

「え……?」

 騎士学校を卒業したての新人を『ルーンナイツ』に入隊させるのは前代未聞である。その前にも騎士学校を異例な早さで卒業し、すぐに『ルーンナイツ』に配属されたオロルという前例はあるが、それ程までにオロルという存在は異質なのだ。

 だがリリアは違う。確かに規格外な魔力を有してはいるが、まだまだ一兵士にしか過ぎないのだ。

「オロル……私達のときもそうだったみたいだけど、またそんな事したら団長としての立場が……」

「団長としての威厳なんて、地の底まで失墜してるよ。もう何をやっても同じさ」

「でも……」

「これしかねーんだ……。例え彼女を騎士団から追い出しても、必ず彼女は僕らを差し置いてフリードを追う。フリードへの復讐こそが彼女の目的だから。彼女が単独で動くような事があれば、間違いなくフリードに殺される。そうすれば僕は、約束を守れなくなる」

 フリードを追い詰めるには、騎士団に入隊するのが堅実かつ確実な方法かもしれない。けれどそれが叶わなかったら?

 もはやフリードへの報復しか考えていないリリアにとって、その方法を取り上げても何らかの方法でフリードへ接近する。それもかなりの危険が孕んだやり方で。

 オロルはリリアを守ると誓った。今の彼女から目を離せば、きっと取り返しのつかない事態に陥る──そんな気がしてならない。

「そんなにこの子が、あのフリードに執着しているって事?」

 オロルは無言で首肯する。

「どうしてそんなにフリードに拘るの?」

「……五年前、首都で何が起きたのか──知ってるかい?」

「砂化の殺人事件……」

「ちょっとズレてるけど、まあそこがきっかけだよ」

 五年前といえば、やはりその事件が有名だろう。今となっては風化してしまったが。殺人を犯した犯人が死亡したのだから。

「魔術学園の生徒が生徒を刺し殺して体を白い砂に変えた──あの事件がどうして復讐に繋がるの? 犯人はユウって子でしょ?」

「そのユウが、彼女の義理の兄だったんだ。あの事件が起きるまでは、彼達はいがみ合っていたんだ。そしてユウは更に残酷な嘘でリリアを突き放して、犯行に及んだ。いや、犯行って言い方は少しおかしいかな」

「おかしいって?」

「真相については追々話すよ。リリアは突き離されてようやく彼と向き合おうとしたんだ。いがみ合うんじゃなくて、きちんと仲直りしたかったんだ。そうしてユウに近づいた直後、ユウはフリードに殺された」

「何それ……ユウって殺されたんだ」

「どのみち彼は死ぬ運命だったけどね」

 ユウはあの宿命を背負った瞬間、死という未来しか残されなくなったのをオロル知っている。

「死ぬってわかってたから、悲しませたくなかったから、敢えて突き放したんだ。けれどその意をリリアは汲んでくれなかった。それどころか彼のために復讐を成し遂げようとしている」

 その復讐は何のためだろうか?

 ユウを失った心の喪失を埋めるためなのだろうか。

「僕はね、ユウと約束したんだ。リリアを守るって。リリアだけじゃねー、アイリもカガリも……彼が大事にしていた人達を守るって。そうでもしないと、死んだ彼が浮かばれねーよ」

 ユウのために、リリアを『ルーンナイツ』に入れる他ないと判断した。その選択は間違ってるかどうかなんてのはわからない。間違っていたとしても、それを正す時間なんて無い。オロルは立ち止まる訳にはいかない。

「ところで、あなたその手の話題に精通しているようだけど……どうして?」

「言ってなかったけ? 僕はユウと同じギルドにいたんだよ。だから彼の事なら何でも知ってるよ」



      ●



 遂にこの日を迎える事ができた。『ルーンナイツ』への配属の日。

 団長室へと入ると、見覚えのある騎士達が立ち並んでいた。もちろん、デスクにふてぶてしく構えているオロルとも目が合った。目が白い前髪に隠れているせいで本当にその緋色の目と目が合ったのかどうかさえ知らないが。

 そんな緋色の瞳がどこを向いているのかわからないオロルが徐に口を開いた。

「久しぶりだね、リリア」

「ふん、もう会う事はねえと思っていたけどな」

「キミがフリードに執着しなきゃね」

 そうしてオロル皮肉っぽく言う。彼の一句一句に非常に腸が煮えくり返そうになるのをぐっと我慢する。

 リリアがオロル気に入らない理由は二つだ。

 一つは彼がギルドの人間だったからだ。ユウを死に追い込んだあのギルドは赦す事ができない。今では壊滅して手の出しようがないが。

 そしてもう一つは──ユウに似ているからだ。オロルの側にいるとユウが近くにいるような気がする。そうなれば、フリードに復讐するというリリアの決意が消えて無くなりそうになる。声も魔力も違うというのに。それがリリアを不快にさせる。

「……とにかく、『ルーンナイツ』入隊おめでとう。僕達はキミを歓迎するよ」

 その憎たらしい声が、リリアの耳にいつまでもしつこく付きまとうのは少し(おぞ)ましくさえ思う。

「早速だけど、キミを『ルーンナイツ』に留めるために条件があるんだ」

 フリードを仕留めるためならどんな条件でも飲んでやるつもりだ。

「しばらくは僕と行動を共にする事。いいね?」

 早くも挫折しそうになった。

はい、という訳で第一〇章前編はオロルさんとヒロインを兼用しているリリアさんが主人公としてお送り致します。


主人公交代と公言しているので、あらかたの人はこのキャスティングに予想通りかと思いますが……。


あと、しばらくリリア目線の話になります。


次回は外伝のあるパートのだいたい視点変更版となるのをご了承ください。

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